「今日も死にたいなぁ」と思いながら16年。40歳女性がそれでも生きるための“日課”とは<漫画>
死にたい。ふとそう思ったことがある人は少なくないでしょう。でも常に、死という願望が寄り添っているとしたら……?
『死にたがりやさんの明日生きるため日記』(加藤かと著、オーバーラップ刊、2025年12月)は、20代から40歳の現在まで、希死念慮(死にたいという想い)とともに生きる女性の物語。コミックエッセイ描き方講座グランプリを受賞した漫画家、加藤かとさんの実録です。

「今日も死にたいなぁ」と思いながら16年。40歳女性がそれでも生きるための“日課”とは<漫画>
◆それでも生きていくために今作の主人公、日向ニジコが希死念慮を抱えるようになったのは、母親からの「あんたなんか産まなければよかった」という言葉が、ひとつの引き金でした。生みの母、自身の原点ともいうべき人から、存在を全否定されたのです。さらに、恋人が自死してしまいます。そしてニジコの、「あっという間に死ねる方法」を夢想しながら生き続ける日々がはじまったのです。

◆希死念慮キャラ「きっしー」
ニジコは40歳の漫画家。家族愛にあふれた夫・タイヨウと、娘のミライ、息子のゲンキ、3匹の猫と暮らしています。穏やかな生活を送りながら、今朝もニジコは息を吸うように、「死にたいなぁ」とつぶやきます。そんなニジコを横目で笑うのが、きっしーです。
きっしーとは、ニジコが作り上げた、想像上の希死念慮キャラ。花の形をした小さな黒い雲のようなきっしーは、ニジコを常に死へと誘惑します。<卵に入ったまま蛇に丸のみされる><天国直行のトイレで流される>等、ニジコの死の妄想を「甘い」と却下したり、小馬鹿にしたりするのです。
母親から拒絶され、オーバードーズの経験もあるニジコは、全世界から必要とされていない不安と苦しさを、拭い去ることができません。やさしい夫と子供達に囲まれてもなお、死にとりつかれてしまうのは、一体なぜなのでしょうか。

◆こんな自分が母親でいいのか、と悩む
幼少期からずっと、母親からも父親からも蔑ろにされてきたニジコ。トラウマは根深く、毎日うっすらと笑いながら、どうしようもなく死にたくなる。こんな自分が母親でいていいのか、子供達が可愛くてたまらないからこそ、ニジコは悩んでしまいます。
子供達が学校でいざこざに巻き込まれれば、ニジコは吐くほど考え、解決策を見出そうともがきます。子供達には自分のようになってほしくない、誰からも不必要とされてほしくない。ニジコの愛情ややさしさは、悲しみや孤独から生まれているのだと、読みながら涙がにじんでしまうのです。
楽観的な夫・タイヨウが「考えすぎだよ」とニジコを励ましますが、「人づきあいうまいからわからないんだよ‼」と突っぱねてしまい、自己嫌悪に陥ることも。死にたい願望を持ち続けるニジコに寄り添う夫にすら、反発してしまう。心の奥底では夫に感謝しているからこそ、つらいのです。
◆「本日の美しいもの」を集める日課
死にたいけれど、死にたくない。もし私が死んだら、夫も子供達もきっと悲しむから。悲しんでほしいから。私がこの世界に存在していいと、許容してくれるのは家族だけ。
そうです、ニジコが自ら作り上げた、家族なのです。それだけは、決して手放してはならない。唯一の生きる希望を守るために、ニジコは日課を決めました。
ニジコは今日も、<本日の美しいもの>を集めます。<死にたがりやの私が見る世界はこんなにも美しくて、この世界にまだいたいと思わせてくれる……>ニジコは死と対極にある、細やかな美しいもの、その美しさを発見できる自分の尊さを、生きる糧にしているのです。
<毎日をがんばって生きている人の「死にたい」という思いは、きっと美しい形をしている>
最後に綴られたこの言葉に、私も、死にたいと思うのは罪ではない、と救われた気持ちになりました。だからこそ、きっしーはお花の形をしているのです。
死にたいからこそ、生きている。本書のメッセージに、あなたも涙するのではないでしょうか。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx