「両親は悪なのか?」"ナイトスクープ"騒動の核心

番組サイドも「演出」を認めた, 第三者が真っ先に声を上げる場所とは, 「ナイトスクープ」擁護派の言い分, 「お詫び」「謝罪」などのフレーズは見当たらない, 親も失敗と後悔を繰り返し学んでいく

バラエティ番組『探偵!ナイトスクープ』に出演した少年が「ヤングケアラーではないか?」と波紋を呼んでいます(写真:番組公式サイトより)

「深刻なヤングケアラーではないか」「両親に問題がある」「番組の演出がひどすぎる」「少年を抱きしめた(霜降り明星)せいやは素晴らしい」。

【写真】「せいやが探偵でよかった」の声殺到…騒動を受けた「霜降り明星・せいやのコメント」

1月23日に放送された「探偵!ナイトスクープ」(ABC・テレビ朝日系)の内容が今なお波紋を呼び、さまざまな声が上がり続けています。

改めてここまでの経緯をまとめると、番組がフィーチャーしたのは6人兄妹の長男である12歳の少年。母親が会社を経営し、父親と家事を担当している少年が「長男をやるのに疲れた。1日だけでもいいので次男になりたい」という依頼にせいやさんが応えるというものでした。

番組サイドも「演出」を認めた

少年が食事の準備、洗濯の片付け、おむつ交換などを行っていることが明かされたほか、終盤にはせいやさんが少年を抱きしめて「お前はまだ小学生や。大人になんなよ」と声をかけるシーンがあり、VTRの最後は母親の「米炊いて、7合!」という声で締めくくられました。

この放送内容をめぐってネット上に批判の声が増え、見逃し配信が停止。母親のSNSには誹謗中傷を含む批判が書き込まれ、過去の投稿もさらされるなど騒動が過熱しています。

これらを受けて番組サイドは、「父親が乳幼児を残して外出」「母親の『米炊いて、7合』の発言」「『長男やるの疲れました』などの手紙」が演出であることを認めました。

さらに「長男ご自身も、週に3~4回は大好きなバスケットを習うなどの時間がありますが、長男ばかりが家事・育児をしているような印象を与えてしまいました」と釈明。

「実態とは異なる受け止めが生じている状況について、番組として深く反省しております」「取材対象者およびご家族の方々が、放送をきっかけに強い批判や誹謗中傷、詮索にさらされ、日常生活もままならない現状について、番組として強い懸念を抱いています」などとコメントしました。

番組サイドも「演出」を認めた, 第三者が真っ先に声を上げる場所とは, 「ナイトスクープ」擁護派の言い分, 「お詫び」「謝罪」などのフレーズは見当たらない, 親も失敗と後悔を繰り返し学んでいく

ABCテレビが公開した経緯説明の声明(写真:番組公式サイトより)

しかし、それでも騒動は収まりません。特に「番組の演出があったとしても、母親がSNSに書いたことは事実であり問題」などと両親に対する批判は今も続いています。

さらに番組への批判と擁護の対立や、バラエティの演出に対する是非も活発に語られるなど、混沌とした状況であることは間違いないでしょう。

しかし、これだけ多くの記事やコメントが飛び交っているにもかかわらず、今回の本質に迫るようなものは見当たりません。

テレビ業界に詳しいコラムニストであり、20年以上にわたって悩み相談を受け続けてきたコンサルタントでもある筆者が、その本質をどこにも忖度(そんたく)せず掘り下げていきます。

第三者が真っ先に声を上げる場所とは

批判や誹謗中傷の前提になっているのは、「少年がヤングケアラーではないか」「ネグレクトではないか」などの疑いであることは確かでしょう。

ただ、第三者がうかがい知れるのは、番組で放送された部分とSNSの投稿くらいであり、実情を十分に知ることはできません。あくまで「疑わしきは罰せず」の段階であり、「自治体や民間団体などによる調査や改善をいかにスピーディーに行うか」が重要です。

私たちのような第三者が真っ先に声を上げる場所があるとしたら、その自治体や民間団体であって、少年の両親ではないでしょう。

そもそも現在は、少年が「自分のせいで両親が苦しんでいる」「とんでもないことをしてしまった」などと自らを責めかねない状況。批判のコメントやネットメディアの報道は少年を助けるどころか追い込んでいる感があります。

万が一、両親がネグレクトするような人物だった場合、少年をさらなるリスクにさらす危険性がないとも言い切れません。賢明な人なら、少年を傷つける可能性の高い両親への攻撃より、自治体や専門団体を動かすことを考えるでしょう。

「われ先に」と個人のSNSを調べ上げて攻撃する直情的な行動パターンにも、それを大々的に報じて批判をあおるメディアにも、現代社会の構造的な問題点が表れています。

「もし今回の少年がヤングケアラーだったら」と仮定しましょう。

12歳の少年が自ら自治体や民間団体の相談窓口、ネット上のコミュニティや相談サイトに問い合わせすることは難しく、むしろ「番組という受け皿があってよかった」ようにも見えます。

