高梨沙羅「五輪で銅メダル」も見た目が話題なぜ

現地時間2月10日、開催中の「ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック」で銅メダルを獲得した、日本のスキージャンプ混合団体。エースの高梨沙羅選手(29歳)は涙を浮かべながら、こう語った。

【写真】「自宅までセンスいい」ファンが絶賛、高梨選手が公開した《豪華すぎる部屋の中》

「人生で取ったメダルで一番嬉しい」

4年前の北京五輪。同じ混合団体で、スーツ規定違反により失格となった悪夢のリベンジ。「一歩も外に出られないほど」のショックから立ち直り、掴んだメダルだった。

美容研究家「高梨選手の変化はメイク効果」

しかし、その喜びの裏で、SNS上では別の"戦い"が続いていた。

「高梨沙羅って10代の頃と顔がまったく違う」

「競技より美容に力を入れてる」

メダル獲得を伝えるニュースサイトや、SNSには、そんな書き込みがあふれているのだ。特に、15日にジャンプ女子個人ラージヒルで16位という結果に終わると、先のメダル獲得の喜びすら、容姿への攻撃にかき消されそうになっていた。

なぜアスリートは、競技成績と無関係な「見た目」で一方的に評価され続けるのか。そしてなぜ、この攻撃は止まらないのか。

日本オリンピック委員会(JOC)は、本大会で初めて「誹謗中傷を監視する事務局」を設置。日本国内とミラノの2拠点で24時間態勢の監視体制を敷いた。それでも、高梨選手への書き込みは止まらなかった。

「高梨沙羅選手の変化は、メイク技術の向上によるものだと思います」

こう指摘するのは、美容研究家の上村富美江氏だ。上村氏は筆者との共同研究で「錯覚メイク法」を開発し、骨格はそのままに視覚的印象を劇的に変える技術を実証してきた(※1)。

高梨選手の変化を時系列で見ると、その軌跡は明確だ。

10代の頃、彼女はほぼノーメイクで試合に臨んでいた。素朴で、あどけない印象。それが20歳頃、資生堂とスポンサー契約を結んだ頃から、徐々にメイクをするようになった。

本人も「20歳頃から化粧をするようになった」「メイクで全然違う顔になれるんだっていうのが面白くて」と語っている。

そして現在の20代後半。プロ級のメイク技術を習得し、洗練された印象へと変化した。

「目元の強調、眉の形、チークの位置。これらの技術で『別人のように見える』ことは十分に可能です」と上村氏は説明する。

プロのメイクは「31ポイントの差が出る」

では、メイクで人はどこまで変われるのか。

先行研究によれば、メイクの効果は素人とプロでは以下の通りに差が出る(※2)。

自己流メイク: 魅力が2%向上

プロのメイク: 魅力が33%向上

その差はなんと31ポイントだ。多くの人は自己流メイクしか経験がない。だから「プロの技術でどこまで変われるか」を知らない。それゆえ「あんなに変わるのは整形だ」と思い込む。

筆者と上村氏との共同研究による「錯覚メイク」では、実際に約3割の魅力向上効果が確認されている。この技術は、主に下記のような視覚錯視の原理を応用したものだ(※3)。

デルブーフ錯視、ミュラー・リヤー錯視:目を大きく見せる

バイカラー錯視:鼻筋を高く見せる

エコー錯視:顔の輪郭を整える

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「錯視効果」をメイクに応用すると、まるで顔の形が変わったかのように変身することも可能だ(筆者作成)

YouTubeやTikTokなどで「整形メイク」と称して、別人級の顔や、有名人に寄せた顔に変身するインフルエンサーがいるが、錯視効果を用いればそういったことは十分に可能なのだ。

資生堂とスポンサー契約を結んでいる高梨選手は、長年プロのメイク術・指導を受けてきた。彼女の変化も、こうした科学的メイク技術の成果だと思われる。

しかし、メイクの効果を科学的に説明しても、誹謗中傷は止まらないだろう。

高梨選手への容姿攻撃は、10代から始まっていた。

ワールドカップで圧倒的な強さを見せ始めた10代の頃、ネット上では容姿をジャッジするようなコメントが飛び交った。

まだ多感な10代の少女が、自分の名前を検索したとき、容姿に関する大量の書き込みを目にしたらどう思うだろうか。競技の実力とはまったく関係のない部分で、人格を否定されるような攻撃。これが彼女の心に深いトラウマを残している可能性は高い。

そして、彼女が「綺麗になろう」と努力を始めると、今度は「整形疑惑」という新たな攻撃が始まった。

変わらなければ容姿を揶揄される。変われば「整形だ」と疑われる。どちらを選んでも攻撃される。これが女性アスリートの現実だ。

脳は「見た目」を0.1秒で評価する

重要なのは、攻撃する側の目的は「真実の追求」ではない、ということだ。

仮に高梨選手が「整形していません」と否定しても、「嘘だ」「隠している」と攻撃は続く。過去には、ある美容外科医がSNSで高梨選手だと匂わせるような形で「患者」だと投稿し炎上、その後削除するという騒動もあった。しかしその真偽は不明のまま拡散されている。

彼らの目的は「有名人を貶めること」そのものだからだ。

なぜ人は「見た目」にこれほど過剰反応するのか?

