「幻の麻生議長説」に透ける"高市一強"の危うさ

第2次内閣の発足を受けて記者会見に臨む高市首相。衆院では圧倒的な議席数を獲得したが、政権運営に油断はないのか(写真:ブルームバーグ)
衆議院選挙での自民党の歴史的圧勝を受けて、第2次高市内閣が2月18日夜に発足した。「高市人気」によって自民党が衆院の総議席数の3分の2を超える316議席を獲得したことで、高市早苗首相は「まさに向かうところ敵なしの“超一強”」(自民党長老)となった。それゆえ首相自身も、憲法改正を含めて「国論を二分する課題に果敢に挑む」と、今後の政権運営への自信と意欲をにじませる。
【写真あり】今後も高市政権の命運を握る? 首相指名で高市氏に投票した3人の無所属参院議員の顔ぶれ
衆参両院での首相指名を受け、高市首相は「内閣の継続性」から全閣僚を再任。その一方で、会期150日間の特別国会の運営を取り仕切る議院運営委員会と国会対策委員会の両委員長をはじめとする主要常任委員長人事を見ると、側近や親高市派の起用が目立つ。そうした人事をめぐる党内の不満・反発も少なくない。
とくに、今回の衆院選の“司令塔”でもあった首相最側近の古屋圭司選対委員長を衆院憲法審査会の会長に起用したのは、「在任中に憲法改正に挑む考えを明確にした人事」(政治ジャーナリスト)と受け止められている。
加えて、古屋氏の後任に「旧安倍派5人衆」の1人だった西村康稔元経済産業相を起用することについては、「いわゆる『裏金問題』の中心人物を表舞台に復帰させることで、『政治とカネ』批判の風化を狙った」(自民党長老)との見方が広がる。
「一強」に垣間見える不安の数々
高市首相は18日夜の第2次高市内閣発足後の記者会見で「(衆院選の大勝をもって)白紙委任状を得たという方もいるが、そのようなつもりはまったくない」と強調した。しかし、記者団との質疑の中で、まさに国論を二分する政治課題とされる憲法と皇室典範の改正について「挑戦し続ける」と言明した辺りは「一強独裁の本音」(同)と受け止められている。
こうした一連の動きの中で永田町関係者が注目していたのは、今も少数与党の状態が続いている参院での首相指名選挙だった。
衆院では、自民党と日本維新の会に加えて無所属の2議員が高市氏に投票したことで計354票という超多数になった。その一方で、参院の1回目投票では自民、維新に加えて、無所属の齊藤健一郎氏、平山佐知子氏、望月良男氏が高市氏に投票したものの、合計123票で過半数とはならず、決選投票で日本保守党の2人も加わったことで、何とか過半数ギリギリの125票となった。

首相指名で高市氏に投票した3人の無所属参院議員。(左から)齊藤健一郎氏、平山佐知子氏、望月良男氏(写真:時事)
この結果について、自民党内では「今後の国会運営を見据えると、与党が衆院の3分の2超なので何でもできそうに見えるが、参院での与党少数が解消されなければ、重要法案の審議では参院が“壁”になる」(参院自民党国対幹部)との懸念も広がる。
不安の芽はこれだけではない。
高市首相は18日夜の会見で、改めて「新年度予算の年度内成立を目指す」と強調した。自民党内にも予算の早期の成立は難しいという見方が広がる中、高市首相は新年度予算案をめぐり、「国民生活を最優先とする立場から、野党にも協力を呼びかけ、年度内の成立を目指す」と野党側に“圧力”をかけた形だ。
ただ、こうした高市首相の強気の言動について、参院自民党は「そもそも参院は、与野党そろって『参院の独立』を重視しており、圧力をかければかけるほど事態がこじれる」(国対幹部)との不安を隠さない。
もちろん、「国民民主党や参政党など、高市政権と気脈を通じる政党が協力すれば問題ない」(衆院自民党国対幹部)のは事実だが、「参院での首相指名選挙の結果を見る限り、自民党も強硬な対応はしにくい」(政治ジャーナリスト)ことになる。
幻の「麻生議長説」でくすぶる党内の火種
さらに政界関係者が関心を寄せているのは、衆院の議長人事をめぐる高市首相の水面下での動きだった。
結果的には議長に自民党の森英介氏、副議長に中道改革連合で旧公明党の石井啓一氏が就任したが、この正副議長人事についても「官邸サイドの意向で一時、麻生副総裁の議長就任が取り沙汰された」(自民党国対幹部)との臆測が飛び交った。
最終的に「麻生氏が固辞したため、幻に終わった」(同)とされるが、与党内からは「露骨な麻生外しに見える」(自民党長老)との声も出た。「官邸と自民党の激しい主導権争いの勃発」(政治ジャーナリスト)と見る向きもある。
高市首相に近い政界関係者によると、「高市首相は衆院選後の早い時点で、麻生氏に衆院議長就任を打診した。しかし、麻生氏は自身が首相経験者であり、三権分立の観点から『任にあらず』と断った」とされる。

衆院議長就任を断ったと噂される麻生太郎氏(写真:ブルームバーグ)
そもそも高市首相は表向き、「安定的な皇位継承に向けた皇族数確保策をめぐる皇室典範改正問題などで麻生氏の手腕を期待していた」(官邸筋)という。しかし、高市首相の“真意”としては「体よく麻生氏を中枢から外そうとしたのではないか」(自民党長老)との見方も広がる。
もともと高市首相が“悲願”とする消費税減税についても、長く財務相を務めた麻生氏は慎重派とみられている。自民党内でも「高市さんからすれば、麻生さんは目の上のたんこぶだったのだろう」(同)と揶揄する声も漏れてくる。
長期政権には“慎重姿勢”の維持がカギに
今回の衆院選において自らの人気で自民党を戦後最多議席に導いた高市首相にとって、2027年9月の総裁任期満了に伴う総裁選で無投票再選を実現できれば、5年の長期政権につながる可能性が高い。だからこそ、高市首相は「とにかく今年いくつの公約を実現できるか、来年いくつの公約を実現できるかにすべてが懸かっていると意気込んでいる」(周辺)のだ。
しかし、政界関係者の間では「“麻生外し”の臆測が広がったことや、常任委員長人事での高市首相サイドの“介入”が噂されたこと自体が、挙党体制のほころびにつながりかねない」(自民党長老)との声は少なくない。
高市首相が記者会見で力説した「白紙委任状を得たというようなつもりはまったくない」という“慎重姿勢”を維持できなければ、「党内にたまった“高市嫌い”のマグマが、いずれ爆発することにもつながる」(同)ことも否定できない。