仕事をクビになった夫→贅沢な都会暮らしに慣れた妻の意外すぎる一言〈ばけばけ第119回〉

『ばけばけ』第119回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第119回(2026年3月19日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

トキ、ブードゥー人形を手作りする

 本日もヘブン(トミー・バストウ)の背中が長く映る。

 何か懸命に書いている。

 一晩中書いていたのだろうか、次の場面は朝で、出勤する玄関。

 お見送りのクマ(夏目透羽)にヘブンは手紙が来ていないか聞く。

 昨日もお伝えしたとおり、来ていないと答えるしかないクマ。

 今朝は? と諦めの悪いヘブン。こんな朝から郵便は来ない。

「ほしい アメリカですか(アメリカからの手紙を待っているのですか)」とクマもヘブン言葉になっている。

「来たら必ずお知らせします」と答えるクマ。ヘブンの様子から彼が何かを待ち望んでいることを察している。来たら渡すに決まっているとキレないところがやさしさだ。

「帝大日和」と司之介(岡部たかし)が現れる。しつこく「帝大」「帝大」を連呼。不自然すぎるが、これも彼なりの優しさ。

 最後はトキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)。ブードゥー人形に「届けー届けー」と念を込める。

 ヘブンは少し元気になって「届けー」と言いながら、出かけていく。

 クマもトキもヘブンがまさか帝大をクビになっていることは知らないが、元気がなさそうなので気を遣っている。

 ヘブンがしょんぼりしているので主題歌がまたドラマにハマって聞こえる。

「君の隣歩く」のはトキだろう。

 主題歌明け、トキはせっせとブードゥー人形を作っている。

 クマがのぞき込んで、「お守りを奥様が手作りして、ご利益があるのですか?」と至極まっとうな質問をする。

 冒頭のヘブンとのやりとりといい、登場したときは奇妙な子だったクマだがいつの間にか常識を身に着けている。

「なかでしょう」

「なかかー」とトキはから笑い。と、そこへ来たー、郵便! 人形効果が早くも?

ついにヘブン、告白

 それに大量の手紙が届き、大喜びのトキとクマ。

 そこへ、ヘブンが帰って来た。

 封書をたくさん見て、ヘブンも盛り上がる。

 郵便屋さんにも大感謝し、「いえ私は配達しただけですので」と戸惑わせる。

 だが、届いた手紙には

「sorry」

 不吉なワードである。

 次々とあけてみるが「no plan」「NO」とよくない言葉しかみつからない。

 ヘブンは大きな声で、プリーズ、プリーズ、カモン、カモンと書いてありますように神にも祈るような気持ちで封筒を空けていくが、良いワードはみつからず、がっかりして、手紙を机にたたきつける。ドン!

 いろんなところに企画書か原稿を送ったが断られてしまったのだろう。まだ開けていない封筒にイライザからの手紙があった。一筋の望みをかけて開けてみるが――。

「残念ながら、講義や講演の希望はないわ」

 打つ手なし。ものすごく落胆するヘブンはノーノーとうろうろする。

 ついに、カッとなって本棚からかき出し、床に乱暴に打ち付ける。

 音に驚いたトキが飛んできた。

 クマ、司之介、フミ(池脇千鶴)がそろりそろりと順番に様子を見にくる。

 トキは、ヘブンのこういう癇癪(かんしゃく)にすっかり慣れているようで(長年連れ添った感)落ち着いた様子で、彼をなだめる。

その手にブードゥー人形を握らせ、「すぐにすぐにええ知らせ届きますけん」。

 やさしくされたヘブンは、ついに、告白。

「クビになりました」

「400円なくなりました」

 ほかの仕事も見つからず諦めたのか、やさしくされたので話してもっと楽になりたいと思ったのか。

 トキの反応はいかに?

「なあんだ ならよかっただないですか」

「やっと時間ができますけん。好きなだけようけようけ書けますけん。たくさん書いてごしなさい。あなたは、書くの人ですけん」

 トキがすっかり度量が大きくなっている。

「でも400円」

「大丈夫ですけん そげなことでうちの家族はこわれません」

 ホントかホントなのか。

いよいよ『怪談』の出番か

 一度贅沢(ぜいたく)に慣れたらそんな簡単に貧乏に戻れないと思うが……。しかも、トキは東京に住みたいと言い出した張本人であり、都会暮らしを満喫しているはず。モデルのセツさんもそうだったようだ。でももうそういうリアリティは関係ない。ドラマはひたすら情緒に流れていく。

 ヘブンはトキを抱きしめる。

「よかったのう 昔のわし」と遠くでカメラのピントの合わない司之介が言う。

「昔のわし?」と男同士のやりとりをわからないトキたち。そんなこともほっこりさせるきっかけになったのか、ヘブンは心を落ち着かせて椅子に座る。

「これでベストセイラが書けるのう」と司之介。

 いや、でも、題材がまだ見つからない。

 そこでトキが思いつく。

「次の本ですが、私、読めるの話 書いてくれませんか?」

「今まで、ようけ 本ありました。すばらしの本 ようけ。ずっと読みたかった。パパさんの本。だけん、学がない私でも、読めるの本、楽しいの本 書いてくれませんか」

 きたきた、いよいよ『怪談』を書き出すきっかけだろう。いろんなことはさておき、『怪談』誕生を楽しむしかない。

 それにしても、トキが夫の書いたものをまったく読んでいないというのが印象的。内容が難しい以前に英語だから読めないのだ。家族の誰もヘブンの仕事をわからないまま。まあ、それはどこの家でもあることだろう。でも、晩年、家族のために何かを残そうとする話は、あくまでもホームドラマである朝ドラにふさわしい。

 そして、主人公(あるいはその近しい人)の歴史的偉業が最後の最後に出てくるのも朝ドラのひとつのパターンである。『あんぱん』も『アンパンマン』は終盤に誕生したし、『まんぷく』もインスタントラーメンは終盤に誕生した。『らんまん』も植物図鑑が終盤に……。

 じらしにじらすのが策なのである。

 さて、明日は『怪談』誕生か。

フォトギャラリー

主なシーンより

第24週(3月16日~3月20日)

「カイダン、カク、シマス。」あらすじ

10年が経ち、トキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)は東京の大久保に。長男の勘太、次男の勲、司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)、クマ(夏目透羽)と穏やかな日々を送っていた。子供たちに英語を教え、教師として働く帝国大学と家を往復するヘブン。そんなヘブンを支えながら子供たちの成長を見守るトキ。穏やかで幸せで桃源郷のような東京での暮らしに充実するトキ。その裏で、ヘブンはある悩みを抱えていた。

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / シャーロット・ケイト・フォックス 杉田雷麟 夏目透羽 水野智則 / 渡辺江里子 木村美穂 / 岡部たかし 池脇千鶴 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始