『タイタニック』のヒロインは止まらない――ケイト・ウィンスレット50歳、初監督で示した実力派の現在地

<体形バッシングも年齢の壁も乗り越え、オスカー女優はいま新たな充実期にある――(インタビュー)>, 息子の脚本を自ら映画化, 「体形いびり」に苦しむ, 年を重ねる喜びを実感

『タイタニック』のヒロインは止まらない――ケイト・ウィンスレット50歳、初監督で示した実力派の現在地

これまでの成功を「苦労して勝ち取ったもの」と振り返るウィンスレット VICTORIA WILL

<体形バッシングも年齢の壁も乗り越え、オスカー女優はいま新たな充実期にある――(インタビュー)>

『タイタニック』のヒロイン、ローズに『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』の刑事メア、そして『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』(原題:Lee)の実在の報道写真家ミラー。

強く率直で堂々とした女性を演じることで、ケイト・ウィンスレットはキャリアを築いてきた。

その受賞歴は輝かしい。『愛を読むひと』(2008年、原題:The Reader)でアカデミー賞主演女優賞、『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』(11年)と『メア・オブ・イーストタウン』(21年)でエミー賞を獲得し、英国アカデミー賞は4回受賞した。

ジェームズ・キャメロン監督の『タイタニック』と『アバター』シリーズに出たのは大きく、出演作の累計興行収入は数十億ドル規模になる。

英南部の町レディングに生まれ、1994年に映画に初出演して以来、超大作と小粒なインディペンデント映画の間を行き来してきた。

『いつか晴れた日に』(95年、原題:Sense and Sensibility)や『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(08年)、『愛を読むひと』といった格調高い文芸映画に出演する一方、大胆なオリジナル作品も選んだ。

ケイト・ウィンスレット、ハリウッドでのキャリアについて語る(本誌インタビュー)

<体形バッシングも年齢の壁も乗り越え、オスカー女優はいま新たな充実期にある――(インタビュー)>, 息子の脚本を自ら映画化, 「体形いびり」に苦しむ, 年を重ねる喜びを実感

『タイタニック』ではディカプリオと共演 20TH CENTURY FOXーARCHIVE PHOTOS/GETTY IMAGES

実話を基にしたデビュー作『乙女の祈り』(原題:Heavenly Creatures)では殺人を犯す高校生に扮し、『エターナル・サンシャイン』(04年、原題:Eternal Sunshine of the Spotless Mind)では失恋を癒やすために記憶を消すヒロインを演じた。

本誌米国版編集長のジェニファー・H・カニングハムが、50歳になったウィンスレットにニューヨークの本社で話を聞いた。今のウィンスレットは揺るぎない落ち着きと経験に裏打ちされた芯の強さを漂わせており、自身の歩みは「苦労して勝ち取ったもの」だと振り返る。

3人の子供を育てながら第一線で活躍し続ける秘訣を尋ねた時には、自分は特別に恵まれていたと即答した。

「働きながら子供を育てる苦労はどこでも変わらない。でも長期休暇を取れる分、私は恵まれていたわね」と、ウィンスレットは言う。「だから世界中の働く女性を心からリスペクトしているの」

息子の脚本を自ら映画化

新たな挑戦にも打って出た。新作『グッバイ、ジューン:幸せな人生の終い方』(原題:GoodbyeJune、ネットフリックスで配信中)では製作と出演を兼ねたばかりか、初めてメガホンを取ったのだ。

クリスマスのイギリスを舞台に、疎遠だった家族が老いた母ジューン(ヘレン・ミレン)を共にみとるというストーリー。後輩の女性監督へのアドバイスを求めると、ウィンスレットはこう答えた。

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初監督作品『グッバイ、ジューン』の撮影現場で KIMBERLEY FRENCH/NETFLIX

「自分に言い聞かせたことをそのまま伝えたい。恐れることは何もない。あなたにはほかの監督と同じだけ、その立場にいる資格がある。前進して。チャンスがないなら自分で作って。夢を追求して」

