『超かぐや姫!』はなぜ“公開前から”ヒットしたのか? 監督が分析するオリジナルアニメ成功の戦略

オリジナル長編アニメをヒットさせるのは難しい, 山下清悟が『超かぐや姫!』で描かなかったもの, アニメづくりを通して一番やりたいこと, 本来1クールで描く内容 2時間半はギリギリの尺, ヤチヨは初音ミクを意識した存在 ボカロP参加の意図, 依然として世界は暗い、だからこそ

『超かぐや姫!』はなぜ“公開前から”ヒットしたのか? 監督が分析するオリジナルアニメ成功の戦略

『呪術廻戦』『チェンソーマン』『うる星やつら』など、話題作のOP映像を手がけてきた気鋭のアニメクリエイター・山下清悟さんによる初の長編監督アニメーション映画『超かぐや姫!』が、1月22日(木)からNetflixで世界独占配信中だ。

タイトルの通り古典の「竹取物語」をモチーフとし、メタバースやライブ配信といった現代的な要素が組み合わさった煌びやかな世界観に、ryoさん(supercell)やkzさん(livetune)、40mPさん、HoneyWorks、Aqu3raさん、yuigotさんといった有名ボカロPたちの楽曲が花を添える。

本編配信前には、主人公のかぐや(CV:夏吉ゆうこさん)や酒寄彩葉(CV:永瀬アンナさん)、月見ヤチヨ(CV:早見沙織さん)の登場するPVだけでなく、人気ボカロ曲を歌う「歌ってみた」動画が次々と公開。100万回再生を超えるものもあるなど内容が不確かな中でも大きな反響を呼んでいた。

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「自分の培ってきた映像の強み、好きなキャラクター、そして90年代から続くネット文化が好きな気持ちを込めました」──そう意気込む山下監督のこだわりが随所に見られ、オリジナル長編アニメ作品としては近年まれに見る盛り上がりを生んでいる。

数々のアニメクリエイターたちからの称賛を集める稀代の監督による初の長編オリジナル作品はいかにしてつくられたのか。インタビューを通じてその秘策を紐解いていく。

取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多

※本記事は『超かぐや姫!』のネタバレを含みます。

オリジナル長編アニメをヒットさせるのは難しい

──まずは『超かぐや姫!』の企画立ち上げの経緯を教えてください。

山下清悟 僕が監督した『ポケットモンスター ソード・シールド』のオリジナルアニメーション『薄明の翼』(2020年)の後に、プロデュース会社のツインエンジンさんから「オリジナル長編をやってみないか?」という話をいただき、挑戦することになりました。

ただ色々企画を立ててみるものの、1年ほど承認が通らない期間があったんです。ストーリーそのものが良くないというよりは、“オリジナル作品として世間に訴求していく要素が足りない”というニュアンスで却下されていて……。

こういうときって、意固地になってもいいことないですよね(笑)。心機一転今までとまったく違う要素から攻めてみようと思い、メタバースや配信者(ライバー)といった要素を付け加えていき、今回の『超かぐや姫!』の形に繋がっていきました。

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──情報公開後から大きな反響がありましたが、どう受け止められていましたか?

山下清悟 本編が公開される前から内容やストーリーを考察してくださってる方もいましたし、毎日エゴサが楽しかったですね(笑)。

実は、企画の立ち上げの段階から「オリジナルの長編アニメは構造的にヒットさせるのが難しい」と考えていたんです。なので、作品づくりとは別の部分で知名度を上げる施策をしないと、成功はあり得ないと思いました。近年は長編アニメーション作品が商業的な存在感を強める一方で、その多くは漫画原作や既存の人気IPをベースにした作品になっている印象です。

今回、事前に盛り上げるための施策として用意したのが、まだ公開前の作品に登場するキャラクターたちによる「歌ってみた」動画です。不思議な状況だったと思いますが、動画の公開直後から多くの方に楽しんでもらえていましたし、思いが伝わっているようでとても嬉しかったですね。

──100万回再生を超えるような動画もあり、事前の盛り上げとしては大成功だったと思います。本編を見た後だとネタバレになりかねないレベルの大盤振る舞いだったことがわかるのも興味深い部分でした。

山下清悟 もちろん核心的なネタバレには繋がらないように細心の注意は払っていました。でも、そこを気にしすぎて出し惜しみはしないようにも気をつけていました。配慮して出し惜しみをした結果、失敗したオリジナル作品が多いように感じていたので、そこはギリギリを攻める必要があると思ったんです。

そうした点も含め、今までオリジナル長編アニメがうまくいかなかった原因をずっと分析してきたので、それらを取り除くためにあらゆる手を講じています。

山下清悟が『超かぐや姫!』で描かなかったもの

──プロダクションノートでは「これまで観た作品の中で違和感を覚えた描き方はやらない」ことを意識されたと書かれていました。具体的にどのような点に違和感を覚えていたのでしょうか?

