幼児から中学受験対策、低年齢入塾の是非と効果

「低学年から通っても意味はない」という意見も, 低学年から入塾した生徒が伸び悩む例も, 「自分の武器を使う方法」を低学年から鍛えていく, 低学年のうちは塾ジプシーしながら「合う塾」を探せる

早期から中学受験対策といっても「ガチ勉強」ではないようだ(写真:Ushico / PIXTA)

中学受験率は高止まりしている。少子化の中で1人にかける教育費が高騰していることも影響しているようだ。その過熱が続く中で、注目されるのは中学受験対策の早期化である。

【写真】四谷大塚の低学年向け教材「ジュニア予習シリーズ」

従来は小学4年生からの塾通いが一般的だったが、ここ数年、低学年から塾通いや通信講座を始めるケースが増えている。一方で、昔から「低学年から通っても意味はない」説も根強くある。

実際にはどうなのだろうか。低学年から中学受験を始めることにはどういった意味があるのだろうか。その答えを探るべく、大手塾で低学年では何をやっているのかを取材してみた。

「低学年から通っても意味はない」という意見も

大手進学塾「栄光ゼミナール」が2025年9月から、新たに幼児から通える中学受験対策の「年長ジュニアコース」を新設したことが話題となった。東京・晴海校や千葉・流山おおたかの森校など教育熱心な地域の校舎に設置。本格的な中学受験対策というよりは、Z会の教材などを使いパズルやカードなどを使用して「無理なく楽しく学ぶ」方針だ。

例えば、算数では数字の書き方やおはじきを使って計算の練習をする。週1回50分で行われ、国語と算数を学ぶ。計算ドリルをどんどんやらせるといった「ガチ勉強」ではないのが特徴だ。

栄光ゼミナールが「年長ジュニアコース」をスタートさせると公表すると、「幼児から中学受験の対策なんて過熱しすぎでは?」という反発の意見もあった。実は以前から「中学受験は低学年からやっても意味がない」という意見もあるのだ。

低学年から入塾した生徒が伸び悩む例も

『中学受験は親が9割』の著者、家庭教師・西村則康さんは自身のブログ、『塾ソムリエ』の21年5月24日配信の記事でこう書いている。

「数年前から低学年の募集に本格的に力を入れ始めたグノーブルやサピックスですが、当時一斉入室した生徒たちの最終的な合格実績は芳しくないものでした」

この記事の内容と整合性がある話を大手塾の社員からも聞いている。つまり、低学年から入塾しても合格実績に結びつかないというわけだ。早くから始めても小学4年から塾に入ってくる「中学受験の勉強に向いている子」に追い抜かれてしまうことも多々あるのだ。

そのため、大手塾の中には低学年での募集を絞っていたケースもあった。小学4年から「中学受験に向いている子」を受け入れるために枠を残しておくためだ。実際、開成や聖光に合格した生徒たちも、小学4年で入塾して最初は下位のクラスのスタートだったという話は実に多い。

ある生徒は週1でそろばん教室に通っていた経験しかなく、中学受験塾の入塾テストには苦戦し、一番下のクラスでのスタートだった。母親に「宿題を終えたらゲームをやらせてあげる」と言われ、ゲーム目当てに宿題をやっていたら、1年後には最上位クラスに上がって、塾からは「御三家を狙えますよ」と言われた。

中学受験では論理的な思考力を求められる。「たまたま小学生の段階で論理的な思考力を持っていた」というケースもあろう。開成や桜蔭などの最難関校の合格者には公文式の猛者も多いが、公文式で計算を仕上げていたことは武器の1つにすぎず、それ以前に論理的な思考力を持っていたから受験で成功したのだ。

こういった事情があるため、低学年からの対策は意味がないという意見がいまだにあるのだ。

一方で、中学受験対策の先取りを低学年からする塾が結果を出し、注目もされている。それを聞くと「低学年から対策をするべきでは」とも思えてくる。

この「低学年から中学受験の対策をすべきか。やるとしたら何をすべきか」問題。多くの保護者が気になっているはずだ。その答えを知るべく、低学年の通信講座「リトルくらぶ」が人気を集めている四谷大塚を取材した。校舎では「リトルくらぶ」と同じ教材で、「リトルスクール」というコースで低学年の指導をしている。

「自分の武器を使う方法」を低学年から鍛えていく

四谷大塚の市ヶ谷校舎で「低学年指導(リトルスクール)」を受け持つ講師の藤原理恵さんはこう話す。

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藤原理恵(ふじわら りえ)四谷大塚市ヶ谷校舎 講師(写真:四谷大塚提供)