さらに続ける。「私は演技ができればそれでよかった。映画に出ることになるなんて思いもせず、いつか舞台に立てたらいいなと願っていた。

時には自分を信じる気持ちが何よりも大事。この世界は殺伐としていて、足を引っ張る人もいるし、不愉快なコメントもたくさん聞く。そういう雑音に耳を塞いで、夢にしがみつくの。『私にはこの夢をかなえる資格がある』と信じる気持ちひとつで、時には試練を乗り越えられる」

『グッバイ、ジューン』では家庭生活と仕事が見事につながった。ウィンスレットの初監督作というだけでなく、この映画で長男ジョー・アンダース(22)が脚本家デビューを果たしたのだ。

基になったのはアンダースが映画学校の課題として書いた脚本だった。13歳でウィンスレットの母である祖母を亡くした自身の体験から紡ぎ上げた物語だ。

登場するのは架空の家族だが、その喜怒哀楽は実にリアルだ(ウィンスレットとミレンに加え、キャストにはトニ・コレット、アンドレア・ライズブロー、ティモシー・スポールら演技派がそろう)。

アンダースの脚本は駆け出しの若者が書いたとは思えない仕上がりで、観察眼の鋭さをうかがわせる。だが両親が優れたストーリーテラーであることを思えば、その才能にも納得。彼の父親はウィンスレットの2番目の夫で映画監督のサム・メンデスだ。

『グッバイ、ジューン』は病院に泊まり込み、食事は自動販売機のスナック菓子で済ませ、愛する人を寝る間も惜しんで介護した体験を持つ人なら、誰でも共感できるはず。脚本の可能性に気付いたウィンスレットは、思い切って監督に名乗りを上げた。

「脚本をジョーから渡された瞬間、私がやらなきゃ、私が監督しなきゃと思った」と、ウィンスレットは振り返る。

「あの脚本は手放したくなかった。他人に渡したくなかった。それに、息子にも現場に関わってほしかったの」

それまで監督業に進出しようと本気で考えたことはなかった。俳優よりも創作のプロセスに深くコミットしなければならない監督の重責を知っていたからだ。

企画、撮影からポストプロダクションを経て公開にこぎ着けるまで、作業が予定どおりに進むとは限らない。監督業に打ち込んだら、大切に守ってきたワークライフバランスが崩れてしまう。

だがこの機会は逃せなかった。自分の人生に縁のある物語を、自分の手で形にしたかった。息子をチームに加え、脚本家としての初仕事を支えてやりたい気持ちもあった。

共同作業は初めてではなかった。ウィンスレットは22年にイギリスのテレビ映画『I AM ルース』(原題:I Am Ruth)でアンダースと長女のミア・スレアプレトンと共演し、英国アカデミー賞主演女優賞に輝いた。

スレアプレトンはウィンスレットの最初の結婚(相手は画家・映画監督のジム・スレアプレトン)で生まれた娘で、いま25歳。既に女優の道を歩み始めている。

ウェス・アンダーソン監督の25年公開の映画『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』(原題:The Phoenician Scheme)ではベニチオ・デル・トロ演じる大富豪の娘役を演じた。映画通をうならせる才能は母親譲りのようだ。

ウィンスレットの3人の子供の末っ子、ベア・ブレーズは現在の夫である実業家のエドワード・エイベル・スミスとの間に生まれた男の子で、まだ12歳。母親と同じ世界に進むかどうかは未知数だ。

「体形いびり」に苦しむ

『グッバイ、ジューン』では、ウィンスレットはジューンの成人した4人の子供のうち、一番のしっかり者のジュリアを演じる。手だれの演技は安心して見ていられるが、それ以上にカメラの後ろでの彼女の仕事ぶりに目を見張る。

小ぶりの佳作だが、ウィンスレットはストーリーに十分な膨らみを与えている。子や孫に慕われていた老女がクリスマス前に天国に旅立とうとしているという設定はお涙ちょうだいふうになりかねない。

<体形バッシングも年齢の壁も乗り越え、オスカー女優はいま新たな充実期にある――(インタビュー)>, 息子の脚本を自ら映画化, 「体形いびり」に苦しむ, 年を重ねる喜びを実感

ドラマ『メア・オブ・イーストタウン』では刑事役に MICHELE K. SHORT/HBO

だがウィンスレットは安っぽい感傷に流れないよう、疎遠になっていた家族のそれぞれの思いを絶妙なさじ加減で描いていく。センスのよい演出とアンダースの脚本、キャスト陣の達者な演技のおかげで、終盤には切なくも心温まるカタルシスが待ち受けている。

