イランに集中する米軍、最大の課題は中国

空母「ジェラルド・R・フォード」の配備は2度延長されており、現在は対イラン作戦を展開している
日本に駐留する米軍の防空部隊は2024年、緊急指令を受けた。彼らは地球の反対側で、イランとその代理勢力からの弾道ミサイルの脅威を食い止めるのを支援することを求められた。迎撃ミサイル「パトリオット」のシステムが米インド太平洋軍から中東に移転したのは、初めてのことだった。パトリオットは5カ月間、中東にとどまった。
その翌年には、追加のパトリオットシステムと何百人もの兵士が続いた。それは大型輸送機「C17」73機分に上る規模だった。本来なら中国および北朝鮮と戦闘するための訓練を受けていた部隊が韓国と日本から6月にカタールに投入され、迎撃ミサイルを次々に発射した。これはパトリオットの戦闘としては米国史上最大のものだった。部隊は10月下旬にアジアに帰還した。
米軍は中国を最大の課題と見なしているが、米政府は戦うべき戦いをなかなか選べずにいる。ドナルド・トランプ米大統領によるイランとの戦争はその最新の事例だ。
この激化する戦闘は何週間も続く可能性があり、世界中の港や基地から米国の戦艦や航空機を引き寄せている。米軍は既に膨大な火力を費やしており、この地域の作戦を監督する米中央軍(セントコム)によれば、戦闘の最初の100時間で2000発以上の弾薬が、それとほぼ同数の標的に対して使われたという。その中には、数が豊富で補充が容易な爆弾が含まれるが、そうではない高性能ミサイルも含まれる。
兵士たちはイランによるミサイル攻撃やドローン攻撃を撃退するために防空迎撃ミサイルを大量に消費している。米海軍の駆逐艦は、1000マイル(約1600キロ)以上離れた標的を攻撃できる巡航ミサイル「トマホーク」の一斉射撃を行っている。
戦略国際問題研究所(CSIS)の上級研究員、トム・カラコ氏は「何かあったときにインド太平洋軍が必要とするであろう長距離ミサイルを中央軍が使う、というパターンが繰り返されている」と述べた。「われわれにはイランを打ち負かせるだけの弾薬がある。問題は、それが中国を抑止するのに必要な分にいかに食い込んでくるかだ」
中国は手ごわいライバルであり、世界最大級のミサイル在庫、大規模な艦隊や比類なき製造能力を持つ。中国は台湾の併合を目指しており、そのために武力を行使する可能性を排除していない。米国の軍と国防分野の産業基盤は、そうした緊急事態に備えるのに苦労している。
中国政府が台湾侵攻を命じ、米国が戦うことを決めた場合、米軍には多数の弾薬が必要になる。台湾海峡を渡ってくる中国船を攻撃し、中国からの砲弾を撃ち落とすためだ。
ジョー・バイデン前大統領の政権で国防次官補代理を務めたマイケル・ホロウィッツ氏は、中国の能力がイランよりも「桁違いに大きい」と指摘し、「イランが保有するあらゆる最低水準の兵器に加え、より先進的な兵器が大量にあると考えるべきだ。これを打ち負かすには、はるかに大きな防空能力が必要になるだろう」と述べた。

カタール上空で、ミサイル迎撃を受けて発生したとみられる煙

2月にタイで行われた米インド太平洋軍とアジアの同盟国による合同演習
しかし、米国の兵器庫には、ウクライナと中東での戦争によって、大きな負担がかかっている。インド太平洋軍司令官のサミュエル・パパロ海軍大将は2024年にその点について聞かれた際、先進的なミサイルの使用によって在庫が減っていると答えた。他地域の紛争のために共通の在庫にある兵器が使用されることで、「米国がインド太平洋地域での有事に対応する能力に本質的な負担がかかっている」と指摘し、同地域を「最も負荷がかっている地域」だとした。
同氏は「われわれはそれらの在庫を補充し、さらに追加すべきだ」と述べた。
補充は行われていない。その一方で、米国はミサイルを消費し続けており、そのペースは場合によっては生産を上回る。昨年のイランとの12日間に及ぶ戦闘では、米国は「高高度防衛ミサイル(THAAD)」システム2基をイスラエルに移動させ、イランの弾道ミサイルを撃ち落とすため150発を超えるミサイルを発射した。これは国防総省がそれまでに調達した迎撃ミサイルのほぼ4分の1に当たる。
パパロ氏は昨年、自身の担当地域に割り当てられた戦力が数カ月にわたり中東に送られた際、「より切迫した事態」に対応するためにそれらの戦力を急きょ呼び戻す必要が生じ得るような「警告や兆候」がないかどうか、インド太平洋地域の状況を注視していると述べていた。
米国は長年にわたり、アジアに重点を移すと表明してきたが、他の地域への関与で身動きが取れないままだ。現政権にいる多くの国防戦略家は昨年の就任時に、米国の戦力は広く分散し過ぎており、中国に焦点を絞る必要があると主張していた。
エルブリッジ・コルビー米国防次官(政策担当)は、バイデン前政権がウクライナに弾薬を供与したことを批判した。コルビー氏は2024年にXへの投稿で、あらゆる場所で積極的かつ支配的であることには、米軍の酷使や限られた備蓄の逼迫(ひっぱく)を含む見えない代償が伴うとの見解を示した。
同氏は「軍が過度に負担を強いられれば、西太平洋における中国の攻撃に対して十分な即応態勢を取れない」と語った。
コルビー氏は今月4日、有力シンクタンクの外交問題評議会で講演し、イランへの攻撃には同国の軍事力投射能力を弱体化し破壊するという「合理的で達成可能な」目標があると述べた。アジアに関しては、米国は台湾、日本、フィリピンを含む第1列島線沿いでの侵略を阻止することに注力していると説明した。
かつて国防総省でアジア太平洋地域の安全保障問題を担当し、米防衛大手レイセオン・テクノロジーズ(現RTX)の台湾駐在代表を務めたトニー・フー氏は、米国が中東や欧州の戦時用備蓄だけでなく、米本土の戦時用備蓄にも手を伸ばす可能性を懸念していると述べた。
同氏は「こうした備蓄はアジアにおける緊急事態への対応用でもある」と述べ、「短期的な戦術の成功を追求するあまり、中国に対する戦略的抑止力を維持する能力が損なわれているのではないか」と指摘した。
アジアおよび西太平洋地域には、米軍が運用するTHAAD中隊8個のうち2個(1個は韓国、もう1個はグアム)が配備されている。各中隊は6基のトラック搭載型発射装置で構成されており、計48発の迎撃ミサイルを搭載可能だ。パトリオットに関しては、米軍は韓国で2個大隊を運用しており、日本にも1個大隊を展開している。一つの大隊は通常4個中隊を運用し、各中隊は最大128発の迎撃ミサイルを装備する。
韓国軍、日本の自衛隊、台湾軍も独自のパトリオット中隊を保有しているが、迎撃ミサイルの供給に関して米ミサイル防衛部門と競合している。米防衛大手ロッキード・マーチンからライセンス供与を受けている日本の三菱重工業は、自衛隊向けのパトリオットを製造しており、その生産分の一部は米国に輸出され、減少した米国の備蓄を補充するのに使われている。
国防総省は補充を急いでいる。同省は1月、ロッキード・マーチンとの間で、迎撃ミサイルの年間生産能力を大幅に増強する契約を結んだ。THAADは96発から400発に、パトリオットは600発から2000発に引き上げられる。生産能力増強は7年かけて行われる見通しだ。