JR東日本、首都圏で「運行トラブル」なぜ続くのか

上野駅に停車する常磐快速線の電車。1月30日、同駅構内の架線断線で約7時間運転を見合わせた(記者撮影)
JR山手線・京浜東北線が始発から約8時間不通となった停電トラブルからちょうど2週間後の1月30日、再び首都圏のJR線が停電により長時間運転を見合わせた。
【図解と写真でわかる】▶1月30日に起きた常磐快速線の停電は上野駅での「架線の断線」が理由▶どのように切れたのか?▶架線設備の名前や検査の周期▶そして近年起きた首都圏JR線の主な電気関係トラブルの一覧も
今回、トラブルが起きたのは常磐快速線だ。朝7時前に上野駅構内の架線が切れて停電が発生。駅と駅の間で立ち往生した列車の乗客誘導や復旧作業に時間を要し、運転再開は約7時間後の午後1時50分過ぎだった。
架線は、電車を動かすために必要不可欠な電気を供給する、まさに命ともいえる部分。首都圏のJR線では2025年5月にも山手線で架線設備の断線が起き、朝ラッシュ時を含め同線が長時間運転を見合わせた。
駅構内で架線が切れた
今回のトラブルが起きたのは1月30日の午前6時57分。上野駅付近の変電所で停電が発生し、点検したところ上野駅の10番線に停まっていた電車の8号車付近の架線が切れているのが発見された。
切れたのは架線設備のうち、電車のパンタグラフと接触して電気を供給するための「トロリ線」と呼ばれる線で、25年5月の山手線の架線トラブルで断線していたのとは異なる部分だ。JR東日本によると、現場のトロリ線は1997年1月に交換した。直近の点検は25年4月2日で、係員が架線の至近で目視により確認し、この際は異常はなかったという。
断線によって通常より大きい電流が流れ、保護装置が作動したことで変電所からの送電が止まり、常磐快速線は上野―金町間が停電。同時に宇都宮線と高崎線も運転を見合わせた。
上野―金町間には5つの変電所があるといい、上野駅構内の架線断線なら同駅付近以外の変電所からは送電できそうにも思える。だが、これらの変電所は「一般の変電所と異なり電気的に接続されている」(JR東日本)ため、すべて停電したという。
断線の影響がなかった宇都宮線と高崎線は午前8時過ぎに運転を再開したものの、常磐快速線はその後も不通が続いた。停電した区間では4本の電車が駅と駅の間で立ち往生。鉄橋上でストップした電車もあった。
これらの電車の乗客は計約7400人にのぼり、最寄り駅などまで徒歩で避難。JR東日本によると避難誘導は午前7時53分に開始したが、午前10時半過ぎまで約2時間半を要した。最終的に架線の断線が復旧し、運転を再開したのは午後1時52分。朝のラッシュ時を含め約7時間にわたって不通が続き、約23万人に影響が出た。

常磐線停電トラブル図解
何らかの理由で「溶断」
架線は何らかの理由で溶断(溶けて断線)したとみられるが、詳細な原因は2月4日の時点では調査中だ。
架線が溶断するトラブルは過去にも各地で起きており、電気的な境目で2本の架線が並ぶ「エアセクション」と呼ばれる、本来電車が止まってはいけない場所で停車してしまったために通常より大きな電流が流れて切れた例がある。
だが、今回の場所はエアセクションではない。また、断線が起きた際に停車していた車両の側には「異常は認められていない」(JR東日本)という。

断線した常磐線の架線(トロリ線)。電車の上で架線が途切れて波打っているのがわかる(写真:JR東日本)
首都圏のJR東日本の路線では近年、電気に関係する設備のトラブルによる長時間の運転見合わせが目立つ。
今年1月16日には山手線・京浜東北線が停電により、始発から約8時間運転を見合わせた。これは夜間工事のために止めていた架線への送電を再開する際の手順ミスが原因だったが、設備の問題が原因となった例も複数ある。
25年5月22日夜には山手線の新橋駅構内で架線の一部が断線、同線を走る4割以上の電車のパンタグラフが壊れるという異例の事態が発生。翌日の朝ラッシュ時まで運転見合わせが続いた。24年1月には東北新幹線の上野―大宮間で、架線が垂れ下がって列車に接触し停電、東北・上越・北陸新幹線の一部区間が終日不通に。23年8月には東海道本線の大船駅で架線を支える柱(電化柱)が倒れて列車に衝突するという事故も起きた。
架線設備の検査体制は?
架線設備の点検や修理・交換の体制はどうなっているのだろうか。
JR東日本によると、設備により検査の周期は異なるものの、今回常磐快速線で切れた「トロリ線」と、トロリ線を柱から吊り下げている「ちょう架線」は年1回、架線を支えるコンクリート柱は3年に1回だ。
トロリ線は、走る電車のパンタグラフが接触することですり減っていく。張り替えは「期間ではなく摩耗量により取り換えを判断している」(JR東日本)といい、摩耗の状態が交換の基準だ。
鉄道関係者によると、トロリ線は路線にもよるが高速で走る新幹線でも一般的に10年程度は使い続けられるという。
今回の現場のトロリ線は約29年前の1997年1月に交換したものだが、「トロリ線は摩耗量で取り換えを判断しているため、摩耗量が少ない場所では長期間使用が可能」(JR東日本)といい、断線した場所は列車の本数が比較的少なく、摩耗量も比較的少ない場所だという。