女優としてのウィンスレットは早くから演技力を認められていたが、バッシングの嵐にさらされる苦い経験もした。特に『タイタニック』の大ヒット後には太りすぎだとたたかれた。「人目にさらされ傷つけられる怖さを思い知らされた」と、彼女は話す。

タブロイド紙の記事や授賞式シーズンのコメンテーターの発言ばかりか、女性誌の紹介記事にまで体形をけなす辛辣な言葉が並ぶようになった。

「あれほどひどい体形バッシングは絶対に許されない。ただの悪ふざけじゃない。今なら訴訟沙汰になるレベルよ」

やや強い調子で言うと、一息ついて表情を緩め、こう付け加えた。「あの騒ぎを耐え抜いたことを、私は誇りに思う。そして50年生きてきて、いま初めて映画の演出をする機会を与えられ、とてもとても感謝しているわ」

女優は50代に入ると仕事が減るのがハリウッドの常識だ。けれどもウィンスレットは新しいスキルを磨き、撮影現場でこれまで以上に大きな主導権を握ろうとしている。

プロデュースを手がけ始めたのは20年代に入ってから。21年のテレビシリーズ『メア・オブ・イーストタウン』が最初だった。高く評価されたこのミニシリーズで、ウィンスレットは製作総指揮に加え、タイトルロールも演じた。

年を重ねる喜びを実感

23年の『リー・ミラー』では、初めて長編映画のプロデュースに挑んだ。これは第2次大戦中に従軍記者として活躍した実在の報道写真家を描いた作品。企画実現に何年もかかり、資金調達も難航したが、ウィンスレットの執念で製作にこぎ着けた。

「彼女を取り上げた作品が1つもないことが信じられなかった」。ファッションモデルから従軍写真家に転身したミラーのことを多くの人に知らせたいと思った理由を、ウィンスレットはこう説明する。

「当時は女性が前線に行くことはまず不可能だった。それでも彼女は抜け道を探し、手だてを尽くして、男たちと共に戦地に身を置いた。その信念にはただただ脱帽よ」

昨年12月に公開されたウィンスレットの2本の出演作は、今どきの映画鑑賞スタイルの二極化を反映している。自宅のリビングでくつろいで見るか、映画館の巨大スクリーンで超大作の世界に没入するか。

『グッバイ、ジューン』のような役者の演技で魅せる佳作は一部劇場での限定公開後、ホリデーシーズンにネット配信で自宅で視聴できる方式がぴったりだ。

一方『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』でウィンスレットが演じるのは惑星パンドラの青い肌をした先住民。シリーズ2作目の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』からこのSF寓話に仲間入りしたウィンスレットは、今作でも海の民のシャーマンで勇敢な戦士でもあるロナルを演じる。

環境破壊を扱ったキャメロン監督の5部作『アバター』シリーズは、スマホの画面に熱中する人々を映画館に向かう気にさせる、今や絶滅危惧種ともいうべき娯楽大作だ。

『グッバイ、ジューン』の配信が開始されたのは『アバター』第3弾の封切りからわずか数日後。ウィンスレットはスケールもスタイルも異なるこの2本で立て続けに映画ファンを魅了したことになる。

そんな芸当ができる役者、いや役者兼監督はまずいない。ウィンスレットはこれまでの人生でそうしてきたように、新たな挑戦にも果敢に、なおかつ気負わず取り組んでいる。

「この間お友達からテキストメッセージをもらったの。60歳の人なんだけど、『忙しいのにゴメンね。元気づけてほしいの。私のことなんか誰も目に留めないみたいで』と。『そんなふうに思わないで。二度とそんなことを言わないと約束して』と返信したわ」

そしてウィンスレットはこう続けた。「女性の知的な魅力は年を重ねるごとに深まると思う。経験を積んで精神的に成長するから。50歳になった今、私は人生を満喫している。これからどんな日々が待っているかとても楽しみよ」

ジェニファー・H・カニングハム(本誌米国版編集長)、カイル・マクガバン