コカコーラの管理職は「自分の後任者」を2〜3人育てている 優秀な人が辞めてもチームが回るマネジメント術

コカコーラの管理職は「自分の後任者」を2〜3人育てている 優秀な人が辞めてもチームが回るマネジメント術
【3行要約】
・終身雇用制度が崩壊し50%の従業員が離職する現代、日本企業は深刻な人材流出問題に直面しています。
・伊藤羊一氏とハロルド・ジョージ・メイ氏は、本音を言わない組織文化が離職の根本原因だと指摘。
・管理職は後任者育成のサクセッションプランと1on1の実践で、話し合える組織への変革を進めるべきだと提言します。
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「不満があっても言わない」組織で人はどんどん辞めていく
芹澤雅人氏(以下、芹澤):もう少し具体的な現場の課題みたいなところに行くと、例えば離職率とか従業員のエンゲージメントの話が、今日セッションの中でもいろいろ出てくるかなと思うんですけど、そのあたりはどのように思われていますか。
伊藤羊一氏(以下、伊藤):結局、本音を言わないっておっしゃったのは、まさにそのチームの中でも会社の中でも起きていて、「波風を立たせるのは嫌だから言わないでおこう」みたいな。つまり1on1もやっていないし、チームの中で情報の共有もやっていないし、一言で言うと話していないわけですよ。
芹澤:会話をしていないと。
伊藤:そうすると、不満があってもあんまり言わないで、しかもそれを学びとせず、どんどん人が辞めていくことになりがちなんだと思うんですよね。
退職者インタビューやっていますかとかね。そういうのも含めて、そもそもエンゲージメントを高めるために何をやっていますかというと、インセンティブはすごい大事なんだけど、それに加えて例えばチーム内で話していますか。
マネージャーと1on1をしっかりやっていますかみたいなところは僕は決定的に足りないと思っています。だからちゃんと話そうよと。日本って沈黙は美徳みたいにされるじゃないですか。
伊藤:ぜんぜん美徳でもなんでもないですよね。「俺はこれがやりたい」とか、「社長、この目標はこうですよ」とか、そういうのをチームだけじゃなくて、全体でガンガンしゃべるのはすごい大事かなって思います。
コカコーラの管理職は自分の後任者を2〜3人育てる

ハロルド・ジョージ・メイ氏(以下、メイ):まずは現実見をしたほうがいいと思います。厚生労働省のデータによると、年齢問わず50パーセントの人が会社を辞めていく、そういうもんだということを自覚して。
芹澤:もう終身雇用なんてものはないと。
メイ:我々はまだまだ日本の終身雇用の伝説を信じています。「入社すれば一生いてくれるだろう」そんな甘い考えがまだ残っているんですよ。なのでできることは、ハードとソフトがあると思うんですよ。
ハードという意味では、まずサクセッションプランです。社長クラスとか役員クラスのサクセッションプランはもちろんやりますけど、コカ・コーラでは自分が部長だろうが課長だろうが係長だろうが、自分の後任者を2~3人育てるべきだと言われます。それもちゃんとリストアップします。
だから、その方が辞めてしまった際には、リストでAさんはいなくなったけどBさん、Cさん、Dさんがいます。その3人中どれにしますかっていうリストが、どの部署、誰でもあります。
いわゆる組織に穴が開くことはないんです。これがハード面での対応です。ソフト面での対応は、私は大きく2つあると思います。
1つは投資です。人材の投資をするべきなんだと何度も言いますよね。投資の1つのかたちとは何かというと、教育だと思います。私も実は外資系企業にいると、四半期に1回、3ヶ月に1回、どっかの研修に行かせていただきました。正直言うと、中身はほとんど覚えていないんです。
でも、投資をしてくれたんだよねと。その中でも特に役立った投資(研修)があるので、ご参考までに、せっかくなので簡単に紹介させていただきます。
1番がネゴシエーション、交渉力がアップする交渉ワークショップ。これは同じ研修を3回受け、めちゃくちゃ役に立ちました。二番目がプレゼン能力です。どれだけ良いアイデアを持っていても、相手にそれが伝わらないと。
芹澤:そうですよね。
2期連続赤字だったタカラトミーで行った「仲間意識」を高める施策
