「核兵器よりも危険なもの」に世界は目を向けよ、エマニュエル・トッドがヒロシマで語る「核武装論」

被爆国である日本は、核兵器についてどのように考えるべきなのか。フランスの歴史家エマニュエル・トッド氏は、核兵器そのものよりも危険なのは「核の非対称性」であり、均衡こそが平和をもたらしてきたと指摘する。しかし、アメリカの「核の傘」に依存する安全保障はもはや前提とできず、日本は自立のための選択を迫られている。さらにトッド氏は、人口減少と高齢化が進む世界において、実は「大規模な戦争」そのものは起こりにくくなっているとも分析する。核、同盟、人口動態――安全保障の前提を根本から問い直す議論となった。最新刊『2030 来たるべき世界』から一部を抜粋・再編集してお届けします。
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■核武装論を再考する――均衡こそが平和をもたらす
――今やすべての「旧帝国」は崩壊し、西洋も敗北し、トランプ政権は予測不能だということですが、広島原爆資料館に先ほど行かれました。ただ、あなたの著書では、日本人へ「核兵器の保有」も提案しています。その理由について、改めてお聞かせください。
原爆資料館を再訪した後なので、少々申し上げにくいのですが……。私には、今この瞬間も、原子爆弾というものがありありと目に浮かびます。
2個の原子爆弾をヒロシマとナガサキに投下することが可能だったのは、「アメリカ人が原子爆弾を持ち、日本人は持っていなかった」という基本的な非対称性があったからです。
実際に、その後は「均衡」と平和が続いています。私は、真の危険は核兵器自体ではなく、核の非対称性にあると考えます。
もちろん核兵器を廃絶するのは理想です。ただ、それが永遠に起こらないことは、だれもが知っているはずです。
ことに私は歴史学者です。ありえないことを考えるのは、私の仕事ではありません。それは、愉快なSFの世界にお任せしましょう。
しかし、私が原爆資料館の精神的プレッシャーに抗ってでも主張したいのは、日本が「ある種の核兵器」を獲得することで、均衡と自立がもたらされるのは、日本にとって合理的だということです。
10年先、20年先、中国もアメリカもどうなるかは予測もつきません。また、日本人の観点から、「核武装が可能かどうか」は私にはわかりません。

それについては、まずは謙虚に申し上げます。つまり、ここで私が伝えているのは、ロジックなのです。
核兵器がどれほど恐ろしく、どれほど危険なものかとただ言い募るのは、非論理的だと考えます。均衡状態に達するには、やはり他の国々も核を持つしかないのです。
■アメリカの「核の傘」という幻想――予測不能な同盟国
――すると、アメリカの「核の傘」は幻想であり、唯一の選択肢は「日本が核を持つか、持たないか」になるということでしょうか。
まったくそのとおりです。
あなたは「トランプが予測不能」だと言いましたが、実際はよりひどい状態で、「アメリカ自体が予測不能」なのです。
つまり、同盟国を裏切ったり、戦争に負けたり、さっさとよそで戦争を始めたり……、アメリカの長い歴史の中では、そんなことがたくさん起こっています。
その意味で、トランプはまさに「アメリカのカリカチュア(風刺画)」です。しかし、「アメリカが予測不能だということは予測可能」なのです。
彼らに裏切られるのは当然だと考えるべきです。
――核兵器によって、「アメリカから自立」するというロジックでしょうか。
いいえ、そうではありません。
逆説的で不思議なのですが、核兵器があれば、戦争することが考えられなくなると私は考えます。逆に、伝統的な通常兵器で再武装すると、いつでも戦争が可能になってしまうわけです。
核兵器の話をするとき、私はきわめてフランス人的な考え方をしています。
フランスは核兵器を保有しています。最近まで、私たちは平和的な国家で、ド・ゴール主義を掲げ、独立と平和の理想がありました……。
■日本が立ち向かうべき「人口減少」という難題――指導者が戦争を語る理由
――日本には、ある種の政党や派閥を「ナショナリスト」と評する伝統があり、その政策を「日本の保守」と呼ぶことは知っています。
これはもちろん一つのステレオタイプですが、「かつてない脅威であるナショナリスト・日本」と揶揄されることもあります。中国や韓国は、これが大変得意ですよね。
しかし私の専門の人口統計学的には、日本の人口は減少しています。日本はドイツのように国力を維持するため移民を受け入れることはしていません。

国力の低下を甘んじて受け入れる国、それが日本の真実です。ナショナリズムの概念とは合わないのです。
私は、日本の人口減少がよいとは決して考えません。なので、人口が減っていく国で「ナショナリズム」を発揚するのは、私は適切ではないと思っています。
――おっしゃるとおり人口減少で、日本の自衛隊でも、兵器を扱う若者の確保に苦労しています。
はい、それがこの状況の驚くべき点です。
現実逃避をしているヨーロッパのエリートについて、こんな話があります。1928年か29年に出した〝ロシアの攻撃に備えよ〟といった布告を「軍司令官や情報機関が、今後また出すに違いない」とフランスでは教え込まれています。
つまり言い換えるなら、多くの人命を犠牲にしてウクライナで勝利しつつあるロシアが、日本と同様、人口減少に直面するヨーロッパ全土で戦争を始めかねない、と言うのです。
まったくばかげた話ですが、これは、アメリカからなにかしらの抑圧を受けている全世界の国々にも言えることです。
つまり、国の指導者というのは「戦争」を語りたがるのです。戦争は避けようがなく、平和の実現は、いかに困難であるかを語りたがるのです。
しかし私の考えでは、平和な世界のビジョンを得ることも、近づくことも、実はとても簡単だと思います。なぜなら、世界の多くの国で人口が減少し、高齢化が進んでいるからです。
中国の脅威についてはよく語られます。しかし、中国とインドの出生数を例に挙げると、インドは毎年2200万人増えていますが、中国は900万人の増加です。
中国では、女性一人あたりの出生率が1・1ほどになっています。つまり、中国はどこかに侵攻する前に、まずは人口問題を解決しなければならないのです。人口が不十分な状態では他国を侵略しようがありませんからね。
一方で、アメリカの人口は減り続け、ヨーロッパ系白人の出生率も低い。つまり、平和の条件は揃いつつあります。だから、対立を引き起こす「新しい勢力」が躍進しているのは、やや不可解にも思えます。
(聞き手:朝日新聞社[副島英樹、田井中雅人])
⇒この続きは、ぜひ『2030 来たるべき世界』を手に取ってご確認ください。
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