過熱する「シール交換」やめさせるべきか? 子どもの損な交換…悩む保護者に専門家が指摘する“落とし穴”とは

■フリマサイトで2倍以上の価格, ■「クレクレ」友達と釣り合わない交換, ■「どうしたの?」がうそを生むことも, ■平等な交換はできない, ■シールを与える“落とし穴”

 どう見ても損な交換をしている――。子どもの間で人気沸騰中のシール交換。わが子のシール帳を開いたとき、そう思ったことはないだろうか。子どものコミュニケーションツールのシール交換だが、保護者はどこまで見守るべきか、止めるべきか。その境界を専門家に聞いた。

*  *  *

 平日夕方、東京都内のファミレス。テーブルいっぱいに広がるのは、立体的なシールがぎっしり貼られたシール帳。学習塾に通う前の小学生女子4人が、夢中でページをめくっていた。

「これと交換してくれない?」

「えー、それはえぐい。シールの大きさ、全然違うし」

「じゃあ、じゃんけんで決める?」

 ――いくよ? じゃんけんぽん。

「イエーイ! ほんとうに選んでもいい?」

「1個ならいいよ。でも、モンチッチはだめだから!」

■フリマサイトで2倍以上の価格

 大阪の文具メーカー「クーリア」が2024年に発売したシールがSNSなどで話題になり、大人から子どもまで、シール集めやシール交換が広がっている。ぷっくりとした立体感とツヤのある「ボンボンドロップシール」は、店頭で品薄になるほどの人気だ。「ボンドロ」は1シート550円ほどだが、フリマサイトでは倍以上の価格で取引されることもある。

 シール人気の過熱ぶりに、愛好家も驚いている。これまでに2万点以上のシールを集めてきた「シール大臣」さん(30代女性)は「ここまで店頭からボンドロが消える状況は初めて」と話す。25年春夏ごろから人気が高まり、9月ごろからは入手困難となっているという。

■「クレクレ」友達と釣り合わない交換

 このブームの裏で、トラブルも起きている。

 帰宅した子どものシール帳を開いたとき、「シールがなくなってる……」と愕然とする保護者。SNSにはそんな投稿が少なくない。

 きれいに並べていたはずのシールが、ごっそり減っている。代わりに、新たに貼られているのは、ありふれたシール。どう見ても“レート”が釣り合わない交換だった。高価なシールを「ちょうだい」とねだる友達に応じてしまったのかもしれない。店頭を探し回ってようやく手に入れたシールだったのに。こんなことならシール交換はやめさせるべきか――。

■フリマサイトで2倍以上の価格, ■「クレクレ」友達と釣り合わない交換, ■「どうしたの?」がうそを生むことも, ■平等な交換はできない, ■シールを与える“落とし穴”

 公認心理師の佐藤めぐみさんは、こうした問題を「単なるシールの損得で見ないことも大切」と話す。

「遊びであり、学びであり、子どもの社会がぎゅっと詰まった“縮図”だと思います。親子関係や、子どもの人間関係にもつながっていきます」

 レアなシールと、100円ショップに売ってそうなよくあるシールの交換。大人から見れば不利に思えるが、子ども自身はそう感じていないこともある。

「大人はシールの金銭的な価値がわかるから、不平等な交換に不満を感じやすいと思いますが、特に小さな子の場合は、大好きなシールがほしいかどうかで判断することが多いです。全てのシールを手放しても、価値の低い大好きなシール1枚を手にして満足することもあるでしょう」(佐藤さん、以下同)

■「どうしたの?」がうそを生むことも

 まず、子どもが嫌な思いをしていないか、話をしっかり聞くことが大切だ。

 シールが減っているのを見て、「どうしたの?」と聞きたくなるが、声かけには注意が必要だという。

「親の表情やトーンに感情が乗ると、子どもは『まずい』と感じてしまいます」

 怒られないように「友達にシールを取られた」とうそをつくこともある。シール帳を見せたときに否定されると感じると、子どもはだんだん見せなくなっていく。

「一方で、『今日どうだった?』『見せて』と自然に声をかけられる関係であれば、子どもは自分から話してくれることもあります。シール交換でうまくいかなかった出来事が、会話の中で出てくることがあります」

 大切なのは、話せる空気をつくることだ。

「子どもから事情を聴いただけで、相手の保護者に怒鳴り込んでも、いい方向には向かわないでしょう」

■平等な交換はできない

 ただ、保護者の目の前で、「これ、もらっていくね」と一方的にはがされていく――。そんな状況に直面するケースもある。

「基本的には遊びの一環として、ルール設定は子どもに託したほうがいいと思いますが、目の前で一方的に取られるなら話は別です」

 その場で、「今日は同じ種類で交換しよう」と保護者が提案するのも一つの方法だ。

■フリマサイトで2倍以上の価格, ■「クレクレ」友達と釣り合わない交換, ■「どうしたの?」がうそを生むことも, ■平等な交換はできない, ■シールを与える“落とし穴”

 帰省のタイミングでは、親戚の子ども同士でトラブルが起こりがちだという。だが、親戚同士であれば話しやすく、子どもを交えてルールを決めること自体が学びにもなる。それでも難しい場合は、「今日の交換は終わりにしよう」と区切ることも選択肢になる。

「大事なのは、親同士の不公平を正すことではなく、子どもにトラブルが起きていないかどうかです」

 そもそも家庭で「このシールは、普通のシール何枚と交換しようね」とレートを決めていたとしても、常にルールに基づいて交換することはできない。

「なかには、経済的な事情でシールを買えない子どももいます。さまざまな事情があるなかで、平等な交換は難しいもの。大切なのは、自分の家庭では何ができるかどうか。そのうえで、シール帳を遊びに持っていかないと子どもが決めることも一つ」

 大切なシールを絶対に人に渡したくないなら、シール帳を「コレクション用」と「交換用」に分ける方法もあるという。交換用は友達の家に持っていく枚数を決めておくこともできるだろう。

■シールを与える“落とし穴”

 子どもがシールを大量に失ったとき、親としては「かわいそうだから」「いい思いをさせてあげたい」と新しく買い与えたくなるが、そこに落とし穴がある。

「すぐに手に入る状態だと、子どもはシールの価値を低く見積もってしまうことがあります」

 なくなっても手に入るのであれば、交換の場で慎重に考える必要がなくなる。友達にいいところを見せたくて、大盤振る舞いしてしまうことも。親がお膳立てしすぎると、子どもは成長できない。

「すぐに手に入らない体験をすることで、子どもは価値を覚えます。それが交換上手になる一歩ではないでしょうか」

 どのシールを出すか迷い、相手の反応を見ながら交換する。そこには“交渉”が生まれる。シール交換は「学び」になるともいわれる。だが――。

「それ以上に、子どもたちは純粋に遊びとしてのワクワク感や興奮を楽しんでいるので、大人の価値観を押し付けすぎないことも大切だと思います」

■フリマサイトで2倍以上の価格, ■「クレクレ」友達と釣り合わない交換, ■「どうしたの?」がうそを生むことも, ■平等な交換はできない, ■シールを与える“落とし穴”

(AERA編集部・井上有紀子)

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