「友人がオーバードーズで亡くなった」ホリエモンが危惧する「薬の多量摂取による弊害」の大問題

写真提供:メディカルレビュー社

高血圧、糖尿病、関節痛……年齢とともに増えていく不調に合わせて、薬の数も増えていく。だが、その薬が新たな不調を生んでいるとしたらどうだろう。「投資」の一環として予防医療を推奨する堀江貴文氏が注目するのが、見過ごされがちな医療リスク「ポリファーマシー」だ。専門医の知見も踏まえて、その実態を読み解く。※本稿は、『予防医療How Much? 病気のリスクをお金の価値で考えてみた』(堀江貴文/著、メディカルレビュー社)の一部を抜粋・編集したものです。

体の不調を改善する治療薬も

服用しすぎれば新たな不調に

 冒頭からこんな話題で恐縮だが、僕の友人にオーバードーズで亡くなった人がいる。片頭痛が酷くて眠れず、睡眠薬を1瓶すべて飲んだことが原因で、寝ている間に嘔吐(おうと)したものがのどに詰まって窒息死したのである。

 厚生労働省の資料(図37)によると、医薬品の過剰摂取によって救急搬送された人数は、ここ数年、年間1万人前後を推移していて、中でも10代~40代の女性が半数以上を占め、特に20代女性が飛び抜けて多い。

同書より転載

 オーバードーズは薬の用法・用量を守らずに大量に飲んでしまうことだが、薬の多量摂取による弊害という観点で言えば、ポリファーマシーも高齢者を中心に問題視されている。

 僕の母親は70代で、学童保育の先生をやりながら元気に過ごしているけれど、年齢から来る体の不調はあるみたいで、それに対する薬を飲んでいるようなので、ポリファーマシーは対岸の火事ではない。

 そこで今回、医薬品の事情に詳しく、ポリファーマシーに関する著書もある、神戸大学医学部の平井みどり名誉教授に話を聞いた。

5~6種類以上の薬の併用は危険

転倒のリスクが上がった事例も

 ポリファーマシーは「ポリ=たくさん」「ファーマシー=薬」だから、字義通りに解釈すれば、「薬をたくさん飲んでいる」ということになりそうだが、正しい意味は違うらしい。

「単にたくさんの種類の薬を飲んでいるだけでは、ポリファーマシーとは言いません。複数の薬の併用により、副作用などの何らかの有害事象が起きることが条件です。併用する薬の数に明確な定義はなく、薬の数が3つの場合でも、有害事象が起きれば、ポリファーマシーとされます」(平井名誉教授)

 ポリファーマシーについては、2005年に、一般社団法人日本老年医学会が「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」で指針を公表したことから歴史が始まる。そこでは「5~6種類以上をポリファーマシーの目安と考えるのが妥当」とされている。

 ポリファーマシーの目安を考える際の参考となった研究がある。東京大学医学部附属病院老年病科の小島太郎講師(当時)(編集部注/現在の所属は国際医療福祉大学老年病学。職位は教授)の研究。だが、それによると、入院している高齢者では6剤以上の薬を併用すると、薬による有害事象が増える傾向が認められ、外来の場合は5剤以上で転倒のリスクが上がったことが報告されている(図38)。

同書より転載

複数の科を受診する日本の制度が

ポリファーマシーを起こす要因に

 なぜポリファーマシーは起きるのか。高齢者がポリファーマシーになりやすい理由を、平井名誉教授は次のように説明してくれた。

「高齢者の多くは様々な病気を抱えています。血圧が高いから降圧薬、血糖値が高めだから血糖降下薬、膝が痛いから鎮痛薬というように、症状が増えるにつれて薬も増えていく。また高齢者は4~5か所の病院や同じ病院の中の複数の診療科にかかっているケースも多く、同じ作用の薬が重複して出ているケースもあるのです」

 現在の日本の医療は専門医制度で、診療科が細かく分かれているため、病気ごとに違う医師から診療を受けることになり、その結果、薬の種類が増えて重複する場合があるというわけだ。