メイ:社内だろうが社外だろうが、大事だと。そして、3つ目は、偉くなればなるほど役に立ちました。それが部下とのコミュニケーションなんです。伊藤さんが言う、どうやってチームから問題点を引き出すのかとか、やる気を引き出すのかとか「辞めるなよ」と言うとかですね。これがソフト面の1つ。もう1つ大事なソフト面というのは、少しでも楽しい雰囲気を作るべきです。
芹澤:大事ですね。
メイ:私がタカラトミーにいた時には2期連続赤字企業だったんです。真っ赤っ赤だったんですよ。みんな暗い顔をしているので、これじゃあ、どれだけ改革云々って言ったって無理と思ってしまう。私が何をしたかって、いろんなことをやったんですけど、そのうちの1つが、毎月のどこか1日のどこか1時間だけ、祭りと題して楽しいことをやろうということで。
例えば10月、ハロウィンなんで「みんなで仮装しようぜ」と。仮装して出社してくださいと言いました。2,500人ぐらいの社員がいますけど、初年度は20~30人しか参加してくれませんでした。
芹澤:(笑)。すごいですね。
メイ:でも、それをやり続ける意味があって、2年目は半分ぐらい(参加しました)。
芹澤:えっ。
メイ:3年目はほぼ全員ですよ。
芹澤:すごいですね。
メイ:楽しいことやっていいんだみたいな。仲間作りもその積み重ねです。1回だけではだめですけど、毎月何回もやったんですよ。だから、仲間意識を高めるのも大事なんじゃないでしょうか。
伊藤:ハードのところについてもうちょっとおうかがいしたいんですけど。自分の後任をリストとしてあげとくのは日本企業でもやっている企業はあるんだと思うんです。
メイ:社長だけじゃない、係長からも、新入社員だろうが。
社員を評価し合って別部署とトレード
伊藤:それ、(後任は)この人かなってした上で、具体的なアクションとしては……。
メイ:あります。それがおもしろくて。まずリストアップしますよね。それにもギャップがあります。「この人はまだ俺の後任にはなれない、理由はこれとこれです」と。例えばこういう研修が足りないとか、こういう経験がないとか、もっと海外に2~3年行くべきみたいな、そういう課題も言います。
おもしろいのは、それを相手の、自分の部長に説明しないといけないんです。どうして私はBさんを買っているのか。あるいは逆にCさんを買っていないのか。
そうすると、自分の印象と自分の上司が持っている印象が違う場合があるんですよ。毎回とは言いませんけど。違う場合は要はバイアスがかかっているってことですよね。
私はCさんを評価していません。伊藤さんは「いや、Cさん、すばらしいと思うよ」みたいな。「そうなんだ。じゃあ私が間違っているかもしれない」とかで。
もっとおもしろいことがあるんです。それは、その場でトレードもあるんですよ。例えば、私が「こういう理由でCさんを評価していません」と。でも伊藤さんは「いや、Cさんはすばらしい」と。「じゃあ、そこまで言うなら、もうCさんをもらってください」と。
芹澤:(笑)。
メイ:そんなに評価しているんだったら、トレードですよ。「その代わり、あなたのAさんちょうだい」とか、「(Aさんを)すごく評価しているんだよ。あなたは評価していないんでしょ」と。その場でトレードまでやっちゃうんです。
そんなに毎回じゃありませんけど、説明できると自分のバイアスに気がつくし、違う意見が入るっていうのも。社員も「そうやってちゃんと議論してくれているんだな。その上で俺は買われている・買われていない」と。
だから、1人の人が決めているんじゃなくて、複数の人が話し合って決めているのが大事だと思いますね。
制度に「魂」を込める
伊藤:今なんでおうかがいしたのかっていうと、自分の後任と思われる人をこうやってリスティングするのは、やっている会社もあると思うんですよ。これはヤフーでもやっていました。だけど、そこに魂を込めるというのがすごく大事で。
そこで話して、実際に「僕の後任はBさんだと思いますよ」って「いやいや、ここはこうなんじゃない」。「とすると、Bさんにはこういう研修とか受けてもらうか」とか「こういう育成ってしたほうがいいよね」みたいな、めちゃ良いコミュニケーションができるわけですよね。
制度にそうやって魂を込めていくというのが同時に大事というのをあらためて(思いました)。インセンティブとかもたぶんそういうことだと思うんですよ。そこの背景とか、それをどうやって運用していくのかみたいなところが超大事だと思います。