山下清悟 たとえばキャラクター同士の友情を描く場合、まず喧嘩させて関係を決裂させ、最後に仲直りするみたいな流れがよくあります。この決裂の描き方として、わだかまりが残ってしまうようなレベルのものにしてしまうと、視聴後の感覚としてスッキリしたものになりません。

これは「人間はどうしても一度ミスをした人間を完全に許すのは難しい」からだとも思うんですが、それゆえに視聴体験として気持ちのいいものにするのも難しいという傾向を、シナリオ執筆の時点でもっと意識すべきだと思うんです。今回の作品ではまずそこを削ったというのは大きいと思います。

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山下清悟 あと全体の傾向として、なんとなく雰囲気が重苦しいものが多いとも思っていたので、絶対に暗い雰囲気の作品にはしないようにしました。やはり人間の闇みたいな部分を思い切り表に出すと、単純に見ていたくなくなると思うんですよね。

とはいえ、ただ単に明るくすればいいというものでもなく、たとえば物語の土台の部分にシリアスな設定があったとしても、察せる程度に表現するなど工夫できると思うんです。なので、暗い部分をなくすために嘘をつくのではなく、うまく隠すというやり方にこだわりました。

──『超かぐや姫!』で描かれた“別れが決まっている中での楽しい時間”も、そうした思いによるものなのでしょうか?

山下清悟 本来どうしても悲しくなってしまう「別れが決まっている」という状態を暗く描かないことで、より切なさが際立つと思ったんです。明るいからこそ切ない、そこを描くのが自分の本懐ですし、この作品で絶対に見せたい部分でした。暗いものを抱えている人ほど明るく振舞うというのが自分の人間観としてあるのですが、それが全開に出ている企画なのかなと思います。

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山下清悟 実はヤチヨは初期段階ではもっと静かな設定で、極端な言い方をするといかにも早見沙織さんが演じてそうなキャラクターといった感じでした。

制作が進むにつれ、だんだんと今のようなふざけたキャラクターになっていったんですが、これはとても良い変更だったと思います。キャラクターとしてのギャップが生まれたことで魅力的な人物になったと思いますし、そこが公開前からヤチヨに対して大きな反響をいただけた要因なのかもしれません。

アニメづくりを通して一番やりたいこと

──山下監督といえば、近年は数々の話題になったアニメでOP映像を手がけられていました。長編となるとまた違った苦労があったかと思いますがいかがでしょうか?

山下清悟 OPなどの短尺映像はいつでもやる構えなのですが、正直に言うと原作モノの長編はすごく苦手なんです。自分が一番やりたいことはキャラクターと物語をつくることなので、それができない原作モノの長編はお断りするようにしていました。

原作モノだとしても、OPなどの短尺のアニメーションは、あの尺の中でのシナリオを自分で考えるようなものなので、自分のやり方で貢献することができます。アニメづくりに関わる全てのことに興味があるのはもちろんですが、やはり自分にとっての一番はキャラクターと物語をつくることなんです。

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──その意識は昔から変わらないものなのでしょうか?

山下清悟 アニメーターになりたての10代の頃は、「とにかく作画がしたい」と思っていました。でも、20代になり演出なども手がけるようになってから、だんだん意識が変わっていきました。今は、ただ自分の考えていることを表現したいというだけでなく、原作モノの場合はファンの方々が期待しているものを、いかに上手く見せられるかを重視しています。

「顔がいい人間の言うことは正しそうに見える」というのは人間の脆弱性の一つですが、無視できない実態です。アニメを通じて伝えたいことがあったとしても、絵がキッチリしていなくては思いを届けることはできません。だから、自分の言葉を信じてもらうために、絵を綺麗にする。撮影もやって色も決めて、作画もやる──僕があらゆるところにこだわるのは、言葉を信じてもらうための手段という考え方です。

