幹部候補はベトナム人 もう「日本人は採っていない」 飲食業界で「グローバル人材」争奪戦が起こる理由

さまざまな業界で、外国人の雇用が拡大している。特に顕著なのが飲食業界だ。仕事へのモチベーションを評価し、職場の大黒柱としての成長を期待する企業も少なくない。国籍を問わず、労働者には生活も人生もある。日本社会は「外国人労働者」とどう向き合うのか(全8回の特集1回目)。
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■仕事に対する熱量が違う
「私が加工場長になった2年前から、日本人社員は新たに雇用していません。今後はすべて外国人でいいと思っています」
そう語るのは、「銀だこハイボール酒場」など、全国に約110の店舗を運営する「株式会社オールウェイズ」の斎藤久史・加工場長だ。
居酒屋の仕込みを行う加工場(東京都調布市)に勤務する従業員は27人。そのうち11人が外国人だ。国籍はベトナムが6人、インドネシアが4人、中国が1人。
斎藤さんによると、日本人と外国人の従業員では、「仕事に対する熱量がまるで違う」という。
「グローバルの人たち(外国人社員)は、『お金を稼ぎたい』という気持ちがとても強い。だから、新しい仕事をどんどん覚える。報いるために給料も引き上げます」(斎藤さん)
仕事を選ばないことも大きいという。
「ダクトのグリス清掃や下水の掃除など、汚い仕事もありますが、彼らはいっさい文句を言いません」(同)
■「右腕」に厨房のすべてを任せる
いま、斎藤さんの「右腕」になっているのが、ベトナム人のレ・ズェン・クアさん(29)だ。
加工場には三つの部署がある。牛すじ煮込みやハンバーグなどを作る「厨房」、焼き鳥などを仕込む「刺し場」、それらを冷凍やチルドの状態にして店舗に送り出す「出荷」だ。
クアさんは主に「厨房」を担当し、「出荷」の業務もこなす。厨房を見せてもらうと、調理台のトレーには骨付きの肉が積まれ、5人ほどが大きな鍋で煮込み料理を作っていた。
「厨房のことは、私はほぼノータッチです。全てクアさんに任せています」と、斎藤さんは言う。
クアさんの仕事は多岐にわたる。製造計画を立て、食材を発注し、厨房に人を配置する。品質、在庫、伝票、衛生の管理も行う。
「クアさんには、『加工場長になってほしい』とはっぱをかけています。立派な管理職に育てるつもりで、厳しく指導しています」(同)

■10年前に来日、技能実習を経験
クアさんはベトナムの工業都市、ハイフォンの郊外で生まれ育った。実家は元々米農家だったが、2000年代、近隣に工業団地が建設された。
「ほとんどが日本の工場で、機械や電子部品などを製造していました」(クアさん)
高校卒業後、ベトナムで働いたが、月収は3万円ほどだった。
「離農した両親と暮らすには十分な金額ではありませんでした。安定した高収入や成長できる環境を求めて、日本で働くことを決めました」(同)
友人のつてで人材あっせん会社を紹介してもらい、ベトナムの日本語学校に入学。半年ほど日本語を学んだ後、技能実習生として16年に来日した。岐阜県のプラスチック成形工場で5年間勤務した。工場では、「新幹線の内装ユニットなどを作っていた」(同)という。
■前職にトラウマ 朝6時から夜12時まで働いた
技能実習期間を満了後、在留資格を「特定技能1号」に切り替えてからは、転職できるようになった。愛知県内のラーメン店と大手外食チェーン店で勤めた後、2年前、オールウェイズに入社した。
店舗勤務ではなく、加工場勤務を希望したのには理由がある。
「前職の外食チェーン店では、朝6時から夜中の12時ごろまでの超長時間労働が普通で、休日なしで勤務しました。残業が310時間/月くらいになったときもある。それがトラウマです」(同)
現在の勤務時間は午前7時半から午後4時半まで。残業がある日でも6時ごろには退勤する。やっと、「『人間らしい生活』ができるようになりました」(同)という。
■手取りは28万円、年間100万円を仕送り
暮らすアパートは加工場から自転車で5分ほど。家賃は約5万円。月給は手取りで28万円ほどで、両親に年間約100万円を仕送りする。
手取りで月30万円近い給料を稼ぐのも、そこから年100万円もの仕送りを確保するのも、並大抵の努力ではないだろう。「すごいですね」と記者が感心すると、クアさんは「普通です」と言って微笑んだ。
「休日は、ベトナム料理店やベトナム人が多い新大久保(東京都新宿区)によく行きます。日本語のフレーズや漢字も休みの日に勉強しています」(同)
クアさんは25年10月、「飲食料品製造業」の特定技能2号試験に合格した。特定技能「1号」の在留期間は最長5年だが、「2号」になったことで在留期間に上限がなくなった。家族を帯同することもできる。
「日本で長く働いて、より高い技術を身につけたいと思います」(同)
クアさんはそう、まっすぐに語った。

■店舗管理者として働く人も
現在、オールウェイズが運営する店舗では31人の外国人社員が就業している(25年11月28日時点)。同社の齋藤武志取締役は、こう語る。
「日本人と同等の店舗管理者として働いている人もいます。人、モノ、金の管理をすべて任せています。店長以上のポジションを目指せる人には特定技能2号の試験を受けてもらっています」
同社が店舗管理者候補として外国人の採用を始めたのは6年前。日本人だけの採用では人材確保が難しくなってきたのが理由だ。だが、「最初は、不安でしかたなかった」と、齋藤取締役は打ち明ける。
「実際、飲酒をともなう場面でのお客様との阿吽(あうん)の呼吸でのコミュニケーションの仕方など、細かいニュアンスを伝えるのには非常に苦労しました」(齋藤取締役)
その後、同社では採用基準として居酒屋などでの就業経験を必須にした。日本語能力の要件も引き上げた。
「面接では、お客様と直接金銭のやり取りをしたことがあるか、ハンディ(オーダー端末)を使用したことがあるかなど、実務に近いところを細かく聞いたうえで採用を判断しています」(同)
■「グローバル人材」奪い合いは激化
今後はさらに外国人材の採用を強化していく予定だという。
「業績拡大には出店を増やすことが必要で、人材の確保は必須です。人手不足で出店できないという同業他社の話をよく聞きますから、優秀な外国人材の奪い合いは今後激しくなっていくでしょう」(同)
同社の外国人社員の半数はベトナム人。次に多いのがミャンマー出身者で、約3割を占める。
「外国人の雇用についてお客様より聞かれることもありますが、たとえばミャンマーの若者には、帰国したくても帰れない事情を抱える人もいます」(同)
21年の国軍クーデター以降、ミャンマーの国内情勢が不安定化している。そんな若者たちの背景も理解して支援したいという思いも、齋藤取締役の中にはあるという。
「グローバルの人たちは、とても真面目に仕事に向き合う人が多いと感じています。雇用主として、そんな彼らの努力を正当に評価したいと思う。お客様にも先入観ではなく、一人ひとりの仕事ぶりを見ていただけたらうれしいです」(同)
(AERA編集部・米倉昭仁)
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