電車のパンタグラフが接触する「トロリ線」は摩耗の具合に応じて交換する(記者撮影)
人手不足が課題となる中、設備の検査には新たな手法も導入している。
JR東日本は21年以降、架線や線路などの状態を走りながら調べられる電気・軌道総合検測車「East-i(イーストアイ)」によって、トロリ線の摩耗や架線の金具の状態などを確認する「架線設備モニタリング」システムを首都圏以外の在来線約5500kmで採用した。
列車の本数が多い首都圏の路線でも精度の検証を進め、25年10月からは首都圏の約2000kmを含む在来線の全線区に同システムを導入した。駅構内の一部の側線などは従来同様に係員が目視点検するが、JR東日本によると同システムにより、これまで係員が夜間に年1回行っていた検査の回数を、最大で年4回に増やせるという。今回の常磐快速線や25年5月の山手線の架線トラブルがあったのは、新システムの導入以前に点検された場所だ。
また、地方路線ですでに行っている日中時間帯のメンテナンスについて、首都圏でも26年度からの実施に向けて検討している。

架線設備の名称と点検
チェック体制に課題は?
ただ、最終的なチェック体制が機能しなければトラブルは起きてしまう。
25年5月の山手線の架線トラブルは、施工会社による金具の接続不良が原因だったが、施工後の仕上がり確認も不十分だったとされる。JR東日本によると、このような工事の場合は「施工会社が施工後に仕上がり確認を行い、結果を記録」し、「施工終了後に施工会社から提出される記録表にて弊社社員が確認を行う」という。確認で不良が見つかっていればトラブルは未然に防げた可能性が高いだろう。
また、1月16日の山手線・京浜東北線の停電トラブルでは、工事に伴い止めていた架線への送電を再開する際の取り扱いについて、発生当時は現場担当者がチェックするのみで、ダブルチェックするルールになっていなかったという。
検査手法の拡充とともに、チェック体制に問題がないかの再確認も必要だろう。

25年5月の山手線架線トラブルの場所。「補助ちょう架線」と呼ばれる部分が断線した(写真:JR東日本)
トラブルの発生自体もさることながら、利用者にとっての不満の種は長時間の運転見合わせだ。とくに多くの人が不安を抱くのは「満員電車の立ち往生」ではないだろうか。
今回の常磐快速線の停電では、駅と駅の間で立ち往生した4本の列車の乗客避難に約2時間半を要した。ラッシュ時の車内に長時間閉じ込められるのは乗客にとって酷だ。JR東日本は1月16日の山手線・京浜東北線停電を受けた対策として「列車からの速やかな降車誘導の実施等について、引き続きレベルアップを図る」としているが、トラブル発生時は立ち往生した列車から極力早く乗客を降ろすことも、復旧作業を急ぐのと同様に乗客の安全の観点からは重要だろう。
気になるのはワンマン運転列車の場合だ。常磐線も快速は車掌が乗務しているが、各駅停車は25年春からワンマン運転を実施している。同社によると今回の避難誘導は「担当乗務員のほかに、現地に駆け付けた駅社員、設備社員や、車内に乗り合わせたJR社員が協力して実施した」といい、避難誘導に対応するのは乗務員だけではない。
とはいえ、今後ワンマン運転の路線が首都圏でも増える計画の中、万が一の際の避難誘導を迅速に行うための対策や、利用者に不安を与えない説明が求められる。
再発防ぎ信頼回復できるか
架線など鉄道の電気設備はデリケートで、切断トラブルは決して少なくはない。ほかの鉄道各社でも架線の断線事故は起きている。ただ、JR東日本は路線網が広大でメンテナンスが必要な箇所も膨大とはいえ、首都圏の路線で電気系統に関連したトラブルが目立つ。トラブルの内容は異なるものの、長時間の運転見合わせがひと月に続けて2回も起きたのは重大といわざるをえない。

行き交う山手線・京浜東北線の電車。線路上に張り巡らされた架線は電車に電力を供給する重要な設備だ(記者撮影)
国土交通省は2月3日、JR東日本に原因究明と再発防止策の検討を指示した。同社は首都圏の通勤路線だけでなく、25年には東北新幹線と山形新幹線の連結が走行中に外れる事態が2回起こるといったトラブルもあった。発生したトラブルはそれぞれ異なるとはいえ、背景に共通する課題は本当にないのか。同社は経営の最優先事項に「究極の安全」を掲げるだけに、徹底した再発防止策が必要だ。