ついでだった「ニラソバ」ブームを生んだ必然設計

じわじわと広がる令和の「ニラソバ」ブーム。ブームの中心人物に、人気の理由を聞いた(写真:筆者撮影)
2024年から25年にかけて、ラーメン業界でじわじわと、しかし確実に存在感を増していったメニューがある。「ニラソバ」だ。
【画像】美味そうすぎる…脇役から主役になった「ニラソバ」、ブームの中心の店の一杯
かつては中華料理店の“ついで”のような立ち位置だった一杯が、いまや専門店が生まれ、蕎麦屋やうどん屋、さらにはチェーン店にまで広がりを見せている。25年には食べログでトレンド入りし、テレビ取材も相次いだ。

「麺屋 宗」の「スパニラ」。汁なしのニラソバにスパイスをきかせたクセになる一品だ(写真:筆者撮影)
この令和のニラソバ再ブーム。その中心にいるのが、「麺屋 宗」「百年本舗」を手がける柳宗紀さんだ。
柳さんとニラソバの出会い

調理中の柳宗紀さん(写真:筆者撮影)
ニラソバとの出会いは、意外なほど日常的なものだった。
「中華料理屋で普通に食べたんです。特別な一杯ではなかったけど、見た目が面白くて。ニラがこれでもかってくらい乗っていて、インパクトがあった」
その瞬間、ラーメン店主としてのスイッチが入った。
「これ、ラーメン屋の技術でちゃんと美味しく作ったら、もっといけるんじゃないかと思ったんですよね」
すぐに定番化したわけではない。まずは4〜5年前、限定メニューとして試験的に出してみた。
「正直、そこまで期待してなかったんです。でも、いつもの限定より明らかに数が出て、感覚的に『これは一過性じゃないな』って思いましたね」
その後、1~2年かけて何度か限定で提供すると、そのたびに、確かな反応が返ってきた。
コロナ後の起爆剤としてニラソバを投入、大爆発

「百年本舗」で提供している「令和のニラソバ(汁なし)」(写真:筆者撮影)
コロナ禍が明け、客足が戻り始めた頃。柳さんは改めて、秋葉原の「百年本舗」で名物メニューを作ろうと考えていた。復活の起爆剤が必要だったのだ。そこで白羽の矢が立ったのが「ニラソバ」だった。こうして24年、ニラソバが定番メニューになる。すると、想定外の出来事が起きた。
「ある日、インスタグラマーの方が来てくれて。次の日から、明らかにニラソバを求めて来るお客さんが増えたんです」
投稿は瞬く間に拡散され、最終的に600万再生まで伸びた。「百年本舗」のニラソバがSNSで広がった理由は、明確だった。提供の最後に、牛脂をかける演出だ。
「ジュッて音がして、一気に牛の香りが立つ。あそこは完全に動画向きですよね」

牛脂をかける演出がウケて、「百年本舗」のニラソバがSNSで広がった。(写真:筆者撮影)
メニューは、汁あり、汁なし、旨辛の3種類。ニラソバをちゃんと主役にするために、3つの選択肢を作ったのだ。柳さんが特に力を入れたのが、汁なしだ。
「中華料理屋のニラソバって、どうしても“ついでメニュー”感があるじゃないですか。それを主役にしたかった。でも、作り込んでいくほどに、どうしても最後にニラが余るという課題が見えたんです。これだと食べ終わった時に、ちょっと締まりが悪いなと思ったんです」

ライスを無料セットにすることで、お客さんの満足度が一気に上昇した(写真:筆者撮影)
そこで出てきたのが、「ご飯」という選択肢だった。麺だけで終わらせず、米と合わせて完成するメニューにしようとしたのだ。ポイントは“無料セット”だった。
「ラーメンと別にライスを頼んでもらうのって、意外とハードルが高い。でも最初から付いていれば、自然に食べてもらえると思ってセットにしてしまうことにしました」
結果ははっきりしていた。お客さんの満足度が目に見えて上がったのだ。
インスタグラマーたちの投稿で人気が過熱

神保町の老舗町中華「三幸園」の「ニラそば」も大人気メニューだ(写真:筆者撮影)
24年以降、ニラソバはSNSを中心に加速していく。インスタグラマーたちは、ほぼ同じ構図で撮影していった。
「“この撮り方が正解”みたいなのが、完全に出来上がっていましたね。インスタではバズったテッパンの撮り方をコピーするのが成功法則とされているらしいんです」
さらに、大食いユーチューバーがデカ盛りで挑戦する動画も増え、話題は裾野を広げていった。

YouTube「ぺこぱチャンネル」ではシュウペイさんがレポート(画像:「ぺこぱチャンネル」)
その後、ニラソバは、ラーメンの枠を越え始める。蕎麦屋やうどん屋でも提供が始まり、専門店も生まれた。これはちょうど、「台湾まぜそば」が広がっていった時と似た動きである。

「麺屋 我論」は「ニラ麺」が看板メニュー。大人気だ(写真:筆者撮影)
女性人気も取り込めた
さらに、ニラソバの特徴として、柳さんが挙げるのが「女性ウケ」だ。注文比率はだいたい男6:女4ぐらい。柳さんはこの数字には手応えを感じている。
「ニラは健康に良いイメージが強いですよね。さらに食べると元気になる感じがあります。食物繊維、滋養強壮、ビタミン――ニラという野菜が持つポジティブなイメージと、普段あまり食べないものを思い切り食べられるギャップが支持につながっていると思います」
女性一人での来店も珍しくない。こんなにニラを食べる機会は普段なかなかない。その“やり切った感”も人気の理由だ。

「たかがニラ」と思うかもしれないが、この店で食べると「こんなに美味しいんだ!」と思えるはずだ(写真:筆者撮影)
現在、柳さんはさまざまなニラを試している。生で美味しいニラもあれば、火を入れたほうがいいニラもある。「百年本舗」では、九十九里産の浜ニラを使用している。
「ミネラルが豊富で、味が濃くて甘みもあって本当に美味しいんです。ニラをきちんと選ぶだけでちゃんと差別化になります」
そして、ニラソバの完成度を一段引き上げたのが、ニラペーストだ。通常は捨ててしまうニラの下の白い部分を何かに使えないかと思ったのが始まりで、白い部分をメインに、緑の部分も混ぜてタレと唐辛子でペーストにした。
「汁なしって、ニラが混ざりにくいんですが、ペーストがあると全体がまとまりやすいし、歯にくっつかないんです。しかも、このペーストがご飯との相性抜群なんです」
定着のカギは「進化できるかどうか」
さて、このニラソバ、これがブームで終わってしまうのか、定着していくのか。柳さんは「正直、まだわからない」と言う。
「昔のニラソバのままだったら、定着しないと思います。でも、進化し続けられるなら、まだまだ伸びる可能性はあるでしょう。ニラは季節によって値段の振れ幅が大きい野菜なので、無理しない価格帯をつけることも大事ですね」
偶然のバズと、必然の設計の勝利。令和のニラソバは次のフェーズに進もうとしている。