俳優・野村宏伸 高田馬場で“第二の人生”に挑戦中 居酒屋で「ワンオペ」厨房に立つ60歳の思い 「今を生きるしかない」

俳優歴42年の野村宏伸さん(60)は昨年から飲食業に挑戦し、新宿区高田馬場の居酒屋「ひさご」でシェフとして料理を作り、店の経営者としても奮闘している。店では、夜遅くまで1人ですべての業務を行う「ワンオペ営業」をすることも。インタビュー【後編】では飲食店で経験した苦労、俳優業への思い、10年ほど前に再婚した妻と娘に対する思いなどについて語ってもらった。
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――飲食業に挑戦したいきさつを教えてください。
元々料理を作ることは好きで、昔からちょこちょこ作っていました。飲食業はタイミングが合えばいつかやりたいなという思いがあったんです。「ひさご」は6年ぐらい前から友達の紹介で行くようになったんだけど、80歳近くになるママがずっと料理を作って経営していてちょっと大変になって。友達に「経営をやらない?」と誘われたので、「やろうか」と。芸能という仕事で良い作品に恵まれたらありがたいと思いますけど、他の業界で働くことに抵抗はなかったですね。

■芸能以外で初めての仕事
――野村さんは友人の自動車会社で働いていた時期がありましたね。
40代ですね。俳優の仕事が減って、暇だったのでアルバイトしていました。オークション会場に行って車を選んで買い付けをする手伝いをしましたが、目利きが問われる。できるだけ安く買って高く売るように考えるんですけど、高値でつかんだらダメだし判断力が問われる。芸能以外は初めての仕事でしたけど勉強になりました。飲食店を経営する立場になって、あの時の経験が生きている部分は間違いなくあると思います。

――飲食店の経営に携わるだけでなく、厨房で料理を作っていることに驚きました。野村さんが作る三重県のご当地グルメ「四日市トンテキ」が看板メニューになっていますね。
友達から「料理をやりたいって言っていたよね?」と言われたので、やるかと。50歳の時に再婚したんですけど、カミさんに相談することはなかったです。彼女はダメというタイプではない。後押しもしないですけど、口を出さずに見守ってくれる(笑)。そのスタンスがありがたいですね。四日市トンテキは浅草橋の人気洋食店「グラシア」のマスターから焼き方や段取りを教わり、加盟店として料理を提供しています。

――2025年2月にスタートして1年が経ちました。振り返ってみていかがですか?
肉を焼きすぎると硬くなるし、焼き加減が難しい。最近分かってきましたけど、作り続けて勉強するしかないですね。あとは相当な火力で焼いているので、夏場は暑さがきつい。でも、お客さんに「おいしい」って言ってもらえるとうれしくてね。北海道や九州など遠方からお店に来ていただくファンがいてありがたいなと。サインしたり一緒に写真を撮ったりしています。近くに早稲田大学もあるので卒業生の集まりで80代の男性がたくさん来たりする時もあります。皆さん元気で、こちらがエネルギーをもらっています。
■お客さんと話す時間は好き
――昨年11月からお店の経営者になりました。
私が店の代表取締役になったので、料理を作るだけでなく経営のことをどうしても頭に入れなきゃいけない。収益を作るのは難しいですね。どういう形で収支をプラスに持っていこうか、毎月会議をしています。これまでは私が平日のランチをずっと作っていたのですが、今年の2月から営業形態を変えました。平日はママ、チーママに料理を作ってもらって、土日は私が午後3時から昼飲みできるスタイルで午後9時まで営業しています。アルバイトを使うと人件費が掛かるので、ワンオペでやっています。結構ハードですね(笑)。でも、1人で全部やっていることをお客さんたちは知っているからせかせかしていない。人前に出ることは好きではないですけど、お客さんと話す時間は好きなので楽しいです。

――大変だとは思いますが、野村さんの表情を見ると充実しているように感じます。
芸能も飲食もそうですけど、いい時があればうまくいかない時もある。18歳から芸能界に入ってずっと不安定な生活をしているので、慣れがあるのかもしれない。ただ、経営者の人たちと話す時間は楽しいですよ。安定している生き方が理想ですけど、人生で打ち込むことを見つけて勝負したり、お店を経営したりしている人たちの話を聞くことが刺激になっています。
■自分の芯は大事にしたい
――俳優業に関してはいかがですか?
4月にオンエアされるドラマがあり、5月には舞台をやる予定です。俳優活動は興味のある作品をやりたい。必要とされることはありがたいけど、なんでも飛びついてやる感覚はないですね。お店のこともあるし、芸能界が特別な世界だとは思っていないので。賢い生き方ではないかもしれないけど、自分の芯は大事にしたいです。というか、こういう生き方しかできないかな(笑)。

――今後の人生設計を教えてください。
少し前は60歳でリタイアして、妻や娘とゆっくり過ごしたり、趣味をいろいろやったりしようかと考えていたけど、実際に60歳になったらそれどころじゃない(笑)。店で目先の売り上げを考えることで精いっぱいです。小学生の娘をどこかに連れて行ったり、土日に一緒に過ごしたりする時間が少ないのでかわいそうな思いをさせてしまっているけど、生活するために今を生きるしかない。先のことが見えない状況だけど、65歳ぐらいまでに新しい形を見つけたいですね。最近改めて感じるんですけど、お客さんと直接話す機会ってすごく大事だしありがたいなって。ちょっとした会話でも心が動かされる。お時間があったら、ぜひお店に来てください。いろいろお話ししましょう。
野村宏伸(のむら・ひろのぶ)/1965年5月3日生まれ、東京都出身。映画「メイン・テーマ」のオーディションで2万3000人の中から選ばれて19歳の時に俳優デビューし、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。86年に「キャバレー」で映画初主演、87年に「ラジオびんびん物語」でテレビドラマ初出演を果たす。88年に放送の「教師びんびん物語」で大ブレークすると、ドラマ、映画、舞台、CMなど多角的に活動。現在も俳優として様々な作品に出演する一方、新宿区高田馬場の居酒屋「ひさご」で厨房に立ち経営者として奮闘している。
(聞き手・構成/平尾類)
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