「薬の副作用を抑えるための薬が処方される」こともよくある。身近な例は、痛み止めと胃薬だ。非ステロイド性抗炎症薬の「NSAIDs(エヌセイズ)」はよく効く鎮痛薬だが、吐き気、食欲不振、胃潰瘍(かいよう)などの副作用があるために、胃薬も一緒に飲む必要がある。これは仕方がないと思う。

 ただ飲む薬が1種類の場合はよいが、高齢者の場合、何種類も薬を飲むことが多く、仮に薬ごとに副作用を抑える薬が必要となると、服用する薬の数がどんどん増えていってしまう。これなら、ポリファーマシーが生まれても不思議ではない。

「病気を治すために薬を飲むにもかかわらず、その薬の副作用を防ぐために、また別の薬を飲む」この行為に対して感じる自己矛盾。こんなことを考えるのは、僕だけなのだろうか。

不調を病気の症状と勘違い

処方薬が次々と増える矛盾

 今あげたものとは別の原因で、ポリファーマシーが起きることもある。

 ある症状(症状A)で医療機関を受診し、それに対する薬(X薬)が処方されたところ、X薬の副作用が出た。それを副作用だと思わずに(何らかの病気の症状だと思って)別の医療機関を受診して、新たな薬(Y薬)が処方される。今度はY薬の副作用が出て、X薬の時と同じように別の医療機関を受診して、また別の薬(Z薬)が処方される。

 このような経緯で副作用が重症化して、ついには救急車で搬送されるという事態にもなってしまう。これを「処方カスケード」という。

 図39のように、「薬の副作用に対して新たな薬による対処が繰り返される」という図式がカスケード(小さな滝)に似ていることから、こう名づけられた。

同書より転載

 処方カスケードが起きる背景を、平井名誉教授はこのように説明してくれた。

「多くの医師には、『薬を減らすと症状が悪化するのではないか?』という考えが根強くあります。だから、『症状が出たら薬を増やす』という対応になりがちです。また、ほかの医師が出した薬を減らすことに抵抗感があり、漫然と処方を続けるということもよく見受けられます。このようなことが重なり、処方カスケードが生まれるのです。

臓器の機能が低下した高齢者は

薬の反応が強く、害になりやすい

 ここまでポリファーマシーが起きる原因について述べてきたが、ポリファーマシーの危険性について平井名誉教授に聞いてみた。

 平井名誉教授によると、「70歳以上の高齢者は60歳未満に比べて、薬による有害事象の出現率が1.5倍~2倍も高くなる」とのこと。

 東京大学病院老年病科の患者を対象とした研究では、若年層を除き、75歳以上の高齢者で薬による有害事象が顕著に増えている(図40)。

同書より転載

 75歳を境に薬による有害事象が増える理由を、平井名誉教授はこう説明する。

「高齢になると、体内の臓器の働きが低下して、薬物の血中濃度が高くなったり、薬物に対する反応が出やすくなります。その境界線が75歳なのだと思います」

『 予防医療How Much?病気のリスクをお金の価値で考えてみた 』(堀江貴文、メディカルレビュー社)

 つまり、「75歳を過ぎると、薬が効きすぎるようになってしまう」ということだ。詳しいメカニズムについて、平井名誉教授が解説してくれたので、僕なりに説明してみようと思う。

 一般的に、胃の消化機能は年齢を重ねるとともに低下するが、薬物の吸収については一部のものを除き、変化しない。その一方で、肝臓の代謝(分解)機能は低下するので、代謝されない薬物が血液中に流れ込み、全身に運ばれる。加えて、腎臓の機能も低下しているので、体外へ排せつされず、薬物の血中濃度が高いままで維持されることになる。

 薬が効いている状態が必要以上に続いてしまうことで、体に悪影響を及ぼすのだ。

 薬には細かい用法用量が決められている。それは多量に、あるいは長時間にわたって作用すると体に悪影響を及ぼすからだ。加齢により臓器の機能が低下し、薬が効きすぎてしまう危険性を抱える高齢者にとって、ポリファーマシーは由々しき問題と言わざるを得ない。