月収20円→「100円まとめて借金返済」超格差婚で別人になってしまった親友を見てらんない〈ばけばけ第74回〉

『ばけばけ』第74回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第74回(2026年1月15日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)
ほかの誰かと口づけしてたりして?
新婚早々、難儀なことが。ヘブン(トミー・バストウ)の浮気疑惑である。
本日のヒット名言は司之介(岡部たかし)の「やましいことがあるとお土産を買ってくるのは世界共通」。
15分で提示されたのは、夫の浮気疑惑と、経済格差によって友情が壊れるか否かである。ベタでほのぼのした浮気コント的なエピソードと、橋を隔てた格差社会を描くシリアスなエピソード。この極端なあまからを15分の間にみごとに混ぜている。たとえば、ホテルのビュッフェスタイル朝食で和洋どっちも食べるような朝だ。
不器用な車夫・永見(大西信満)からヘブンが山橋薬舗に立ち寄っていると聞いたトキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)が何かあると疑って、さっそく訪ねる。
「ごめんください」と声をかけてもシーンとしている。何度も呼ぶと、ようやく山橋(柄本時生)が出てくる。白いコック帽をかぶっているので何か調理でもしていたのだろうか。でもトキを見て帽子をすぐに外す。明らかにあやしい。
トキにヘブンは来てないかと訊かれ、「うちは今ご覧の通り、閑古鳥が鳴いておりまして」とカッコーカッコーと山橋はおどける。
奥から何かいいニオイもしてくるようだが、トキはこれ以上追及できず、諦めて帰っていく。
ここで主題歌。歌詞のように「何かあるのかどこに行くのか♪」このドラマ。
主題歌が流れている間にトキは帰宅。
司之介とフミ(池脇千鶴)はヘブンへのお礼に茶わんか傘などを贈ろうという相談中だが、トキは心ここにあらずで、フミに「夫婦になった人を疑ったらいけんよ」とたしなめられる。
ここで司之介が、車夫が油を売っているところを見つかったからとっさに嘘(うそ)をついたのだろうと言うが、そのあとが余計だった。
トキが口づけを拒んだから、ほかの誰かと口づけしてたりして、とふざけるのだ。
「つまらん冗談じゃ」と打ち消すが、そこへ帰ってきたヘブンの頬には――。
ええ! トキが素っ頓狂(すっとんきょう)な声をあげる。いやもうベタベタな展開だ。
「一緒になった人は島根の宝。もう何も悩まんでいいね」
ヘブンの頬、ひげの先のほうに口紅のあとのようなものが!
ヘブンは気づかず、パイナップルをお土産だとフミに渡す。
なんともベタベタな展開。酔ったお父さんが口紅のあとをつけて帰ってきて、玄関先でひもにぶら下がったお土産(料理屋でもらう手土産みたいなもの)を渡すビジュアル、昭和のサラリーマン家庭の描写によくあったやつだ。21世紀生まれの人は知らないかもしれない。
ここで司之介は「やましいことがあるとお土産を買ってくるのは世界共通」と言う。
トキは司之介の冗談を本気にして、あとでこっそりパイナップルで口づけの練習をはじめる。健気(けなげ)である。
そこにヘブンの「オーマイガー」の叫び声が。
フミがヘブンの叫びを心配するが、書き物している時は開けない約束(鶴の恩返しか)とトキはヘブンの部屋にかたくなに入らない。
ヘブンが鏡を見て、自分の口元に気づいて叫んだのかもしれない。オーマイガーと叫びたかったのは、ヘブンの口元を見たトキのほうだろう。
口紅疑惑はいったん置かれ、サワ(円井わん)のターン。
置いていかれた橋の向こうで、サワが花を摘み、トキの家を訪ねて来る。
いつもの野の花をささやかに束ねて。でも、新居の玄関に、巨大で豪華な生け花が飾ってあり、自分のそれと比べると気恥ずかしくなったのか、サワは、庭の茂みに慌てて捨てた。
この感じ、共感しかない。何か場違いな気がして持っているものをこっそり隠すことってある。
トキは気づかず、無邪気に喜ぶサワを家の中に通し、例のお菓子、若草を出す。
