甘えるので撫でようとしたら逃げる猫。「好き嫌いだけでは決められない」猫にとっての重要なもうひとつの要素
取り込んだばかりの洗濯物の山に、気づけばちゃっかり陣取り、丸くなってすやすや眠る猫。時には、前足でフミフミと丹念に踏みしめ、自分の寝床を整えるかのようにも見える。自分のベッドはちゃんとあるのに、なぜわざわざそこで寝るのか。
東京大学および大学院で獣医学を修め、在学中にはカリフォルニア大学デービス校付属動物病院で行動治療学を学んだのち、臨床や大学講師などを経て、「ペットと人が楽しく快適に暮らすためのライフスタイルの提案」をライフワークとする高倉はるか先生の連載の後編。
前編「わざわざ猫が『洗濯物の山』の上で寝る理由。気持ちいいだけじゃない、猫を不安にさせる『洗濯物』に潜むもの」では、なぜ飼い猫がわざわざ洗濯物の上で寝たり、フミフミするのかについて、猫の「匂い付け」に関わる行動であると解説いただいた。
だが、匂いづけの先は、洗濯物に留まらない。時には、普段あまり近寄らない家族の足に、体をこすりつけようとすることもあるという。苦手な家族にわざわざ近寄ってまで匂いをつけたい理由はなんなのか。
後編では、不可思議な猫の行動をさらに詳しく、はるか先生に語っていただく。
苦手な人にも甘えたい
匂いをつける行為は、物だけでなく、人に対しても向けられます。あまり家にいない家族が帰ってきたとき、猫が明らかに緊張した様子を見せることがありますよね。
リビングでくつろいでいたのに、「ただいま」という声で、姿を消すことも。
では、その家族を嫌いなのかというとそうとも言えないのです。夜中に一人で部屋にいたら、その人のところへ行って、頭をこすりつける、なんてことも決して珍しくありません。
体をすり寄せても「好き」なわけではない
実は猫が体を寄せたり、甘えた声で鳴いて見せる行為は、「好きか嫌いか」という単純なものではないのです。
猫は環境に強く影響される動物です。以前の記事で、「寝ていると、布団を上げてくれと鳴くからあげたのに、一向に入らない」とか「入ったと思ったら、ものの数十秒で弾丸のごとく飛び出していった」などという、飼い主が理解しづらい猫の気持ちについてお伝えしましたが、猫はとても気まぐれで、「布団をあげてもらった」ところで満足してしまうこともある。
布団に入ってみたら、自分の思った温度ではなかった、期待と違った、などの理由で、「やっぱり、もういいです」となることも多々あります。
つまり、普段はそんなに親しくない家族でも、人寂しくなって体を寄せてみるのが猫。でも、いざその人が自分の方に向いた途端、逃げ出した、なんていうのも、とても猫らしい行動です。もしかすると、過去に何かあったことを思い出したのかもしれません。

布団に入れてくれというから、開けたのに、いつまでも入らないこともあるのはなぜなのか。photo by iStock
例えば、無理に抱き上げられたり、触られたくないときに触られたり。向かい合った瞬間、それを思い出し、一目散に逃げだした、なんてことも考えられます。猫は学習するので、「近づく=捕まる」という不快な思い出は、なかなか忘れることはできないのです。
子猫時代は社交的でも、成長とともに閉鎖的に
まだ、猫には、自分にとっての「ほどよい距離」が存在します。近づきたい。でも、近づかれすぎたくない。その微妙なバランスの中で行動しています。難しいのは、猫それぞれによって、その距離が違うということです。
猫は幼いころは比較的社交的でも、成長とともに閉鎖的になる傾向があります。特に神経質な性格の子は、カーテンや家具が少し変わっただけで、部屋に入れなくなったり、情緒不安定になることもあります。
そうした場合、模様替えをするなら、できるだけ時間をかけて、少しずつ変えることを勧めています。様子を見ながら慣らしていき、もし強く拒否反応が出たら、一度元に戻して、また少しずつ進めるのがいいと思います。

成長とともに、閉鎖的になっていく。
引っ越しのように大きな変化が避けられない場合は、獣医師と相談のうえで鎮静剤を使うこともあります。ショックの幅を抑え、環境に慣れるまでの間、サポートするためです。ただし高齢猫の場合は薬の調整が難しいので、必ず主治医とよく相談していただきたいと思います。
洗濯物の上で丸くなる姿は、ただの気まぐれではありません。そこには、心地よさと、わずかな違和感と、それを自分なりに整えようとする猫の知恵が詰まっています。爪とぎでタオルをほつらせたり、せっかく洗った洗濯物が毛だらけになってしまうこともありますが、猫にとってそれは縄張りの確認であり、自分を安心させるための、小さな儀式なのです。

タオルのほつれも、毛だらけのシャツも、結局猫の愛らしさの前では、許せてしまうのが飼い主というもの。photo by iStock