中国が友好国イランをほとんど助けていない理由

中国の王毅外相は、紛争発生後にイランのアラグチ外相と電話会談を行った

【香港】米国とイスラエルが中国の中東における最も緊密なパートナーであるイランを攻撃し、同国の指導者を殺害し、国民に政府打倒を呼び掛ける中で、中国政府は激しい非難で応じているが、それ以上のことはほとんどしていない。

今回の戦争は中国にとって幾つかのリスクをはらんでいる。ホルムズ海峡を経由する中国の石油輸入のかなりの部分が遮断される恐れがあるほか、中国が米国の世界的優位に対抗する上で連携しようとしていた国々に対する中国の支援の限界が浮き彫りになる可能性がある。

中国の王毅外相は1日、(米国とイランの)交渉中に米国とイスラエルがイランを攻撃し、「さらには主権国家の指導者を公然と殺害し、体制転換を扇動する」ことは「容認できない」と述べた。

王氏はイランのアッバス・アラグチ外相との2日の電話会談で、中国は「イランが主権と安全保障、領土保全、国家の尊厳を守ることを支持する」と表明した。

中国がイランに提供できるものは、言葉以外にはほとんどなかった。

米国とイスラエルの共同作戦開始以降、イランの首都テヘランへの攻撃は続いている

中国はエネルギー輸入の混乱を防ぐための措置を講じている

中国政府は自らを国際秩序の支持者と位置付け、長期化する中東での紛争に巻き込まれることを避けながら、戦闘停止後のイランを統治する者が誰であれ協力するための準備を進める公算が大きいと、アナリストらはみている。

このパターンは、中国の別の緊密なパートナー国であるベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を米国が1月に拘束した際に、中国がベネズエラ政府に対して行った限定的な支援を踏襲するものだ。それはまた、米国がキューバに対して行動を起こした場合に中国が取る姿勢を予兆しているかもしれない。中国はキューバとの関係を「鉄壁の友好関係」と評している。

米国が中国の地政学上のパートナーを根底から揺さぶる中、同じような考えを持つ国々との同盟関係構築を目指す習近平国家主席の取り組みは損なわれる可能性がある。習氏はグローバル安全保障イニシアチブやグローバル開発イニシアチブといった野心的な取り組みを推進し、西側諸国主導の世界秩序の代替となるビジョンを示してきた。

中国はロシアと共に、二つの多国間グループにイランが加盟するのを支援した。イランは2024年に新興国グループ「BRICS」、23年に安全保障に焦点を絞った上海協力機構(SCO)に加盟した。いずれのグループでも中国とロシアは創設メンバーだ。

しかし、こうしたグループに加盟しても、イランが安全保障面で受けた恩恵は結局のところ、ほとんどなかった。仏銀ナティクシスのアジア太平洋担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレロ氏は「中国が代替となるものを提供すると考えていた人たちにとって、今回のことは極めてがっかりさせられる出来事だ。代替物はないからだ」と述べた。「中国は必要とするときにやって来ない」

それでも、対イラン戦争は中国の政策立案者たちに、いくらかの明るい材料を与えている。米国の軍事物資、とりわけ台湾を巡って中国と衝突した場合に使われる可能性がある類いの兵器の在庫が減り、米国の軍事力が圧迫されるからだ。

米国はまた、最新の装備や戦術の一端を中国軍に見せている状態となっている。米国は軍備をアジアからシフトさせているが、イランでの戦争が早期に終結しなければ、この態勢が長く続く可能性がある。

イランへの軍事攻撃は、王外相が「(弱肉強食という)ジャングルのおきてに世界が後戻りする」と呼ぶ動きを、米国が主導していると描き出す機会を中国に与えた。

ホルムズ海峡は中東からのエネルギー供給にとって重要なルートだ

英エクセター大学で国際政治学の講師を務めるアンドレア・ギセリ氏は「中国の視点から見ると、今回の米国の行動は、中国が世界に安定をもたらす一方で、米国がいかに世界を不安定にしているかを示す新たな一例にすぎない」と述べた。

イランが長距離のドローンやミサイルを使って複数のペルシャ湾岸諸国を攻撃している中で、これら湾岸諸国との関係が中国のイランへの対応を難しくしている。例えばサウジアラビアは昨年、イランよりも多くの原油を中国に輸出した。そして、サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)それぞれへの中国の投資額は、イランへの投資額よりはるかに大きい。イランによる周辺国への攻撃を支援するような動きを中国が見せれば、重要なこれら湾岸諸国との関係悪化を招く恐れがある。

王氏は2日、オマーンのバドル・ビン・ハマド・ブサイディ外相との電話会談で、こうした懸念を念頭に「この戦争の周辺地域への拡大は、湾岸諸国の基本的かつ長期的な利益にとって好ましくない」と語った。

イスラエルのシンクタンク「国家安全保障研究所(INSS)」で中国問題の研究員を務めるトゥビア・ゲリング氏によれば、今回の戦争は既に、主として経済とエネルギー安全保障の面で、中東地域における中国の中核的利益に影響を及ぼしている。同氏は「中国はこの戦争によってイラン、米国、イスラエルがどうなるかまず見極めようとするはずで、それ以外に現時点で中国ができること、やりたいと思うことはほとんどないと思う」と述べた。

一部の西側諸国では、中国、ロシア、イラン、北朝鮮の4カ国は、米国とその同盟諸国に対抗する非公式の国家グループとして、CRINK(クリンク)諸国と呼ばれてきた。中国と北朝鮮が、ロシアによるウクライナ侵攻を支援するなど、クリンク諸国内の協力関係を示す例が幾つかあるものの、中国、ロシア、北朝鮮の連携によるイランへの支援は、これまでのところ限定的だ。

ロシアとイランは兵器の生産で協力している。例えば、ロシアはイラン製ドローン「シャヘド」を模倣し、ウクライナの都市やエネルギーインフラの爆撃に使った。中国はロシアとイランで生産される兵器の電子部品や原材料を提供してきた。

中国とイランは21年、中国が25年間でイランに4000億ドル(約63兆円)を投資する経済協力協定を締結したことを発表した。だが進展は遅く、米国の対イラン制裁によって妨げられている。

中国とイランは、イランから中国への石油輸出を分かりにくくするために複雑なシステムを用いている。海上で船から船に積み荷を移し替える「瀬取り」という方法でイラン産原油をマレーシアなど他国産であるように偽装して中国に渡し、その代金は、国際銀行システムを迂回(うかい)したインフラ投資によって中国からイランに支払われる。

両国の関係は概して不均衡だ。イランの中国に対する依存度の方が、中国のイランに対する依存度よりもはるかに高い。中国はイランの石油輸出量の約90%を購入している。ただ、これは中国の石油輸入全体の約12%にすぎない。

イランが、中東からのエネルギー供給の要衝であるホルムズ海峡を航行する船舶を攻撃すると警告したことで、世界中の顧客向けの石油・天然ガス価格が高騰している。

中国はエネルギー輸入の混乱という衝撃から自国を守るため、幾つかの対策を講じてきた。中国は、石油の戦略的国家備蓄を積み増すとともに、石油消費への依存度抑制につながる電気自動車(EV)やその他の技術を促進している。中国の石油消費量は来年までにはピークを迎えると予想されている。

地中海地域における中国の影響力を分析するプロジェクト「ChinaMed」の調査責任者でもあるギセリ氏は、「中国はこうした状況への準備をしばらく前から進めてきた」と語った。