【NHK朝ドラ「ばけばけ」第21週】愛と特権、その揺らぎ 呪いを引き受けたヒロイン・トキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の対等性の行方は?

 高石あかりがヒロイン・トキを演じる「ばけばけ」(毎週月~土曜午前8時、NHK総合ほか)。第21週「カク、ノ、ヒト。」終盤では、呪われた女・イセ(芋生悠)の語る言い伝えと、それを“引き受けた”トキの献身が胸を打つ一方で、ヘブン(トミー・バストウ)という男性が持つ無自覚な特権性をも浮かび上がらせた。愛は本当に対等なのか。「リテラリーアシスタント」という言葉の裏に潜む格差、そして夫婦に横たわる情報の非対称性。優しい嘘の陰で、物語はより深い問いを投げかけている。

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■愛情と呪い、そしてリテラリーアシスタント

 今週の物語を象徴するのは、呪われているらしい女性・イセが語った凄惨な言い伝え「人形の墓」と、それを優しい嘘で“引き受けた”トキの献身である。しかし、その美談の裏には、ヘブンが持つ“無自覚な特権性”も、危うい影として忍び寄っていた。

 ヘブンの創作活動を支えるため、無理を承知でイセを呼び寄せたトキ。そこで語られたエピソードは、本作が持つ“怪談”としての本質を突くもののように思えた。同じ家のなかで、一年のうちに二人が亡くなると、すぐに三人目が連れて行かれ、四人目は重い呪いを背負うという……。

 藁人形を墓に埋めて身代わりにすると難を逃れられるらしいが、どうやら間に合わなかったらしいイセの半生は、病と借金、そして親族からの冷遇にまみれたものだった。彼女が、話すと場が暗くなるから嫌だった、と悲しそうに告げ去ろうとする姿は、単なる言い伝えを超えた、当時の農村部が抱えていた過酷なリアリティを突きつけるようでもある。

 その瞬間、トキがイセの座っていた座布団に座り、“呪い”を自分へと移し替える場面が挟まれる。

 不幸せは私に乗り移った、だから、これからは良いことがある! と言い放ち、息も絶え絶えに倒れ込んでしまうトキ。彼女のこの行動は、イセの立場を思いやったからこその優しい嘘だった。トキの愛情は、もはや自己犠牲を通り越し、ある種の狂気に近い神聖さすら漂っていた。

■ロバート&ラン夫妻が突きつける「現実」

 熊本でのヘブンは、教師としての多忙な日々を送りながら、着々と“日本を世界に発信する作家”としての地位を固めている。そこでふたたび連呼されるようになったのが「リテラリーアシスタント」という言葉だ。

 新聞を読み、おもしろいネタをピックアップし、ヘブンの創作意欲を刺激しようと力を尽くすトキ。かつて松江で錦織友一(吉沢亮)が担っていた役割を、いまではトキがこなしている。周りからは、夫婦であり創作の相棒でもあると認識されるが、それは同時に、少々危うい構造も孕んでいる。

 とくに、アメリカのイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)から届いた「日本滞在記」重版の知らせと講演依頼の手紙について、ヘブンが家族にすべての内容を明かさないまま大事そうに読む描写は、ふたりの間に横たわる決定的な“情報の非対称性”を象徴していた。トキは重版の知らせに喜びつつも、英語が理解できないことで、夫の心の深淵に触れられないもどかしさを、あの複雑な表情で見事に表現していた。

 ヘブンの同僚教師・ロバート(ジョー・トレメイン)とその日本人妻・ラン(蓮佛美沙子)の存在も、トキの孤独を深める要因になってしまう。英語を完璧に操り、洋館で優雅にワインを嗜み、夫と対等に腕を組んで歩くランの姿は、トキにとっての「なりたかった、あるいはこれから目指すべき姿」を表す鏡のような存在なのではないか。

 ランから向けられた「英語は?」という問いに対し、「からっきし」と答えるしかないトキ。ランの返す言葉は、一見優しげなフォローに聞こえるが、その実、トキとの間にある圧倒的な格差を浮き彫りにする。

 ヘブンがあらためて、トキへ英語学習を提案するのも、あまりにもタイミングが悪く、残酷である。リテラリーアシスタントをするなら、英語ができたほうがいい……それは正論だが、ヘブンの提案には、現在のトキのままでは不十分であるという、無自覚な要求が透けて見えるようだ。どうしても、ヘブンが持つ特権性について考えずにはいられない。

 彼は日本を愛し、トキを愛している。しかし、その愛はどこまでも「ヘブンのルール」の上に乗っている。松江から熊本へ、そしていつかはアメリカへ。自分の夢やキャリアのために家族を移動させ、妻に「相棒」としての能力向上を求める。

 これらは当時の社会通念では一般的なことだったのかもしれない。しかし現代的な視点で見れば、ヘブンのエゴイスティックな側面が強く滲み出ているように思えてならない。

■イセから引き受けた「不幸」の正体とは

 21週のラストシーン、英語のレッスン中に猛烈な眠気に襲われ、倒れ込むように横になるトキ。もしこれが妊娠であれば、ヘブンの「アメリカ帰国」という野望と、日本に根を張るトキの生活は真っ向から衝突することになるかもしれない。

 第21週は、微笑ましい夫婦の日常生活に、「言葉の壁」「文化の搾取」「男女の不均衡」といった重いテーマを滑り込ませた週となった。次週、トキの体調不良の正体が判明するとき、ヘブンは「作家」としてではなく「夫」として、どのような決断を下すのか。

(北村有)

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