26年F1大混乱、ハース代表が語る新ルールの課題

新しいレギュレーションで、序列がリセットされたF1, 第2戦中国が終わってから、レギュレーションが調整される, 今後、レギュレーションの調整が行われる可能性も, ハースが戦う中団勢は、最終的に0.3秒の戦いに, 実は、ダーティエアは昨年よりひどい, どうすれば、小松代表のように世界で戦えるのか, ベテランの苦労人オコンと、若手イケメンのベアマン, 一歩踏み出さないと、目の前にある機会にも気が付かない

ハースは、小規模ながらトップチームに食い込みつつあるF1チーム(写真:TGR Haas F1 Team)

2026年F1開幕戦のオーストラリアGPでは、予選とレース前のウォーミングアップで、昨年2位、3位のドライバーがクラッシュ。下馬評では「優勝争いか?」と言われた、空力の天才とホンダが組んだチームはスタートできるかどうか危ぶまれる状態。76年の歴史上最大と言われるレギュレーション変更による『半電動化』により、開幕戦は大混乱に陥った。

【写真で見る】ハースは第2戦中国GPでもベアマンが5位に入る好成績を収めた

逆に言えば、従来の情報がリセットされるので、今年からF1を追いかけるには最適のタイミング。そんな混迷のシーズンを、トヨタがタイトルパートナーとしてバックアップすることになったTGR Haas F1チーム(以降ハース)を率いて戦う小松礼雄(あやお)チーム代表に話を聞いた。開幕戦のオーストラリアGPから、翌週の中国GPに向う途中に東京に立ち寄った際の小松代表に貴重な時間をいただいた。

新しいレギュレーションで、序列がリセットされたF1, 第2戦中国が終わってから、レギュレーションが調整される, 今後、レギュレーションの調整が行われる可能性も, ハースが戦う中団勢は、最終的に0.3秒の戦いに, 実は、ダーティエアは昨年よりひどい, どうすれば、小松代表のように世界で戦えるのか, ベテランの苦労人オコンと、若手イケメンのベアマン, 一歩踏み出さないと、目の前にある機会にも気が付かない

ハースは第2戦中国GPでもベアマンが5位に入る好成績を収めた(写真:TGR Haas F1 Team)

新しいレギュレーションで、序列がリセットされたF1

「大混乱になるのは分かっていました。だから、事前にいろいろ意見を言っていたんです」と小松代表。

これまでのように大パワーのガソリンエンジンでレースを行っていては、この時代、社会的意義を失う。そこで、2026年シーズンからF1では根本的なレギュレーション変更が行われた。おおまかに説明すると、燃料はガソリンのような石油由来のものではなく、都市廃棄物、非食用バイオマスなどから作られたいわゆる持続可能燃料を使う。さらに、出力の半分は走行中に発電した電気によるモーターパワーでなければいけない。

新しいレギュレーションで、序列がリセットされたF1, 第2戦中国が終わってから、レギュレーションが調整される, 今後、レギュレーションの調整が行われる可能性も, ハースが戦う中団勢は、最終的に0.3秒の戦いに, 実は、ダーティエアは昨年よりひどい, どうすれば、小松代表のように世界で戦えるのか, ベテランの苦労人オコンと、若手イケメンのベアマン, 一歩踏み出さないと、目の前にある機会にも気が付かない

第1戦オーストラリア・メルボルンと、翌週の第2戦中国・上海の間に東京に立ち寄ったタイミングでお話を聞いた(撮影:山畑俊樹)

化石燃料を使うのではなく持続可能燃料を使い、ハイブリッドの技術も切磋琢磨できる。そういうF1であれば、自動車メーカーも参加する社会的意義があるというわけだ。このレギュレーション変更を受けて、今年からホンダはエンジンサプライヤーとして復帰し、アウディ、キャデラックが参加し、トヨタもハースとタイトルパートナーシップを結ぶに至ったというわけだ。

しかし、その変更は急進的過ぎたかもしれない。現在のF1は費用抑制や競争性の確保のため、事前の走行テストは限られた条件下でしか行うことができない。再生可能燃料で回る新しいエンジンと、走行から回生し、その電力を急速充電・放電し、電動モーターでの駆動システムをテストするにはあまりにも時間が少なかったのかもしれない。

昨年までのF1は競争が極まっており、F1の予選では数百分の一秒で順位が入れ替わることも珍しくなく、トップ10がコンマ数秒以内に収まるような接戦もある。走行速度に大きな差がなく、空力的にも完成度が非常に高かったので、走行時に車両後方に大きな乱流が生まれ、後続の車両はその中に入りづらかった。

結果的にジリジリと同じ順位でタイムを削り続ける、玄人好みの……言い方を変えると、新規ファンには理解が難しいレースが続いていた。レギュレーション変更は、もっと「抜きつ抜かれつ」があるレースにしたいという意図もあった。

第2戦中国が終わってから、レギュレーションが調整される

バッテリーパワーを使ってオーバーテイクしたり、逆にそれで電力がなくなって抜き返されたり。新しいレギュレーションでは抜きつ抜かれつが増えたが、それは観客を楽しませるのだろうか? 

