「一度は姿を消した航路が15年ぶりに復活…」片道7時間の船旅、本当に乗る価値はあるのか? 新造船就航で変わる室蘭~青森航路とは
室蘭~青森航路の割引拡大
津軽海峡フェリーは2026年3月2日、室蘭~青森航路で「スーパー海割」の通年販売を開始した。対象は4月1日以降の乗船分である。
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スーパー海割は、マイカーを使う少人数旅行者向けの割引商品である。函館~青森航路や函館~大間航路での好評を受け、今回、室蘭~青森航路にも拡大した。利用条件は6m未満の乗用車の乗船、船室はスタンダード限定、片道・往復いずれも利用可能、乗船人数はドライバーを含めて8人まで、事前予約・事前決済が必要である。
割引率は乗船日や人数によって異なる。例えば函館~青森航路で、普通車1台にドライバーひとりと大人ひとり、子どもひとりの計3人で利用した場合、通常(A期間)2万4050円のところ、スーパー海割を使うと1万5250円となり、約36%の割引になる。
同社はスーパー海割以外にも各種割引商品を販売しており、タイアップ企画などの販促活動も活発に行っている。プレスリリースによる情報発信も多い。これらの割引商品や販促活動は、ファミリー層や友人同士など、主に一般旅行者向けである。
ただし、津軽海峡フェリーに限らず、多くのフェリー航路は乗用車やバスよりも、トラックとトラックドライバーの輸送を中心に発展してきた。乗船日によっては、車両スペースはトラックで満載でも、旅客スペースは空いていることも珍しくない。
航路別輸送量の現状

室蘭のシンボル・白鳥大橋の下を航行する津軽海峡フェリー(画像:津軽海峡フェリー)
北海道運輸局が公表した2024年度の航路別自動車運送の数値を見ると、同社が運行する航路では、主力の函館~青森航路でバスは843台、トラックは22万2231台、乗用車は14万2443台、二輪車は9283台である。一方、室蘭~青森航路ではバスが62台、トラックが1万1743台、乗用車が7430台、二輪車は842台だった。
台数ベースでは、函館~青森航路はトラックが全体の59%、室蘭~青森航路はトラックが全体の58%を占める。ただし、トラックは車両が大きいため、スペースの占有率はさらに高くなる。
トラックは年間を通じて需要が比較的安定しているが、バスや乗用車、二輪車は観光シーズンによる変動が大きい。とくに本州と北海道を結ぶ航路では、二輪車を中心に夏季の需要が集中する傾向がある。
こうした状況もあり、かつてのフェリー航路は、トラック輸送が中心で一般旅行者は「ついでに」乗せる存在という印象が強かった。
しかし近年は、同社を含むフェリー会社各社がトラック以外の一般旅行者の取り込みに力を入れている。従来どおりトラック輸送を重視しつつも、船室や共有スペースを充実させることで、クルーズ船に近いサービスを提供する動きが進んでいる。
今回、スーパー海割の通年販売を開始した室蘭~青森航路では、2025年8月に新造船「ブルーグレイス」が就航した。展望浴室や新等級の「ファースト」を新設したほか、従来のスタンダード等級でもマットレス、鍵付きロッカー、コンセントを完備するなど設備を拡充している。
室蘭航路の歴史

室蘭フェリーターミナル(画像:津軽海峡フェリー)
フェリーを運航する会社にとって、既存船が更新時期に差し掛かっているとしても、新造船は最大の投資となる。同社は室蘭~青森航路を中長期的に有望な航路と判断し、大きな経営決定を下したといえる。
この室蘭~青森航路にはやや特殊な事情がある。室蘭市はフェリー航路の誘致に力を入れてきた歴史があり、1994(平成6)年には東日本フェリーが大規模なフェリーターミナルビルを開業した。最盛期の2002年には、東日本フェリーが室蘭~青森航路、室蘭~八戸航路、室蘭~大洗航路、室蘭~直江津航路を運航していた。筆者も1990年代に室蘭フェリーターミナルを利用したことがあるが、夏季のオンシーズンには相当な賑わいを見せていたと記憶している。
しかし2000年代以降、東日本フェリーの経営破綻や航路廃止が相次ぎ、2008年11月の室蘭~青森航路の廃止で室蘭からフェリー航路が完全に消えた。その後、川崎近海汽船が2018年6月に室蘭~宮古航路を就航させ、10年ぶりに室蘭にフェリー航路が復活したが、室蘭~八戸航路に変更の後、2022年1月に廃止され、再び室蘭から航路は消滅した。
室蘭から航路が消えた最大の理由は、苫小牧との競争に敗れたことである。苫小牧は札幌・道央圏から近く、本州、特に太平洋側からの航路を短縮できることから、室蘭は不利だった。
現在の室蘭~青森航路は、2023年10月に津軽海峡フェリーが15年ぶりに復活させたものである。フェリー航路復活を望んでいた室蘭市の誘致に応じた側面もある。
労働時間規制と航路復活

新造船「ブルーグレイス」のエントランス(画像:津軽海峡フェリー)
もう一点、室蘭~青森航路が復活した背景には、トラックドライバーの労働時間規制がある。2024年4月の改正改善基準告示では、トラックドライバーの労働時間は1日原則13時間以内(最大15時間)、休息期間は原則11時間以上(最低9時間)に厳格化された。告示にはフェリー特例があり、フェリー乗船時間は原則として休息期間として取り扱うことになっている。
津軽海峡フェリーの主要航路である函館~青森航路は片道約3時間半であるのに対し、室蘭~青森航路は片道約7時間である。この7時間の乗船時間が十分かどうかは別として、十分な休息期間が確保できない函館~青森航路に比べ、室蘭~青森航路にはトラックドライバーの休息需要が見込まれる。
室蘭~青森航路に限らず、長距離フェリーにはもともと一般の船室とは区別されたトラックドライバー専用のドライバーズルームがあり、ドライバーの休息に一定の配慮がなされていた。2025年8月に就航した新造船「ブルーグレイス」でもドライバーズルームを拡充している。新設した展望大浴場は基本的に一般旅行者向けであるが、トラックドライバーの福利厚生の役割も担っている。
新造船という投資を行った室蘭~青森航路では、今後、各種割引商品などで一般旅行者の集客に注力すると同時に、トラックドライバーの休息需要をどこまで取り込めるかが注目される。