マキタ、売上7,531億円。「あえて非効率」な会社が国内シェア60%を取った話

マキタ、売上7,531億円。「あえて非効率」な会社が国内シェア60%を取った話
この記事で学べること
「良い商品を作れば売れる」と信じてない?
マキタは111年かけて、それが間違いだと証明した会社。
✓ モーター修理屋が「壊れにくい工具」を作れた逆転の武器
✓ 競合が1年遅れた「バッテリーの賭け」の裏側
✓ 393機種が同じ電池で動く「逃げられない仕組み」の構造
✓ 1万人の前でドリルが髪に絡まった事件と、マキタの意外な対応
✓ 修理費の請求書を見て驚いた話
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21歳のモーター修理屋
来る日も来る日も、壊れたモーターが持ち込まれる。
分解して、焼きついたコイルを巻き直して、また組み立てる。
1915年、名古屋。牧田茂三郎さん、21歳。
従業員は自分を入れて4人の町工場やった。
この4人の修理屋が、111年後に売上7,531億円、180カ国に展開する会社になる。
でもここから43年間、牧田電機製作所は「修理屋」のままやった。
モーターを直し続ける日々。華やかさはない。
43年間修理だけしてた会社が、なんで工具を作れたんか?

イメージ* * *
毎日壊れた工具を直してたら、最強の武器が手に入った
1957年、マキタは電気カンナの開発に着手した。
なんでモーター修理屋が工具を作れるん?
毎日壊れた工具を直してたから、「どこが壊れやすいか」を誰よりも知ってた。
ギアが摩耗する箇所。ベアリングが焼きつく条件。スイッチが接触不良を起こすタイミング。
全部、修理屋として嫌というほど見てきた。
1958年、国産初の携帯用電気カンナ「モデル1000」を発売。
日本の建築材に合わせた切り幅、小型軽量設計。
大工さんの作業に特化した設計は、修理で聞いた不満の裏返しやった。

普通のメーカーは「市場調査」に金をかける。
マキタは要らんかった。
毎朝、お客さんが「ここが壊れた」って教えに来てくれるんやから。
しかもこの構造は111年後の今も続いてる。
営業担当が社内研修で製品の仕組みを学び、自ら修理を行い、ユーザーの声を直接吸い上げて次の製品開発に活かす。
「作る→売る→直す→直した知見で次を作る」のサイクル。
創業時の修理屋のDNAが、会社の仕組みとして組み込まれてる。
でもこれだけじゃ国内シェア60%は取れん。2005年、勝負を分けた瞬間が来る。
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ハイコーキが1年遅れた「賭け」
2005年2月。
マキタはリチウムイオンバッテリー搭載のインパクトドライバを発売した。業界最速。
当時の電動工具はニッカドかニッケル水素バッテリーが主流。
重い、すぐ切れる、メモリー効果がある。
リチウムイオンは軽い。長持ちする。メモリー効果もない。
ただし、コストが高い。
しかも互換を切れば、今マキタを使ってくれてる職人が離れるリスクがある。
「新しい電池に賭けるか、今の客を守るか」
マキタは前者を選んだ。
旧バッテリーとの互換を切って、リチウムイオンに全力で振った。
一方、ライバルのハイコーキ(当時は日立工機)。
旧バッテリーとの後方互換を維持しようとした。
既存ユーザーを大事にする、堅実な判断。
結果、ハイコーキのリチウムイオン対応は1年以上遅れた。
たった1年。
でもこの1年が致命的やった。
マキタはその1年で18V対応機種を一気に15機種投入。
2008年には売上過去最高を更新。
「マキタ=リチウムイオン」のイメージが業界に定着した。
後から追いかけても、先に棚を取った者が勝つ。
「良い判断」と「早い判断」は同じくらい大事やったんよ。
1年の差が、393機種の壁になった。

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なぜ電池1個で逃げられなくなるのか?
18Vバッテリー対応機種、現在393機種。
全電圧合わせると700機種超。

