中国に軍事力の違いを見せつけた米国の対ベネズエラ作戦、トランプ大統領のもう1つの狙いは「台湾侵攻抑止」か

2026年1月3日、ベネズエラにおける米軍の作戦を監視するトランプ大統領(写真中央、提供:Molly Riley/The White House/AP/アフロ)
ベネズエラ急襲の衝撃と“ドンロー主義”の表看板
今年1月3日未明(現地時間)にアメリカのトランプ大統領が実行したベネズエラ攻撃は、近年まれに見る完璧な奇襲作戦で、「断固たる決意作戦(Operation Absolute Resolve)」と名付けられた。
中ロ製の地対空ミサイル(SAM)やレーダーを数多く持ち、中南米最強を自負したベネズエラの防空網を瞬時に無力化し、同国のマドゥロ大統領を捕らえて米本土に連行した。ベネズエラ側は約100人の犠牲者を出す一方、トランプ氏は米側の戦死者なしと述べている。撃墜された航空機も皆無のワンサイド・ゲームだ。

2026年1月3日、米国に攻撃されたベネズエラ(写真は首都カラカス、提供:ロイター/アフロ)
アメリカの“裏庭”である中南米の反米国家に鉄槌を下す帝国主義的な振る舞いに、欧米メディアの多くは、トランプ政権が唱える「ドンロー主義」の本領発揮かと警鐘を鳴らす。
ドンロー主義とは、「モンロー主義」と「ドナルド・トランプ」との造語である。1820年代初め、第5代米大統領のモンローが「アメリカは欧州大陸に、欧州は西半球(南北米大陸)にそれぞれ干渉しない」を提唱した「モンロー主義」を拡大解釈した、地政学的な戦略だ。西半球をアメリカの勢力圏だと決めつけ、中ロの進出を排除すると宣言する。
だが、ドンロー主義でアメリカが西半球で引きこもると、その分アジア太平洋での米軍の存在感が低下する恐れがある。この間隙を突いて、中国がこの地域での軍事プレゼンスを強め、台湾の武力統一(台湾有事)も強行し、アメリカはこれを黙認する──とのシナリオも絵空事とは言えない。
実際、昨年12月5日にトランプ2次政権が発表した米国家安全保障戦略(NSS2025)は、バイデン前政権と比べ、中国への対決姿勢が明らかにトーンダウンしている。
米シンクタンクのブルッキングス研究所は、2025年12月18日付のNSS2025に関する報告書で、中国を「戦略的敵対者」と見なした従来の定義が消え、モンロー主義(=ドンロー主義)を優先していると分析する。アメリカは西半球に閉じこもり、逆に第1列島線(日本~台湾~フィリピン)への関与を弱める兆しだとして、「北京は安堵するだろう」と危機感を隠さない。
だが、果たしてそうだろうか。実はトランプ氏は、昨年繰り広げた中国との関税戦争で、レアアース輸出規制の「奥の手」を使ってきた中国に対抗できずに敗北の苦杯をなめた。高関税率を引き下げる代わりにレアアース規制の1年猶予を何とか引き出したものの、負けず嫌いでプライドの高いトランプ氏にとっては悔しい限りだろう。
とはいえ、ここはしばらくビジネス優先でディールに徹し、中国との共存共栄もアピールしてきた流れを汲めば、直後に発表したNSS2025で中国への対抗姿勢をトーンダウンさせるのはむしろ当然だろう。
中国の習近平国家主席を怒らせ、レアアース規制延期を取りやめれば、アメリカ経済どころか国家安全保障上のダメージも計り知れない。もちろん2026年11月の米中間選挙でトランプ氏率いる共和党も惨敗しかねない。
このように、ベネズエラ攻撃には、「ドンロー主義の本格化と西半球への引きこもり」という“表看板”とは別に、「アメリカの圧倒的な軍事力を中国に痛感させ、台湾に軍事侵攻したら容赦せずに中国本土の防空網を無力化する」と、プライドを傷つけた中国への復讐も込めた“裏看板”が隠されている──という見立ても存在する。
いずれにせよ、トランプ氏の中国との付き合い方は、いましばらくは「経済重視+抑止は維持」というスタンスで臨むのだろう。
米軍機150機出撃の過剰戦力、ベネズエラは防空網制圧の実験場になったのか
注目は、アメリカがベネズエラという中小国の弱小な防空網(それでも中南米最強を誇った)を叩くため、精鋭の軍用機を150機以上も投入したという点だ。少々大げさで、「牛刀をもって鶏を割く」そのものだ。
英国際戦略研究所(IISS)発行の『ミリタリーバランス(2025年版)』によれば、ベネズエラ空軍の戦闘機数は、米製F-16の18機とロシア製Su-30 21機の計39機のみ。低稼働率を考えれば、実際に飛べる機体は20機程度だろう。
ベネズエラ軍のSAMは大部分がロシア製で、長射程のS-300(射程200~250km)12基が米軍にとって多少厄介なアイテムで、ほかに射程30km前後の中射程SAMを100基ほど配置する。中国がステルス機も発見可能と豪語するJY-27早期警戒レーダー(探知距離500km)も気になる存在だ。
だが、米軍はベネズエラの首都カラカス一帯を停電にし、通信網も遮断。首都付近に配置された同レーダーやSAM、地上駐機の戦闘機を、世界最強のSEAD/DEAD(防空網制圧/破壊)能力と電子戦能力(ジャミング:妨害電波など)でたやすく無力化した。首都周辺の制空権(航空優勢)を確保したのは、マドゥロ氏拘束に向かうヘリコプター部隊の“露払い”が必要だからである。

