「卒業したらセダン乗りません」 教習所で“軽自動車”が使われない理由――普及率5割超でも“門前払い”の背景
軽自動車の普及と経済性
“日常の足”として便利な軽自動車。全国軽自動車連合会の集計によると、2024年12月末時点での普及台数は100世帯あたり54.46台である。2023年は53.49台で、依然として半数以上の世帯で軽自動車が利用されている。
【画像】「えぇぇぇ!」 これが20歳の「運転免許保有率」です!(5枚)
軽自動車の特徴は小型で小回りが利く点にある。定員は最大4人に限られるが、狭い道路や駐車場でも扱いやすい。車両重量が軽いため燃費性能も優れ、自動車税や重量税、高速道路料金などの維持費も抑えられる。この経済性の高さが、多くの利用者から支持される理由のひとつだ。
こうした利点から、軽自動車は初心者や運転に不安を抱える人にとって「運転しやすい車」というイメージが強い。であれば、
「自動車教習所」
でも軽自動車が教習車として使われていてもおかしくない。しかし実際の教習現場では、軽自動車の教習車を見る機会は極めて少ない。なぜ、これほど普及している軽自動車が採用されないのか。
教習車の法的条件

軽自動車(画像:写真AC)
結論として、技能試験や検定で使用できる車両は道路交通法施行規則で明確に定められている。第24条では
「乗車定員5人以上の普通自動車で、全長が4.4m以上、全幅が1.6m以上、最遠軸距が2.5m以上、輪距が1.3m以上」
と規定されている。
この基準は、いわゆる5ナンバーサイズのセダン型車両を想定したものだ。現在の軽自動車規格(全長3.4m以下、全幅1.48m以下)では、条件を満たせない。したがって軽自動車は技能試験や卒業検定で使用できない車両となる。
検定に使用できない以上、教習段階から軽自動車を使う合理性は低い。軽自動車で練習しても、最終的には規定サイズの普通車で検定を受ける必要がある。そのため、かえって不利になる可能性もある。多くの教習所で軽自動車が標準的な教習車として採用されない理由はここにある。
ただし、軽自動車が教習でまったく使われないわけではない。技能試験や検定をともなわない講習、例えば
・高齢者講習
・ペーパードライバー講習
では、受講者の要望に応じて軽自動車が使われる場合もある。これは日常的に使用する車両や、今後使用予定の車両に近いサイズで練習したいという実用的なニーズに応えたものだ。
セダン選定の合理性

自動車教習所(画像:写真AC)
では、なぜ技能試験や検定で使用できる車両の条件としてセダンタイプが想定されているのか。市場での存在感は薄いが、運転技能の基礎を学ぶという観点では、セダンには一定の合理性がある。
セダンは運転席が車体の中央付近にあり、ボンネットとトランクの両端を視認しやすい。この構造により前後や幅の感覚をつかみやすく、車体感覚の習得に適している。狭路走行や縦列駐車など、基本課題の習得でも利点となる。
免許取得後に実際に運転する車両と教習車が同一である必要はない。しかし、ベーシックな運転感覚を標準的な車両で身につけておくと、他の車種への応用が容易になる。軽自動車は小さすぎ、スポーツタイプ多目的車(SUV)やミニバンは着座位置や視点が高く、初心者にとって車両感覚が変わりやすい面もある。
技能試験の公平性や全国的な標準化を考えると、一定のサイズと特性を持つセダンを基準とする現行制度は、合理的といえるだろう。
教習制度の時代適応

自動車教習所(画像:写真AC)
では、今後この規定を見直す必要はないのだろうか。日本自動車工業会の2023年度乗用車市場動向調査によると、軽自動車の保有率は4割を超える。一方でセダンタイプは希少で、SUVやミニバンが市場の主流となっている。そのため、免許取得後にセダンを運転する人は多くない。
実際、一部の教習所ではハリアーやカローラクロスなどのSUVを教習車として導入している。とはいえ、使用は高速教習や場内教習に限られ、技能試験や卒業検定には用いられない。それでも、高い着座位置による見通しのよさや、実生活に近い運転体験は受講者から評価されている。
流行や車種構成は時代とともに変化する。だからこそ、
・基礎を学ぶための「普遍的な教習車」
・免許取得後を意識した「実用的な教習車」
の両立が模索される余地はある。軽自動車まで検定対象に広げるのは難しくても、コンパクトカーを含める余地を検討する価値はある。
もちろん、教習車には専用装備の改造が必要であり、法改正だけで解決する問題ではない。しかし、教習需要が高まれば、メーカーが教習車仕様を設定する可能性も広がる。選択肢が増えれば、より実態に即した運転教育が可能となる。
AT限定免許が1991(平成3)年に導入され、現在は主流となったように、教習制度も時代とともに変化してきた。ボディタイプを限定する極端な制度は現実的ではないが、どの車種で教習を受けたかを語れる程度の多様性があってもよいはずだ。