ドリルも丸ノコも掃除機もコーヒーメーカーもラジオも、全部同じ電池で動く。
これ、Appleのエコシステムとそっくり。
iPhoneを買う。
するとAirPodsもMacBookもApple Watchも「揃えたく」なる。
逆にAndroidに乗り換えると、周辺機器が全部使えなくなる。
マキタも同じ構造。
バッテリーを1つ買う。393機種が使える。
次に工具を買う時「マキタにしとこ」になる。なぜなら電池がもうあるから。
逆に競合に乗り換えると?
充電器2台、バッテリー6個、全部ゴミ。
工具の値段よりバッテリー代のほうが高いこともある。
一度マキタで揃えた職人は、もう動けん。
ハイコーキが「マルチボルト」という技術で18Vと36Vを両対応にしても、マキタユーザーは動かん。
「性能が上」かどうかじゃない。
「バッテリーをすでに持ってるかどうか」が判断基準やから。
結果、国内シェア60%。
「良い工具を作った」んじゃなくて「抜けられない仕組みを作った」会社。
商品力じゃなくエコシステムの力で勝った。
でも工具が壊れたらどうする?性能がいくら良くても、止まったら終わりやんな?
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「壊れない工具」より「すぐ直る工具」
職人にとって工具が止まる=仕事が止まる=お金が止まる。
1日止まるだけで数十万円の損失になる現場もある。
マキタはこの「止まる恐怖」を潰した。
修理3日体制。
全国129カ所の直営営業所に、マキタ製品だけを毎日扱う専門スタッフが常駐。
外注ゼロ。仲介なしの直接対応やから、情報のロスがない。
実際の修理体験がすごかった。
窓口で5分。申し込み用紙を書くだけ。
3日後、電話が来る。「修理完了です」。
請求書を見て驚く。工賃ゼロ。部品代だけ。
充電式クリーナーの修理費用、5,980円。
しかもモーター交換だけで済むところを、「復元義務」に基づいて関連部品を全部交換してくれる。
VOLTECHNOの修理レポートで「マキタが修理3日体制を掲げるのは伊達ではない」と書かれてた。
登録販売店2万店が窓口になるから、日本中どこでも持ち込める。
ちなみにハイコーキは2023年、国内の全10支店・46営業所を閉鎖した。
129 vs 0。この差は、もう埋まらん。
マキタが111年かけて積み上げたネットワークを、後から作り直すことすらできない。
しかもこの修理ネットワークが、さっき話した「作る→売る→直す→次を作る」のサイクルの核になってる。
129カ所の営業所から、毎日「どの工具のどの部品が壊れた」というデータが本社に集まる。
修理体制は「コスト」じゃなく「最強の市場調査網」。
プロが選ぶ基準は「壊れない工具」より「すぐ直る工具」やった。
「良い商品を売る会社」じゃなく「プロの手を止めない会社」として勝った。
ここまでは「仕組み」の話。次は、1万人の前でドリルが髪に絡まった男の話をする。

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1万人の前でドリルが髪に絡まった男
MR.BIGってバンド、覚えてる?

ギタリストのポール・ギルバートさん。
1987年からマキタの電動ドリルを使ってる。
工具としてじゃない。ギターを弾く道具として。

ドリルの先端にカスタムした木製ダボ、そこにピックを4枚装着。
軽いゲージのピックを使って弦が切れないようにしてる。超高速トレモロピッキング。
もともとはレーサーXというバンド時代に、ボーカルのジェフ・マーティンさんと「速弾きをもっと面白おかしくできへんか」って話してて生まれた発想。
初ライブで会場が大爆笑。定番になった。
1991年、MR.BIGが「Daddy, Brother, Lover, Little Boy(The Electric Drill Song)」をリリース。
アルバムはビルボード200で15位。全米ミリオンセラー。
で、事件が起きた。
1990年、アトランタ。
MR.BIGがRushの前座で1万人の前に立った。
演奏中、マキタのドリルがポールさんの髪に絡まった。
ポールさん本人いわく「あれはSpinal Tapの瞬間やった」。
「映像が残ってないのが残念。スマホ時代じゃなかったから」
普通のメーカーなら「工具を楽器に使うな」「事故が起きた」って距離を置くやん?
マキタは逆。公式スポンサーになった。
1992年のツアーではステージにマキタの巨大ロゴがデカデカと。
ポールさんはお礼に「I Love You Japan」って曲を作った。
この曲、マキタの社歌になってる。
電動工具メーカーの社歌を、アメリカのロックバンドが作った。こんな会社、他にある?
2023年のフェアウェルツアー(解散ツアー)にもマキタが協賛。
30年以上スポンサー関係が続いた。
売上7,531億円、180カ国に展開するマキタの名前が、工具に興味ない音楽ファンにも届いた。
「想定外の使い方をするユーザー」は「迷惑」じゃなく「最高の宣伝マン」やった。