はじめての長編アニメ制作になった今回も、とにかく絵を綺麗にすることにこだわっていて、もうかなり丁寧にチェックを入れました。他の作品を見ていても、途中で力尽きたのか絵が崩れてしまうシーンがあることが気になっていたので、そうしたことがないように細部まで力を入れています。絵が好きなのではなく、ノイズなく伝えるためにです。

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──全体の構成としては、音楽がテーマの一つとなっている作品にもかかわらず、ライブシーンを最初に配置しないのは気になるポイントでした。冒頭の“引き”として持ってくるという手段もあったのではないかと。

山下清悟 正確には、はじまってから24分後にライブシーンがあるんですが、もちろん最初に持ってくることも考えたんですよ。ただ、ストーリー的にも構成的にもやっぱりできないという結論に至りました。

この作品はかぐやと彩葉の物語なので、まずそこを見せずにヤチヨのライブシーンを持ってきてしまうと別の話になっちゃうんですよね。音楽がテーマの一つになっている作品なのは間違いないですが、感動の最大値は別の部分にある。

すごく難しい判断でしたが、正直ここはどうしようもなかったところでもあります。ですが特に配信作品においては開始から5分以内にライブシーンか、それに相当する見せ場があった方がいいのも間違いないので、そこは明確にこの作品の弱点と言えるかもしれません。

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──すでにご自身の中でも分析されているんですね。

山下清悟 冒頭のツクヨミや世界観の紹介はまだ興味を持って見てもらえると思いますが、その後の日常パートは劇的に何かが起きるわけでもないので、テンションを持続して見てもらうのが難しい。そこを耐えて見てもらうために、事前の期待や口コミが必要だったんです。

盤外戦術の部分で知名度を上げて、この後にあのキャラクターや曲が出てくるんだって期待を持ってもらった状態で、やっと耐えてもらえるのが24分という時間。この工夫ができなかったら無理な構成ですし、いかに興味を持続してもらうかは原作の無いオリジナルなら絶対に気にしなくてはいけないポイントです。

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山下清悟 ただ最後まで見てもらえれば、なんでこういうことになっていたかは分かってもらえると思っています……と、論理的に話しているような雰囲気を出していますが、今でも毎日「あと1分削れたんじゃないか?」と考えてしまいます。

本来1クールで描く内容 2時間半はギリギリの尺

──2時間半という全体の尺も初のオリジナル作品としてはかなりチャレンジだったのではないでしょうか?

山下清悟 方々から「とにかく100分以内に」とか「やばいぞ」とか言われましたけど、短くできませんでした。個人的には「そもそもまだ短くないか?」って感覚なんですよね。描きたかった物語の総量に対して尺は足りていないですし、駆け足になってしまっているなと思うところもあります。

そもそも描こうとしていた物語が長すぎたんでしょうね、制作に入る前の段階でそこに気づけなかったのは未熟だったと思います。本来1クールで描くくらいの内容でしたから、4時間になるならまだしもギリギリあり得るサイズ感の2時間半にできたのは、むしろうまく収めることができたと言えるかもしれません(笑)。

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──エンドロールを見ると原画・第二原画としてものすごく多くの方がクレジットされています。あれだけハイクオリティな作画が最初から最後まで続くので納得できることではありますが、これはやはりアニメづくりとしては珍しいことなのでしょうか?

山下清悟 なぜあれだけのスタッフがクレジットされているかというと、大量に二原撒き(※)をしているからです。二原撒きは今までのアニメづくりのやり方からするとあまりよくないやり方なのですが、今回はどうしても従来のつくり方では難しいことがわかっていたので、なぜ二原撒きがうまくいかないかを分析し、その問題点をクリアした上で実践することにしました。

※二原撒き:第一原画が描いた動きや線を清書するような作業である第二原画を大量に発注すること。問題点については後述。

そもそもどこにそれだけのスタッフが必要だったかというと、主に中盤のKASSENシーンです。あそこは全部で330カットくらいあるのですが、それを全部描ける数の上手いアニメーターを確保するのは現実的にかなり難しいことでした。

なので、最初から大量に第二原画を入れる二原撒きで対応することになったんです。なぜ第二原画を大量に入れるとうまくいかないのか? それは、二原作業者に一原を描いた人間の意図が伝わりきらず、「上りに対しての本質的な責任を誰も持っていない状態」になってしまいがちだからです。

──その問題点をどのように解決されたのでしょう?

