介護施設に初出勤した日、渡された制服の臭いを嗅いだ元グラビアアイドル・岩佐真悠子さんが「介護は天職」と語るまで

グラビアアイドル・女優として活躍していた岩佐真悠子さん(39)。2020年に芸能界を引退し、現在は介護士として働いている。3月に国家資格である介護福祉士の資格を取得。「介護は天職」だと語る彼女に、転身の理由と介護の現場で見えたものを聞いた。
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――岩佐さんは、03年にミスマガジンでグランプリを受賞し、その後、グラビアアイドル、女優として芸能界の第一線で活躍していましたが、33歳で引退されました。
仕事に対する意欲もなくなってしまって。舞台が好きで、芝居中心の事務所に移籍しようとも考えましたが、「自分は芸能界にそこまで思いがあるのか」「これが本当にやりたいことなのか」とわからなくなってしまったんです。
お芝居も、別に芸能界じゃなくてもできると思ったんですよね。地域の子どもたちとやってもいいし、いろんな形がある。いくつになってもできるものですし。
芸能界に入ったのは16歳のとき。将来のことを考える前にこの世界に入っていたので、一度引退して、地に足をつけた生活をしようと思いました。ちゃんと自分の生活を送りたいなと。未練は全くないです。17年いましたけど、さっぱりと引退しました。大変なこともありましたけど、のど元過ぎれば、ですね。
――もともと芸能界に向いている感覚はありましたか。
いや、なかったですね。そもそも表に出たい願望がなくて、目立ちたがり屋でもないし、人前に立つのが好きでもない。子どものころからお遊戯会や学芸会で「主役をやりたい」なんて言ったことは一度もないですし、周囲から言われて主役をやった記憶もたぶん、ない。どちらかというと、地味なタイプで「私、『木』とかでいい」という感じ。極力端っこにいたいタイプなんです(笑)。それがなぜか芸能界に入ってしまって……(笑)。特にバラエティー番組は苦手でした。バラエティーでは、やっぱり「前に前に」の精神じゃないとダメなんですよね。でも私は、振られたときに答えるくらいでいいと思っていたので、それじゃ通用しない。だから「向いてない」とずっと思っていました。

――20年に芸能界を引退すると、介護の世界に入り、生活介護施設である特別養護老人ホーム(以下、特養)や、有料老人ホーム、デイサービスなどで働いてきました。現在はデイサービスで介護士として働いています。介護の世界に入った理由は。
親友の介護タレントである西田美歩が先に介護の仕事をしていて、「この仕事、真悠子にも合ってると思う」と声をかけてもらったからです。ちょうどコロナ禍で施設の見学すらできなかったころだったので、とりあえず派遣会社に登録をしました。最初の職場は、特養でした。ただ、妊娠を機に3カ月で退職。出産を経て、1年間だけエステティシャンをやっていた時期もあるのですが、再び介護の世界に戻りました。それからは、デイサービスが週3、訪問介護は週2のダブルワークで、がっちり週5働いていました。ほんとにごく普通の生活をしていましたね。
介護業界で仕事をするにあたっては、元芸能人であることを利用したことは一切ありません。普通に履歴書を出して面接を受け、仕事を得ました。ただ周囲に迷惑をかけたくなかったので、面接時には「こういう経歴があるんですけど大丈夫ですか?」とだけは伝えてきました。「他の職員には内緒にしますか?」と聞かれたときは、「はい。あえては言いたくないです」と。自然とバレたときは「まぁね、そんなこともありましたっけ(笑)」ぐらいでかわせばいいかな、という感じでした。
介護施設にはいろいろな形態があり、施設ごとに求められる役割も違います。自分に合う働き方を知りたくて、老健(介護老人保健施設)や有料老人ホームなど、さまざまな現場で働きました。今はデイサービスに戻り、週4~5ぐらい働いています。現在の上司は元バンドマン。こういった今日のように取材が入ることも少なくないのですが、シフト調整など、働き方への理解も深く、応援してくれています。
――介護の仕事は、3K(きつい、汚い、危険)などと言われることもありますが、実際に現場で働いていて、どう感じられますか。
まず皆さんが考えるであろう汚物の処理は、介護に限らず、飲食の現場などでもありうることだと思います。だから、それだけでイメージが悪くなってしまうのは、とても残念です。ただ、「介護はダサい」という負のイメージは払拭したいです。
たとえば介護スタッフの服装。茶髪NG、髪は黒髪で後ろに縛るべしとか、制服は決してオシャレとはいえないポロシャツとか……。若者たちがそれを着用したいと思えるか、やや疑問です。最初の職場だった特養に行った初日、色あせた黒や紺のポロシャツを2、3枚ポンと渡されたとき「え……これ着るの、めっちゃ嫌なんだけど……」と思いました。すごくにおい嗅ぎましたもん。お芝居の仕事で華やかなものだけでなく、役に合わせて時には破れたり汚れたりしたものも着ていたので「ダサい」に対しての抵抗はなかったんですけど、でもやっぱり……(笑)。今は自由なところも増えていますし、私も好きな髪色などを楽しんでいます。

