創業54年中華チェーン「キムチ無料」の意地通す訳

ラーメンを頼んだだけなのに、キムチも無料で食べ放題になる中華チェーンがあるという(写真:筆者撮影)
ラーメンを頼んだだけなのに、テーブルに着いた瞬間「キムチの壺」がポンッと置かれる。
【写真を見る】壺ごと登場! 食べ放題の自家製キムチはこんな感じ
しかも無料で食べ放題! なんと創業から54年間ずっと、白菜が高騰してもやめなかった。「あじへい」ヨットハーバー店の床辺真一店長は「たぶん、意地やと思います」と笑う。このキムチがラーメンや炒飯のおいしさをさらに高めてくれるのだ。
キムチ食べ放題! 三重県発の中華チェーン「あじへい」
三重県発の中華チェーン「あじへい」は、三重在住の筆者も家族とよく利用している大好きな店だ。あじへいは、株式会社ダイムが運営する飲食店20業態の内の1つ。創業54年で、現在は三重県に14店舗、愛知県に4店舗、岐阜県に1店舗を展開している。
一見どこにでもありそうな郊外型の店だが、昼時には駐車場が満車になり、客は20分で回転する。 常連は「ここのキムチとご飯で3日は生きられる」と言い切る。
なぜあじへいは、半世紀以上も地元民から支持され続けているのか。

あじへいの看板。チャイナドレスを着た女性のイラストがトレードマーク(写真:筆者撮影)

「家族的」という言葉から、“家族で来る店でもあり、家族のように迎えてくれる店でもある”というニュアンスを想像する(写真:筆者撮影)
90年代のJ-POPが流れる店内、回転はラーメン屋並み
昼過ぎに入口の扉を開けると、「いらっしゃいませ! 空いてるお好きな席へどうぞ!」と威勢のよい声を浴びた。90年代のJ-POPが流れる店内には、カウンター席、テーブル席、座敷と、3タイプの席がある。

カウンター席は1人客ですぐに埋まる(写真:筆者撮影)
あじへいは「家族的美食屋」という別名からも連想できるとおり、まるで中華店仕様のファミレスだ。土日はファミリー層が多いが、平日の11〜14時は風景がガラリと変わる。筆者が入店したときは、会社員と年配ご夫婦のお昼ご飯タイムで混みあっていた。

ちなみに、休日はテーブル席が大人気(写真:筆者撮影)
店内を見渡すと、2人のスタッフが縦横無尽に厨房とホールを行き来している。厨房ではスタッフが手際よく調理していた。1名利用であれば5分ほどで料理が運ばれ、ビジネスパーソンは集中して食べ、サッと会計へ向かう。筆者のテーブルから見える範囲の12名の1人客は、入店から退店までの時間が20分ほど。ファミレス仕様だが、回転はラーメン屋並みだ。

出来上がったらすぐに片手でお盆を持って、客の元へ(写真:筆者撮影)

手際よくスタッフ2名で盛り付ける(写真:筆者撮影)
中毒性のある、あじへい名物「自家製キムチ」
今回注文したのは「あじへいごちそうセット」の「あじへいラーメン ミニ炒飯セット」1290円(税込み)だ。あじへいラーメン単体なら860円(税込み)。
筆者はあじへいラーメンが好きだ。見た目は脂っこそうに見えるけど、あっさりしていて、ピリ辛味だけど辛すぎない。辛さが苦手な筆者でも食べられるほどよい塩梅だ。
ミニ炒飯セットにした理由は、口の中で起こるラーメンと炒飯の「味のループ」を楽しむため。それは料理が届いてから、また述べよう。

「あじへいラーメン ミニ炒飯セット」は、小腹がすいたときに注文している(写真:筆者撮影)

注文は基本的にタッチパネル式。ただし、カウンター席の場合は口頭で注文する(写真:筆者撮影)
あじへいではテーブル席に座った瞬間、お冷と一緒に、あじへい名物「自家製キムチ」の壺がポンッと置かれる。料理が運ばれてくる間は自家製キムチを小皿に盛り、チビチビ食べる。そして料理が来たら料理の“味変”に、締めに、自家製キムチが実にいい働きをしてくれる。

