売り切れ続出「セブンのカップうどん」の凄さ

セブン-イレブンと明星食品が開発した「おくらとめかぶ 鰹と昆布だしのうどん」(写真:筆者撮影)
いま、とてつもない勢いで日本中のタイムラインを席巻しているPB商品がある。セブン-イレブンと明星食品が開発したカップうどん「おくらとめかぶ 鰹と昆布だしのうどん」だ。
【画像】売り切れ続出、セブン「おくらとめかぶ 鰹と昆布だしのうどん」はこんな感じ

話題となっているセブンのカップうどん「おくらとめかぶ 鰹と昆布だしのうどん」(写真:筆者撮影)
事の発端は、筆者が自身のX(旧Twitter)アカウントに投稿した4枚の画像と、タイムラインに収まるわずかな文字を添えた分析だった。このポストは執筆時点で693万のインプレッションを叩き出し、リポストは1.2万件、いいねは6.8万件を超えている。

(筆者のXアカウントより)
それは一般ユーザーのスマホにとどまらず、著名な動画クリエイターやインフルエンサーの活動にも影響を与え、店頭からは瞬く間に姿を消した。
売り切れ続出、4倍の価格で転売も出現…
しかし、まず言及しておかなければいけないのは、ブームの裏側に潜む「熱狂の歪さ」である。
驚くべきことに、本来の適正価格から4倍ちかい値段で、AmazonなどのECサイトに転売される事態を招いた。
カップ麺という日常食において、それも背景に「みそきん」のようなプレミアム感がないのにもかかわらず、これほどの異常な高値がつくことは異例であり、ひとつ社会現象と呼んでも大袈裟ではないだろう。

税込み170円の商品が、数倍の価格で転売されている状況だ(写真:筆者撮影)
そんな「おくらとめかぶ 鰹と昆布だしのうどん」だが、一見するとパッケージは地味そのものだ。奇抜な色が踊るわけでも、インフルエンサーが監修しているわけでもない。そんなプライベートブランド商品がなぜ、日本中の指を止めたのか——。
専門家目線でも「異常」の一杯だ

シンプルな外観だが、気になるお味は…(写真:筆者撮影)
専門家の目から見れば、この商品は「異常」の塊である。
まず、縦型カップにノンフライうどんを採用する選択。これは製造コストと技術的ハードルの両面において、極めて難易度が高い。

「おくら」や「めかぶ」といった、他の製品には転用しづらい特殊な具材をふんだんに使用(写真:筆者撮影)
さらに「おくら」や「めかぶ」といった、他の製品には転用しづらい特殊な具材をふんだんに使用している。通常、メーカーは効率を重視しなければいけない。そのため大量にストックがある既存の資材を多用して、新商品を作るものだ。

お湯を注ぐとこんな感じ。乾燥具材と思えないほど本格的(写真:筆者撮影)
しかし、この商品は流用を拒む独自の設計思想を貫いている。これほどのアドバンテージを持ちながら、販売価格を158円(税込み170円)に抑え込んでいる事実に、筆者は戦慄せざるを得なかった。
そのような仕掛けを涼しい顔でやってのけられたのは、コンビニ業界の最前線に立ち続けているインフラの王者・セブン-イレブンと、業界きっての技術力を誇る明星食品が手を組んだからこそ。安いだけが売りの客寄せパンダではなく、圧倒的なスケールメリットを背景にした「価格破壊」ならぬ「価値創造」の極致に到達していたのだ。
インフレ時代に安さが刺さりまくった