――実際に現場で体験したことや、感じたことをお聞かせください。
特養で働いていたとき、口腔ケア(歯磨きの介助)時に、指先をがぶっと入居者の方に噛まれたことがあります。私がその日たまたま対応した方でしたので、たぶん違和感があったんだと思います。
入居者にとって、見慣れない顔だったり、眠いときだったり、そんなときに無理にされるのは嫌ですよね。ケアも大切だけれど、その人自身のお気持ちも大事。無理にするのではなく、お茶を飲んでいただいてゆっくりしてもらったり、お話を伺ったりの工夫をするなどして、タイミングや声かけを大事にしています。違う人が言ったら大丈夫なときもありますから。利用者のバックグラウンドをいろいろ見て、この人はこういうことを嫌がるんだな、こういうことがお好きなんだな、というのを極力大事にしてケアに入るということを大切にするようになりました。
施設側のルールや介護業務をこちらから押し付けるのではなく、その人の生活に沿った中で、ケアをするということです。口の中をキレイにするというのは、誤嚥のリスク防止にも、認知症予防にも良いとされていますし、とても必要なことなのですが、めちゃくちゃご本人が嫌がっているのに「体に良いから」と押し付けるのは良い介護とはいえないと思います。無理くり口を開いてやっても、それが本人のためになるとは言いづらいですよね。 本人の幸せが一番にあるべきだと思っています。
■現場では叩かれたり、暴言を吐かれたり
現場ではいろんなことがあります。叩かれたり、暴言をを吐かれたりとかもあります。でもそういうとき、「これをどう打開していくべきか」を考えることに、やりがいを感じます。
認知症が進行していて、なかなかモノを覚えられない方に、ふと名前を呼んでもらえたとき、「私の名前、覚えてくれたんだ!」ってすごく感動しますし、入居者の好みとか覚えて、それを先読みして行動したりすると「まゆちゃん、さすがだね!」なんて褒めてもらえて「エッヘン」(笑)みたいになります! こんなふうに、利用者の方とのコミュニケーションや、彼らがもともと持っている能力を引き出せたときなんかは、最高に嬉しいし、とにかくやっていてよかったと思います。私、めちゃめちゃ楽しんで仕事をしているんです。
慣れ親しんだ場所で、大切な人と暮らし、日々おいしいものを食べて、友人がいる。そういう普通のことがあたり前に幸せなことだと思うようにもなりました。特別なことがいっぱいなくてもいい。施設暮らしだとしても、入居者にとっては、家族が面会に来てくれるだけですごく嬉しいわけです。実際、ご家族が差し入れた好物を召し上がっている姿は、とても嬉しそうでしたから。日々の生活の中の小さな幸せを私自身も大事にしていきたいなと思っています。

――芸能界にはない介護の仕事の魅力をお聞かせください。
芸能界は、自分のやりたいことを突き詰められる自由さがありました。でも介護は組織の中で働くので、不自由さもあります。それでも、今のほうが自分らしくいられる。天職といえるのかもしれません。
芸能界でやってきたことが、今の職場で生かされている面は多々あると思います。大勢の前で話をしたり、レクリエーション時に積極的にやっていたりしても、利用者の方から何の反応がないこともありますが、めげないです(笑)。
人に優しくしたいけれど、どういうふうにしたらいいかわからない、という人が多いと思います。それをなんと、「介護」という現場ではお金をもらってできるんですよ!
毎日「ありがとう」と感謝の言葉ももらえて、喜んでもらえて、しかもそう多くはないとはいえお金ももらえる。「あなたがいてくれてよかった」なんて言葉まで、高確率でかけてもらえる。ちゃんと仕事をしていれば自己肯定感が確実に上がります。
人の幸せを支えるための仕事だけれど、自分も幸せにしてもらっていると私は日々思います。自分の老後を考えるいいきっかけにもなります。こんなにいい職業はないと思います。もっと若い人たちにもこの世界に入ってきてもらいたいです。
――今後への思いを教えてください。
5年近く介護の世界で仕事をしてきて思うのは、いつか、地域に開かれた施設をつくれたらいいなぁということです。自由度が高くて、入居者ひとりひとりが楽しんで暮らせる施設です。今後、もっとAIを駆使したサービスが介護の世界でも浸透していくと思うので、上手に取り入れつつ、みんなが笑顔で暮らせる施設があったらいいなぁと。
芸能時代の友人とたまに飲むと「年取ったら介護してもらおうかな」と言われることもあります。芸能界にはシングルの人もたくさんいらっしゃいますから、彼らに向けた超高級老人ホームをつくって、その利益を介護の世界で働く介護士たちが潤うように循環していければ、介護の現場ももっと良くなるかもしれない(笑)。
でも、一番は皆さんに介護のことをもっと知ってもらいたい。そのための活動を地道に続けて、広げていきたいです。
■エンタメを介護に取り入れて
介護タレントの西田美歩とは2人で一緒に、音楽やアートなどのエンタメを介護に取り入れていこうね、と話しています。耳が聞こえにくくなっても、理解力や認知力が衰えてしまっても、誰もが疎外感を感じることなく笑顔でいられるような優しいエンタメです。笑顔でリズムを取ったり、自然と体を動かしたりしている高齢者がいたら、おのずと笑顔も生まれ、温かい雰囲気になりますから。エンタメの力は大きいと思います。
かつて働いた芸能界には、知名度問わず、才能あふれる方たちがたくさんいらっしゃいます。私たちがハブとなって、楽しさ、面白さを高齢者介護の現場につなげていけたらと思っています。高齢者は忖度せず、正直な反応をしますから(笑)、きっと芸能界の皆さんにとってもすごくいいと思います。
(構成/AERA編集部・大崎百紀)
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