「お酒に弱い人は、新型コロナウイルスに強い」説アリ…なんと、国や人種で「感染症の罹患率は、これほどまでに違った」
「太り気味だから、ごはんをお茶碗半分にしているのに痩せない」「血圧が高いから塩分を控えるように家族に言われた」……こんな経験がある方、少なくないのではないでしょうか。実はそれ、日本人に合っていない健康法かもしれません。
同じ人間であっても、外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がないどころか、逆効果ということさえあるのです。
見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための健康法を、徹底解説してロングセラーとなった『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』が全面改訂されて『最新 欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』として新たに刊行されます。
新型コロナの流行をはじめ、旧版刊行からのおよそ10年のあいだの医学・健康をめぐる新知見をも取り込んだ本書。今記事シリーズでは、この『最新 欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』から、とくに注目の話題をご紹介していきましょう。
今回は、国や人種によって体質に違いが生じることを、具体的な例でご紹介していきます。まずは、私たち日本人と感染症の関係から見ていきます。
*本記事は、『最新 欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
日本人がかかりやすい感染症がある
どんな遺伝子を受け継ぎ、どんな環境要因のもとで暮らしているかは一人一人違い、こうやって作られた体質によって個人の病気のなりやすさが決まります。
このとき、よく似た遺伝的素因と環境要因を持つ人が大勢いると、個人を超えた人の集団においても、病気のかかりやすさについて共通の傾向があらわれます。その集団のなかで結婚する人が多ければ同じ遺伝的素因を持つ人の割合が高くなりますし、人と人の結びつきが強ければ生活習慣も似かよったものになるでしょう。
とくに、社会的な理由から排他的な民族や、日本のように自然の境界によって他国とへだてられた国では、こういう傾向が強くなります。
その結果、同じ病気でも、国や人種によって発症率や原因、症状などに大きな違いが生まれました。前回の記事でも触れた結核も日本で多い感染症です。途上国に多い病気というイメージとはうらはらに、日本の発症率は2023年においても米国の2.6倍です。
また、2019年末に中国で発生し、2020年から全世界に拡大した新型コロナウイルス感染症も、流行初期にあたる2020年前半の感染率に地域差があったことが知られています。
東アジアでコロナが少なかったわけ
残念ながら感染対策の不備や変異株の出現によって、最終的には世界中が大流行に飲み込まれていくのですが、当初は、日本を含む東アジアと東南アジアは感染者数が明らかに少なかったのです。とくに日本の感染率は米国のわずか100分の1で、罹患率、死亡率ともに経済協力開発機構(OECD)加盟38ヵ国のうちで最も低い水準を維持していました。この場合の「罹患率」は、一定期間内にあらたに感染した人の割合を示す用語です。

新型コロナ感染症の流行初期には、日本を含む東アジアと東南アジアは感染者数が明らかに少なかった photo by gettyimages
東アジアと東南アジアの感染率が低かった原因として、この地域には昔からよく似たウイルスが存在し、その結果、人々が何らかの免疫を持っていたのではないかという指摘がありました。
しかしながら、2020年4月にニューヨーク市衛生局が公表した統計によると、新型コロナウイルスへの感染率には明らかに人種差があり、高いほうからアフリカ系、ラテン系、欧州系、アジア系の順でした*。調査した集団に高齢者が多いと感染率が高くなる恐れがあるため、データは年齢で調整してあります。やはりアジア系は新型コロナウイルスに感染しにくいようです。
*ニューヨーク市のコロナ感染率には人種差があった :NYC Department of Health and Mental Hygiene,“ Age-adjusted rates of lab confirmed COVID-19 non-hospitalized cases, estimated non-fatal hospitalized cases, and patients known to have died 100,000 by race/ethnicity group as of April 16, 2020.”
新説…「お酒に弱い人」は、新型コロナウイルスに「強い」
2024年になって、日本で興味深い論文が公表されました。東アジア人に多い「お酒に弱い人」は、新型コロナウイルスに「強い」というのです**。
アルコールを分解するALDH2という酵素の力が遺伝的に低い人は、お酒を飲むと顔が赤くなります。日本を含む東アジアにはこのタイプが多く、日本では約40%にのぼります。これに対して、欧州系、アフリカ系にはALDH2の力が弱い人はいません。

アルコールを分解するALDH2という酵素の力が遺伝的に低い人は、日本では約40%にのぼる photo by gettyimages
そしてお酒で顔が赤くなる人は新型コロナウイルスに長期間感染せず、入院が必要になるほど重症化する危険も低く、感染率は5分の1でした。
**飲酒で顔が赤くなる人は「コロナに感染しにくい」: Takashima S. et al. ,“ Asian flush is a potential protective factor against COVID-19: a web-based retrospective survey in Japan.”, Environ. Health Prev. Med. , 29(2024).
この報告を聞いて思い出すのが、2020年に提唱された「日本人はお酒に弱くなる方向に進化した」という説です。
コンピューターをもちいた大規模な分析により、日本人は世代をへるごとにアルコールを分解する力が弱くなるように遺伝子が変化したことが明らかになりました。
アルコールは肝臓で分解されてアセトアルデヒドという有害物質に変わります。このとき、ALDH2と同じくアルコール代謝にかかわるADH1Bという酵素の活性が低いと、アセトアルデヒドをなかなか分解できません。同じ量を飲んだ場合に、お酒に弱い人は血液中のアセトアルデヒド濃度がお酒に強い人の20~30倍にのぼるとされ、有害な作用を長く受けてしまいます。
ところが、このことが生存に有利な特性をもたらした可能性があるのです。
稲作文化が育んだ体質
古代日本で稲作が広まった頃、水田には有害な病原体が多数生息していました。細菌やウイルスだけでなく、マラリアを媒介するハマダラカの幼虫もいれば、感染すると重い肝障害を招く日本住血吸虫による被害も深刻でした。
しかし、お酒に弱い人は有害物質アセトアルデヒドが血液に多く溶けているため、病原体が体内に侵入しても活発に活動できません。そうなれば、お酒に弱い人のほうが生きのびやすいということになります。
実際に、稲作は8000年以上前に現在の中国を流れる長江の中流域で始まったとされていますが、この地域はお酒に弱い人がとくに多いことが知られています。

稲作文化における水田環境と感染症の意外な関係……。その地域の人々の体質は、文化や環境と深い関わりがある photo by gettyimages
ALDH2の強さを決める遺伝子と新型コロナウイルスへの感染しやすさとの関係について、詳しいことはまだわかっていません。体内にたまったアセトアルデヒドが新型コロナウイルスを殺菌するという単純な話ではないので気をつけてください。
*
人種や国の違いによって発症率が異なる疾患例についてご紹介してきましたが、じつは感染症ばかりではありません。
続いては、自己免疫疾患やがんなど、人種や国の違いによって発症率が異なる感染症以外の病気を見ていきます。
最新 欧米人とはこんなに違った日本人の体質
科学が示す、人種と病気の新常識
最新研究でわかった、「日本人のための健康法」とは?
長い年月の中で、欧米はもとよりアジアの他地域とも異なる独自の「体質」を育んできた日本人。体質が違えば病気のなりやすさも、発症のしかたも変わります。そのため私たち日本人は、日頃の健康法や病気の予防法も、他の国と同じというわけにはいかないのです。
本書では、見落とされがちだった「体の人種差」の視点から日本人にとって本当に有効な健康法と、病気の予防法を徹底解説。日本人がこれからも健康でいるために、守るべき習慣と変えるべき習慣が見えてきます。