消えゆく「日本のシシャモ」豊漁な北欧との違い

アイスランドの親シシャモと卵(写真: 筆者提供)
スーパーに並び、居酒屋などでもおなじみの食材「シシャモ」。ただ、店頭で「シシャモ」として流通しているものの多くは国産ではなく、主に北大西洋で漁獲されるカラフトシシャモ(以下、シシャモ)が占めています。主な産地はアイスランドやノルウェーなどです。
【画像】日本のシシャモと北欧シシャモの驚く違い
皆さんが普段食べている干しシシャモは、こうした原料をいったん冷凍したうえで加工しています。このため加工業者は、継続して加工していくために通常1~2年分の在庫を持っているものなのですが、実はその在庫もそろそろ限界が見え始めるタイミングです。
シシャモの供給体制に「黄色信号」でも安心なワケ
主要産地の一つであるアイスランドでは、2月に入って漁が本格化しています。アイスランドでは、資源が減少傾向にあったため保護の目的で2024年に禁漁を実施しました。そして翌年も、例年なら10万トン単位で漁獲するところ、わずか9000トンのみに漁獲量をとどめています。
もう一つの主要産地であるノルウェーでも、2025年と2026年の2年間の禁漁によって、資源量が底を打って回復する「V字回復」待ちとなっています。
こうした事情から今年(2026年)はアイスランド産の原料頼みです。当たり前のように食べているシシャモですが、実はその供給体制に黄色信号が灯っていたのです。
さてそのアイスランド産のTAC(漁獲可能量)は今年19.7万トンという大きな数量で、資源はV字回復をとげる見通しです。次の図表をみると、アイスランド産のシシャモのTACと漁獲量がほぼイコールであることがわかります。つまりTACが決まった時点で、その年に市場へ出てくる量(供給規模)がおおむね想定できる、と言えるのです。
獲り切れないTACが設定されることが多い日本のTAC(消化率=枠に対して実際に獲れた割合は5割前後が多い)とは、効果の有無の点で、似て非なる運用なのです。

(出所)MRFIのデータを基に筆者作成
なお、今回の記事はアイスランドとの資源管理の違いによる成否の話です。資源管理の基本は同じですので、日本のシシャモの種類が違うとか、川を遡上するといった類のことではありません。
水揚げ量がすごいアイスランドのシシャモ漁
「買い負け」という言葉が水産物の買い付けには出てきます。他国の買い手が高値で買い付け、日本の買い手が仕入れられなくなる状況のことです。ところが、シシャモ、特に卵を持ったメスシシャモに関しては、まだ他国との買い付け競争が比較的少ない商材です。
日本のシシャモの漁獲量は減少を続け、2024年はわずか113トンの漁獲量にすぎないので、この数量がいかに少ないかおわかりになるかと思います。アイスランドでは、今年のような漁獲枠が発給されると、1隻で1回の漁獲で500トン、1000トンといった水揚げが普通です。
資源が回復したアイスランドのシシャモ漁は、産卵のために回遊してくるシシャモを狙って漁をします。日本向けには、食用としてメスのシシャモを生産する需要があります。また漁獲枠が潤沢に発給されれば、シーズンで数千トンから1万トンを超えるシシャモ卵を生産します。シシャモ卵の用途は、イカや昆布との混ぜ物や、お寿司などさまざまです。

アイスランド産のシシャモ卵(写真:筆者提供)
ここまで読むと、「産卵期の魚を獲っているのに、なぜ資源は減らないのか」と感じるかもしれません。資源量が減る原因として「産卵期の魚を獲るから」ということが思い浮かぶのも自然です。
しかしながら卵狙いが、必ずしも資源が減って魚が獲れなくなるという原因にはならないのです。その違いが資源管理制度です。北欧や北米など漁業を成長産業にしている国々では、科学的根拠に基づいてTAC(漁獲可能量)を決定します。
そしてTACを個別割当制度(漁業者や漁船ごとに「あなたは何トンまで」と枠を割り当てる制度)で漁業者や漁船に配分していきます。なお、その際に獲り切れない大量の漁獲枠が配分されるなどは論外です。
ただし、その論外のTACが日本では、アジ・サバ・サンマをはじめ多くの魚種で設定されてしまっています。これこそが、資源が減り漁獲量が減り続ける根本的な原因なのです。昨年(2025年)のスルメイカの漁期中の増枠のように、少しでも獲れるようになったらゴールポストを動かしてその分増枠してしまう。
こんなことを繰り返していたら、時間の経過とともにさらに魚が獲れなくなっていくのは当たり前です。そしてなぜ漁業を成長産業にしている国々を参考にしてこなかったのかと悔いることになります。ところが後で気づいても時計の針は元には戻りません。
消えゆくシシャモと何度もV字回復する北欧シシャモ

