「優しさか、単なる混雑対策か」京王2000系、5号車の座席をあえて半分撤去した理由とは?

1両の約半分は座席なし

 京王電鉄は2026年1月31日、新型車両「2000系」の営業運転を開始した。編成は10両固定で、2027年3月までに4編成、計40両を順次投入する計画だ。営業開始に先立ち、1月17日には若葉台車両基地(東京都稲城市)で報道向けの車両公開を行い、京王相模原線の若葉台~橋本間で試乗会を実施した。さらに24日には、一般利用者向けの撮影会と試乗会も開催し、新型車両の認知拡大を図った。最大の特徴は、大型フリースペース「ひだまりスペース」の新設にある。

【画像】「えぇぇぇ!」 これが京王電鉄の「ひだまりスペース」です!(8枚)

 ひだまりスペースは10両編成のうち5号車の約半分で座席を撤去し、中央の衝立に腰当てや握り棒を多く配置することで、車いすやベビーカー利用者が使いやすい空間とした。あわせて、子どもが外の景色を見やすい大型窓を設け、スペース内には通常の優先席も配置している。

 床面の配色を変えることで、乗車時に一目で「ひだまりスペース」と認識できるよう工夫した。始発駅の京王八王子駅と橋本駅ではホーム床に案内表示を設置し、その他の駅にも順次展開する予定だ。

 さらに、同社は「京王アプリ」に新たに「車種表示モード」を追加した。利用者はアプリ上で2000系の走行位置を確認でき、目的の車両を選んで乗車しやすくなる。

通勤客の先細りと新規需要の掘り起こし

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京王電鉄の新型車両「2000系」の大型窓(画像:菅原康晴)

 同社が公式サイトで公表している2015(平成27)年度以降の年度別輸送人員の推移を見ると、ピークは2018年度の6億7800万人で、内訳は定期4億300万人、定期外2億6800万人だった。

 2019年度にやや減少し、2020年度はコロナ禍の影響で4億5100万人(定期2億7000万人、定期外1億8100万人)まで落ち込んだ。その後は回復基調にあるものの、2024年度は5億9,300万人(定期3億2800万人、定期外2億6500万人)にとどまり、2018年度比で87%の水準にある。

 一方、旅客運輸収入は2017年度の825億円がピークで、2024年度は814億円(1.3%減)となった。この間、28年ぶりに運賃を引き上げたこともあり、収入ベースではコロナ禍前の水準にほぼ並び、ピーク比99%まで回復している。利用者数は戻らない一方、単価で補っている構図だ。

 同社を含む大手私鉄はこれまで、郊外から都心へ向かう通勤輸送を主な収益源としてきた。多くのローカル線が人口減少やモータリゼーションの影響で低迷するなか、大都市圏では通勤人口が増え続け、鉄道事業は長らく安定収益が見込めるビジネスとされてきた。しかし足元では、

・団塊世代の大量退職による通勤需要の縮小

・コロナ禍を機に定着したリモートワークの影響

もあり、中長期的な利用者減少が現実味を帯びている。従来の通勤依存モデルは転換を迫られている。

 こうした環境下で同社が新型車両「2000系」に設けたひだまりスペースは、車いすやベビーカー利用者など、これまで鉄道利用にハードルを感じていた層の取り込みを狙った施策といえる。同時に、

「沿線への子育て世帯の呼び込み」

という側面もある。ベビーカーの利用者はやがて通学客となり、将来の通勤客へとつながるためだ。

先行する西武鉄道との共通点と相違点

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京都市営地下鉄の「おもいやりエリア」(画像:写真AC)

 こうした大型フリースペースの導入は、同社に限った取り組みではない。西武鉄道が2017年に運行を開始した「40000系」の「パートナーゾーン」や、京都市営地下鉄が2022年に導入した「20系」の「おもいやりエリア」など、同様の設計はすでに各社で採用されている。

 筆者(菅原康晴、フリーライター)が1月17日の報道向け試乗会に参加して「ひだまりスペース」を確認した際、強く感じたのは、西武鉄道の「パートナーゾーン」を意識した設計であるという点だった。座席を撤去し、中央に衝立を設け、大型窓を配置するという基本構造は、両者でほぼ共通している。

 もっとも、細部には違いがある。パートナーゾーンでは衝立の一部に浅く腰掛けられる簡易的な腰掛けを設けているが、ひだまりスペースは腰当てのみで、着席は想定していない。

 設置位置にも差がある。パートナーゾーンは池袋・西武新宿方面の先頭車両に配置されている。両駅はいずれも行き止まり式のターミナルで、先頭車両は主要改札に近く混雑しやすい。そのため、座席を減らした空間は混雑緩和の役割も担っている。一方、「ひだまりスペース」は停車駅ホームのエレベーターに近い5号車に設けられており、利用のしやすさを優先した配置となっている。

事前案内の強化が必須となる着席不能車両

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西武鉄道「40000系」車両に設置された「パートナーゾーン」(画像:西武鉄道)

 ひだまりスペースに代表される大型フリースペースは、基本的に車いすやベビーカー利用者への配慮を目的とした設備である。

 ただし、これらの車両は平日と土休日で運用が変わる場合はあるものの、ラッシュ時であっても通常の列車として運行される。結果として、西武鉄道のパートナーゾーンと同様、本来のバリアフリー対応に加え、

「混雑緩和策の一部」

として機能しているのが実情だ。

 座席を撤去し、立ち客を前提とする車両をめぐっては、以前から評価が分かれてきた。かつてJR山手線が混雑対策として6扉車を導入し、ラッシュ時に座席を畳んで立席化した際には、

「乗客を荷物のように扱っている」

との批判が出た経緯がある。

 この6扉車はすでに廃止されたが、たとえ混雑時でも「立たせる」ことを前提とする設計には、現在でもサービス水準の低下と受け止める声がある。座るつもりでホームに並んでいた乗客にとって、目の前に座席のないフリースペースが来れば、戸惑いを覚えるのは自然な反応だ。

 もっとも、着席を前提としない空間には別の側面もある。限られた区画とはいえ、全員が立席となることで、無言のうちに生じがちな座席の奪い合いが起きにくくなり、車内の緊張感が和らぐという効果も考えられる。

 こうした副次的な影響の評価は分かれるにせよ、大型フリースペースを必要とする利用者が一定数いる以上、駅ホームやアプリで時刻や乗車位置を事前に知らせる仕組みの整備は欠かせない。