過去4度のワールドチャンピオンに輝いているマックス・フェルスタッペンがビデオゲームのマリオカートになぞらえて「キノコの取り方は覚えたよ」と言ったという話もあるほどで、新レギュレーションの電動パワーの使い方には疑問の声もある。

この新しいレギュレーションについて、小松代表はどう思っているのだろうか?

「元々F1では、内燃機関エンジン、電気モーター、エアロダイナミクス、タイヤ、メカニカルなサスペンションセッティング……といろいろな要素があって、その総合力で戦っていたわけです。たとえばこのサーキットでは空力、モナコなんかじゃメカニカルなセッティング……そのうちのひとつが電気だったらいいんです。でも、今はそういう多くのエレメントの中で、電気が圧倒的に突出している。ひとつの要素が全体を支配してしまうフォーミュラってよくないですよね」と小松代表。

新しいレギュレーションで、序列がリセットされたF1, 第2戦中国が終わってから、レギュレーションが調整される, 今後、レギュレーションの調整が行われる可能性も, ハースが戦う中団勢は、最終的に0.3秒の戦いに, 実は、ダーティエアは昨年よりひどい, どうすれば、小松代表のように世界で戦えるのか, ベテランの苦労人オコンと、若手イケメンのベアマン, 一歩踏み出さないと、目の前にある機会にも気が付かない

開幕戦のメルボルンのアルバートパークサーキットは普段公園として使われている場所。直線が長く、バッテリーの回生が追いつかない現象が起きた(写真:TGR Haas F1 Team)

「ずっと議論はしてるんですよ。『このレギュレーションだと、電動に特化し過ぎたレースになりませんか?』って。」

事前テストは1月末バルセロナでの5日間と、2月半ばのバーレーンでの6日間のみ。完全に新しい車両、新しい規則でレースを行うにはあまりに短いテスト期間だ。実際に開幕戦のオーストラリアでは、走行中の駆動力制御のトラブルらしきハイスピードでのクラッシュや、うまくスタートできず後続が追突しそうになるなど、唐突で危険なトラブルも散見された。

「レギュレーションを修正するにしても、二転三転するのはよくない。変えるなら1回だけ変えて、その1回は絶対に正しいというものにしなきゃいけない。少なくなくとも開幕戦前に変えるのはやめましょうと言いました」

第2戦は中国・上海。少なくとも2戦を終えてから会議をするそうだ。

今後、レギュレーションの調整が行われる可能性も

「僕の感覚では少なくとも5レースぐらいやってから決めるべき。サーキットによって特性は全然違う。メルボルンは元から追い越しの難しいサーキットだし、エネルギーを回収するのは難しい。中国は、スプリントウィークエンドだから(決勝の前日にも、半分の距離のスプリントレースを行う)、また違った結果が出ると思います」

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ズバズバと率直な意見を語ってくれた小松代表。世界を舞台に戦うには、ストレートな表現は大切なのだと感じた(撮影:山畑俊樹)

直線の長い最高速依存のサーキット、高速コーナーのあるサーキット、モナコのように速度の遅い狭いサーキット、テクニカルな中速コーナーで争うサーキット……いくつかの種類のサーキットでレースをやってみて、その後に会議をして、レギュレーションの修正を行うことになるだろうとのこと。

我々ファンにとっても、従来と違って、どこに注目していいか分からない。従来は毎周わずかなタイムを刻んでいって追い越す感じだったが、今年はオーバーテイクボタンを押せば急に速くなって抜けるようにも見える。どこに着目すればいいのだろうか?

「大事な疑問だと思いますが、答えるのも難しい。僕はボタンを押せば抜けるというようなのは違うと思うんです。僕が一番恐れているのは、新しいレギュレーションがあまりに複雑すぎて、何が起こっているのか詳しいファンの方にも分からないっていうことです。見ている人に分かるように、スポーツはシンプルじゃなきゃいけないと思うんです」

現時点では、主催者やチームはもちろん、報道、テレビなども、もっともっと新しいルールについて、情報を伝えなければならないと思っているとのこと。

ハースが戦う中団勢は、最終的に0.3秒の戦いに

「昨年のレースは煮詰まってたという人もいけど、僕は面白かったと思いますよ。僕らも1000分の数秒の差でポジションを逃したりしていますから。すごく緊張感もあって、やりがいもあった。あと1年あのままでいいなと僕は思ってたんだけど」