日本のシシャモ(左)と北欧シシャモ(右) (写真:筆者提供)
上の写真は左が国産で、右が北欧産(アイスランドかノルウェー)のシシャモです。ともに産卵期に回遊してくるシシャモを狙っています。国産のシシャモは北欧産と比べてとてもおいしいのですが、漁獲量が激減して価格が高騰し、手が届かない存在になっています。
アイスランドは今年、資源がV字回復していきますが、禁漁中のノルウェーも必ず回復します。それは、すでに最初のグラフで示している過去の資源推移を見ればわかります。予防的アプローチといって資源が減ってくると禁漁を含めて思い切った資源管理を行って回復を待つのが当たり前となっているのです。
資源管理によりV字回復を続けるアイスランド産。次のグラフは、それと対照的な北海道でのシシャモの漁獲量推移です。左のグラフで緑の丸で囲んだ1980年前後には、一時的に資源量が増えて、漁獲量が増えていました。しかし、そのチャンスを活かすことなく、再び漁獲量が減っています。

(出所)北海道庁のデータを基に筆者作成
その左のグラフの赤丸の部分を拡大したのが右のグラフです。単に漁獲量が右肩下がりになってきているだけであることがわかります。なおこのせっかく出てきた芽をつぶしてしまうパターンは、ニシン・ハタハタなどさまざまな魚種で起きています。なので全体の漁獲量が減り続けるのです。
アイスランドの資源調査

(出所)MRFI
上図の線はアイスランド近海で調査船や漁船が、資源調査をした海域を示しています。アイスランドのシシャモ漁は2月から3月にかけて行われます。
資源調査は漁期中も続けられます。3月15日というシシャモの産卵期が終わった時点において、95%という非常に高い確率でシシャモの親魚を11.4万トン残すというルールがあります。来遊量が増えれば、過去には追加で枠が発給される例が何度もありました。
なお、これは科学的根拠に基づいた増枠です。日本のスルメイカの増枠のケースのように、業者側からの要望で政治家を使って水産庁に圧力をかけて増枠するのとはわけが違うのです。
日本ではこうしたわかりやすく広範囲な資源調査がシシャモでは行われていません。漁獲量は決めているようです。しかしアイスランド・ノルウェーといった国々の基準からすれば、とっくに禁漁して回復を待ちます。科学的根拠によるTAC(漁獲可能量)の設定と、それを個別割当制度によって漁業者や漁船に配分する。この基本中の基本を行っていないと、どうしても乱獲が進んで魚が小型化し、最後には獲れなくなってしまうのです。
魚が消えていく原因を説明する記事に対して「漁業者が悪い」というコメントがよくつきます。しかしながら筆者はそう考えていません。悪いのは資源管理制度なのです。
漁業者が魚をたくさん獲ろうとするのは当たり前です。世界中を見渡せば、資源管理を漁業者に任せてうまくいっている例を見たことがありません。極々例外的なケースが仮にあったとしても、それはその国の漁獲量の何割を占めるかという視点で分析すれば、ほぼないということになるでしょう。
もちろん漁業者は資源管理を意識して漁業を行います。魚が獲れるのであれば、もっと獲りたいと考えるのは当たり前です。しかし、漁業を持続的にするためには「我慢」が必要です。資源管理に関する海外の成功例が共有されていないため、この「我慢」ができず、「自分で自分の首を絞める」漁がさまざまな魚種で、全国各地で続けられています。
一方で、漁獲量を抑制して資源を持続的にしているのが、北欧・北米・オセアニアなどの水産業が成長産業になっている国々です。また、それらの国々に共通しているのは、資源管理は漁業者による自主管理ではなく、行政が行っているという点です。
魚が消えていく本当の原因
日本の水産資源管理については、世界との比較やその成功例が伝えられることはこれまでほとんどありませんでした。
色々な考えがあること自体は大切なことです。しかしながら、魚が消えていく原因に関し、その理由が、「海水温上昇」「外国漁船」だけでなく「漁業者が減ったから」「消費量が減ってしまったから」などの前提が誤っているものであれば良くなることはありません。「間違った前提に対する正しい答え」のもとになっているミスリードは、訂正し続けねばなりません。
筆者には、資源管理の重要性に気付いた全国の漁業関係者をはじめ、多くの声が届いています。微力ながら資源管理に関して、こうやって継続的に科学的根拠に基づいてデータを使い、わかりやすい解説を続けていくことが、大きな変革を起こすきっかけになると信じて発信を続けてまいります。