元舞妓(26)が訴える「花街の地獄」 高額違約金に母は泣き崩れ… 華やかな伝統文化の裏側を漫画で広く伝える

■SPが部屋の中と外で待機, ■厳しい上下関係, ■他に働ける場所がない, ■「嘘つき」「問題児だ」

「舞妓は『現代の奴隷』だと思います」――。有志の弁護士ら6人と「舞妓と接待文化を考えるネットワーク」を立ち上げ、花街の違法な労働環境の改善などを訴えている元舞妓の桐貴清羽(きりたか・きよは)さん(26)。1月には原案を担当したコミックエッセー『京都花街はこの世の地獄』の第2弾が出版された。華やかなイメージの奥に隠された花街の実態とは。桐貴さんに聞いた。

*  *  *

――2015年11月、16歳の時、京都の花街で舞妓になりました。地元を離れて舞妓になったきっかけは何だったのでしょうか。

 小学生の時から演劇に携わるなかで歴史が好きになって、歴史上の人物の心情を理解したいと思っていました。そこで、中学生になると日本舞踊を始めました。そうしたら、母の知人から舞妓になることを勧められました。当時、家庭の経済状況が厳しく学費の不安もあったため、舞妓になれば生活の心配なく稽古を積んで、歴史文化に触れられると考え、進むことを決めました。

――舞妓になって最も驚いたことは何ですか。

 伝統芸能の担い手として活動するものと思っていましたが、実際は接待が中心で、キャバクラのホステスさんやコンパニオンさんとやることがほとんど変わらなかったことです。お酌や歓談が主な役割で、稽古より、お座敷やパーティーへの出席が優先されていました。

■SPが部屋の中と外で待機, ■厳しい上下関係, ■他に働ける場所がない, ■「嘘つき」「問題児だ」

■SPが部屋の中と外で待機

――お座敷にはどのような人が来るのでしょう。

 政治家や大企業の社長、弁護士、大学教授といった権力や地位のある方や、歌舞伎役者、俳優、アイドルなど芸能関係者も多くいます。政治家のなかには、SPが部屋の中と外で待機するような大臣クラスもいました。花街は「秘密が守られる」場所として重宝される面があります。

■SPが部屋の中と外で待機, ■厳しい上下関係, ■他に働ける場所がない, ■「嘘つき」「問題児だ」

――セクハラも多かったのではないでしょうか。

 言葉によるものだけでなく、身体的セクハラもよくありました。胸やお尻を触られたり、着物の隙間に手を入れられたりすることは日常茶飯事。タクシーの中で手を握られ、個室でキスを迫られることもありました。しかし、舞妓がそうした行為を拒否することは極めて困難でした。「お風呂入り」という、お客さんと一緒に温泉地などに旅行に行って混浴をさせられることもあります。

――拒否することはできないのですか。

 新人の段階では事実上できません。拒否すれば「厚かましい」「自意識過剰」などと言われ、お座敷に呼ばれなくなる可能性があります。お風呂入りを強要され、恐怖と混乱から意識を失い、救急車で搬送された舞妓もいました。

■置屋の収入

――1月に出版されたコミックエッセー『京都花街はこの世の地獄』第2弾の中で、舞妓が大物歌舞伎役者に「献上」させられたエピソードが紹介されています。

 私が聞いた話です。ある舞妓が置屋の「おかあさん」から「お座敷がある」と告げられ、歌舞伎役者と二人きりの部屋に送り込まれ、性被害に遭いました。こうした「献上」は、決して珍しいことではありませんでした。

 置屋のおかあさんが男性に舞妓を献上するのには、理由があります。「いい仲」と言っていましたが、こうした既成事実をつくってしまえば、相手は地位のある人たちですから、関係が外に漏れたら大問題になるのでお金で解決しようとします。さらに正式に「旦那」(パトロン)になってもらえばなおのこと、継続的にお金が入ってきます。つまり献上が、置屋の収入となる仕組みになっているのです。

■SPが部屋の中と外で待機, ■厳しい上下関係, ■他に働ける場所がない, ■「嘘つき」「問題児だ」

――それは「人身取引」なのでは。未成年に対する性的接待や人身売買は、国際的には「奴隷労働」に該当します。

 はい。私は、舞妓は「現代の奴隷」だと思います。発言権も拒否権も、さらにはプライバシーも人権もありません。

 置屋では6畳の部屋に舞妓4人が相部屋で暮らし、常に置屋のおかあさんやお姉さん(先輩舞妓)、家事をする人たちが周りにいます。一挙一動が監視され、わずかな行動も告げ口されます。

■SPが部屋の中と外で待機, ■厳しい上下関係, ■他に働ける場所がない, ■「嘘つき」「問題児だ」

――そうした環境のなかにいると、精神的に追い詰められていくのでは。

 多くの舞妓が精神を病んでいきます。私も、走っている車を見て「飛び込めば楽になれる」と無意識に道路に出ようとして、先輩に腕をつかまれて止められたことがあります。食べてもストレスから吐いてしまうので、体重が30キロ台前半にまで落ちました。

 自傷行為としてリストカットをする子や、ストレスから髪や眉毛、まつげを抜いてしまう子も少なくありませんでした。置屋の2階から飛び降りて、自殺未遂をした舞妓もいました。

――自殺未遂された舞妓さんは、どうして飛び降りたのですか。

 舞妓をやめたい一心で置屋の2階から飛び降り、足を骨折しました。その子は、お客から性被害を受け、置屋のおかあさんたちから人格否定の暴言も浴びせられ続けた結果、「足を折れば舞妓をやめられる」と追い詰められていったのです。