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持続可能燃料を使ったハイブリッドエンジンを回す新世代のF1。ハースは小規模なチームだが、中団から上位を狙う位置に付ける(写真:TGR Haas F1 Team)

「ただ、F1のDNAって、最先端であり続けることじゃないですか。ということはどこかで変えなきゃいけないんですよ」

新しい変化、挑戦がなければ最先端ではあり続けられないということだ。

レギュレーションが変わって、勢力図も大きく塗り変えられた。新しいレギューレーション下ではメルセデスがおそらくトップで、次にフェラーリ。その後、マクラーレン、レッドブルと並ぶ。

「我々のいる中団も緊迫しています。ハースとアウディ、レーシングブルズ、アルピーヌ。この4チーム8台のマシンが、最終的には0.3秒を争う戦いになると思います。先頭集団、中団、後続集団で、それぞれに激しい戦いが行われると思います」

新参入のアウディはいきなり速さを見せるし、レーシングブルズもホンダと別れて作った自社製エンジンが予想以上に調子いい。アルピーヌもメルセデスエンジンになって躍進するだろう。その競争を健全なものにするためにも、オーバーテイクや電気に対する依存性の高さを、調整しなければならないと小松代表は言う。

「現状だとドライバーがシステムのために働いているようになっている。電力の回生や、放出などのために走っている。ドライバーが車に合わせざるを得ない。本来は逆ですよね。チームは、ドライバーがパフォーマンスを発揮するために車を作らなきゃならない。本当は」

実は、ダーティエアは昨年よりひどい

オーバーテイクモードや、ブーストモードなどはともかくとして、小型化した車両や、グランドエフェクトカーでなくなったことで、車両自体の追い越しやすさは高まっているのか? そうした追加機構をのぞけば、レースしやすくなったのだろうか?

「いや、ダーティエア(車両が残す乱流で、そこに入ると遅くなる)は昨年よりひどいですね」

グランドエフェクトカー(車両の下に空気の通り道があって、路面に吸い付くような効果を発揮する)が規制されたのは、ダーティエアを減らして、オーバーテイクしやすくするためではなかったのか?

「従来はダウンフォースを得るために空気は上に跳ね上げられてましたが、今年はストレートモードにすると乱流はまっすぐ後ろに残ります。だから、ダーティエアの影響はより大きくなっています。それは、シミュレーションでも分かっていました。そのあたりは全部競技規則を決定するFIA(国際自動車連盟)にフィードバックしています」

『ブーストモード』と『オーバーテイクモード』が新設されたので、追い越しは可能だが、ダーティエアの影響がむしろ大きくなっていたとは驚きだ。

どうすれば、小松代表のように世界で戦えるのか

今年から、チーム名も『TGR Haas F1チーム』となり、トヨタの関与もより強くなっているように思える(TGR=TOYOTA GAZOO Racing)。トヨタが資金的なオーナーのようなカタチなのだろうか?

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小規模なチームとはいえ、ファクトリーを合わせると400人もの人が働くという(写真:TGR Haas F1 Team)

「違います。うちはハースです。ハースのチームでトヨタが協力しているというカタチです。テクニカルパートナーとして技術提携もしていて、今年からはタイトルパートナーとしてスポンサーもしてもらっています。いろいろ技術的プロジェクトを一緒にしながら、チームを作り、人を育てましょうということをやっています」

今のF1はコストキャップがあるから、チームが使える予算には限りがあるが、それでもチームの規模感には違いがあるそうで、ハースはかなり小さいチームだ。大きなチームは、マシン開発を含めているファクトリーを含めると1200人ぐらいのチームを抱えるが、ハースは約400人。小規模チームで大規模チームに挑戦するチャレンジだ。

また、よく聞くのはF1はヨーロッパを中心とした世界だという話。FIAの本拠地はパリにあるし、F1チームの多く(11チーム中7チーム)はイギリスを本拠地としている。その中で、アメリカを本拠地にするハースで、しかも日本人である小松代表が400人のチームを率いて戦い、限られた予算の中で素晴らしい結果を挙げている(第2戦終了時のチームランキングは4位)。日本人が、そんな状況で活躍するためには、どうすればいいのだろうか?

