結婚に必要な年収が「インフレ」した根本原因

人口ボリューム層である中間層の若者が結婚していない, どれくらい「結婚のインフレ」が起きているのか, 結婚の経済的ハードルがあがる構造, 「婚活疲れ」が起こる背景事情, 若者がことさらコスパ・タイパを求める理由

(写真:metamorworks/PIXTA)

世の中、物価高・インフレが続いており、日々の生活に余裕のない人も多いと思います。

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政府は「賃上げ」とばかり言いますが、それこそ一部の大企業を除けば、賃上げされたとしても、物価上昇を上回る賃上げにはなっておらず、実質賃金ベースでは「全然手取りが増えていない」という状況です。

インフレは、物価だけではありません。むしろ、物価高に先行して「結婚のインフレ」が発生し、それが婚姻減という形で顕在化しています。結婚のインフレとは「結婚に必要な年収のインフレ」という意味です。

人口ボリューム層である中間層の若者が結婚していない

繰り返しお伝えしているとおり、出生減は婚姻減によるものです。婚姻数の減少と出生数の減少とは完全にリンクします。加えて、結婚した夫婦1組あたりが産む子どもの数は多少減ってはいるものの大きくは変わっておらず、大体2人弱を生んでいます。2024年の合計特殊出生率1.15に低下しましたが、この出生率は夫婦が産んだ子もの数ではなく、未婚も含む49歳までの女性が出生した数です。よって、この数値は未婚率が高まれば高まるほど自動的に低下します。

つまり、少子化とは、子どもが生まれない問題以前に、結婚が作られない問題だということです。現状でも、結婚した夫婦の9割は第一子を生んでいます。にもかかわらず、そもそもの母数となる婚姻数が減り続けて、「結婚による子ども0→1人が生まれない」がゆえの少子化です。私が「少子化ではなく少母化」と言い続けているのはそういうことです。

その婚姻減のボトルネックも明らかです。人口ボリューム層である中間層の若者の婚姻減に尽きます。しかも、それはここ10〜15年で急激に進んだ現象です。

以下のグラフは、就業構造基本調査に基づき、妻が20代と30代の場合の夫の個人年収別に夫婦世帯(子無+子有)の数を2012年と2022年の10年間の変化を示したものです。

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20代では400万未満、30代では600万未満の年収帯(その年代の中間層)だけが減少していて、むしろ夫の年収上位層に限れば、これだけ全体の婚姻が減少している中でもまったく減ってはいません。

まず、この「経済中間層が結婚できなくなっている」という現実、言い換えれば「結婚するための経済的ハードルが謎に高騰したために、したくてもできなくなった」現実を前提として話を進めていかないとすべてが的外れになります。

どれくらい「結婚のインフレ」が起きているのか

別の視点から見ると、児童のいる世帯は激減していますが、児童のいる世帯あたりの平均年収は増えています。これは、今の子育て世帯は所得増で支援も充実していて「めでたしめでたし」などと悠長な話ではありません。それどころか、経済上位層しか結婚して家族を持てなくなったことの明確な証左と言えるでしょう。当の子育て世帯にしても、「所得が増えたのではなく、夫婦ともに稼がないとやっていけない」と嘆きたいのではないでしょうか。

実態として、2012年から2022年にかけてどれくらい「結婚のインフレ」が起きているかを、就業構造基本調査の夫婦(妻が20代)の所得状況から見ていきたいと思います。それぞれ2012年からの増減率で示します。

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これを見ると、同期間の物価(総合)上昇分8%をすべての年収は上回っています。誤解のないように、物価上昇を上回る年収増ではなく、物価を上回る年収でなければ結婚できなくなっていることを意味します。

詳細にみると、夫の年収は子無16%増、子有12%増ですが、妻はそれぞれ63%増、31%増と夫を大幅に上回る増加率です。これも女性の年収が増えたからよかったねという話ではなく、結婚しても子が生まれても妻は働き続けなければならなくなったと見るべきでしょう。世帯年収もそれぞれ30%増、19%増です。

世帯数は子有が24%減で大幅に減っていますが、子無は6%ながら増えています。これも、20代妻の結婚が増えたのではなく、「結婚したもののとても子どもを生めるような経済状況ではない」ことを意味します。