「低学年指導(リトルスクール)に通っている生徒のご家庭のすべてが中学受験をさせる意向ではないです。基礎学力をつけるために通わせているというケースも増えています」

今、公立小学校での学力低下が問題になっている。ほぼ宿題を出さない小学校もある。そういう中で基礎学力や学習習慣をつけるために塾に通わせようという家庭が増えているのだ。これは市ヶ谷界隈に限ったことではない。郊外の塾を取材しても同じような話を聞く。低学年からの塾通いへの反発の声にはこう答える。

「低学年から塾通いをすると息切れしてしまうというご意見もあります。ただ、小学4年生から始めても息切れする生徒はいます。息切れするかしないかは学び方の問題だと思います」(藤原さん)

大手中学受験塾の小学1年や2年クラスでは、基本、中学受験の先取り学習をすることはない。小学1年や2年でそれをさせるのはハードルが高すぎるからだ。

「低学年では“中学受験の先取り”ではなく、今持っている自分の武器を使ってどう戦えるかを鍛えていきます。例えば、算数であれば足し算・引き算ができるようになった段階で、目の前の問題に対し、足し算と引き算を駆使してどう解けるかを考えることを身に付けてもらいます」(藤原さん)

小学1年の国語では「問題文はすべてひらがな」で「この文章の中に登場する動物の名前を描き出しなさい」といった“文章を読む”訓練をさせている。この場合、生徒は「ひらがなを読める」という武器を使って、問題を解こうとしていく。また、「紙で作った立方体をハサミで切って分解し、見て触って理解」する算数授業など、目で見て触って理解をしていくことも重視している。

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四谷大塚の低学年向け教材「ジュニア予習シリーズ」。写真は1年生の国語(左)、算数(右)の例(写真:四谷大塚提供)

「中学受験対策の先取りをしない」と言いつつも、教材の内容は四谷大塚らしく難易度がそれなりに高い。小学3年からは「中学受験対策」へとシフトし、小学4年以降は中学の内容を易しくした内容を扱っていく。

低学年のうちは塾ジプシーしながら「合う塾」を探せる

「低学年から始めるメリットの1つは、自分に合う塾・教材をじっくり見定められることです。中学受験を目標にする場合、小学4年以降に何回も転塾するのはお薦めできませんが、低学年ならばいくつか試してみることもできます」(藤原さん)

中学受験の対策は小学4年から本格的に始まっていく。転塾を繰り返す、いわゆる「塾ジプシー」を小学4年以降で行うと、各塾の進度が違うので、転塾のたびにカリキュラムの調整をする必要があるので、学習の効率が下がりがちだ。一度ならいいが複数回、転塾をするのは効率の面で推奨できない。

本格的な対策のカリキュラムが始まる前の低学年で「子どもや家庭に合う塾」を模索するのは1つの作戦だ。

ある保護者は小学校で宿題がまったく出ないので、子どもを公文式に入れた。しかし、合わなかったようで、宿題をやらなくなってしまった。そこで試しに「リトルくらぶ」に切り替えると子どもは自主的に取り組むようになったが、保護者は通信講座の管理が面倒くさくなって、「学童代わりにもなるから塾に入れよう」と思い立ち、近所の大手塾の校舎に入塾させた。

すると、子どもが「今の塾の問題は簡単すぎてつまらない。リトルくらぶのほうが面白かった」と言い出す。四谷大塚の校舎は遠いので、小学校の友達が通っている難関対策の塾の講習に通わせた。すると本人が「ここがいい」と言うので、そこに切り替え、うまくいっていると言う。

低学年が通う塾や通信講座もさまざまだ。公文式、花まる学習会、中学受験塾の低学年コースに、中学受験の先取り塾。通信講座も各種そろっている。

どこも教材の難易度も、内容も違う。公文式は黙々とドリルを解いていく能力が求められるし、花まる学習会は次々に違う内容に取り組むから飽きずに学習ができるよう工夫されている。中学受験塾の低学年向けの内容も各塾で違っている。難易度が高いところもあれば、易しい問題が中心の塾もある。

早くから塾に通っても中学受験で難関校に合格するとは限らない。ただ、低学年から勉強を始めることには意義がありそうだ。

公立小学校で基礎学力が身に付けられるのか不安に思う保護者が増えており、低学年から何かしらのアクションを起こさなければならないと考える家庭が出てきている。多種多彩な塾や通信講座の中から子どもに合ったものを見つけていきたいものだ。