【NHK朝ドラ「ばけばけ」第15週開始】トキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の新婚生活に漂う不安 経済力、正座、そして頬へのキス

高石あかりがヒロイン・トキを演じる「ばけばけ」(毎週月~土曜午前8時、NHK総合ほか)。ついに新婚生活を始めたトキとヘブン(トミー・バストウ)、松野家の新生活のスタートでもある第15週「マツノケ、ヤリカタ。」では、家族の力関係や文化のすれ違いが静かに浮かび上がっていた。日本の習慣に合わせようと無理を重ねるヘブンと、彼の本心が掴めず戸惑うトキ。“建前”が積み重なるほどに生まれる不安と小さな嘘が、この家族の行方を揺るがし始める。
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■華やかな新生活の裏側で進む「松野家の再建」
第15週「マツノケ、ヤリカタ。」は、結婚というゴールの先にある“生活”に向けて、冷静な光を当てるような週だ。結婚披露パーティも挨拶も終え、トキとヘブンは新しい武家屋敷での暮らしを始める。祖父・勘右衛門(小日向文世)はタツ(朝加真由美)とともに別の場所で暮らし、母・フミ(池脇千鶴)と父・司之介(岡部たかし)はトキ夫婦と同居することになった。
家そのものや家具、引越しの段取りまで、どうやらすべてヘブンが整えたらしいことが伝わる。もしかすると松野家が抱える莫大な借金も、ヘブンが清算したのだろうか? あまつさえ、困窮している雨清水家さえも救ったとするならば、ヘブンの貢献は大きい。経済力、段取り、松江の人々を始めとする対外的な信用。彼は松野家を一気に“再建”してみせた。
松野家にとっては、まさに救世主だろう。こうなるとより一層、司之介の立場がない。松野家がここまで貧困に陥ったのは、かつて彼がウサギの売買に手を出して酷い失敗をしたからだ。ヘブンに頭が上がらない筆頭格であるはずの彼が、年長者だからという理由のみで上座に居座ろうとするシーンは、なかなかに苦笑を誘う。
表向きは祝福に満ちた新生活。その裏で、すでに「与える側」と「受け取る側」の役割が固定され始めている。その予兆を、「ばけばけ」はさりげなく置いていく。

■ヘブンは“日本式”を意識しすぎ?
日本が大好きだ、と繰り返すヘブン。当然のように、新しい暮らしでは松野家の、日本の習慣を土台にしていこうと宣言する。その言葉通り、これまでは女中としてのトキに取ってもらっていた魚の小骨も自分で取り、正座を貫くようになった。日本への、松野家への、そして妻となったトキへの最大限の敬意が滲んでいる。
しかし、ヘブンは少々急ぎすぎているようにも見える。引越し祝いを持って屋敷に訪れた江藤県知事(佐野史郎)から下駄をもらうと、即座に履いてバランスを崩し、転倒してしまった。慣れない正座で足を痺れさせていたからだろうが、とっさに「タチクラミ」とごまかす場面は、笑いを誘いながらも危うさをはらんでいる。明らかに、無理をしている。
一方でトキは、未だ「ヘブン先生」と、「ヘブンさん」と呼び切れずにいる。照れと、これまでの習慣が邪魔をしているのだろう。ヘブンにとっては自然な愛情表現である、別れ際の頬へのキスも、トキは受け入れられない。ヘブンは全身全霊で日本のやり方に合わせようと歩み寄っているが、トキはそれに応えられていないように見える。
もちろん、愛情がないから拒絶しているわけではないだろう。しかし、この状態が続けばどうなってしまうのか。いくら怪談を通して心を通わせた夫婦といえど、努力が片方に傾いたままでは、いずれ歪みが生じる。第15週は、その予感をはっきりと漂わせる。

■忍び寄る小さな嘘
一日20人もの来客対応をこなし、正座を続けるヘブンは、明らかに疲弊している。同僚で通訳の錦織友一(吉沢亮)と、夜まで教育談義をしていて遅くなっているというのも、建前だった。ヘブンが日本らしい“小さな嘘”を使いこなすようになった背景にも、しっかりトキへの愛情が見え隠れしているのだが、どうしようもなくすれ違いの予感がする。
与えてもらうばかりで何も返せていない、とフミから話を聞いたトキは、ヘブンに贈りモノをしようと買い物へ。しかし、怪談集は日本語が読めないだろうし、何を贈れば彼が喜ぶのかがわからない。そんななか、たまたま見かけたヘブン担当の車夫から、中学校ではなく、松江唯一の舶来品店に行っている、と聞いてしまうトキ。
なぜ、ヘブンは嘘をついているのか? 視聴者からすれば一目瞭然な心境も、当人に取っては謎に包まれているものだ。お互いに優しさと愛があるがゆえ、重なり合っていく建前。善意が重なり合うほどに、言えないことは増えていく。「ばけばけ」らしい危ういすれ違いが、ここに立ち上がっている。
(北村有)
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