【医者が教える】長生きするには「リズム感」が重要なワケ

写真はイメージです Photo:PIXTA
平均寿命世界1位の長寿大国・ニッポン。健康なまま歳を重ねるなら、長生きほど素晴らしいことはない。しかし、ほとんどの人は、長年の不摂生が「負債」として積み重なり、臓器に不具合が生じてしまうという。抗加齢医学専門医の著者が、「老化負債」の返済に早くから動きだすためのメソッドを授ける。※本稿は、伊藤 裕『老化負債 臓器の寿命はこうして決まる』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
74歳で天下統一を果たした
徳川家康は健康オタク
徳川家康遺訓
人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。
不自由を常と思えば不足なし。こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。
堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え。
勝つ事ばかり知りて、負くること知らざれば害その身にいたる。
おのれを責めて人をせむるな。
及ばざるは過ぎたるよりまされり。
1975年にジェームズ・クラヴェルが著した『将軍』をもとに、真田広之がプロデュース・主演を務めた米国の有料テレビチャンネル・FXのドラマシリーズ『SHOGUN将軍』が、2024年9月、米国テレビ界の“アカデミー賞”ともいわれる「第76回エミー賞」で、作品賞・主演男優賞・主演女優賞をはじめ主要部門、史上最多の18部門を制覇し、9名の日本人が受賞者となる快挙を成し遂げました。
徳川家康にインスパイアされた武将・吉井虎永を真田は重厚に演じましたが、将軍となるためには、想像を絶する苦渋と深慮が必要であることが見事に描かれていました。
徳川家康は、関ヶ原の戦いで西軍を破ったのちも豊臣政権打倒に向け、実に15年間かけてさまざまな根回しをし、漸く1615年に大坂の陣で豊臣家を滅亡させました。その時、彼は74歳でした。
74歳の年齢は、当時として長寿で、しかしそれだけにいつ訪れても不思議ではない死の恐怖と、進みゆく老化をひしひしと感じていたはずです。いつからかは定かではありませんが、彼には、“天下統一”の大望がありました。それまでは死ねないとの思いが強かったと思います。
そのため、彼は健康オタクとして知られています。医者顔負けの漢方医学の心得があり自ら薬草を調合して服用していました。その他にも粗食、運動を心がけました。当時タバコが日本に伝来した時も物珍しいからと飛びつくことなく、その害を本能的に感じ取り、忌み嫌いました。体によいことはすべてやり、体に悪いことは避けました。
75歳で逝去した家康は
老化負債を完済した1人
大坂の陣のわずか1年後、75歳でこの世を去ります。死に際して彼はどんな思いでいたのでしょうか。彼の心の中には、健康に気をつけ、常に「老化負債」を返済し続け、ついには完済したという感慨があったとわたしは思いたいです。
彼の死因として、食中毒との説もありますが、どうも、それまでの彼の症状からは、胃がんで亡くなったとする説が有力です。胃がんは一般的に、死をもたらすまでの病期に至るには、10年ほどかかると思われます。
すると、彼は関ヶ原の戦いに勝利した頃に、発がんしたとも考えられます。天下統一の決意を持ってそれまで常に節制してきた彼にもその時一瞬の“気のゆるみ”が出て、がんが発生したのではないかと、医師としてわたしは考えてしまいます。そうであってもやはり、家康は老化負債を完済した人の1人に挙げたいです。
冒頭の遺訓(『東照宮御遺訓』)は、実は、神君家康様ならこう考えたであろうと想像した後世の創作との説もありますが、この遺訓を読んでひたすら耐えろと言われると、正直、多くの人は人生にワクワク感を持つことは難しくなってしまいます。
確かに、強靭な心身を維持して長寿を保ち、全国の戦国大名を傘下に置き、豊臣家を滅亡にまで追いやった家康の企画力、統率力、実行力には敬意を表したいと思いますが、健康維持だけに言及したものではないとはいえ、わたしは家康の遺訓にはいささか反対です。生きていく以上負債を背負っていくわたしたちにとって、重荷にならないうちに対応したいものです。
しかし、
おのれを責めて人をせむるな。
及ばざるは過ぎたるよりまされり。
は耳を傾けるところがあります。
自分の毎日の生活を見つめる。決して人のふり見て我がふり直せ、という姿勢を取らない。それは聞こえはいいですが、他人任せな態度と同じです。そして、過ぎたること、すなわち毎日の生活でいつもの状態を飛び越える事象に目を向けることも重要です。“普通”であることが大切なのです。自分自身の“ルーティン”を知っておくことで、そのルーティンから外れていく、ブレていくことがないようにすべしというメッセージを、わたしは、老化負債を完済した家康から受け取りたいと思います。
自分のルーティンを知って
ブレないための「リズム」作り
ルーティンを守り、ブレずに同じ状態を保つことが長寿につながります。しかし、毎日全く同じことを続ける、ルーティンを守ることは至難の業です。日頃の仕事をのんべんだらりと同じペースで続けるのは楽そうに思えますが、飽きてきますし疲れてもきます。一向にはかどりません。
すると、どんどんブレていってしまいます。それでは、どうすればブレずにいられるのでしょうか?