だから、楽しい雰囲気にしようってみんなわかると思うんだけど、具体的にそれってどうやるんだ、それはこういうことをやるんだ、なぜならばこうだっていう。そのハードと、ソフトにしっかり魂を込めていくっていうのはすごく大事だなって、今聞いて思いましたね。

メイ:魂は大事です。もちろん私も大賛成です。とは言いながら心を鬼にしないといけない部分もあります。つまりそれはKPIなんですよね。我々はボランティアで仕事をしているわけじゃないので、「がんばったね」とか、「いい人だよね」じゃだめなんですよ。やはりそれなりに実績、数字で測れるもの。
伊藤:でも、それもちゃんと説明するわけですよね。
メイ:もちろん、説明します。
伊藤:要するに「こういうのを大事にするよ」「こうやって社員をやるよ」「こういうエンゲージメントを高めるよ」と。一方で、いやいや、さはさりながら、俺たちは営利企業だからちゃんとKPI大事よっていう話を、トップとかマネージャーがしっかりコミュニケーションしているから。
芹澤:そこ重要ですよね。「営利企業としての」っていうところが抜けちゃうと、仲良しクラブみたいになっちゃうとこもあるんで。
メイ:しかもKPIなんて全社員が対象なんで、そうすると平等になりますよね。同じ基準で測っていますよと。
芹澤:KPIは重要ですね。
メンバーに「言いにくいこと」を言わないマネージャーが多い
伊藤:だから、日本のマネージャーはそこで良いことばかりを言うんじゃなくて、「でもKPIちゃんと達成しないとだめだよね」と説明する。「あなたの目標はこれだよね、なぜならばこうだから」っていうところを社員に、アサーションっていうのかな。言いにくいことも言うっていうことはめっちゃ大事。僕が研修とかで見ている限り、これが足りない人はけっこう多いような気がする。
芹澤:サクセッションプランって日本人からすると、言葉の意味もわかりにくかったりしているんですけど、本質的にはやはり育成なんで。後進を育てていくことを計画するっていうところで、そこまでやりきって初めてちゃんとサクセッションプランニングをやっているっていう話ですよね。
お時間も残り少なくなってくる中で、けっこうHowの話も出てきたなと思います。もう1個、お二人の話でHowを聞いてみたいなと思ったのが。この1個、テーマとして本音で話すみたいなところがあったかなと思うんですけど、とはいえこれも言うは易しだと思うんですよね。
日本人の国民性かもしれないですけど、組織、人が集まった時に、本音で話しあえるってなかなか難しいと思うんです。お二人から見て、じゃあどうやったらこの本音で話しあえる組織に近づけていけるか、そのステップみたいなのを考えがあったりしますか。
メイ:さっき360度評価の話をさせていただきましたけど、うちの会社はそういうのを求めているんだというのは、まずKPIとしてやらないといけないですよね。
芹澤:じゃあちゃんと本音でフィードバックしあうっていう。
メイ:部下との話しあい、コカ・コーラにいた時は言われましたよ。月に何時間ぐらい部下とコミュニケーションを取っているのかとか。例えば「20時間やっているかな」とか言うと、自分はそうだと思っているけど、部下は「そんなことない、あの人1時間ぐらいしか来てくれていない」みたいな、360度評価でばれるわけですよ。
なので、「良い助言とかしてくれてるの」とか「アドバイスとかしてくれてるの」と。それは360度評価から出てくるので、非常に大事なことだと思いますよ。
仕事中は話さないのに飲み会では盛り上がる日本人

芹澤:なるほど。羊一さんはどうですか。
伊藤:結局、その20時間話しているっていうと、日本人ってつい「いや、そういう時間じゃないんだよ」とか言いたがるんだけど、そうじゃないんだよ。ちゃんと時間を取って話しているのかみたいなことは、やはり見ていくというのは超必要で。まずたくさんしゃべっているっていう。
日本の企業って、飲み会になると急に盛り上がるみたいな。別に僕は日本人で日本好きなんだけど。
芹澤:あぁ~(笑)。
伊藤:いやいや、飲み会じゃなくて昼間も盛り上がろうよって。そもそも昼間に、たくさんしゃべるっていうことは是とされていない。でも、ちゃんと話しているかっていうのは、要チェックですよ。
メイ:ちなみに飲み会、私は1次会は行きますけど、2次会は絶対行かないんです。その代わり、2次会以降に行った人から話は聞きます。そのほうが本音が出るでしょ。良くも悪くも私の前で言えないようなことも。
芹澤:自分がいないほうが良かろうみたいなことですね。