壺の蓋を開けると、ほのかにニンニクの香りが漂う。同時に、舌の両側がキュッと締まるような感覚に(写真:筆者撮影)
このキムチこそが、あじへいの料理を食べるうえで欠かせないアイテムだ。しかも、食べ放題。ちなみに、自家製キムチは500g680円(税込み)でお持ち帰りも可能である。

取材中、キムチを2箱持ち帰る客も見受けられた(写真:筆者撮影)
見た目に反して、あっさりした優しい「あじへいラーメン」
「お待たせいたしました。あじへいラーメン ミニ炒飯セットです」
キムチを食べながら待っていると、あっという間に届いた。ゴクリと喉が鳴った。

価格は1290円(税込み)(写真:筆者撮影)

顔を近づけると、香ばしい醤油の香りが鼻腔を刺激する。麺が見えないほど、具が乗っている(写真:筆者撮影)
醤油味の茶色いスープに、ぷかぷかと脂が浮く。その中心には豚バラ肉が重なるように小さな島を作り、刻み葱の彩りにより「ここに具あり!」と主張している。豚バラを掘ると、みずみずしさを保ち透き通った白菜が顔を出す。ほかのラーメンの具にはない、豚バラと白菜の島。そして味玉のオレンジ色の黄身が、眩しく輝いている。

ピリッとした刺激の正体は、一味。あじへいラーメンにしか入っていない(写真:筆者撮影)
まずはスープをずずずっとすすり、口に含む。一見脂っこそうに見えるが、柔らかい口当たり。マイルドな醤油の旨味が、口の中全体に広がる。キムチほどではないが、3口ほど飲むと辛さがピリッと喉を通り過ぎた。

もっちりした麺は、食べ応えあり(写真:筆者撮影)
すぐさま、少し縮れた玉子麺をすする。少々かためで、もっちりとした食感に、お腹が満たされていくのを感じる。
次に、2ミリほどの豚バラと刻み葱を口に運ぶ。薄切りだからか、バラ肉なのに脂身がほどよい。肉の旨味と、ほんのりとした甘みを感じる。
白菜のシャキッと感に「ひと手間」を感じる
その甘みを引き出しているのが、白菜の存在だ。かめばシャクリシャクリと音が鳴るほどの茹で加減。口の中でジワリと水分がしみわたる。「体にいいものを摂取している」と、ちょっと得した気分になった。

スープの甘みは、バラ肉の薄さと白菜のみずみずしさによるのかもしれない(写真:筆者撮影)
この白菜のシャキッと感には訳がある。
あじへいのラーメンは、醤油、味噌、塩味と味にバリエーションがあり、ベースのスープはすべて同じ。10種類の食材を使用したスープを各店で炊き、そこに味ごとの「かえし(味付けのタレ)」を合わせて作る。
そしてスープを合わせたら、その中に白菜と豚バラを入れてさっと火を通して1人前ずつ仕上げるのだ。だから肉の脂はほどよく、白菜は熱々でシャキシャキ。そして仕上げに一味を加える。たったそれだけのひと手間が、ほかのラーメンとはまるで異なる味わいを生んでいる。

たっぷり具を乗せている様子(写真:筆者撮影)
ふんわり、しっとり。卵をふんだんに使用した炒飯
麺をすすった後は、黄金色のミニ炒飯で息を整える。

ボリュームは筆者のこぶしほど。ミニでも食べ応えは十分だ(写真:筆者撮影)
あじへいの炒飯はパラパラ系ではない。卵がふんだんに使われていて、ふわふわでしっとりとした柔らかさが口に広がる。かむと、シャキシャキとした玉ねぎの食感もいいアクセントだ。さらにチャーシューの細切れも入っていて、小さなミニサイズでも食べ応えは十分。

食欲がそそられる彩り(写真:筆者撮影)
ガッツリと麺をすすって、ふんわり炒飯で一息つく。
口がさみしくなればキムチの辛さで刺激を与え、スープで口を落ち着かせる。キムチでピリッ、炒飯でふわっ、スープでじんわり――。この「味のループ」が止まらない。箸を置くタイミングを見失うほど、くせになる。あじへいラーメン ミニ炒飯セットを注文した理由は、これだ。

