【春にプレゼントしたい絵本】子どもの感受性を育む“春の物語”。季節を学べる絵本3冊[絵本専門店の書店員が選出]

おすすめの“春を感じる絵本”として、『あ、はるだね』『はるのワンピースをつくりに』『さくららら』を紹介。子どもの本専門店「ブックハウスカフェ」店長・茅野由紀氏が厳選。連載「子どもの本のプロが選ぶギフト絵本」第15回。

イメージ写真:Paylessimages/イメージマート

絵本は、子どもへの贈りものに最適なアイテム。とはいえ、ぴったりな1冊を選ぶのは、なかなか難しいもの。連載【子どもの本のプロが選ぶギフト絵本】では、絵本の専門家が、プレゼントにふさわしい絵本をセレクトします。

第15回は、子どもの本専門店「ブックハウスカフェ」店長の茅野由紀(ちの・ゆき)さんが、おすすめの“春を感じる絵本”をご紹介。

心に春風が吹き抜けるような一冊

ぽかぽかと、明るい日差しが心地よい春。寒さで縮こまっていた体も背筋がピンと伸び、心も弾みますよね。今回は、そんな春を絵本で味わえる名作を選んでみました。お子さんへプレゼントして、この季節を届けてみてはいかがでしょうか。

最初にご紹介するのは、『あ、はるだね』(講談社)。原題は『and then it's spring』で、2012年にアメリカで刊行。権威ある絵本賞のひとつであるコルデコット賞を受賞した作家、エリン・E・ステッドによるベストセラー絵本です。

『あ、はるだね』(文:ジュリー・フォリアーノ、絵:エリン・E・ステッド、訳:金原瑞人/講談社)

主人公は、赤いマフラーにニット帽姿の男の子。そばには、彼の愛犬と小さな亀もいます。雪がとけた大地は一面、茶色の世界です。

「よし、たねを うえよう。」

男の子は穴を掘り、花や野菜の種を蒔きます。そして、芽が出るのを待ちました。

「まだ ちゃいろ。」

「これ、ちょっと みどりっぽい?」

「いや、ちゃいろだよな。ちゃいろだ。」

雨が降るように祈ったり、鳥が種を食べないか心配になったり。男の子は愛犬や亀と一緒に、ただひたすらに待ちました。

1週間、また1週間、それからまた1週間……。冬の長さを追っているかのような、ゆっくりとした時の流れ。淡々と描きながらも、春を心待ちにしている男の子の想いが見事に表現されています。

そして、ついに──。最後の見開きいっぱいに描かれた、美しい春の風景。すがすがしくて、心の中に春風が吹き抜けるようです。

自然が相手だと、自分の思いどおりにはいきません。雨が降るのも降らないのも、寒いのも暖かいのも、私たちはどうにもできないけれど、いつかはきっと芽が出る。そんな人生のエールのようにも読み取れて、春から新しい生活が始まるお子さんへのギフトにもぴったりだと思います。

愛犬と亀のサイドストーリーにも注目です。エリン・E・ステッドが描く動物はとてもかわいらしくて、彼らには彼らで考えていること、楽しみにしていることがあるのだと想像しながら読むと楽しいですよ。

春のおしゃれが楽しみになる

次にご紹介するのは、『はるのワンピースをつくりに』(ブロンズ新社)。うさぎのさきちゃんが、森の小さな仕立屋さん・ミコさんと一緒に、春夏秋冬の素敵なお洋服を作る人気シリーズの1作目です。

作者は、児童文学作家の石井睦美さん。石井さんの紡ぐ文章は美しくてあたたかく、子どもたちへの読み聞かせでも大人気。読み手もとても気持ちがいいので、ぜひお子さんに読み聞かせて、親子で一緒に楽しんでいただきたいです。

『はるのワンピースをつくりに』(文:石井睦美、絵:布川愛子/ブロンズ新社)

ある朝、風が運んできたすみれの香りで目覚めたさきちゃんは、ミコさんのお店へ向かいます。

「はるが きたから、はるのワンピースが ほしくなったの」

「どんなワンピースが いいかしら。さきちゃんの きぶんを しらなくっちゃね」

「はるの いろって どんな いろ?」「はるになったら だれに あう?」「なにが したい?」と、お茶を飲んだり、窓の外を眺めたりしながら、ひとつずつ優しく問いかけるミコさん。さきちゃんは春のイメージを膨らませて、自分の想いをしっかりとミコさんに伝えます。

そうして完成したのは、さきちゃんの春の気分をぎゅっと詰め込んだ、さきちゃんのためのとっておきのワンピース。

今はファストファッションが広がり、買うのも処分するのも手軽なところがありますが、着るもの・身に付けるものをていねいに選び、大切にするって、とても大事なこと。本来、装いとはこういうものだと改めて気づかされる素敵なストーリーです。

絵は、絵本作家でありイラストレーターの布川愛子さん。柔らかなタッチで描く一枚絵はもちろん、絵本の中にちりばめられた春色の生地、かわいいボタンや飾りも、眺めているだけで幸せな気持ちになります。

主人公が女の子、ワンピースを題材にした絵本というと、ともすれば“女の子のもの”と思われがちですが、お子さんの性別に関係なく心からおすすめできる一冊です。

日本一遅く開花する桜の力強さを描く

最後にご紹介するのは、桜が開花するまでを綴った写真絵本『さくららら』(アリス館)。

舞台は、国内最寒気温マイナス41.2度を記録したこともある、北海道北部の幌加内(ほろかない)。主人公は、この町に咲く低木のチシマザクラ「さくらちゃん」。さくらちゃんの語りで物語は進みます。

『さくららら』(文:升井純子、写真:小寺卓矢/アリス館)

本州が桜色に染まる4月、さくらちゃんは雪の中。「ここに いるよ」と、私たちに語りかけます。

雪解けが進んだ5月、「ああ おもかった」と、姿を現します。そうしてゆっくりと、開花の準備を始めるのです。

「ねむりすぎだよ さくらちゃん」

「ほかのさくらと ぜんぜんちがう」

「おーい ちびすけ もう春だぞ おきてるか」

鳥や周りの木たちに失礼なことを言われても、さくらちゃんはお構いなしです。

「わたしがさく日は わたしがきめる」

「おそくたって これがわたし」

「ちいさくたって これがわたし」

作者・升井純子さんの力強い言葉と共に、ページいっぱいに写された満開のさくらちゃんは圧巻の美しさ。たんぽぽやつくし、うさぎなど、春の日差しをいっぱいに浴びた動植物たちにも元気をもらえます。写真家・小寺卓矢さんは、この絵本の撮影に7年もの歳月を費やしたそうです。

写真絵本の魅力は、その瞬間、必ずその場所にあったものだけを写していること。そして、“みんなが同じ景色を見ているとは限らない”と気づかせてくれること。写真の真髄も味わえますよ。

人間は勝手なもので、桜が美しいのは春だと言いますが、365日一生懸命生きている桜には関係のないことです。

私が咲きたいときに咲く、誰になんと言われようと、これが私──。

美しい春の風景と共に、そんなさくらちゃんの生き様もお子さんへメッセージとして届けられるのではないでしょうか。

取材・文/星野早百合