メイ:いないほうがいい。だから、2次会は絶対に参加しないです。
芹澤:なるほど、大変興味深いですね。その本音で話しあおうよの前に、そもそも話していないでしょっていうところがある。
伊藤:だから、たくさん話していると本音になってくることだと思いますよね。
メイ:たださっきのKPIで、話すことも会社としてもあなたに期待していますよと。上に立つものとして、その時間、投資をしていますかという。
「話すこと」も仕事である
芹澤:いろいろつながりましたね。話すことも仕事なんだよという認識をまず作る。とにかく話す時間を増やしましょうというところが1個。
伊藤:この間気づいちゃったんですけど、シリコンバレーに行ってね、「やはりアメリカ人すげえな」って思うわけですよ。いろんな人種がいるけど。それから、インドに行って「インド人もすげえな」って思うわけですよ。それで、日本人はなんなんだろうなって思った時に、しゃべっていないんですよ。
芹澤:(笑)。
伊藤:インド人とか「黙れ」って言ってんのにしゃべり続けるわけですよ。やはりそういうとこって、僕らはちょっと足らないよね。だから、本音の前に、そもそもチームでめっちゃしゃべろうぜみたいな。
メイ:であれば、採用プロセスでそういう人を選べばいいんですよ。それが採用プロセスでしょ。「うちは逆にそういうの要らないんだ」というのも組織風土なので。
芹澤:カルチャーですね。
メイ:風土に合うような採用プロセスを考えるべきだと思います。
「制度を作って終わり」にしないために
芹澤:ありがとうございます。まだまだ話したいところではございますけど、お時間が来てしまいました。最後にお二人から感想、まとめ等々いただいて締めさせていただいてよろしいですかね。羊一さんからお願いできますか。
伊藤:まとめっぽく言うのもなんだけど、めっちゃ学びになったのは、さっきのメイさんのプレゼンも、サクセッションプランとかも、KPIも、僕はつい「話せばわかるから、たくさん話そう」で終わっちゃうんだけど、違うわと。
チームを作っていく上ではそういうのを作っていくし、でも、制度を作ったらいいんじゃなくて、それに魂を入れていくということ。両方やりながら、じわじわやっていく。逆に言うと、人事って、ともすると制度を作って満足しちゃうんで。
芹澤:ハード側ですもんね。
伊藤:そこはちゃんと話しながらやっていこうっていうのがつながりました。
芹澤:ハードとソフトを両方やっていくことが重要なんじゃないかと。ありがとうございます。メイさん、お願いします。
メイ:今日は1時間しかなかったんで、キーワードだけしか出てこなかったんですね。本当は一つひとつ、1時間とは言いませんけど、30分以上必要でしたね。
芹澤:(笑)。全部深掘っていくべきでしたね。
メイ:一つひとつのキーワードに対して本当は深堀りできますよね。なので、みなさんが考えているのは、おもしろかったと思う方も多いと思いますし、もっとネタ欲しいよねと思っている方も多いと思います。
私の『百戦錬磨 セルリアンブルーのプロ経営者』という本なんですけど、37のテーマに基づいていろいろ話しています。
伊藤:めっちゃいい、これ。
メイ:ぜひ。(価格が)1,650円、とても安い投資ですので。
芹澤:(笑)。
メイ:人事は投資ですので、ぜひここに投資していただければと思います。
芹澤:ありがとうございます。抜かりない、さすがプロマーケターというところです。
メイ:最後まで抜かりはないぞと(笑)。
芹澤:僕も簡単に一言なんですが、シンプルに自身も勉強になるセッションになってしまって、いろいろお聞きするかたちになったんですけど。
僕も羊一さんと同じく、ハードとソフトの両方が大事だと思いました。やはり組織ってハードに目が行きがちなんですけど、それ以前にちゃんとソフト面ができていますかっていうところですよね。
伊藤:魂とかね。
芹澤:メイさんが研修で習って、良かったと言ったところも全部ソフト面じゃないですか。ビジネススキルというよりは本当にヒューマンスキルみたいなところなんで、そこに回帰していくんだなと、あらためてお二人の話を聞いて学びました。
その人員、人への投資というところはそういう観点を持ち続けたいなと、勉強させていただきました。本当にありがとうございました。
メイ、伊藤:ありがとうございました。
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