MH-60汎用ヘリによる奇襲攻撃訓練を行う米陸軍部隊。マドゥロ大統領の拘束では漆黒の暗闇の中、暗視システムを完備した同機を使い、マドゥロ大統領拘束作戦が行われた(写真:米陸軍ウェブサイトより)
米国防総省の発表や欧米メディアの報道をまとめると、作戦に投入された米軍機約150機の顔ぶれは、F-22ステルス戦闘機(空軍)、F-35ステルス戦闘機(A型は空軍、B型/垂直離着陸機は海兵隊、C型/空母艦上機は海軍)、B-1爆撃機(空軍)、B-2ステルス爆撃機(同)、F/A-18戦闘攻撃機(空母艦上機。海軍、海兵隊)、EA-18Gグラウラー電子戦機(海軍)、E-2早期警戒管制機(「空飛ぶレーダー」。海軍)など多岐にわたり、陸軍の輸送・攻撃ヘリも各種参加したとされる。

ベネズエラを攻撃した2026年1月3日に撮影された、旧ルーズベルト・ローズ海軍基地に駐機する米空軍のF-35戦闘機(写真:ロイター/アフロ)

アメリカはベネズエラ攻撃に大げさとも思えるB-1爆撃機までも投入、精密誘導爆弾を投下したと思われる(写真:米空軍ウェブサイトより)

空中給油を受けるEA-18Gグラウラー電子戦機。ベネズエラ攻撃では自慢のジャミング能力で中国製レーダーを封殺(写真:米海軍ウェブサイトより)

米海軍のE-2D早期警戒管制機。「空飛ぶレーダー」で、数百km遠方の敵機をキャッチし、友軍機を的確に指揮統制する能力を持つ(写真:米海軍ウェブサイトより)
さらに、全幅が20m超の三角形型の大型偵察ドローンで、ステルス性に富む軍事機密の塊、「RQ-170センチネル」も出撃したと言われる。
米軍は陸・海・空・海兵隊の4軍から第一線の機体が参画し、ベネズエラ沖には最新鋭で世界最大級の原子力空母「ジェラルド・R・フォード」(満載排水量10万トン超、積載機数75機以上)や、空母型の強襲揚陸艦「ワスプ」級(同4万トン超)なども待機した。

