岡本信彦「葬送のフリーレン」勇者ヒンメル役…「仲間内では普通の青年」

天才肌から熱血漢、狂気が潜んだキャラクターまで、変幻自在に様々な人物を演じてきた人気声優の岡本信彦さん。現在日本テレビ系で放送中のTVアニメ「葬送のフリーレン」では、主人公のかつての仲間だった勇者・ヒンメルを演じています。フリーレンの旅のきっかけとなった穏やかで優しい青年をどう表現したのでしょうか。

岡本信彦さん

「葬送のフリーレン」は、かつて魔王を倒した勇者パーティーの一員で、千年以上生きる魔法使い・フリーレンが、魔王討伐で冒険した旅路を、新たな仲間のフェルンやシュタルクとたどっていく物語です。その旅が始まるきっかけが、勇者・ヒンメルの死。人間の時間は短いと気づいた長命種のフリーレンが、“もっと人間を知るため”、新たな旅路を歩んでいきます。

「魔王を倒すまでではなく、倒した後のエピローグから始まる斬新な物語。葬送とは何か。エルフというファンタジーの種族が、人間から得た知識や見聞を後世の人間に伝えていくというエモーショナルな展開が好き」

勇者ヒンメルの死から29年後――と、印象深いモノローグから、静かに物語が進んでいきます。ヒンメルは魔王を倒した伝説の勇者で、各地に銅像が建てられるほど。本人も当時は理想の勇者として振る舞いつつ、仲間に見せるのは、優しく、そしてナルシストな普通の青年の姿。

勇者ヒンメル (c)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

「初めは勇者然と、 凜 ( りん ) としようとしていました。でも種崎(崎はたつさき)敦美さんが、フリーレンをナチュラルに演じていて、僕もその要素を足し、どれだけ普通にセリフを言えるかを意識し、達観したさわやかな青年という感覚でベースを作りました」

(c)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

岡本さんが特に印象に残っているのは、80年前に伝説の勇者の剣が抜けず、ヒンメルが「いいじゃないか偽者の勇者で」と語る場面。「役者も偽者なんですよ。たとえ体験したことがなくても、想像で表現し、感情を動かせれば本物になる。ヒンメルに後押ししてもらえた気がしました」

本作は、背景や音楽、直接的ではないセリフ、「間」によって、見えざる思いが表現されています。「繊細さが求められている。声優の声色の情報はいらないのかも。余白を持たせ、考える間を渡す。その間の秒数にもきっと意味がある、みたいな。受け手に想像させる」

岡本さんはヒンメルとフリーレンが初めて出会う場面の「きれい」という言葉にも着目します。「フリーレンが花畑を出す魔法を使ってくれて、花畑そのものが『きれい』という意味と、ヒンメルへの思いやりで魔法を使ってくれたフリーレンそのものが『きれい』。僕個人の解釈では、幼少のヒンメルは、感情的にときめきはあったんじゃないかなって思います」

岡本さんが声優を目指したのは小学生の頃。「『スラムダンク』のアニメが好きでバスケ部に入ったけど、下手で。でもキャラクターになれば上手になれると思って」。高1で養成所に入り、19歳でアニメにレギュラー出演。その後、「ペルソナ~トリニティ・ソウル~」で人気声優の子安武人さん、沢城みゆきさんと共演。その経験が今に生きています。「子安さんから『俺たちの仕事はキャラクターを自分の声でどれだけ魅力的にするかだから』と教えられて」

「一番声優人生をかけた」のはやはり「ヒロアカのかっちゃんですね」と、「僕のヒーローアカデミア」で演じた爆豪勝己を挙げます。ヒンメルとは全く逆の、気性の激しい性格で、「(声に)情報量を120%以上、むしろもっと乗せろ、みたいな」。そして、ラストバトルの死闘では、叫び続け、「のどから血を流しながら」演じました。「声が出なくなる可能性が高い発声方法で、それくらい一番命をかけて。30代を共に過ごし、全力で叫べる年齢で最後まで全うできてよかった。人生をかけてもいいと思えるキャラクターに出会えたのもうれしかった」

(c)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

<勇者ヒンメルならそうしたってことだよ>。フリーレンは道中、亡きヒンメルの優しさや生き方を思い出し、行動の指針とします。

岡本さん自身の指針は、「好きこそものの上手なれ」という言葉。「好きな気持ちが結果、原動力になる。好きだからこそうまくなれる。迷った時の原点です」。アニメで表現される世界は、現実では経験できないことも多い想像の世界。だからこそ、「イマジネーションを大事にしたい」と力を込めます。「キャラクターになった瞬間の目線の先に何が見えているか。想像力で真実味を出す。後輩にもイマジネーションを頑張れとよく言います」。また、コンプレックスも大事だとか。「現実で悔しいって思う気持ちが、お芝居の中でならうまくできるかもしれない。理想の主人公になれる」

岡本さんも力をもらった「葬送のフリーレン」の物語。「人と人との会話で紡がれる思いやりや愛情、優しさが描かれています。人生の指針になるような言葉や普遍的なものがちりばめられているので、楽しんでもらえたらうれしいです」

筋トレ…叫びやすく高い声や歌うのが楽に ヒロアカの物語の中で、かっちゃんの心臓が止まった際、復活時にめいっぱい叫べるように、自分もプルスウルトラ(さらに向こうへ)しなきゃと頑張ったんですけど、結論は「違う」と。呼吸するのも、心臓の苦しみ、地獄の痛みがあるんだから、叫べるわけがないんですよね。でも、ほかの現場で叫びやすくなり、高い声や歌うのも楽になり、いいことずくめです。

将棋…小学生の頃は将棋のプロを目指していました 今は将棋のアプリで累計1万6000局以上やっています。アプリ内だと五段。中1で、三段の免状を将棋会館でもらいました。藤井聡太さんとラジオでしゃべった時は楽しかった。休みの日は「何もしていない」と。でも、よくよく聞くと、将棋ばかり。こういう人が天才なんだなって思いました。

漫画…ライバルキャラが好き 「幽☆遊☆白書」です。飛影が本当に好きで。「スラムダンク」の流川楓とか、ライバルキャラが好き。飛影の「邪眼の力をなめるなよ」ってセリフは冨樫(義博)先生の天才的な言葉。普通じゃ思いつかない。多くの人が中二病にさせられたのがこの漫画だと思います。

毎週金曜午後11時から日本テレビ系全国30局ネット“FRIDAY ANIME NIGHT”にて放送中。※放送時間が変更になる場合あり。原作は「週刊少年サンデー」(小学館)で連載中の山田鐘人(原作)とアベツカサ(作画)による漫画。既刊15巻のシリーズ世界累計部数は3500万部以上。

(文・読売新聞文化部 川床弥生/写真・三輪洋子)

プロフィル 岡本信彦(おかもと・のぶひこ) 1986年10月24日生まれ。東京都出身。アニメ「青の祓魔師」(奥村燐)、「ハイキュー!!」(西谷夕)、「鬼滅の刃」(不死川玄弥)、「とある魔術の禁書目録」(アクセラレータ)など多数出演。