今さら人には聞きにくい「量子って何?」量子力学の誕生から100年、研究と社会実装はここまで進んだ

量子ブームと『三体』の大ヒット, 量子をテーマにした展覧会が次々に, 知っておきたい量子科学の基礎, スパコンを超えた量子コンピュータ

「ミッション∞インフィニティ|宇宙+量子+芸術」展示風景古澤 龍《Mid Tide #3》 2024年

(ライター、構成作家:川岸 徹)

国際量子科学技術年(2025年)にあわせて、宇宙や量子などのサイエンス領域とアートのコラボレーションによって「世界の成り立ち」や「見えない世界」について考える企画展「ミッション∞インフィニティ|宇宙+量子+芸術」が東京都現代美術館で開幕した。

量子ブームと『三体』の大ヒット

 いま、「量子」が世界的なブームだ。そもそも量子科学の世界に身を置く研究者や技術開発者、科学好きにとっては「何をいまさら」という感じだろうが、現在の量子ブームは学問として量子科学を学んだことがない一般層も巻き込んでいる。

 そのブームのきっかけであり、ひとつの象徴ともいえるのが『三体』の世界的ヒットだろう。『三体』は中国・劉慈欣によるSF小説で、2015年にSF界の最高賞とされるヒューゴー賞 長編部門をアジア人作家として初めて受賞。日本語を含む20カ国語以上に翻訳され、累計発行部数は約3000万部。中国でドラマ化された後、米国Netflixがリメイクし、さらに今後は中国映画界の巨匠チャン・イーモウ監督による映画化が予定されている。

 現時点で21世紀最大のベストセラーである『三体』のベースにあるのが「量子」だ。量子力学最大の難問といわれる「三体問題」を軸にストーリーが展開され、「量子もつれ」を用いた宇宙通信といった量子技術の数々が胸を高鳴らせる。聞き慣れない科学用語は出てくるものの、難解さはまったくない。量子ってこんなに面白いのか、こんなに可能性に満ちているものなのかと、広大な量子の世界に惹かれるばかりだ。

量子をテーマにした展覧会が次々に

 日本でも「量子」はどんどん身近なものになってきている。2025年大阪・関西万博ではEXPOメッセ「WASSE」にて「エンタングル・モーメント―[量子・海・宇宙]×芸術」展が開催され、量子と芸術がエンタングル(=もつれ合う)する作品が紹介された。

 2026年に入っても量子ブームの勢いは止まらない。1月29日に東京・青山スパイラルガーデンで「量子芸術祭 Quantum Art Festival 4/4」が開幕。さらに1月31日には東京都現代美術館で「ミッション∞インフィニティ|宇宙+量子+芸術」が始まった。国連宣言による国際量子科学技術年(2025年)にあわせて、宇宙や量子などのサイエンス領域とアートのコラボレーションを通して「世界の成り立ち」や「見えない世界」について考察する企画展となっている。

 こうした状況になると、今さら「量子って何?」とは聞きにくいもの。本展の開催を機に、量子に関する基礎知識を紹介したい。

知っておきたい量子科学の基礎

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「ミッション∞インフィニティ|宇宙+量子+芸術」展示風景落合陽一《リキッドユニバース:物化する計算機自然、質量への憧憬の転回》2026年《物象化する願い、変換される身体(足長)(手足)》2022年

「量子」という概念が誕生したのは20世紀はじめのこと。ドイツの物理学者マックス・プランクが最小単位のエネルギーのかたまりとして「量子」を考え出した。現在、文部科学省では量子について以下のように解説している。

「量子とは、粒子と波の性質をあわせ持った、とても小さな物質やエネルギーの単位のことです。物質を形作っている原子そのものや、原子を形作っているさらに小さな電子・中性子・陽子といったものが代表選手です。光を粒子としてみたときの光子やニュートリノやクォーク、ミュオンなどといった素粒子も量子に含まれます。量子の世界は、原子や分子といったナノサイズ(1メートルの10億分の1)あるいはそれよりも小さな世界です。このような極めて小さな世界では、私たちの身の回りにある物理法則(ニュートン力学や電磁気学)は通用せず、「量子力学」というとても不思議な法則に従っています。」

 では、量子力学の不思議な法則とはどのようなものか。よく知られているものとして、「重ね合わせ」と「量子もつれ」がある。「重ね合わせ」はコインが表でもあり、裏でもあるといった不思議な状態のこと。量子は相反する2つの状態を同時にとることが可能。量子を実際に測定すると、2つが重ね合わさった状態は消え、どちらかがランダムに現れる。

「量子もつれ」は、2つの量子がどんなに離れていても連携して変化するという性質。一方の量子を測定した瞬間に、もう一方の量子の状態が決まるという不思議な現象が発生する。

スパコンを超えた量子コンピュータ

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「ミッション∞インフィニティ|宇宙+量子+芸術」展示風景 久保田晃弘+QIQB《Quantum Computer Art Studies》2025-2026年

 こうした量子の不思議な性質を積極的に操作・制御し、活用しているのが「量子技術」だ。量子力学の誕生から100年の間に様々な新しい技術が生み出されてきたが、その最大の成果といえるのが「量子コンピュータ」。1985年にイギリスの物理学者デイヴィッド・ドイチュが量子コンピュータの理論をつくり、世界が工学的な実装に向けて動き出した。日本が果たした役割も大きく、1999年にはNECの研究グループが超伝導を用いた世界初の量子ビット実験に成功。超伝導チップで量子の「重ね合わせ」を作り出している。

 そして2023年、理化学研究所にて国産初の量子コンピュータ「叡」が稼働開始。この年には富士通、大阪大学で2号機、3号機が公開され、日本の「国産量子コンピュータ元年」となった。

 では、量子コンピュータはどれほどすごいものなのだろうか。現在のコンピュータは複数のトランジスタにデータを記憶させて計算を行う構造。トランジスタ50個に記憶できるのは50桁のデータ1個のみのため、記憶が終わったら次のデータを記憶させて再び計算を開始するという仕組みだ。だが、量子コンピュータの場合は、「量子もつれ」を用いることで、大量のデータを同時に記憶。量子ビット50個に1000兆個のデータを重ねて記憶することができる。米国グーグルは2019年に「同社の量子コンピュータが世界最速のスーパーコンピュータでも1万年かかる問題を200秒で解くことに成功した」と公表している。

 前述の大阪・関西万博「エンタングル・モーメント」展(2025年8月)では、国産量子コンピュータ3号機(大阪大学)と会場をリアルタイムで接続し、来場者が遠隔で「触る」ことのできる試みが行われ、実際に量子コンピュータを稼働させて生まれた初の量子コンピュータアート作品が展示された。

 東京都現代美術館で開催中の企画展「ミッション∞インフィニティ|宇宙+量子+芸術」では、その流れを汲み、さらに追求した作品群(形態に加え、色彩論を展開した新作など)が発表され、古典コンピュータアート黎明時代の先駆者作品とともに展示されている。量子について、「実はよく知らないんだよね」という人にこそ見てほしい。まずは、その世界を「なんとなく」でいいから感じてみるべきだ。

「ミッション∞インフィニティ|宇宙+量子+芸術」

会期:開催中~2026年5月6日(水・振休)

会場:東京都現代美術館 企画展示室B2F、ホワイエほか

開室時間:10:00~18:00 ※入室は閉室の30分前まで

休室日:月曜日、2月24日(火)(2月23日、5月4日は開室)

お問い合わせ:03-5245-4111

https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mission-infinity/

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