たとえばどんなにきつい仕事でも「月月火水木金金」と働くのではなく、週末は恋人とデートというプランを入れておくことで、ウィークデイの仕事を頑張ることができます。ウィークデイとは異なったプランが入ることも含めて、ルーティンにするのです。
ブレないことは、実は“小さくブレながらまた元に戻る”ということを繰り返す──規則正しいブレ、「振動」を持つことで初めて可能になります。メトロノームのような振動、一定の「リズム」を持つことが大切です。一定の範囲の中で繰り返す、波のように寄せては返す「波動」のリズムが望まれます。滑らかに連続的に調子が上がり、やがてピークに達すると、その後は次第に調子が下がり、そしてボトムになると、また上昇していき、元の位置に戻る、という動きです。
脳に心地よさが生まれ
心身が健康になる
こうすることで生活に「メリハリ」ができ、元気ハツラツが維持されます。メリハリとは、元は邦楽用語の「メリカリ(乙甲)」で、低い音を「減り(“減り込む”のメリ)」、高い音を「上り、甲(“甲高い”のカリ)」と称していたことに由来します。音の高低をうまくつけることでいいリズムが生まれ、その音楽は豊かになります。同じことがわれわれの体にも言えます。
「リズム」は、音楽の世界で使われることが多いですが、その場合、「耳で聞く」音の連続的な変化を、脳が「リズム」として認識しています。音楽に限らず声に出す言葉や目で読む文章、また、われわれの体の動き、運動競技や舞踏などでも使われます。
肌ざわりや舌ざわりなども、細かい触覚の変化のリズムですし、食べることも、食物を反復して噛む中で、さまざまな栄養素が取り出されそれを味わっているわけで、味覚のリズムだと思います。いずれもわれわれの身体が「聞く」「話す」「見る」「動く」「触る」「味わう」などの行為を行うことで得られた感覚を脳がリズムとして意識します。
ここで、それらの感覚が、ひとかたまりの一定のパターンとして「くりかえされる」ことが大切です。反復されることで、脳はそのくりかえしを記憶して、次にまた同じようなことが起こることを予測でき、その予測が見事に当たる、あるいは、ときには適度にうまく裏切られることで、なつかしさ、的中感(「どや!」感)、目新しさなどを覚えます。
こうした感覚は、脳に心地よさを生み出します。その結果、気持ちがリラックスして心身は健康になります。ですから、われわれは本能的にいいリズムを求めます。「リズムを感じる」と思わず、そのリズムに合わせて体が動く、踊り出す、歌い出すというのも、リズムを体が求めているからです。
いい「リズム感」を磨きながら
老化負債の早期返済を目指す
われわれの生活のルーティンのリズムは、1日24時間、1週間7日間、1年間365日の中で波の動きを示します。
たとえば血圧も、朝に高く夜寝ている時に低くなります、仕事が始まる月曜に高い人が多く、週末には下がる人が多いです。また、夏に比べて冬に高くなります。季節の移り変わりを通じて、温度、光の量は変わり、それを体は敏感に感じ取って調子が変わります。それぞれの周期の間隔で、3~5回(周期)ほど、自分の習慣行動、自分の体の調子を意識して観察し、そのリズムを知ることをお勧めします。

『老化負債 臓器の寿命はこうして決まる』 (朝日新聞出版) 伊藤 裕 著
わたしたちは、よく体の“調子がいい”あるいは、“悪い”と言います。自分の体調、健康の状態を“調子”、まさに“リズム”として感じています。自分固有の体のリズムは、心身の状態に素直に目を向け常に気を配ることで、初めて知ることができます。自分のリズムを知る、感じ取ることができる能力を、わたしは「リズム感」と呼びます。
いいリズム感を持つ、つまり、ルーティンを守ることによって生まれた自分のリズムを十分認識することができれば、将来どうなるかということをある程度想像できます。これまでの軌跡がこうであったなら、将来はきっとこうなるだろうとあらかじめ予想できるのです。ある程度の「想定」を持つことで、いつもと違うこと、「想定外」のことが起こった時、わたしたちはその変化を敏感に捉えることができます。いつもと違うリズム、音色に気付くことができるのです。
この時が、まさに負債が起ころうとする時です。そのリズムの変調、自分に起ころうとしている異変を、敏感に、自分事として感じ取ることができれば、老化負債の返済に早くから動きだせます。