「おいしすぎて罰が当たりそう」とサワは「何のお祝いも持ってきちょらんで」と恐縮する。ほんとはお祝いを持ってきたけれどそんなお祝いはもうトキには必要ないと感じていることを、サワはここで一気に口にする。
「それにしてもすごいね。こげなもん、食べられて。こげに立派な屋敷に住んで あげに立派な花が飾られちょって。一緒になった人は島根の宝。もう何も悩まんでいいね」
それを受けたトキは「そげなことないよ」と返す。「実はいろいろあって……」。
トキのいまの悩みは、ヘブンの浮気疑惑だ。貧乏や借金や先の見えない将来の心配ではなく、夫の浮気。
すると、そこに借金取りの銭太郎(前原瑞樹)が駆け込んできて、「わしが来んかったら踏み倒すつもりだったんか」と喚き散らす。
フミが「おわびというわけではございませんが、今月分きちんとお返しいたします。ご容赦ください」と出した札束は、ひーふみよー……100円。
その声を聞いて、はっとなるサワ。
銭太郎も怒って帰っていく。
「返しちょるのになして……」と戸惑うトキ。
「なんだかもうごめんなさい」とサワは――。
やっぱりヘブンは山橋薬舗にいた!
いたたまれず帰っていくサワ。彼女の気持ちをダイレクトに受け止められるのは、トキではなく、視聴者であろう。
説明セリフの少ない『ばけばけ』だが、ここではサワにはっきり言葉にさせた。これは視聴者の代弁だと思う。
ここまでずっと見続けてきた視聴者には、トキが労せず富裕層になったことに釈然としないものを感じている人もいるはずだ。そもそもトキが、世の中をうらめしく思いがちで、先に縁談の決まった人を「呪う」と言うなど、比較的、カジュアルに恨みがましく生きてきた人なのだ。
それがすっかり橋の向こうの人に戻って、経済的な心配のない暮らしを手に入れている。のど元過ぎれば熱さ忘れるで、別人のようになっている。
ほんとうならトキ、良かったねと喜びたいところだが、トキのように恵まれた人を呪いたい気持ちが、ここでようやく視聴者にもわかる仕組みとでもいおうか。それは考えすぎかもしれないが。
帰るサワを追いかけるトキ。橋の上にトキ、下にサワ。この構図は三之丞(板垣李光人)との場面でもあった。トキが上から相手を見下ろす位置にいる。シビアな構図である。でもド頂点に立っているわけではなくて、途中の位置ではある。
橋の上からトキは、ヘブンが山橋薬舗に入っていくのを見かける。
「今日こそヘブン先生がこちらに入っていくところをはっきりと見ましたけん」と乗り込むトキ。やっぱりサワのことよりヘブンのことが気になるのだ。
「あいにく今日もご覧の通り、閑古鳥がカッコーカッコー鳴いておりまして」と言う山橋の襟元に紅?
オーマイガー。
ベタベタな浮気疑惑は金曜日には解決するか。それより筆者が気になるのは、サワとの友情が経済格差によって絶たれてしまうか否かである。これはトキが女中業で20円を稼ぐようになったときから気になっていた問題だ。
フォトギャラリー
主なシーンより
第15週(1月12日~1月16日)
「マツノケ、ヤリカタ。」あらすじ
晴れて結婚が認められ家族となったトキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)。司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)も連れ、長年暮らした長屋から橋の向こうの城下町へと引っ越す。サワ(円井わん)やなみ(さとうほなみ)に見送られ、トキたちは武家屋敷に向かう。新居での新たな生活、ヘブンは日本式に合わせると言うが松野家と一緒に暮らしていけるのか!?
連続テレビ小説『ばけばけ』
作品情報
連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。
【作】 ふじきみつ彦
【音楽】 牛尾憲輔
【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / 柄本時生 さとうほなみ 円井わん 岩崎う大 前原瑞樹 / 渡辺江里子 木村美穂 / 吉沢亮 / 岡部たかし 池脇千鶴 朝加真由美 佐野史郎 小日向文世 ほか
【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始