このように、明らかに「結婚・出産に必要な経済条件」がインフレしており、そのために婚姻数も出生数も減っていると見るべきなのです。

そうした「結婚のインフレ」が如実に作用しているのが婚活現場です。

婚活系のネット記事やSNS上では「女性が希望する相手の年収500万円」という話がよく出ます。それに対しては「高望みだ」という声も多くあがります。もちろん、地域によっても違いはありますが、全国値でいえば、年収500万円以上の未婚男性は25歳から対象を49歳まで拡大したとしても2割しかいません。もし、女性全員が500万円以上の相手を希望しても8割は相手がいないことになります。

結婚の経済的ハードルがあがる構造

では、婚姻減とはこの「未婚女性の高望み」が加速したからなのかと考えがちですが、決してそうではありません。

2024年内閣府「少子化・女性活躍の経済学研究に向けたアンケート調査」から、25〜49歳の未婚女性の年収別に相手に望む年収が自分の年収の何倍にあたるかという係数計算をすると、300〜500万の中間層で1.58倍です。

そして、この1.5倍程度の年収差というのは、実際に結婚している20〜30代夫婦でも同様で、婚活女性が決して現実離れした無謀な高望みをするようになったからではないのです。

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しかし、ここにこそ、女性の意思とは関係なく、結婚の経済的ハードルがあがる構造的原因が隠されています。

年収の絶対額ではなく、「女性は自分の1.5倍の年収相手を求める」というのを基準にすると、女性自身の年収があがればあがるほど相手に求める年収があがってしまうことになります。

女性の大学進学率の増加や大卒女性の絶対数の増加で女性の年収は上昇しています。それに伴い、若年層の特に正規社員における男女の賃金格差は以前に比べればかなり解消されています。それはそれで良いことと思いますが、仮に、そうして女性の年収自体が上昇して、同年齢の男性とほぼ同額となったとします。その場合でも、この1.5倍の基準を守ろうとすると、自然に希望年収そのものが上昇するために対象相手がいなくなることになります。

皮肉にも、女性自身の年収増により、女性の意思とは関係なく、相手への希望年収が自然スライドして高騰する「結婚年収のインフレ」が生じることになります。

高望みではなく、構造上の必然です。

「婚活疲れ」が起こる背景事情

結婚生活は経済生活ですから、自分より稼ぎの少ない相手をあえて選んで苦労はしたくないと思うのは自然です。しかし、その基準を守ろうとすると、「選べる相手はいない」という現実と直面します。

結婚相談所の現場で、仲人から「お相手の年収条件を少し下げてみませんか」などと提案される婚活女性も多いでしょう。仲人が意地悪しているわけではなく、それが現実だからです。

結局、婚活の女性は「良い相手がいない」と愚痴り、男性は「こっちが良いと思っても(経済条件で)相手から選ばれない」とこぼすだけです。婚活男女の8割が「婚活疲れ」をしているというデータもありますが、そうなるのも不思議ではありません。

「結婚のインフレ」は中間層のマッチング不全を必ず引き起こし、「年収条件を下げてまで不本意な結婚をするくらいなら、一人で生きていく」と選択的非婚への鞍替えを増加させ、ますます未婚化が進みます。

2025年内閣府「国民生活に対する世論調査」で何らかの悩みや不安を抱える20代のうち、男性の80%、女性の77%が今後の収入について不安だと回答しています。ほんの10年前までは5割程度だったものが激増しています。

若者がことさらコスパ・タイパを求める理由

すべてを「お金のせい」にするつもりはありませんが、お金がないことは心の余裕を失わせ、行動を抑制します。若者がことさらコスパ・タイパなどを求めるのも、過敏すぎるほどリスク意識が高いのも、それは価値観の変化ではなく、そうした構造がもたらす環境によるものです。

中間層の若者が普通に働いて、普通に生活していても、彼らとは無関係な構造変化によって、いつの間にか「結婚も子どもを持つことも手の届かないもの」になってしまったのだとしたら、そうした不安のない経済上位層3割しか家族を持てない時代になってしまうでしょう。中間層以下が結婚できないということはそういうことです。

私は「結婚滅亡」というタイトルの書籍を2019年に上梓しましたが、残念ながら想定以上に早くその時期はやってくるかもしれません。