「そういうことはよく聞かれますけどね、まずその感覚が僕にはありません。僕は一緒に仕事するのが、日本人だろうが、イタリア人だろうが、イギリス人だろうが、オーストラリア人だろうが、本当にどうでもいいんですよ。僕は違うバックグラウンドの人と、インターナショナルな世界で仕事をしたかったので」

新しいレギュレーションで、序列がリセットされたF1, 第2戦中国が終わってから、レギュレーションが調整される, 今後、レギュレーションの調整が行われる可能性も, ハースが戦う中団勢は、最終的に0.3秒の戦いに, 実は、ダーティエアは昨年よりひどい, どうすれば、小松代表のように世界で戦えるのか, ベテランの苦労人オコンと、若手イケメンのベアマン, 一歩踏み出さないと、目の前にある機会にも気が付かない

トップチームのひとつスクーデリア・フェラーリのチーム代表フレデリック・バスールと話す小松代表(写真:TGR Haas F1 Team)

小松代表は、18歳の時に日本を飛び出し、イギリスの大学に入学し、以来30年以上イギリスで生活し、そのまま夢だったレースの世界に身を投じたのだという。どうすれば、そんな人になれるのだろうか?

「それを教えるのは難しいですね。好奇心があるかないかだし、それって教えられるものじゃないですから。自分が中学・高校生の時に、子ども心に、日本の報道とか、日本人のものを見る目に依存した話を聞いていたら、それだけでは考え方が偏ると思ってたので。だから世界を見たかったんですよね。いろいろな国の人と働いて、日々顔を突き合わせてやっていくことが大事だったんです。だから、それに興味ない人に言ってもしようがないし」

学生時代、日本が嫌いだったわけではないが、日本の教育や社会に疑問はいっぱいあったのだという。

ベテランの苦労人オコンと、若手イケメンのベアマン

最後に、今年ハースのマシンに乗る、エステバン・オコンと、オリバー・ベアマン、ふたりのドライバーについて聞いた。

「エステバンはね、彼はそこまで裕福な家庭の育ちではなくて、でもお父さんが彼をモーターホームで連れまわしてくれて、カートレースに参加し続けたんです。お父さんが人生のすべてをかけてレーサーとして育ててくれた。だから彼は本当にそのことに恩義を感じています。僕が最初に会ったのは彼が13歳のカートドライバーだった時かな。その時から頑張り屋さんだったし、今でもハードワーカー。ただ、やっぱりハマんないとダメというのがあるので、今、そこのところを一生懸命やってます」

F1初参戦以来10年になるオコン、今年は勢いに乗るハースでの活躍が期待される。

新しいレギュレーションで、序列がリセットされたF1, 第2戦中国が終わってから、レギュレーションが調整される, 今後、レギュレーションの調整が行われる可能性も, ハースが戦う中団勢は、最終的に0.3秒の戦いに, 実は、ダーティエアは昨年よりひどい, どうすれば、小松代表のように世界で戦えるのか, ベテランの苦労人オコンと、若手イケメンのベアマン, 一歩踏み出さないと、目の前にある機会にも気が付かない

F1参戦10年の苦労人エステバン・オコン(左)と、一昨年F1デビューしたオリバー・ベアマン(右)のふたり(写真:TGR Haas F1 Team)

「オリー(ベアマンの愛称)はね、今20歳で、僕は彼が18歳の時から一緒に仕事しているんだけど、本当に理知的というか理解力が高い。すごく聞く耳を持ってて、『今、このセッションで君のやらなきゃいけないことはこうだよ』と説明するとそれを聞いて実行できる。速さもピカイチで、高速コーナーもすごいし、エキサイティングなドライバー。人柄もポジティブだし、イケメンだしね(笑)。一緒にやってて楽しいドライバー」

ベテランの苦労人と、ポジティブな若手、絶妙なコンビネーションである。

一歩踏み出さないと、目の前にある機会にも気が付かない

最後に、若い人にメッセージがあれば。

「僕が若い人に言ってるのは、『これできますかね?』とか言う前に一歩踏み出してほしいということ。本当に一歩踏み出さないと何もできないし、行動を起こしたら次何かあるかもしれない。オープンマインドで心を広げて行動を起こしたら、機会っていっぱいあるんですよ。出会いや巡り合わせって、いっぱいあるけど、心を開いてないと気付かないし、動いてないと転がってるものにも当たらない。目的地にたどり着くのに1000歩必要だったとしても、1歩でも踏み出さないと。本当に5歩先が見えてなくてもいいんです。とにかく1歩でも半歩でも前進したら、その先が見えてくる。人生一回しかないので、やみくもにでもいいので1歩踏み出して欲しいと思います」

18歳で単身日本を飛び出した少年は、世界に11人しかいないF1チームの代表になり、挑戦を続けている。第1戦、第2戦を終えてチームランキングは4位。目標の中団勢のトップ以上の位置にいる。第3戦となる3月27~29日に開催されるF1日本GPでさらに上位を狙う。

F1はCSのフジテレビNEXTや、オンラインのFODで観られるが、今年はさらに地上波でも放映されるので、ぜひ小松代表のチャレンジをテレビでご覧いただきたい。