朝ドラ史上、最も残酷なラスト? 10年以上の毎日レビューで気付いた「ばけばけの異質さ」〈ばけばけ第124回〉

ヘブンの人生は日本人に寄生されただけだったのか, 「あのころの私は、気づいておりませんでした」, 静かだった『あんぱん』、大活躍の『おむすび』, 「ラス前が最終回でも良かった」作品も, 一番バランスが良かった「ラス前」は…

『ばけばけ』第124回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第124回(2026年3月26日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

ヘブンの人生は日本人に寄生されただけだったのか

 あと1回なのだ。あと1回を前にしたプレ最終回。けっこう大事な回だと思うが、主人公トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)は、くよくよ後悔ばかり。ヘブン(トミー・バストウ)にはもっといい別の人生があったのではないかと。

 ここでは第124回を振り返ると同時に、過去の朝ドラの最終回直前回はどうだったか、これまでのレビューアーカイブから振り返ってみたい。

 まずは第124回。

 ヘブンと勘右衛門(小日向文世)の遺影にゆで卵が供えてある。毎朝の行事。でもそこにトキはいない。まだひとり部屋で休んでいるのだ。

 主題歌が終わると、トキがようやく起きてくる。ひとりだけ寝坊してしまったことを気にするが、家族はみな、彼女をいたわる。

 そこに丈(杉田雷麟)が来ていて、ヘブンの講義を記録していたものにヘブンの思い出を足して回顧録としてイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)に送ったらどうかと提案する。

 そこに「ひと言でいいですので、おトキさんからも何かいただけたら」と丈。書けなくても、「話してくだされば私が書き留めます」と歩み寄るが、トキはできないと拒む。

 ヘブンの人生を台無しにしてしまった。人生の最後に最も売れない幼稚な本を書かせ、最低の人生にしてしまったと悔やむトキに、家族は、いろいろないいことがあったではないかと思い出させようとする。

 そこで司之介(岡部たかし)が持ち出す話は、ことごとくトキの傷に塩を塗るようなものばかり。

 怪談で出会ったふたり。その怪談が海外では幼稚と軽視されてしまった。

 借金返済して洋食パーティー。松野家がヘブンに頼っただけ。

 まるで、トキや松野家がヘブンに寄生しただけではないかと一部の視聴者がドラマに感じていたことが認められてしまったようだ。

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「あのころの私は、気づいておりませんでした」

 クマ(夏目透羽)が熊本の思い出は?と言うと、ヘブンは熊本が嫌いだったとトキはヒステリックに返す。クマがかわいそうで、ますますトキの印象が悪くなる。

 そうはいっても子どももふたりも生まれて幸せな生活を過ごしてきたではないかと、口々に説得されたトキは、過去を思い出すことにした。

 出会いは明治23年(1890年)の夏――。よく年を覚えているなあ。

「出会った頃のヘブンさんは、自由で、何をするか分からん愉快な人で、そげな人を縛りつけてしまったのは、この私でした」

 しかし、出てくるのはやっぱり懺悔(ざんげ)の言葉ばかり。

 東京に来たのも、トキの希望をかなえたためで、本人は気が進まなかった。

 トキは思い出す。帝大にはじめて出勤する日、日本を愛するヘブンは和装で行こうとしたが、トキが洋装で行くように押し付けたことを。学生は異人の先生にあこがれているのだから、がっかりさせてはいけない、すてきな洋装で行くべきだと考えたのだ。

「あの日は、ずっと不機嫌だった」と車夫の村中が言っていたと、いまになって、ヘブンがなぜ不機嫌だったかトキは気付いた。

「あのころの私は、気づいちょりませんでした。私があの人を縛りつけちょるということを……」

 浮かない顔のトキで、つづく!

 あと1回しかないのに、主人公の反省回であることに驚いた。そう、反省回は反省会。近年の朝ドラはSNSで #「タイトル」反省会 でドラマ批評する習慣が根付いているので、ドラマ自ら反省会してみたという『ばけばけ』スタッフの遊び心であろうか。

 朝ドラを11年、毎日レビューしている筆者としてはとても興味深い事例に出合えてうれしい。だが一般視聴者としてはこれはどうであろうか。ただ、泣いても笑ってもあと1回なので、最終回前の1回は何をしても自由な回であるとは言えるだろう。

静かだった『あんぱん』、大活躍の『おむすび』

 半年続く長編連続ドラマ、朝ドラの最終回直前は、朝日がのぼる直前のようなわくわく感を伴う。

 近年の朝ドラの最終回直前回はどのようなものだったか。過去のレビューをもとに振り返ろう。

 直近は『あんぱん』(2025年度前期)。なんと、『あんぱん』のラス前も静かだった。ダイヤモンド・オンラインのレビューのタイトルはこれだ。

「明日が最終回とは思えない…駆け足展開と抑制された“小津映画風”の空気感、これでいいの?【あんぱん第129回】」

 やなせたかしの妻をモデルにしたのぶ(今田美桜)が主人公の『あんぱん』。やなせがモデルの嵩(北村匠海)を叱咤(しった)激励しながら共に生きてきたのぶ。夫は人気作家になるが、彼女は病におかされてしまう。

 1988年10月。2年かけてこだわって作ったアニメ『それいけ!アンパンマン』が放送開始された。のぶと嵩は、それを一緒に見る。このドラマも『ばけばけ』同様、偉大なる作家の妻が主人公なので、作家の名作の創作過程がメインではないにもかかわらず、多くの視聴者は『アンパンマン』のことばかりに興味をもっていた。