米海軍の最新鋭原子力空母「ジェラルド・R・フォード」。飛行甲板には空爆が主任務のF/A-18戦闘攻撃機がズラリ(写真:米海軍ウェブサイトより)

ワスプ級強襲揚陸艦「イオージマ」。マドゥロ大統領夫妻を米本土に連行する際の中継地点としても活用された(写真:米海軍ウェブサイトより)
中国が恐れたのはステルスではなく“接続された軍”か?
今回のベネズエラ攻撃でおそらく中国軍の中枢幹部が驚愕したのは、米軍の十八番、「統合作戦能力」「C4ISR」「パワー・プロジェクション(戦力投射力)」の“三拍子”だろう。
「統合作戦能力」は、指揮系統も種類も違う複数の巨大部隊を総合指揮し、作戦を遂行する能力のこと。今回アメリカは、陸・海・空・海兵隊・宇宙の5軍に加え、CIA(米中央情報局)、FBI(米連邦捜査局)なども参戦し、同じ指揮系統のもとで、一糸乱れず任務を遂行した。
「C4ISR」は「指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察」で、軍隊の“五感”を指す。
「パワー・プロジェクション」は、軍事力を一度に素早く遠くに展開できる能力で、空母や揚陸艦、輸送機、空中給油機などの実力がものを言う。
中でもC4ISRの高レベルに中国側は圧倒されたはずだ。前出のように、中国は米軍自慢のB-2、F-22、F-35のステルス機を、はるか遠方でキャッチできるJY-27を、“ステルス・キラー”と喧伝してきた。

B-2ステルス爆撃機。中国が最も警戒するアイテムの1つで核爆弾搭載可能(写真:米空軍ウェブサイトより)

米空軍が誇る世界最強のF-22ステルス戦闘機(写真:米空軍ウェブサイトより)
だが結果は散々で、迎撃もできず簡単に破壊され、鳴り物入りの長距離射程SAM・S-300もスクラップと化した。
一部ではJY-27をはじめ、ベネズエラの防空網は、保守・点検やソフトウェアのアップデートが不十分で、低稼働率が常態化していたからだ、との指摘もある。だが、裏を返せば、中南米の反米国家で、中ロにとって戦略的に極めて重要な拠点にもかかわらず、中ロは十分な軍事的フォローすらしなかったことを意味する。

2023年9月、訪中したベネズエラのマドゥロ大統領(右)を出迎える中国の習近平国家主席(写真:Miraflores Palace/ロイター/アフロ)
一説には「低稼働率の放置」の逃げ口上で、中国製レーダーの低性能ぶりを隠そうとしているのではないかとも言われる。中国側は「中国本土では完璧なメンテナンスとアップデート、熟達した操作要員が揃っており、アメリカのステルス機など難なく撃墜できる」と反論しそうだが、かなり疑わしい。
ベネズエラの防空網撃破には、強力なジャミングが武器のEA-18Gの活躍が大きいが、それ以上に中国側が驚いたのは、米軍が最先端の「ネットワーク中心の戦い」に完全移行した点だろう。
リアルタイムの情報共有と指揮統制能力に優れるF-35を「空飛ぶ作戦室」として位置付け、作戦に参加する戦闘機・爆撃機、ヘリなど全航空機に加え、デルタフォースやCIA、FBI要員、空母、強襲揚陸艦、軍事衛星までもが、タイムラグなしでデジタル情報や動画をやり取りしながら戦いを進めた。