合間につまむキムチ(写真:筆者撮影)
余談だが、客の40代の男性会社員にキムチをどのタイミングで食べるか尋ねると、「ラーメンが来る前、ラーメンの中に入れて食べるとき、食後。あ、ずっと食べてるわ」と笑いながら答えてくれた。男性の同僚は、「僕は、毎食3日間は、あじへいのキムチとご飯で生きられますね〜」。2人は、食事中最低でも5回は小皿にキムチを大盛に盛ると言う。中毒性のあるキムチということが、おわかりいただけただろうか。
キムチ無料は、たぶん意地かもしれん
焼肉屋のキムチ食べ放題は珍しくないが、ラーメン屋でこのサービスはなかなか見ない。いつから無料なのか床辺店長に聞いた。
「創業時から無料みたいです。『なんで無料なんですか?』って創業者に聞いたことがあるんですが、『お客さんが喜ぶやろ』って。そんな理由でした」
ド直球の回答に思わず驚いて笑ってしまったが、続きがある。
あじへいの創業者が、独立前に働いていた店と張り合い、「白菜を山積みにして無料で出す」と始めたのがきっかけだったという。当初は浅漬けを提供していたが、それがだんだん変わってキムチを提供することになったらしい。
コロナ禍前には白菜が高騰し、キムチ無料をやめるか否かという話もあったそうだ。外部業者のキムチに切り替えた時期も一時あったらしい。しかし、「全然味が違う」とすぐに戻したという。
「キムチ無料は、こだわりっていうか、たぶん意地やと思う」と床辺店長はいたずらっぽく笑った後、自論を述べた。
床辺店長いわく、あじへいのキムチはほかの料理の味を邪魔しないように調整されているという。確かに、クセの強いキムチだとラーメンのスープの風味を打ち消してしまうこともあるが、あじへいのキムチにはそれがない。辛さの中に旨味があり、食べた後の口が次の料理を欲しがる。
さらに、季節によって味付けの配分を微調整しているそう。夏場は白菜の水分が戻りやすく酸味が勝ちやすいため、冬とは漬ける加減を変えるとのこと。無料で提供しつつ、クオリティの維持に手を抜かない。54年間「意地」で続けてきた食べ放題キムチの裏には、地道な工夫があった。

お持ち帰り用のキムチを用意しているところ(写真:筆者撮影)
ちなみに、辛い物が少々苦手な筆者の感覚では、自家製キムチは10辛中、7程度。箸で白菜を3枚つかんで、それを3回口に運ぶと、口の中が一気にピリピリとした刺激を覚える。そして水を飲んで息を吐くと、ほのかにニンニクの余韻が残る。辛さの刺激を数回繰り返せば、食欲がさらに湧く。ラーメンを食す準備は万端だ。
味玉の出し方ひとつに表れる、店のホスピタリティ
あじへいラーメンの味玉の存在も見逃せない。筆者が訪れた日はカットされた状態で乗っていたが、これは店舗によって異なるという。

トロンとした半熟の黄身に醤油を感じさせる塩味が特徴(写真:筆者撮影)
味玉は中がとろとろで、半分に切って提供すると食べているうちに黄身がスープに流れ出てしまう。そこで床辺店長は、切り込みだけ入れて開かずに乗せるやり方を好んでいる。客が食べたいタイミングで割れるようにという配慮だ。一方で、切らずに入れる店もあるそう。味玉ひとつにも、店ごとのホスピタリティが表れている。
7坪半の小さなラーメン屋から始まった「あじへい」
あじへいの創業は昭和47年。三重県松阪市船江町の、わずか7坪半の小さなラーメンと餃子の店から始まった。子どもからお年寄りにまで愛されている理由の1つが、創業初期から続く小学生以下対象の会員制度「ちびっこクラブ」だ。入会金200円で誕生日特典やアニメのカレンダー、秋には芋掘り体験まで用意されている。「家族で来店してほしい」という創業者の思いから生まれた仕組みだ。
かつて会員だった子どもが親になり、今は自分の子どもを連れて訪れる。こうした世代をまたぐ循環が、客層に独特の厚みを生んできた。価格や味だけでは説明できない、「昔からある店」として生活に溶け込んでいること。それこそが、あじへいの強さなのだろう。
三重県の出張が決まったら、近くの店舗を検索してほしい。まずキムチの壺を受け取り、口を目覚めさせてから、ラーメンをすする。20分で、出張先の食事が旅の土産話になるはずだ。

昭和感漂うイラストと字体が、どこか懐かしい(写真:筆者撮影)