「共通一次」令和の受験生なら10分で満点取れる訳

共通一次は基礎学力、センターは正確性が問われた, 共通テストでは会話文が登場した, この試験で本当に数学的な能力を測れるか?, 45年前の共通一次試験なら余裕で満点を取れる

今年の受験生が1980年の共通一次試験の数学を解いたとすれば、ものの10分、20分で満点を取ることができるといいます(画像:hanack / PIXTA)

共通一次試験からセンター試験、そして現在の共通テストへ。日本の大学入試におけるマーク式試験の歴史は、そのまま「日本が求める学力=賢さの定義」の変化を反映していると言えるでしょう。

【実際の問題を見る】1979年共通一次試験数学 第5問。問題の設定や計算にひねりはなく、王道の数学の試験という様相でした。それが令和になると…

特に「数学」は、その変化が最も顕著に表れる科目です。マーク式試験の実施母体である大学入試センターは、この40年で数学の出題形式を大きく変えてきました。

「最近の共通テストの数学は、問題文が長すぎて国語の試験みたいだ!」そんな声が受験生から聞こえるようになって、数年が経過しました。親世代が経験した「共通一次試験」や「センター試験」と、現在の受験生が直面する「共通テスト」。これらは名称が違うだけでなく、求められる能力も異なります。

共通一次は基礎学力、センターは正確性が問われた

1979年、国公立大学の選抜方法を均一化するために導入されたのが「大学共通第1次学力試験(共通一次試験)」です。

この試験は、国公立大学で学問を修めるために必要な基礎学力を問う試験でした。問題の設定や計算にひねりはなく、問題文も数式と図形だけでシンプル。順当に解き進めれば順当に答えがでる問題が多い印象で、王道の数学の試験という様相でした。

共通一次は基礎学力、センターは正確性が問われた, 共通テストでは会話文が登場した, この試験で本当に数学的な能力を測れるか?, 45年前の共通一次試験なら余裕で満点を取れる

(画像:1979年共通一次試験数学 第5問)

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1990年、私立大学の参加なども見据え、制度は「大学入試センター試験」へと移行しました。この試験は2020年までの31年間続いたため、この記事を読んでいる世代の方々にも馴染みが深い形式でしょう。

センター試験は、難易度・分量共に厳しさが漸増していく試験でした。

導入当初こそ共通一次試験と同じような内容でしたが、1997年に数学Iが数学I・A、数学IIが数学II・Bへとなったことで分量が一気に増えました。

また、2000年前後になると難易度が上昇してきました。

元々50~65点の平均点を維持していた試験では、1998年の数学II・Bでは平均点が41.4点まで下落し、これ以降、数学II・Bの平均点は45~60点で推移するようになりました。

さらに2010年度に入っても分量の増加と問題の難化は止まらず、2015年数学II・Bの平均点は、歴代最低の39.3点。この頃になると、東大京大レベルの受験生でも問題を解ききることができない場合が増えており、予備校や参考書では「このパターンがきたらこう解く」といった、センター試験のテクニック化・パターン化が進んでいました。

以下は、歴代最低の平均点を叩き出した2015年数学II・Bの試験の一部です。一見するだけでも「解きたくない」と感じるような設定です。実際、全体を通して見ても計算量が膨大な問題が並ぶ年でした。また、内容が連続している構成のため、大問の序盤で間違えるとそれ以降の問題が解けない場合もありました。

共通一次は基礎学力、センターは正確性が問われた, 共通テストでは会話文が登場した, この試験で本当に数学的な能力を測れるか?, 45年前の共通一次試験なら余裕で満点を取れる

(画像:2015年センター試験数学II・B 第3問)

概して、センター試験は「解法をすぐに思いついて、いかに計算ミスなく問題を解き進めるか」が大事な試験であったと言えるでしょう。

共通テストでは会話文が登場した

2021年、現行のマーク式試験である「大学入学共通テスト」が始まりました。この試験は「思考力・判断力・表現力」を問うという名目で始まり、特に数学の試験内容は劇的に変化しました。

