池袋に「ガチ中華」食べ放題の店が増殖する事情

店の外まで人があふれるほどの盛況ぶり, なぜ池袋でここまでランチ食べ放題が増えている?, それでもやるのは、夜営業につながる"広告"になるから, 中国現地の学食のようだがコスパは良い

(写真:筆者撮影)

外で昼食を取ると、「前より高くなった」と感じることが増えた。実際、物価高のなかでランチの値ごろ感は崩れつつある。そんななか、池袋北口を歩くと、まるで別世界のような光景に出くわす。1000円前後で20種類近い中華料理を好きなだけ食べられる「ガチ中華」のランチ食べ放題が、雑居ビルの上層階にまで広がっているのだ。値上げが続くランチ市場のなかで、数少ない「オアシス」のようにも見える。

【写真】「ガチ中華」食べ放題の料理はこんな感じ

しかし、この異様なコストパフォーマンスは、単なるサービス精神だけでは説明できない。背景にあるのは、ガチ中華どうしの激しい競争と、夜営業に客を呼び込むための集客戦略だ。ランチを安くして夜で利益を確保するという発想自体は飲食店では珍しくないが、池袋のガチ中華では、その競争がひときわ先鋭化しているように見える。

店の外まで人があふれるほどの盛況ぶり

池袋北口といえば、ガチ中華の集積エリアとして知られている。3月のある週末の昼時に歩いてみると、わずか10分ほどの間に、中国東北の鉄鍋が食べられる「大豊収」や、新疆ウイグル自治区の料理がウリの「大新疆」、夜には串焼き食べ放題を提供している「百福園鮮烤」などの店の前で、ランチバイキングの看板が置かれていた。

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平日限定ではあるものの、湖南料理の「湘聚・湖南菜館」や「太陽城」などでも同様の食べ放題を実施しており、メインメニューに副菜食べ放題を組み合わせた店まで含めれば、池袋北口周辺では10店舗以上が何らかの形でランチバイキングを実施している。

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大豊収の店内。品揃え豊富で補充もすぐされているようだった(写真:筆者撮影)

安価なものだと1000円未満、高くても1300円程度。昨今の物価高を考えると、かなりリーズナブルな価格で中華料理バイキングが食べられる。実際、試しに3店舗ほど入ってみたが、どこも店の外まで人があふれるほどの盛況ぶりだった。

池袋北口から徒歩数分のビル4階にある「百福園鮮烤」に入ってみた。ランチのピーク時間を少し外して13時過ぎに訪れたが、それでも50席ほどの店内は満席に近く、入り口付近では10人弱が順番待ちをしていた。料金は税込み1100円。ランチバイキングとして見ても、かなりリーズナブルな部類に入る。

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百福園鮮烤の看板。最近まで巴渝菜館という店名だったため、看板は昔のままだ(写真:筆者撮影)

バイキング台には20種類以上の料理がずらりと並ぶ。炒飯やトマトと卵の炒め物、キャベツの炒め物など、日本人にもなじみやすい品がある一方で、骨付きの牛肉煮込みや、ハチノスなどホルモン煮込み、ラム肉スープなど、中国の家庭で食べられていそうな料理も目立つ。

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百福園鮮烤のバイキング。20種類以上が並ぶ(写真:筆者撮影)

少人数で訪れると、4人掛けのテーブル席で相席になることもある。向かいに座っていた中国人夫婦は、「これだけいろんな種類があって1100円なら悪くないね」と話していた。女性店員は、「バイキングが始まったのは1年くらい前からだけど、お昼時はいつもこれくらいの人が来ますね」と語る。

なぜ池袋でここまでランチ食べ放題が増えている?

