高市旋風を加速させた切り抜き職人が明かす支持者たちへの感情 コメント欄は掃きだめと切り捨てる理由とは?

 衆院選が投開票された2月8日夜、参政党の神谷宗幣代表はSNSでの支持拡大について「いろんな要因で広がらなかった」と述べたうえで、「人気があるということで、皆さんが高市さんの(切り抜き)動画をたくさん作っていたところもあった」と指摘した。野党党首が選挙戦への影響を指摘するほど、YouTubeでは高市早苗首相(自民党総裁)にまつわる動画が拡散され“高市旋風”が巻き起こっていた。一役買った“切り抜き職人”たちは、どのような思いで動画を投稿し、自身の動画が視聴者へ与える影響についてどう感じているのか。政治系チャンネルを運営する20代男性に話を聞いた。

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 男性は昨年6月、切り抜き職人として活動を始めた。きっかけは特になく、「暇つぶしになってお金も稼げればいいかなという浅はかな考え」だったという。政治への関心は人並みだが、政治ジャンルの動画が人気を集めている様子を見て、勝機があると踏んだ。

 投稿を始めて8カ月がたった今、男性のYouTubeチャンネルには約350本のショート動画が並ぶ。取り上げられているのは日本保守党、高市首相、保守系論客の竹田恒泰氏……大半は、いわゆる“右寄り”の内容だ。男性自身の政治的スタンスは「どちらかといえば保守寄り」という程度だが、「保守層向けコンテンツの需要は圧倒的なので、再生数を伸ばすためだと思って動画を作っています」と割り切っている。

■収益化を断念しても投稿を続けるわけ

 動画のネタはXで探す。男性の肌感覚として、Xでバズっているものの6~7割はYouTubeでもバズるからだ。国会論戦や演説シーンなどXで見つけた動画素材をダウンロードし、キャッチーなテロップをつけて編集し、YouTubeに投稿する。切り抜き動画1本あたりの制作時間はわずか20~30分。多い時は1日に5、6本の動画をアップしていた時期もあり、動画投稿は生活の一部となっているという。

 男性は日中、放射線技師として働いている。職場は副業が推奨されておらず、YouTubeの収益化はいったん断念した。それでも動画の再生数やチャンネルの登録者数が増えていくのが楽しく、切り抜き職人を続けている。自身が作った動画が、さらに別の切り抜き職人によって再編集されて拡散されるという、予想外の広がりも生まれている。

 SNSやYouTubeで拡散された切り抜き動画は、今回の衆院選で巻き起こった“高市旋風”を加速させた可能性もある。男性のチャンネルを見ると、高市首相に関する数々の動画が高い再生数をたたき出し、数百万回再生されているものもざらにある。

「強いリーダーが求められている今の時代、分かりやすく簡潔な言葉で人々を引っ張る高市さんが人気を集めるのは納得します。しかも高市さんの場合、突然関西弁で話し出すなど愛嬌(あいきょう)や親しみやすさを見せることがあり、キャッチーなので切り抜き動画にしやすい。首相の人柄に注目する動画が大量に作られ、多くの人に見られる状況は、石破茂前首相や岸田文雄元首相のときにはなかった現象だと思います」

■蓮舫氏バッシングは「ちょっとかわいそうだった」

 たしかに男性のチャンネルでも、高市首相が同僚の自民党議員と楽しそうに雑談を繰り広げたり、昨年11月の「秋の叙勲」で夫の山本拓氏に笑顔で勲記を手渡したりといった“ほっこり動画”が再生数を伸ばしている。今年の「新年祝賀の儀」での高市首相と蓮舫参院議員それぞれのお辞儀を比較し、高市首相のほうが「腰が低い」と紹介した動画のコメント欄には、「人格の差」「蓮舫と比べること自体高市首相に失礼」などと高市首相への称賛と蓮舫氏へのバッシングがあふれた。なお、男性自身には蓮舫氏への否定的な感情はなく、「(蓮舫氏が)ちょっとかわいそうだった」と振り返る。

 高市首相にまつわる動画は、中国への強気な発言など保守色を打ち出した内容も鉄板コンテンツだ。そうした動画のコメント欄には、高市首相に傾倒し、他国を敵視するコメントが大量に寄せられるが、男性はその状況を冷ややかに見つめる。

「高市さんは善で中国は悪と決めてしまえば、あれこれ考える必要がなくて楽なのは間違いない。敵とみなしたものを攻撃して、日ごろの鬱憤(うっぷん)を晴らしたいのでしょう。正直、動画のコメント欄で鬱憤を晴らしてもしょうがないのに……と思いますが、場を提供していることへの責任は特に感じないですね。ほかの政治系チャンネルだって、コメント欄はたいてい“掃きだめ”状態なので」

 自身の動画が視聴者の投票行動に影響を及ぼしている可能性について聞くと、「もともと保守的な考えや高市首相の人柄に好感を抱いている人が、僕の動画にたどりついただけでは?」とあまり実感はないようだ。

■オールドメディアには“大人の事情”がある?

 動画のコメント欄には、新聞やテレビといった“オールドメディア”を攻撃する声も数多く目につく。前述した「秋の叙勲」の動画はテレビの報道番組を切り抜いたものに見えるが、それにもかかわらず、「こんな素晴らしい瞬間をテレビが報じないとか頭おかし過ぎ」「報道しない自由があまりにも偏りすぎている!!」といったコメントが相次いでいた。男性自身も「オールドメディアが意地でも使わない映像」と題した動画を投稿しているが、「家にテレビがないし、本当に放送されていないかどうかは分からない」という。

 世間に蔓延するマスコミ不信の背景について、男性はこう話す。

「多くの記者を使って裏取り取材をしているマスコミのほうが、個人で活動している我々よりも情報の正確性は絶対に高い。一方で、記者クラブのような既存のネットワークによって重要な情報を独占している状況でもありますよね。いわゆる“大人の事情”によって、報じる報じないを決めていると疑われても仕方ない気もします」

 人々の共感や好奇心をくすぐる動画が氾濫するYouTubeの世界。バズリこそ正義という価値観のもと、消費されるコンテンツの流行り廃りはあまりに激しい。男性は、現状の“高市旋風”もいずれ凪ぐだろうとみている。

「政権運営の都合上、高市さんが保守的な姿勢を押し通せず妥協する場面が積み重なれば、人気は下火になっていくのかなと」

 次に礼賛すべきスターは、たたくべき敵は、誰なのか。多くの人がスマホ画面の前でじっと目をこらしている。

(AERA編集部・大谷百合絵)

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