「ロシアと中国の船、うじゃうじゃいない」グリーンランド巡るトランプ発言に疑義 当の住民は独立を望んで
米国のトランプ大統領が「国家安全保障」の強化を名目として領有に意欲を示すデンマーク自治領グリーンランド。だが、当の自治政府は、米国による領有に「ノー」を突き付け、米国の同盟国であるはずの欧州各国も軍を派遣してトランプ氏の「野心」をけん制する構えを見せる。独立志向が強いとされる住民の意向をよそに、領有を巡る米国と欧州の対立が続いている。(中根政人)
◆グリーンランドは「米国よりデンマークを選ぶ」
「グリーンランドには、ロシアと中国の船がうじゃうじゃいる」
4日、大統領専用機「エアフォースワン」で記者団の取材に答えたトランプ氏。米政権は安全保障上の理由として「北極圏でのロシアや中国の影響力排除」を掲げ、米国がグリーンランドを領有する意義を強調してきた。

トランプ大統領(資料写真)
ただ英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)が北大西洋条約機構(NATO)の情報報告へのアクセス権を持つ北欧の高位外交官の言葉を引用する形で「ここ数年間で、ロシアや中国の船舶や潜水艦が近海で活動した証拠はない」と報道するなど、トランプ発言への否定が広がっている。
さらにグリーンランドのニールセン自治政府首相は13日、「米国かデンマークのいずれかを選択しなければならないなら、デンマークを選ぶ」と断じた。ドイツやフランスなどは14日、デンマークの要請を受けてグリーンランドに軍部隊を派遣すると発表した。
◆世界最大の島、レアアースや海産物も魅力
北極域の研究が専門の大西富士夫・北海道大特任准教授も、グリーンランド周辺でのロシアや中国の軍事的脅威は、トランプ氏が喧伝(けんでん)するほどには高まっていないと指摘する。「住民にとっては、現在と同等の自治権が保障されない限り、米国に領有されるメリットはない」と言い切る。
グリーンランドの魅力は何か。北米のカナダの北東に位置し、日本の面積の約6倍に当たる世界最大の島だ。
18世紀からデンマークの植民地だったが、1979年に自治権を獲得。今では広範な自治が認められている。レアアース(希土類)などの地下資源に恵まれるほか、日本人も回転ずし店で使われるアマエビやカレイなどの海産物でお世話になっている。
◆自治熱、ヨーロッパ各国に飛び火する可能性も
島内には米軍基地が既にある。約5万7000人の住民のほとんどは先住民のイヌイット系で、独立を支持する声が多いという。
欧州政治に詳しい同志社大の吉田徹教授は、デンマークの立場について「グリーンランドに主権を認めることは、結果的に米国への譲歩を意味する。英スコットランドや(スペインとフランスにまたがる)バスク地方など、欧州各国の自治を巡る運動にさらに火が付く可能性もあり、現状維持が望ましいとの判断だ」とみる。

米国は、昨年末までに公表された国家安全保障戦略(NSS)で「西半球」における米国の優位性を回復すると記述した。「西半球」とは、本初子午線から西へ180度までの地域を指すが、英国を経度の基準とする概念自体が、植民地主義で繁栄した大英帝国の時代の名残でもある。
欧州各国は米国の覇権を図るトランプ氏に翻弄(ほんろう)されながらも、領有には対抗せざるを得ず苦慮しているというのが現状のようだ。
東京大大学院の遠藤乾(けん)教授(国際政治)は「米国を含めたNATO全体の利益を、共同で保全するという話にするのが本来の政治的な知恵だ」と述べて、平和的な解決を求めた。

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