板垣李光人の「台本になかったセリフ」が最高! シーンの格が上がったワケ〈ばけばけ第113回〉

『ばけばけ』第113回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第113回(2026年3月11日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

顔をあげたときの錦織の美しさ

「ハジメテ」

 錦織(吉沢亮)の部屋に初めて入ったヘブン(トミー・バストウ)は少し感慨深そう。

「そうでしたね。いつも伺うばかりでした」と錦織は淡々としている。

 いつも伺うばかりだったという事実に、ふたりの関係性が出てしまう。

 電話をかけるのはいつもワタシ、みたいなこと(いま、電話じゃないか、メールか)。

 お茶を1杯飲むヘブン。間があって、錦織が話し出す。

 声がか細い!

「〜〜つまり私に知事を説得してほしいと」

「ハイ 説得ネガイマス」

 だが、錦織は「知事からの信頼が、今の私にはないのです」と言う。

「私のせい? 熊本行ったのせい?」

 何がきっかけかはわからないが「とにかく、力になれない」と錦織は頭を下げる。

 それから、顔をあげたときの正面アップ。目が虚(うつ)ろながら、そのやや定まらなさが儚(はかな)く美しい。

 たぶんこれは、幽霊を見たときの美しさ。例えば、雪女に魅入られて目を逸(そ)らせないようなこと。

 ヘブンがこの後、怪談を書きはじめるとき、このときの錦織の顔が影響を及ぼすであろうと筆者は確信した。知らんけど。

 宿に戻ったヘブンとトキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)。

 錦織くんも、スイッチョンの庄田くん(濱正悟)も駄目だとすると、ほかにいないと司之介(岡部たかし)。なんでわざわざ「すいっちょんの庄田くん」と呼ぶのか。このフレーズが気に入っていたのか。

 ヘブンが直談判するしかないと決意する。

 あっちも何も解決しておらんのにーと、トキはすっかりぐったり横になってしまう。

 あっちとは松野家から銀二郎を外すか、雨清水様の籍に3人が入るかの2択問題である。

 すると、フミ(池脇千鶴)がすでにタエ(北川景子)に会ってきたと言い出す。

きたー「雨清水トキ → 丑三つ時」

「勘太をつれて。お許しをいただきました。事情を理解してくださり、快く、3人を雨清水様の籍に入れてくださるそうです」

 え〜 そんな手回しのよさってありか。最終回までこの週を入れて3週。時間がないからはしょったなと筆者は思う。

 初孫を勝手に見せに行くって情緒の欠片(かけら)もない。

 司之介が勘太を勝手に見せにいったことを謝った。そのとおり! と思ったらフミが、「そっちじゃないでしょう」とツッコんだ。

「いや、それもそうなんだけど」と付け加える。

 平謝りのふたりだが、トキは笑いだした。ちょっと引き笑いで奇妙な笑いだ。

 ヘブンも気づいて、ふたりではしゃぎだした。

 わかった! とフミ。

 最後までわからないのは、司之介。

 雨清水トキ → 丑三つ時

 ここだけ文字の級数を大きくしたいくらいだ。

 トキは自分の名前に大喜び。

 丑三つ時とは深夜、誰かを呪う丑の時参りを行う時間である。

 第1話で、松野家が変わりゆく世の中を恨んで行っていた儀式である。

 これはいわゆる「ロングパス」と言われる手法で、伏線回収に長い時間がかかるものを指す。

 筆者は以前、橋爪國臣チーフプロデューサーに、雨清水とトキは、丑三つ時にかけた名前ですか、と聞いたことがある。だがそのときは「どうでしょう」と濁された。ここまで引っ張るつもりだったからだろう。

 しかし、このシリアスな局面でこの名前が出てくるとは予想外だった。

 ひとしきりはしゃいだあと、トキは真顔になる。劇伴もしっとりしたものが流れる。

「松野トキだなくなるのは寂しい。寂しいいうか、ずっと松野トキだったけん。けど。松野だろうが、雨清水だろうが、父上が父上で、母上が、母上なのは、変わらん。なんも変わらん」

 劇伴が雨だれみたいに筆者には聞こえた。

「この家が役に立ってよかった」

 雨清水家では、三之丞(板垣李光人)がタエから、事情を聞いて、そうつぶやく。

「時に、生きていることが恥だと思ったことも、なかったわけではありません」

 時にってトキとかけたダジャレをタエまで!? というのはさておき。

「この世はうらめしい。けど、すばらしい。」

タエ「苦しかったわね」

三之丞「雨清水の人間であることは、うらめしく思ったこともありました」

タエ「わたくしもです。ですが、生きてきてよかった。命をなんとかつないで。こんなふうにはなってしまいましたが、雨清水を残してこられて」

 このときのタエは武家の生まれの顔をしていると感じる。

 傳(堤真一)の遺影が映る。

 この場面はちょうど10年前に放送された朝ドラ『あさが来た』(2015年度後期)で主人公のあさ(波瑠)が姉・はつ(宮﨑あおい)と、長い人生を振り返り、私たちは家を守れただろうかと話し合うシーンを彷彿(ほうふつ)とさせる。

 ふたりは食事にする。三之丞が「失礼を承知で、母上の料理がこのごろ、おいしいです」。

「そうよね。私もそう思います」

 ようやく本音を話せる親子になったのだ。

「はー」と汁物を飲んで三之丞が小さく嘆息する。トキみたいだ(トキより上品だが)。これは台本にはなかったと橋爪CP。

「台本には書いてありませんでした。板垣さんの発案かな。ディレクターの村橋直樹と相談したかもしれません。あの一言でトキと家族になったような気もしますよね」

「はー」があるだけでシーンの格が上がったと筆者には思えた。

「それこそ『この世はうらめしい。けど、すばらしい。』というドラマのキャッチコピーを表しているようです。いろいろなことがあったけれど、2人は生きているし、これから先もきっと生きていけるでしょう。家や伝統に苦しめられることもあれば、助けられることもある。どちらがいいか分からないけれど、たくましく生きていこうということです」と橋爪CP。

 そして、松江中学。錦織が久々に登校するが、具合が相当悪そうだ。

 庄田は、県知事閣下の説得を頼まれた話をするが、錦織はやっぱり県知事に話す気はなさそう。

 雨清水家問題は解決したが、県知事問題は難しそう。いや、それより、解決してほしいのは、ヘブンと錦織問題である。

フォトギャラリー

主なシーンより

第23週(3月9日~3月13日)

「ゴブサタ、ニシコオリサン。」あらすじ

トキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)に息子・勘太が産まれる。初めての孫に喜ぶ司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)よりも、勘太にデレデレなヘブン。丈(杉田雷麟)や正木(日高由起刀)、クマ(夏目透羽)もその溺愛ぶりに目を丸くする。ある日、勘太の出生届をだすためにトキとヘブンの国籍を決めることに。手続きのため家族で久しぶりに松江へ帰ることになり、錦織(吉沢亮)やサワ(円井わん)と再会する。

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / 吉沢亮 / 北川景子 / 蓮佛美沙子 / シャーロット・ケイト・フォックス 板垣李光人 円井わん 濱正悟 岩崎う大 ジョー・トレメイン 杉田雷麟 日高由起刀 / 岡部たかし 池谷のぶえ 池脇千鶴 朝加真由美 佐野史郎 生瀬勝久 小日向文世 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始