脳科学の研究によれば、人間の脳は0.1秒で第一印象を形成する(※4)。

わずか0.1秒見ただけで、人は相手の信頼性、有能性、親しみやすさを自動的に判断してしまう。そして一度形成された第一印象は、なかなか変わらない。

つまり、人間の脳は「見た目」から瞬時に人格を推測するようにできている。これは進化の過程で獲得した能力だが、現代社会では「外見=内面」という誤った思い込みを生む。

「見た目が変わった=内面も変わった」という短絡的な判断が、誹謗中傷を加速させる。

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メイクだけでなく身にまとうファッションも「カッコいい!」と注目されている高梨選手(画像:本人の公式Instagram @sara.takanashiより)

この「0.1秒の判断」は、ビジネスの世界でも作用する。就職面接、営業、プレゼンテーション――すべてで第一印象が結果を左右する。

だからこそ、プロのメイク技術や外見マネジメントが重要になる。ただし、それを「欺瞞」として攻撃するのは、科学的理解の欠如だ。

SNS時代が加速させる「ルッキズムの暴走」

アスリートへのルッキズムは、日本だけの問題ではない。

2024年パリ五輪では、国際オリンピック委員会(IOC)のAI監視システムが8500件超の誹謗中傷を検知した。ボクシング女子のイマネ・ケリフ選手(アルジェリア)は性別に関する攻撃を受け、訴訟を起こしている。

なぜ止まらないのか?

SNS上で誹謗中傷が止まらない理由は、以下の4つだ。

1. 匿名性の壁:発信者特定の困難さ

2. 承認欲求:「いいね」がエスカレートを助長

3. 集団極性化:SNSでの過激化現象

4. モラルの麻痺:画面越しの非人間化

研究によれば、SNS上での道徳的怒りは、対面よりも過激化しやすい(※5)。匿名性と拡散のスピードが、攻撃性を増幅させる。

現在、対策としては下記のようなことが行われているが、それにも限界がある。

・AI監視:検知はできても削除までタイムラグ

・法的措置:時間とコストがかかる(22年に刑法の侮辱罪が厳罰化も効果は限定的)

・声明発表:抑止効果は限定的

技術的対策だけでは不十分だ。私たち1人ひとりの意識変革が求められている。

高梨選手は、北京五輪の混合団体でスーツ規定違反により失格となった後、「一歩も外に出られないほど」のショックを受けた。引退も考えたという。

4年後の本大会では銅メダルを獲得したが、個人戦では表彰台に立つことは叶わず、「メダルを取れる実力ではないのはわかっている」と複雑な心境を吐露した。

誹謗中傷は、アスリートの競技パフォーマンスに直結する。実力が拮抗している選手同士では、メンタルが勝敗を決める。誹謗中傷が「競技外で勝敗を握るツール」と化している。

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SNSでおしゃれな自宅を公開した高梨選手。「部屋のセンスもいい」と絶賛のコメントが寄せられた(画像:本人の公式Instagram @sara.takanashiより)

女性アスリート特有の問題

女性アスリートは、「美しさ」と「強さ」の両立を求められているのが現状だ。メディアの「美人アスリート」報道や選手の性的撮影被害など、見た目への過剰な反応が競技そのものを歪めている。

「見た目」は確かに重要である。先述したように、第一印象は0.1秒で決まり、人生を左右するからだ。だからこそ科学的に理解し、適切に活用すべきだ。プロのメイク技術で約3割の魅力向上が可能なら、それは立派な「戦略」である。

しかし、他者の外見を一方的に評価し、攻撃する権利は、誰にもない。高梨選手は整形したのか? その答えは、本人以外にはわからない。そして、どちらでも他人には関係のないことだし、本人の自由だ。

オリンピックのために彼らが努力してきた4年間に「見た目」は関係ない。求められているのは、多様性を認め、実力を正当に評価する社会だ。画面の向こうに生身の人間がいることを忘れるべきではないだろう。

参考文献

1. 宮本文幸 (2025)『見た目の戦略vol.1: 人生を変える30の事実と対策』. Amazon KDP.

2. Jones, A. L. & R. S. S. Kramer (2015) Facial cosmetics have little effect on attractiveness judgments compared with identity, Perception, 44, 79-86.

Jones, A. L. & R. S. S. Kramer (2016) Facial cosmetics and attractiveness: Comparing the effect sizes of professionally-applied cosmetics and identity, PLoS ONE, 11(10), e0164218.

3. 森川和則(2012)「顔と身体に関連する形状と大きさの錯覚研究の新展開」『心理学評論』55(3),348-361.

4. Todorov, A., Olivola, C. Y., Dotsch, R., & Mende-Siedlecki, P (2015) Social attributions from faces: Determinants, consequences, accuracy, and functional significance, Annual Review of Psychology, 66,519-545.

5. Crockett, M. J. (2017). Moral outrage in the digital age. Nature Human Behaviour, 1(11), 769-771.