空母から発進するF-35ステルス戦闘機。艦上機型のC型でネットワーク中心の戦いの中核を担った(写真:米海軍ウェブサイトより)
参加した航空機や艦船、将兵は全てセンサーかつ端末で、これらがネットワークを形成して、1つの“戦闘システム”として機能する発想である。合わせてAIで瞬時に最適解を弾き出し、戦場の戦闘機や将兵にフィードバックし、戦闘を有利に進めている。
この離れ業をこなせるのは、世界でも米軍だけだろう。中ロもまだまだ到達できない領域で、個々の兵器が別々に戦う旧態依然の戦い方か、無線通信で連絡し合うのが実状だ。
これが何を意味しているのか。例えば、これ幸いにと中国が台湾侵攻作戦を実施したとしても、米軍はネットワーク中心の戦いや電子戦など、圧倒的なC4ISR能力と統合作戦能力、パワー・プロジェクション能力を引っ提げ、中国大陸の防空網を無力化できる──ということである。こうなれば、習体制は台湾侵攻などと言っている場合ではなくなる。
ベネズエラ攻撃は、ある意味、北京の防空網無力化を想定したシミュレーションだったのでは? と勘繰る向きがあってもあながち間違いではないだろう。
マッキンリーをなぞるトランプ、関税と海洋国家の夢
ドンロー主義に本腰を入れ始めたトランプ氏は、西半球に閉じこもるどころか、むしろ今以上にアジア太平洋での覇権確保に執念を燃やす可能性も少なくない。
それは尊敬する、第25代米大統領マッキンリー(任期1897年~1901年)の足跡をたどれば、トランプ氏の世界戦略をある程度想定できる。

第25代アメリカ大統領のウィリアム・マッキンリー(写真:Newscom/共同通信イメージズ)
ちなみに、アラスカにある北米大陸最高峰は、マッキンリーの大統領在任中に「マッキンリー山」と命名されたが、オバマ政権下の2015年に、先住民にちなんで「デナリ」に改称。だが、2025年にトランプ氏が2期目の米大統領に就任すると、その日のうちに「マッキンリー山」の名前を復活する大統領令に署名するほど、トランプ氏は崇拝する。
マッキンリーは1890年代の議員時代から、高関税でアメリカを繁栄させられると訴え主導した。この「マッキンリー関税」を、トランプ氏はそっくりまねている。
1898年には、圧制に苦しむ植民地のキューバを解放するとの御旗のもと、宗主国のスペインとの戦いに挑む。いわゆる米西戦争はアメリカの圧勝で、キューバはアメリカの占領下に置かれ、スペイン領だったプエルトリコ、グアム、フィリピンは米領になった。
並行して太平洋の真ん中に浮かぶ重要拠点ハワイ共和国を、1898年にかなり強引に併合している。現在アメリカが太平洋の覇権を確固たるものにしているのも、マッキンリーのおかげと言っても過言ではない。
マッキンリーは米海軍士官で戦略家のマハンに共鳴して、マハン提唱の「シーパワー(海上権力)」を支持した。海上交通路の確保と、これを担保する強大な海軍力の存在が、国家の繁栄を保障するという考え方だ。
こうした歴史を回顧するまでもなく、トランプ氏は一見「ドンロー主義」で西半球に閉じこもり、他地域での軍事プレゼンスを低下させるそぶりを見せるが、アジア太平洋だけは“例外”とする可能性が極めて高いだろう。アジア太平洋は今後も世界経済の成長センターであり続け、仮にこの地域を中国が支配した場合、アメリカの国力は確実に中国に抜かれてしまうからだ。
また中国が台湾を併合すれば、中国は太平洋への直接アクセスが可能となり、やがて中国空母艦隊が、グアムやハワイどころか、気づけばカリフォルニア沖に出現、という状況にもなりかねない。
地政学では、勢力圏を保持しようとする大国は、ほぼ例外なく「緩衝地帯」を確保して、勢力圏の安全保障をがっちりと固めようと奔走する。ドンロー主義に走るトランプ氏にとって、太平洋は緩衝地帯そのもので、アメリカの「内海」でなければならず、その外縁で中ロと対峙するのが、第1列島線を構成する日本、台湾、フィリピンとなる。
この理屈からすると、トランプ氏はアジア太平洋地域を軽視するどころか、より一層重視する可能性が高い。ただしこの場合、同盟国の日本や韓国、フィリピンなどにより一層の防衛力強化を迫ってくることを覚悟しなければならない。
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