「小学生で準1級」加速する英検競争の落とし穴

漫画『令和の受験親のフツウ』
英検の価値がインフレした令和
みなさんにとって、「英検」とはどんな資格でしょうか。平成の時代に学生だった人にとって、英検とは「ただの資格」でしかなかったと思います。「取っておいても損はない」くらいの資格としてしか認識していないという人も多いでしょう。
【クリックして漫画を読む】英検3級や準2級は小学生での取得が当たり前…令和の受験の常識とは?
しかし、令和に入ってからの「英検」は全然違う価値を持っています。
2020年の教育改革以降、英検の価値は大きく向上したのです。まず、大学受験において、英検を取っていれば一般受験の英語に加点がされたり、英語の試験自体が免除・満点換算されるような大学が続出しています。
早慶やGMARCH・関関同立の大学は一般入試で加点される大学・学部も多いですし、国公立大学でも、準1級以上を取っていれば一般受験で英語の試験が免除され、それだけで満点として換算されるような大学も登場しています(例:秋田大学)。
入学の際だけでなく、大学に入った後にも優遇があり、英検を取得していれば大学の授業自体が一部免除になるようなケースもあります(例:金沢大学)。
総合型選抜(AO入試)はもっと顕著で、英検準1級や2級を持っているだけで出願資格を満たせる学部、逆に英検2級を持っていないと出願できない大学もあります。もはや英検が“受験の通行証”として機能しつつあるのです。
この潮流は大学入試にとどまりません。中学入試でも英検3級で加点、準2級で英語試験免除といった制度が広がり、高校入試でも東京都・神奈川県の一部で英検準2級以上を内申点換算に反映する仕組みが導入されています。
制度が後押しした結果、英検受験者は年々増加しています。日本英語検定協会の「統合報告書2025」によると、高校生の英検2級受験者数は10年前の約2.7倍に、準1級受験者数は10年前の約8倍になっていることが明らかになっています。
また、「英検の早期取得」も進んできています。2023年度の受験者のうち小学生が全体の9%を占め、2024年度で10年前の1.5倍に増えています。最近では「小学生で2級」「小6で準1級合格」という例も珍しくありません。英検先取りは、まさに“早い者勝ち”の様相を呈しています。
早期取得がもたらす“いい効果”──英語耳と成功体験
「小学生のうちに英検2級だなんて」と考える人もいると思いますが、しかし逆に、英語の教育は「早く始めるほど優位になる」側面もあります。
言語学でいう「臨界期仮説」というものがあり、12歳前後までは聴覚や発音の柔軟性が高く、英語の音声を自然に取り入れやすいとされています。
つまり、小学生期から英語に触れることは“英語耳”を育てるうえで確かなメリットがあるのです。
また自分が英検専門塾の指導者から話を聞いたところ、「小学生のほうが英検を取りやすい」という話をよく聞きます。理由としては、子どもたちは英語学習に対して余計な恐怖心がなく、遊びの延長として英検に挑戦するため、心理的ハードルが低いとのこと。
そして小学生のうちに英検に合格すれば大きな達成感が得られ、「自分は英語ができる」という自己効力感につながり、以降の学習にも前向きになりやすい。
学校や塾で英検の級を持っていることを伝えられるという事実そのものが、子どもにとって大きな自信となり、どんどん次の級の受験へと突き進んでいくわけです。
資格が与える“わかりやすい成功体験”は、英語への好意的な感情を育てるという点でも大きなプラスに働きます。
一方で、英検の早期取得が生む影響は必ずしもプラスばかりではありません。まず一番に注意すべきは、早く挑戦させることで失敗体験を重ね、子どもを英語嫌いにしてしまうリスクです。
実際に、英語塾の現場を取材すると、「小3で4級に落ちて以来、英語が苦手になった」「親にリベンジを迫られて、英語そのものが嫌いになった」といった声を頻繁に聞きます。
中高生になって入試が近づいたとき、この“苦手意識”が深い溝となって学習の妨げになります。どの入試でも英語が中核科目であるにもかかわらず、「どうせ自分は英語ができない」という思い込みが、必要な基礎練習すら避ける姿勢につながってしまうのです。本来ならば早く始めたことが有利に働くはずなのに、焦って資格を取らせようとすることで逆効果になり得る点は見逃せません。
早期化の“見えにくい副作用”
さらに深刻なのが、「ダブル・リミテッド(Double Limited)」と呼ばれる問題です。これは、母語(日本語)と外国語(英語)のいずれもが中途半端な状態で発達してしまう現象を指します。
概念を理解するためには、まず母語の語彙力と論理力が不可欠ですが、その基盤が育ちきらないうちに英語を詰め込みすぎると、表面的な単語対応だけを覚え、内容の理解がともなわないケースが増えてしまいます。これについては『令和の受験親のフツウ』の漫画のワンシーンをご覧ください。
※外部配信先では漫画を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください。

漫画『令和の受験の「フツウ」』

漫画『令和の受験親のフツウ』

漫画『令和の受験の「フツウ」』

漫画『令和の受験の「フツウ」』

漫画『令和の受験親のフツウ』
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「入試英語で得点できない」──資格と受験力のズレ
そしてもうひとつの落とし穴が、英検と入試英語の“構造的なズレ”です。英検はリスニングとリーディングが中心で、文章構造の把握や和訳、長文読解ロジックを問う大学入試英語とは性質が異なる場合があります。
極端なことを言えば、小学生の間に英検準1級を取っても、大学受験で共通テストを受験したら6割しか取れず、偏差値55程度になってしまう、なんてこともあります。
共通テストでは資料読解や要約型の問題が増え、複数の英文や図表を統合して読み解く力が求められます。単語や文法を知っているだけでは太刀打ちできません。
一方で私立大学や国公立二次試験では、大学ごとに英作文・リスニング・長文要約などの出題傾向が大きく異なり、英語を「どのように使うか」という応用的な力が求められます。資格があっても、入試の“癖”に慣れていなければ得点にはつながらないのです。
英検はあくまで“英語力の証明の一部”であり、“受験英語の攻略力”とは別物です。資格を取ったことに安心するのか、それとも学びの出発点と捉えるのか。その姿勢の違いが、最終的な学力に大きな差を生みます。
早期取得ブームの中で問われるべき本質
英検の早期取得は、使い方しだいで大きなメリットになります。しかし、焦りから子どもを急かしたり、級の取得をゴール化したりすると、英語嫌いの固定化や国語力の弱体化、受験への非適応といった副作用が生じる可能性もあります。
必要なのは、資格を“目的”ではなく“きっかけ”として扱う視点だと言えます。子どもが英語を好きでいられるか、母語の理解を並行して深められるか、そして資格を受験戦略としてどう位置づけるか──。その全てを丁寧に考えることこそが、英検取得の早期化が進む時代において最も重要な教育の視点といえるでしょう。