自治体や関連団体は、そんな現状を踏まえたうえで、より相談されやすい環境作りや啓蒙活動が必要なのでしょう。

国のサポートも含め、ヤングケアラーの支援はまだ過渡期であり、われわれは当事者の負担を軽減するためのサポートを少しでも早く実現させるための動きに特化していきたいところです。

「ナイトスクープ」擁護派の言い分

今回の騒動におけるもう1つのテーマは、「探偵!ナイトスクープ」という番組とバラエティの演出に対する是非。

番組のコンセプトは、公式ホームページによれば「この番組は、視聴者から寄せられた依頼にもとづいて、探偵局長が部下の探偵たちを野に放ち、世のため、人のため、公序良俗・安寧秩序を守るべく、この世のあらゆる事どもを徹底的に調査追求する娯楽番組である」とのこと。

公式YouTubeには、「複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスをいれ、様々な謎や疑問を徹底的に究明する番組。テレビをご覧の皆さんからの依頼に基づき優秀な探偵が真相の追究に当たります」と記載されています。

「世のため、人のため、公序良俗・安寧秩序を守るべく」「複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスをいれ」などの大義が書かれていますが、これは笑いにつなげる“振り”であり、関西発のバラエティらしく笑いどころが散りばめられ、時折涙も誘われる番組です。

「見たことがない」という人も、YouTubeチャンネルの動画を見れば、1988年から人気を保ち続けてきた理由がわかるでしょう。

関西のみならず関東キー局以外の日本全国で長年放送されてきたこともあって、ファンの数は国内番組の中でもトップクラス。そのためか、演出に対する反省のコメントが発表されたあとも、「通常運転にすぎない」「ネットの声は無視していい」「これからも胸を張って番組作りをしてほしい」などの擁護が目立ちます。

これらの人々は「『ナイトスクープ』らしく、依頼者が多少なりとも救われたところがあり、せいやさんのよい人間性も引き出されていた」と感じられたのでしょう。

番組サイドも「演出」を認めた, 第三者が真っ先に声を上げる場所とは, 「ナイトスクープ」擁護派の言い分, 「お詫び」「謝罪」などのフレーズは見当たらない, 親も失敗と後悔を繰り返し学んでいく

今回の炎上騒動を受けて投稿された、霜降り明星せいやさんのコメント(写真:本人の公式Xアカウントより)

「お詫び」「謝罪」などのフレーズは見当たらない

もちろん今回の演出に関しては、批判が過熱する原因になったことは間違いありません。

特に、先述した演出箇所は、これまで番組を見てきた人が「これは演出だ」とわかっても、番組を見たことがない人はヤングケアラーやネグレクトの疑いを抱いても不思議ではないでしょう。

それでも番組に怒りをぶつける声には多少の強引さが感じられます。テレビのバラエティはもちろんのこと、ネットも含めエンタメコンテンツの狙いは笑いを中心に見る人を楽しませることであり、社会問題の提起、ましてや誰かを叩くことではありません。

今回もその意図はなく、演出についても「家族の承諾を得ていたことも含め、もう少し配慮できたところはあったとしても、見ていない人にまで批判される筋合いはない」というのが本音ではないでしょうか。

実際、公開されている文章には「深く反省」と書かれているだけで「お詫び」「謝罪」などのフレーズは見当たりません。

もし今回のような騒動が繰り返されたら、制作側も出演側もリスクを恐れて一般人が出演する番組はますます減っていくでしょう。さらにテレビ番組から一般人の出演が減ったら、批判の声はネット動画に映る一般人の言動におよび、ますます窮屈な世の中になっていくことが推察されます。

親も失敗と後悔を繰り返し学んでいく

そもそも家族や日常生活の形はさまざまで、当然ながら幸せや不幸せを感じる基準も人それぞれ。バラエティもドキュメンタリーもネット動画も、その一部のみをのぞき見して楽しんでいるだけに過ぎません。

また、どの親も完璧ではなく、いくつかの失敗や後悔を繰り返しながら生きていくものです。もし今回の両親に反省・改善すべきところがあったとしても、「これを機に学んでいけばいい」「必要なら自治体や民間団体に相談すればいい」というだけのことでしょう。

少なくとも1組の家族を見せしめのようにしたところで劇的な変化は得られないだけに、これ以上の個人攻撃は無用。社会全体で見ても今回の件は「誰かを叩くような騒動ではなく、これを機によくなっていくきっかけ」というだけのことに見えます。

私たちは今回の少年がどんな状況に置かれていたのかだけでなく、全国にいるであろうヤングケアラーたちにも、いま以上に目を向けていくべきではないでしょうか。