 みんなの知ってる『アンパンマン』がラス前でようやくアニメ化。そこに至る紆余(うよ)曲折はさくっと描かれ、できたものを見る夫婦の関わりがしっとり描かれた。ラス前は病気になったのぶが最終回では亡くなってしまうのか……という心配を残して最終回に。

 主人公が大活躍するラス前もある。ギャルで栄養士の結(橋本環奈)が主人公のオリジナルストーリー『おむすび』(24年度後期)のラス前は、主人公が名台詞ぽいものを語った。

「食べることは 生きることだけでなく、そのかたの家族や未来にもつながっているということです」

 もうひとりのヒロインのようだった姉・歩(仲里依紗)は身寄りのない詩(大島美優)の未成年後見人になろうと考えはじめ、奔放だったギャル姉妹がしっかり生きていく感じを漂わせた。

 これだけ読めば、いい話のようだけれど、『おむすび』はもともとギャル姉妹設定が視聴者になじまなかったようで、最後、無理やりいい話にまとめた印象になってしまった。

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「ラス前が最終回でも良かった」作品も

 主人公がくよくよするラス前もあった。先日スピンオフも放送され映画化も決定、社会現象にもなった大ヒット朝ドラ『虎に翼』(24年度前期)だ。

 主人公・寅子(伊藤沙莉)が過去を振り返ってくよくよするのだが、それだけではないエピソードが詰め詰めで濃密だった。これまで登場してきた登場人物がたくさん出てきて、半年見てきた著者へのご褒美のような回に視聴者も大満足。

 亡くなった夫・優三(仲野太賀)がイマジナリー優三として、唐突に、寅子が横浜家庭裁判所の所長に出世、女性で初めて家庭裁判所の所長になった祝いに家族で宴会。もうひとりのヒロインのような、専業主婦の花江(森田望智)の人生振り返り。学生時代のたまり場・甘味処笹竹で女子部集合。寅子の恩師・桂場(松山ケンイチ)も登場し寅子といい掛け合いをする。

 ラス前が最終回でもよかったのは、昭和の大スター笠置シヅ子をモデルにして毎週のように歌と踊りのシーンがあった『ブギウギ』(23年度後期)。しっかりと主人公スズ子(趣里)の歩みを描いてきた。モデルの功績を十分楽しめたわけだが、主人公の一代記的なドラマの難しさは晩年がどうしても勢いが落ちることだ。

 だが、丁寧に人生を積み重ねてきたドラマは主人公が老いてもドラマティック。関係性がこじれていた恩師である羽鳥(草彅剛)と腹を割って話すエピソードが趣里と草彅剛の演技で見応えをもたらした。むしろ、最終回のほうがほのぼのしすぎて気が抜けた印象であった。

一番バランスが良かった「ラス前」は…

 最もバランスが良かったのは植物学者・牧野富太郎をモデルにした『らんまん』(23年度前期)だろうか。万太郎(神木隆之介)と伴走してきた妻・寿恵子(浜辺美波)が病にかかり余命わずかとなり、彼女が生きている間に図鑑を完成させようと、万太郎はたくさんの人達に協力を得て奮闘する。

 体調が悪いなか、おにぎりづくりを手伝い、研究の一員になれたようだからという寿恵子。偉人の妻として影に隠れがちな人物が、しっかり夫の仕事に寄与していたことを描いた、近年の朝ドラでは好感度の高い物語だった。

 これまでの登場人物だけで十分感動的ななか、なぜか突然、ムロツヨシがゲスト出演したのが謎だが話題づくりにはなった。

 大阪万博に合わせ、空飛ぶクルマを出してきた近未来朝ドラ『舞いあがれ!』(22年度後期)は2020年から2027年に一気に時間が飛んだ。主人公・舞(福原遥)はパイロットになるのが夢だったがいろいろあって実業家に。

 飛行機部品を作る事業に着手し、空飛ぶクルマが完成。舞がそれに乗ることに。最終回は夢だったパイロットだ!という期待をもたせてつづくとなった。

 このようにざっと近年の朝ドラのラス前を振り返ってみたが、やっぱりトキほどくよくよしたまま最終回に続くものはない。あとはモデルの小泉セツの著『思ひ出の記』を書くのみで、ハッピーエンドであるのはわかっているが……。

 高石あかりはインタビューで「『思ひ出の記』を書いていて、それに気づいたトキは一気に自分への恨めしさが募っていきます。そこは最も残酷で、『ばけばけ』らしいと思いました」と語っている。

 朝ドラ史上、「最も残酷」なラス前であるということだろう。どうなる最終回!

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フォトギャラリー

主なシーンより

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第25週(3月23日~3月27日)

「ウラメシ、ケド、スバラシ。」あらすじ

トキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の2人で書き上げた『KWAIDAN』がアメリカから届く。幸せいっぱいな家族たちだが、その数日後、ヘブンの体調が急変。亡くなってしまう。そんな中、アメリカからイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)が訪れる。ヘブンの死を悼む中、トキがきっかけでヘブンが『KWAIDAN』を書いたと知ったイライザは、トキにヘブンのことを書いてほしいと依頼する。

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

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連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / シャーロット・ケイト・フォックス 円井わん 濱正悟 杉田雷麟 夏目透羽 水野智則 / 渡辺江里子 木村美穂 / 岡部たかし 池脇千鶴 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始