修士号、不二家の社外取締役…酒井美紀が子育てしながらチャレンジできた理由とは?「母が学ぶ背中を、子どもは見ている」

俳優として話題作に出演しながら、大学院で国際協力について研究し、2023年に修士号を取得した酒井美紀さん。21年には不二家の社外取締役に就任しています。多忙な日々のなか、子育てと仕事、学びをどのように両立してきたのかを伺いました。※前編<俳優・酒井美紀が語る思春期、高1息子の子育て「親と歩いているのを見られたくない、と思うのも成長の証」>から続く
■「まずは単位だけ取ってみよう」から始まった
――酒井さんが、東洋英和女学院大学大学院の国際協力研究科に入学したのは、2019年。その頃お子さんは小学校高学年だったそうですが、なぜこのタイミングで大学院へ?
実は2007年の時点で一度入学を考えていて、資料も取り寄せていました。国際NGO「ワールド・ビジョン・ジャパン」の親善大使を始めたことで、国際協力について学びたいと思うようになったのがきっかけです。ただ、そのときは仕事が忙しくて断念しました。

それから親善大使として、国際協力の現場で経験を積んできましたが、その間もさまざまな紛争が起き、世界は一向に平和にならないことに疑問を感じる日々。改めて「やはり学びたい」と再び資料を取り寄せたのが、ちょうど10年後の2017年でした。いきなり大学院に進むのはハードルが高く、まずは科目等履修生として学び、単位を取得してみることに。
実際に講義を受け始めたら、とにかくレベルが高くて。最初の講義で「まったくついていけない」とショックを受け、帰りに区の図書館に寄って、借りられる冊数の上限ぎりぎりまで、本を借りたのを覚えています。この調子では、大学院に進むなんて夢のまた夢だなあと思っていました。
――しかし、2019年には正式に大学院に進学しています。
履修生として、他の大学院生と並んで講義を受けるうちに、周りの方から「ここまで学んだのなら、大学院にもおいでよ」と声をかけてもらうようになりました。私が「子どももがまだ小さく、手かかかりますし……」と迷っていたら、お子さんを成人まで育てあげた大学院生の方が「お母さんが勉強している姿を見せてあげればいいのよ」と言ってくださったのです。それで、ひとまずやってみよう、と決心しました。
■家事はできる範囲で「誰がやってもいい」ことに
――当時小学生のお子さんを育てながら大学院に通うことについて、どのようにスケジュールを調整していましたか?
社会人大学院で、夜の時間帯の講義が多かったため、講義のある日は夫に早めに帰宅してもらうようにしました。息子も小学校高学年になっていたので、1~2時間くらいならお留守番もできた。これが低学年だったら、スケジュール調整はかなり難しかったと思います。子どもはあっという間にその生活に慣れて「お母さん、今夜は大学院に行くんだよね?」と当たり前のように受け入れていました。
――ご家族は酒井さんの学びを応援してくれていたのでしょうか?
はい。夫は、私が大学院に進むか迷っていたときも「ここまでやってきたのに、なんで行かないの?」と背中を押してくれました。通い始めてからも、非常に協力的でありがたかったですね。
修士論文を書いているときにはかなり大変で、家事も相当疎かになっていたと思います。でも完璧主義でいてはとても乗り越えられないので、できる範囲でやろうと切り替えました。さらに家族に対しては「これは共同生活。家事は誰がやってもいいんですからね」と話して(笑)。次第に、家のことはみんなで協力してやるもの、という雰囲気になっていったような気がします。

■「机に向かうのが勉強」と決めつけない

――不二家の社外取締役として、会社経営にも携わっています。社外取締役としての仕事というと?
月に一回の取締役会に出席しています。その会に向けて、自分なりに調べたり考えたりする時間がかなり必要です。特に就任当時は、財務関連の書類を読み込んだり、経営に関する知識を身につけたりと必死でした。
――研究にビジネスと、それまで縁遠かった世界にも積極的に飛び込み、学んでおられますよね。学び始めるハードルが高いと感じている人も多いですが、学びの「一歩目」を踏み出すコツはありますか?
たしかに、最初のうちは用語の一つひとつにつまずくことも多く、なかなか学びが進まないこともありますよね。私の場合ですが、学びたいテーマの本やネットの記事など、とにかく「まずは一定の量を読む」と決めて、理解を深めていくことが多いです。すると、最初は別々の点だった知識が、ある日つながることがある。それが面白いんです。
また「机に向かうのが勉強」と決めつけず、あらゆるスキマ時間を活用することもおすすめです。家族が起きてくるまでの早朝の時間、電車での移動時間、半身浴をしながら、など時間を見つけては10分でもいいから読む。特に「次の駅につくまで」というように時間が限られているシチュエーションのほうが、意外と集中できて、インプットもはかどる気がします。
――大人になってからの学びや、異なるフィールドでの挑戦は、子育てにも良い影響を与えたと思いますか?
うーん、まだその結論は出せないですね。将来、息子に聞いてみたいです。「お母さんが、勉強に仕事にといろいろ挑戦していたのを、どう見ていたの?」って。
ただ、親自身が人生を豊かに過ごしていることが、子どもの心の安定や、自信につながるようにも思うんです。親の背中を、子どもは案外見ているものですよね。
タイミングは人それぞれですが、「今だ!」と思ったら、やりたいことに飛び込んでみてもいい。「絶対やりとげなきゃ」なんて気負わず「とりあえずやってから考えよう」くらいで始めても、いいんじゃないでしょうか。
(取材・文/塚田智恵美)
〇酒井美紀(さかい・みき)/俳優。1978年、静岡県生まれ。93年に歌手としてデビューし、95年に出演した映画「Love Letter」「ひめゆりの塔」では、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後、ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍する。国際協力の知見を生かし、2007年より国際協力NGO「ワールド・ビジョン・ジャパン」親善大使を務める。21年に、(株)不二家の社外取締役に就任。
・【前編はこちら】俳優・酒井美紀が語る思春期、高1息子の子育て「親と歩いているのを見られたくない、と思うのも成長の証」
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