山下清悟 弊社スタジオクロマトが得意としているプリヴィズシステム(※)を活用したんです。これは原画の元になる動きをCGモデルでつくることで、カットごとにキャラや空間がブレることをなくす仕組みなのですが、いわば第一原画に当たる作業をより統一感のあるCGで補ったという形です。

※プリヴィズ:プリヴィジュアライゼーションの略。CGの仮素材を用いて映像を制作して、スタッフ間でイメージや動きなどを共有する。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』などでも用いられてた手法。

ただし、うまくいくシステムをつくり上げたみたいに話していますが、結局思い知らされたのは作監、二原、動画をはじめ、素晴らしいアニメーターがいないとダメだということです。プリヴィズである程度はまかなえるとしても、第一原画がいらないということにはなりませんし、上手い人たちの原画を見て「これには敵わない」と痛感することもありました。

やはり手描きアニメである以上、アニメーターの力に頼るしかないですし、監督の無力さを思い知らされる部分もありましたね。

ヤチヨは初音ミクを意識した存在 ボカロP参加の意図

──絵の迫力はもとより、キャラクターたちの軽快な掛け合いも印象的でした。酒寄彩葉役の声優・永瀬アンナさんもコメントで「本当に楽しかった」と書かれていましたが、こだわった点はありますか?

山下清悟 掛け合いの部分は、それこそ『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』(2025年)のような作品を見ると、もっとできたのかなって思っちゃうところもありましたね。ただ、ああいう本当にリアルなやりとりは口語の魅力で、『超かぐや姫!』で展開する劇としてのやりとりとは性質の異なるものなのかなと思っています。

ストーリーの中の会話をつくる上では、その発言に潜ませているサブテクストや、もっとメタ的な意識外の意味を匂わせるような会話にするのが好きなんです。だから、ある程度テンポ感などで生っぽい感じにはできるものの過剰にはせず、むしろ真っ当にアニメっぽいものをつくろうという意識がありました。

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──これだけのボカロPが揃って参加しているのも特徴ですが、どのような狙いがあったのでしょうか?

山下清悟 初期から歌姫ものとして企画していたので、やはり誰かアーティストをフィーチャーした方がいいとは考えていました。ちょうどその時期に『ONE PIECE FILM RED』(2022年)が公開されていたんですが、音楽関連で錚々たるメンバーが集められていたのを見て、キッチリとコンセプトを持って様々なアーティストを呼べたら面白いんじゃないかと思ったんです。

加えて、僕自身もまったく意図せずデザイン原案を出したんですが、ヤチヨは髪型といい実体を持たない電脳空間の歌姫という設定といい、かなり初音ミクと類似点のある存在になってるんですよね。

これはもう僕やプロデューサー陣含め、スタッフがガッツリボカロ世代ということもあって、無意識にそうなってしまったんだと思います。でもだからこそ、「それならボカロとしっかり組み合わせた方がいいんじゃないか」という考えに至ったんです。そこで、いろんなボカロPの方々に頼んでみようということになりました。

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依然として世界は暗い、だからこそ

──初の長編制作にあたって、これまで培われた技術や様々な文化への愛が込められているのと同等に、「これはやらない」という歴史からの反省が強く意識されているように感じられました。

山下清悟 アニメづくりに限らず、うまくいっていないことに対して「なんでなんだろう?」って原因を分析したり、うまくいくための構造を考えたりすることがすごく好きなんですよね。

オリジナル長編アニメに関しても、やはりうまくいかない原因というものがあって、それを一つずつ分解していくことでわかってきたことがたくさんありました。それらを丁寧に取り除くのは、やはり今回特にこだわった点です。

──その上で全体的に悲観的な雰囲気にはせず、クライマックスには「これはハッピーエンドなのか?」と問いかけがあるなど、単に明るいだけでもないバランス感も印象的でした。

山下清悟 僕は本来、悲惨な家庭をいかに描くかみたいな暗い話しか思いつかない人間なんですよ。ただそういう暗さは本来、明るさとも表裏一体のものでもあると思うんです。

かぐや、彩葉、ヤチヨ、それぞれ明るい部分を持ちますが、そのどれもがあっけらかんとしたものとは限りません。でもそれは「嘘」ではなくて、そうふるまう覚悟をした「やさしさ」だと思います。エンディングテーマの「ray 超かぐや姫!version」(※かぐやとヤチヨのカバー、原曲はBUMP OF CHICKEN)の歌詞にも「楽しい方がずっといいよ ごまかして笑っていくよ」とありますが、これが本当にこの作品の全てです。

依然として世界は暗い、だからこそ明るいものを描くことに意義があると思っています。

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