アルミのトレーに好きな料理を盛っていくスタイルは、中国の大学の学食や工場の食堂にも近い。客の多くは中国出身者のようで、中国で食べていた懐かしい料理がリーズナブルに好きなだけ食べられるということもあり在留中国人の間でも人気になっているのだろう。

中国版インスタグラムのRedbookで池袋の中華食べ放題ランチについて検索してみると「学生時代の食堂を思い出して泣ける」という投稿もみつかった。料理そのものだけでなく、その取り方や食べ方も含めて、中国で日常的に食べていた感覚を呼び起こすのだろう。中国に留学していた頃の学食を思い出し、筆者自身も少し懐かしくなった。

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中国の学食を思い出すアルミの皿に料理を盛り付ける(写真:筆者撮影)

では、なぜ池袋でここまでランチ食べ放題が増えているのか。

池袋のランチバイキングの店を3店舗ほどまわって驚いたのが、料理の豊富さだ。どの店でも20種類近くは提供されており、料理を取るための行列と店に入るための行列が2つできるほどの盛況さだった。いくら店の回転が早いからといえどもお昼時にこれだけの料理を用意して経営が成り立つのか。

ガチ中華店にQRコードメニューを導入している会社の楊さんは、こう話す。「こうしたランチバイキングをやっているのは、池袋や上野など、ガチ中華が集中しているエリアに多いです。どこかの店が集客のために格安のバイキングを始めると、他店舗に負けないように自分の店でもまねして導入し始める。そうして多くの店がバイキングをやるようになったんだと思います」

中国では、競合が増えて過当な価格競争になることを表す「内巻」という言葉が使われる。池袋のガチ中華ランチは、まさにそうした状態の一端を映しているように見える。ランチバイキングの看板が出ていた店をよく観察すると、店が入るビルの別のフロアには他のガチ中華の店が入居しているケースがほとんどで、競争が激化しているような印象を受けた。

実際、池袋で「メインメニュー+副菜食べ放題」というスタイルのランチを出している別の店のオーナーは、「こうした格安のランチバイキングは、材料費などを考えるとあまり儲からないです。なので、うちでは副菜バイキングだけにしています」と話していた。

それでもやるのは、夜営業につながる"広告"になるから

採算が薄いのに、なぜ続けるのか。答えの一つは、店の認知度向上にある。

池袋のガチ中華店の多くは、雑居ビルの上層階に入っている。しかも、店の入れ替わりが激しい。通りがかりの客にとっては、「そこに店があること自体が知られていない」というケースも多い。だからこそ、ランチでインパクトのある価格と内容を打ち出し、まずは存在を知ってもらう必要がある。

ランチバイキングのお得さがSNSなどで広まることで認知度アップの効果が期待でき、アルコール類などの注文も見込めて客単価も上がる夜の時間の集客につなげたいというわけだ。

その好例が、池袋東口のビル7階に2月にオープンしたばかりの「一念」だ。看板もほとんど出ていない状況だが、ランチバイキングは並ばなければ入れないほど盛況だった。価格は1300円。SNSにシェアすると割引になるキャンペーンもあり、多くの中国人客がRednoteなどに投稿している。料理の豊富さに加え、エッグタルトやフルーツまで食べられるということが話題を呼び、短期間で認知を広げているように見える。

店の外まで人があふれるほどの盛況ぶり, なぜ池袋でここまでランチ食べ放題が増えている?, それでもやるのは、夜営業につながる"広告"になるから, 中国現地の学食のようだがコスパは良い

料理の種類は一番豊富であるようにみえた(写真:筆者撮影)

「百福園鮮烤」も同様だ。昼はバイキングを前面に出して集客しているが、夜は串焼き食べ放題や、流行のマーラータンなども提供している。店内には串焼きの串が並ぶ冷蔵庫が設置されていて、昼の客が「この串が食べられるのは夜だけなのか」と店員に尋ねる場面もあった。昼のにぎわいが、そのまま夜の来店動機につながっている可能性がある。

各店舗がこぞって始めたランチバイキングはお店の存在を知ってもらう広告代わりになっているのである。

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一念の店内。オープンしたてなのでかなりきれいだ(写真:筆者撮影)

中国現地の学食のようだがコスパは良い

物価高の時代、1000円前後でこれだけの料理を食べられる店は、いまの東京ではそう多くない。

食べ放題の元を取るために料理を山盛りにして食べる客がいたり、店側の順番待ちのシステムが確立されていないため、声の大きい客が先に席についてしまったりと、慣れない人は圧倒されてしまうかもしれないが、コストパフォーマンスの良さは確かだ。

中国現地の学食のような気分を味わえるので旅行気分で試してみるのがおすすめだ。