――「人格否定の暴言」とは、どのような言葉なのですか。

「お前なんか生きてる価値がない」「できそこない」「才能も何もない人間を生かしてやっている」「感謝しなさい」といった言葉を日常的に浴びせられます。太っていれば「豚」と言われ、私は痩せていたので「カマキリ」「バッタ」とあだ名をつけられ、存在そのものを否定され続けました。

■厳しい上下関係

――それはつらいですね。

 はい。これは児童虐待にも当たると思っています。セクハラやパワハラは何とか耐えられるとしても、「もう一人の母」「姉」として信頼していた置屋のおかあさんやお姉さんから、人格と人間としての存在意義を否定され続けたことのほうが、ずっとつらかったです。その人たちに認めてもらいたくて必死に頑張っても、「お前はできそこない」などと言われるのは、実の親から言われてるのと同じなんです。

――置屋のおかあさんたちにとって、舞妓はお金を稼いでくれる大切な存在のはず。それをなぜ、人格を否定するような言動を浴びせるのでしょうか。

 花街は閉鎖された空間で、しかも厳しい上下関係があります。そうした空間は虐待が起こりやすい構造を持っていると思います。しかも、おかあさんやお姉さんも若くして花街に入り、人権などについて学ぶ機会もありません。自分が受けてきた扱いを「指導」だと信じているので、私たちに厳しく接してしまうのだと思います。私は、おかあさんやお姉さんたちも、ある意味、被害者だと考えています。

■SPが部屋の中と外で待機, ■厳しい上下関係, ■他に働ける場所がない, ■「嘘つき」「問題児だ」

――舞妓時代で一番つらかったことは何でしょうか。

「人間として見られていなかった」ということです。舞妓は、男性のために生き、男性のためだけに稽古を積みます。そして、どれだけひどい言葉や行為を受けても、ニコニコしていなければいけません。「下の人間」として扱われていたことが、何よりつらかったです。

――そうした価値観は、どのようにすり込まれていくのですか。

 舞妓になる前の「仕込み」と呼ばれる期間から、おかあさんやお姉さんは「神様」で、口答えしてはいけない、意見も否定もしてはいけないと徹底的に教え込まれます。そして、男性や目上の人に恥をかかせてはいけないと繰り返し叩き込まれることで、気づいた時にはグルーミング(手なずけ)の中に組み込まれていくのです。

――舞妓になって約8カ月後の16年7月に舞妓をやめます。

 連日連夜休みなく働き、精神的に余裕のない日々を過ごすなか、舞妓を続けることに限界が来ました。もう逃げるしかないと思い、置屋を脱走し実家に戻りました。

■他に働ける場所がない

――無事に脱走できたのですか。

 いえ。後日、実の母とともに置屋に呼ばれました。そこで、おかあさんやお姉さんたち10人ほどに取り囲まれ、違約金として5千万円を請求されました。母が「そんな金額払えません」と言うと、おかあさんたちが私に向かって、「旦那さん取らはったら? あんた処女なんやろ?」「風俗で働くしかないな」「あんたは股開いて生きていくしかないんや」などと畳みかけてきました。母はその場で泣き崩れ、私はあまりにもつらく思考をすべて停止させ、なんとか心を守っていました。

――実際、違約金を払えなくて風俗店などで働いて返す舞妓はいたのでしょうか。

 そうした舞妓はいましたし、実の親が借金して払う人もいました。また、舞妓をやめた子の多くはキャバクラや風俗、AVなどの仕事に流れていきます。借金を返すためというのと、舞妓の多くは高校にも通っていないので、他に働ける場所がないという現実もあります。

■SPが部屋の中と外で待機, ■厳しい上下関係, ■他に働ける場所がない, ■「嘘つき」「問題児だ」

――桐貴さんはどうやって舞妓をやめることができたのですか。

 母と置屋に呼ばれた後、そのまま置屋に残ったのですが、自らの意思でやめることが難しかったため、あえてやめさせられるように仕向けました。反抗的な態度を取って、「こんな子はここに置いておけない」って思われるようにしました。最後は、置屋のおかあさんに向かって怒鳴りました。それは絶対にNG行為なので、それでようやくやめることができました。

――こうした舞妓が置かれた実態を22年にX(当時のTwitter)で告発され、今も発信を続けています。

 舞妓が置かれた実態を広く知ってもらうためです。将来、私と同じような被害を訴えたいと考える舞妓が現れた時の前例になればと思っています。

■「嘘つき」「問題児だ」

――告発後に変化はありましたか。

 舞妓は「可愛い」だけでなく、飲酒させられ性被害にさらされている実態が、以前より広く知られるようになったと感じます。 ただ、「お風呂入り」など古い慣習は依然として残り、置屋の体質そのものは大きくは変わっていません。

――ただ、告発によって「身の危険」を感じる出来事もあったと聞きました。

 (花街に)関わっている人物が権力者などと考えると、本当に怖かったです。メールで「何月何日にあなたを殺します」といった殺害予告が届いたことがあります。この時は身の危険を感じて警察にも相談しましたが、捜査は難しいと言われました。他にも「嘘つき」「問題児だ」などと、周囲に言いふらされるなどの中傷も受けました。

――伝統文化としての舞妓を、今後どう残していきたいと考えていますか。

 私は、お座敷そのものは好きですし、舞妓は無形文化遺産として、一部の権力者だけでなく誰もが体験できる開かれた文化であるべきだと思っています。 権力者のための閉鎖的な場である限り、搾取と人権侵害は続いてしまいます。こうした構造を根本から変え、より広く社会に開かれた形で発展していくことを願っています。

(AERA編集部・野村昌二)

・【写真】花街の違法な労働環境の改善を訴えている元舞妓の桐貴さん

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