最大の変化は、会話文問題が登場したことです。

高校での学習課程で「日常生活と数学の関係」を取り扱う機会が増えたことを受け、「山の高さを見積もる」、「バスケットボールのシュートの軌道を考察する」、「歩行者と自転車の動きを数列で記述する」といった、一見すると数学に見えないような設定から数学的なモデルを構築させる問題が見られるようになりました。

問題用紙のページ数はセンター試験時代からさらに増えており、「国語の試験のようだ」と言わんばかりに文字がびっしりと並んでいます。この大部分は状況説明と会話文であり、設問の意図を理解した上で、「太郎さんと花子さんが何をしようとしているのか」を理解しなければ、問題を解けないようになっています。

共通一次は基礎学力、センターは正確性が問われた, 共通テストでは会話文が登場した, この試験で本当に数学的な能力を測れるか?, 45年前の共通一次試験なら余裕で満点を取れる

2022年共通テスト数学II・B 第4問

共通一次は基礎学力、センターは正確性が問われた, 共通テストでは会話文が登場した, この試験で本当に数学的な能力を測れるか?, 45年前の共通一次試験なら余裕で満点を取れる

(画像:2022年共通テスト数学II・B 第4問)

このように、共通テストでは2ページ読んでようやく問題が始まるケースも珍しくなく、数学の能力に加え、短時間で文章中から必要な情報を抜き出してくる能力が問われていると言えるでしょう。

この試験で本当に数学的な能力を測れるか?

筆者個人としては、この試験問題で数学的な能力を測れているかはいささか疑問であり、受験生に対して要らぬ負担をかけていると感じています。

さらに、共通テストの数学の分量は増え続けていることでも知られています。2022共通テスト数学II・Bは22ページにわたり、これは1979年共通一次の数学II・Bに対応する問題が2ページに収まっていたことを踏まえると単純に10倍以上の分量になっている計算になります。

共通テストは従来試験に比べて試験時間が若干延びてはいるものの分量の増加に比べれば微々たるものであり、包括的に見れば「共通テストは従来試験に比べて難易度が上昇している」ことに違いはありません。

45年前の共通一次試験なら余裕で満点を取れる

しかし、実のところ共通テストの平均点は(2022年を除けば)センター試験のそれとあまり変わりません。難易度が上昇したにもかかわらず平均点があまり変化していないのはなぜでしょうか。

これは、試験への対策が進んだ結果、受験業界全体の環境が煮詰まったことで「受験生のレベルが全体的に上昇しきったため」であると考えられます。

この40年間、受験業界と問題作成者の間で「問題の対策を行う→その対策が通用しない問題を作成する→新しい傾向の問題に対しての対策が行われる」という、いたちごっこが生じたことにより、受験生に負担が集中した結果の入試問題が現在の共通テストであると言えるでしょう。

実際、量と質ともに40年前の受験生と今の受験生では受験そのものに対する負担が大きく異なります。

直近の共通テストでは、新たな科目「情報」が増えただけでなく数学や国語の分量が増えたことによって総試験時間自体が延びています。

さらに、上述のとおり問題の難易度自体も上昇しています。例えば今年の受験生が1980年の共通一次試験の数学を解いたとすれば、ものの10、20分程度で満点を取ることができるでしょう。

元々は「思考力を問う」目的で始まった共通テストですが、実態としては「情報処理能力」が大事な試験内容になっており、数学の能力を測る試験としては目的がズレているように感じます。

文科省が公表する資料では「難問奇問を排除した良質な問題の確保」がなされていると表記がありますが、こと数学において、近年の共通テストは「毎年、目新しい問題を出すことにしている」と言われたほうが受験生は納得しやすいのではないでしょうか。

近年の試験問題は、受験生の努力に乗じて、どんどん高度化・複雑化しているようにも思えます。学生に対して、「義務教育や高校課程のうちに学んでおいてほしいこと」は多岐にわたって存在するわけですが、どれもこれも取り入れるのは現実的ではありません。

科目数や1科目あたりの強度などのどれかを軽量化し、学生への負担が大きくなりすぎない持続可能な教育のあり方を願うばかりです。