マキタの「想定外」はドリル奏法だけちゃう。今開発してる製品、聞いたら二度見するで。
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電子レンジも作る「工具メーカー」
マキタの製品ラインナップ、全電圧合わせて700機種超。年間約100モデルの新製品を開発してる。
コーヒーメーカー、ラジオ、ファンジャケット、ロボットクリーナー。
掃除機だけで26種類。全部、同じ18Vバッテリーで動く。
しかも今、充電式の電子レンジやケトル、電動アシスト自転車まで開発中。

マキタHPより
なんで工具メーカーが電子レンジを?
職人は現場で8時間以上過ごす。
工具だけじゃなく、コーヒーも音楽も暑さ対策も弁当の温め直しも必要。
「同じバッテリーで動くなら全部マキタで揃えたい」。

海外の建設現場で「電源ないけどコーヒー飲みたい」って声があった。
マキタが充電式コーヒーメーカーを出したら、海外の建設現場で話題になった。
電源のない現場で淹れたてのコーヒーが飲める。職人が盛り上がらんわけがない。

競合が「工具の性能」で戦ってる間に、マキタは「現場の生活そのもの」を押さえた。
さらにマキタは2022年3月、エンジン製品を完全廃止した。業界初の完全充電式メーカー。
充電式草刈機は排気ガスゼロ、騒音大幅減。住宅地でも使える。
脱炭素の追い風もあって、園芸分野でもシェアを拡大中。

後藤宗利社長は「充電式製品の総合サプライヤー」を標榜してる。
経営の柱に掲げたのは「質実剛健の社風」。派手さはない。でも堅実。
日経ビジネスはマキタを「あえて非効率」と評した。
700機種超の製品を作る。コーヒーメーカーも電子レンジも。一見、非効率に見える。
でも全部が同じバッテリーで動く。1つ買えば全部使いたくなる。結果、シェア60%。
ポイントは「電動工具メーカー」って自分で名乗るのをやめたこと。
「18Vバッテリーで動くもの全部作る会社」に再定義した瞬間、市場が無限に広がった。
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まとめ:マキタが111年で証明した3つのこと
マキタの強さは「良い製品を作った」では説明できん。
3つの仕組みが噛み合ってる。明日から使える視点も添えておく。
1. 修理が最強の武器になった
・43年間モーターを直し続けた経験が、壊れにくい工具の設計力になった
・今も129営業所の修理データが次の製品開発に直結してる
・工賃ゼロ、3日で修理完了。プロの手を止めない仕組みが信頼を作った
→ 明日からできること
お客さんのクレームや修理依頼を3つ集めて、「次の商品のヒント」として読み替えてみる。自社の困りごと対応を何日で解決してるか測って、1日縮める方法を探す
2. バッテリーで囲い込んだ
・2005年に互換を切る賭けに出て、ハイコーキが1年遅れた間に棚を取った
・393機種が同じ電池で動く→乗り換えコストが異常に高い→シェア60%
→ 明日からできること
自社の製品やサービスに「1つ持ってたら他も全部使いたくなる」共通基盤がないか考える。「既存顧客に配慮して踏み出せない」領域がないか洗い出す
3. 自社の定義を壊した
・「電動工具メーカー」→「18Vバッテリーで動くもの全部作る会社」に再定義
・700機種超、電子レンジまで開発中。「あえて非効率」で高収益
・想定外の使い方をするユーザーを排除せず、30年スポンサーになった
→ 明日からできること
会社の名刺に書いてある肩書きや業種を「お客さんが本当に買ってるもの」で書き直してみる

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あなたの会社の「定義」、狭すぎない?
○○メーカー、○○屋って名乗った瞬間に、市場を自分で閉じてるかもしれん。
111年前、牧田茂三郎さんは「モーター修理屋」から始めた。
今、マキタは電子レンジも作ってる。
お客さんのクレーム対応や修理依頼のメモ、今日もう一回見てみて。
そこに次のヒット商品のヒントが眠ってるかもしれんで。
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