料理研究家のリュウジ氏も大絶賛し、話題に(写真:筆者撮影)
それにしてもなぜ、ここまで爆発的な支持を得たのだろうか。そのパズルを紐解くためには、我々の中に潜んでいる「金銭感覚のズレ」とも向き合わなければならない。
諸々の高騰が相次いでいる現代において、いまだにカップ麺は “100円前後で買うもの„ などと、昭和〜平成中期のバイアスにとらわれているユーザーは少なくない。またカップ麺に限らず、スナック菓子や豆腐、納豆、バラ売りの野菜など、そもそも「100円前後を超えると高い」と警戒されるカテゴリーは確実に存在する。
これは、近年のラーメン業界における「1000円の壁」問題とも無縁ではない。一杯の食事に対して、我々が支払うべき正当な対価とはいくらなのか。その基準は常に右肩方向に揺れ動き、変動のたびに我々は最新のOSを与えられ、半強制的なアップデートを要求されている。
もちろん、最新のOSをインストールしないまま、古いデスクトップでAI時代を生き抜いている猛者も存在する。しかし、セブン-イレブンと明星食品が放った最先端のガジェットは、恐ろしいほどに柔軟な互換性を見せ、幅広いモデルに深く刺さったのだ。
視点をコンビニの棚全体に移すと、その景色はさらに切実なものとなる。たとえば定番のおにぎりは、1個あたり200円前後が当たり前。それが具材にこだわったプレミアム帯ともなれば、当然といわんばかりに300円を超えることも珍しくない。昨今の社会問題として取り上げられた「令和の米騒動」の影響もあり、かつては100円が基本だった軽食の王座は静かに、そして確実に高騰の波に飲み込まれた。
即席カップめん業界も例外ではなく、麺の揚げ油に使用されるパーム油や物流費、人件費、包装資材などの高騰を理由に、今年さらなる値上げが目前に迫っている。
たとえば「カップヌードル」や「日清のどん兵衛」をはじめとするレギュラーサイズの基準を引き合いにだすと、現時点で236円(税別)の商品は248円(税別)に改定されるのだ。それでもなお、158円(税込み170円)のカップうどんは高いといえるだろうか。
健康的な一杯だったのも大きい
また今回の場合、低カロリー・低脂質・豊富な食物繊維といった機能面も注目され、カップ麺の世間的なイメージとは対極にある「健康」にコミットできたことも大きい。かつてダイエット食品が担ってきた役割を、より手軽な形で代替する「健康への免罪符」となった。
そして、この商品が持つ真の凄みは、販売価格の安さと機能性に加え、高品質なノンフライうどんと濃密な出汁、個性的な具材ととろみが織りなす、唯一無二の「美食体験」として成立している点にある。健康への配慮、たしかな美味しさ、手頃な価格を両立させた「究極のバランス」を打ち出し、消費者の心を鷲掴みにした。
またSNS上の反応を見ると、カップうどん単品だけでなく、おにぎりとのペアリングを楽しんでいる投稿も少なくない。
あえて具材を省いたファミリーマートの「かけ」シリーズや、ローソンの「スープ激うま!」なども狙っている、コンビニおにぎりとカップ麺の絶対的な買い合わせ需要。そのど真ん中に “おにぎり1個以下の価格で圧倒的な満足度を投げ込んだ„ ことが見事にハマり、爆発的な拡散を後押ししたと筆者は分析している。
カップ麺に170円払うことで見える境地がある
一方で、品薄に乗じた転売騒動については冷静に見極める必要がある。本来、この商品は税込み170円で提供されているからこそ、値段以上の価値が成立していることを忘れてはいけない。食のインフラとしての透明性が不当な高額転売によって阻害される、この事態は本質から大きく逸脱している。
筆者としても、以前から愛用しているファンの方や、一度は試してみたいと思っている方の元に、この商品が届かなくなっている現状は本意ではない。念のため製造元の明星食品に取材したところ、執筆時点で増産・再販売の計画は具体化していないとの回答だったが、この大きな渦中にいるメーカー側の前向きな検討を切に願っている。
我々は今、日々の生活の中で小さな「究極の選択」を繰り返している。財布の紐をきつく縛ることで得られる安心を取るか、それとも少しだけ財布の紐を緩め、価格以上の「小さな幸せ」を掴み取るか。前述した100円前後のバイアスに自覚があり、数十円〜百円の追加投資を「高い」と切り捨てているのであれば、それは現代において大きな機会損失となり得る。

縦型カップらしからぬ本格さだ(写真:筆者撮影)
今回の騒動は、決して一過性の流行ではない。件の「おくらとめかぶ 鰹と昆布だしのうどん」が巻き起こした現象は、我々消費者が1食あたりの価値を見直し、日常生活の基準を更新するための、大きな分岐点の一つにもなっている。
相場の変化に対応できるOSをインストールし、自らの価値観を恐れずにアップデートすることで、世界はもっと明るく見えてくるはずだ。