「何度も出店断った」SUSURUがラーメン店を出す訳

絶大な知名度を誇る、ラーメンYouTuberのSUSURUくん。3月25日、東京・水道橋にラーメン店「北ノ醤油チーホー」をオープンさせた(写真:筆者撮影)
3月25日、東京・水道橋に突如現れたラーメン店「北ノ醤油チーホー」。その店主が、ラーメンYouTuberとして絶大な知名度を誇るSUSURUくんであると知ったとき、多くの人が驚いたはずだ。
【画像】「北ノ醤油チーホー」の外観、メニューの様子
しかも、事前の大きな予告もなく、ほぼ“いきなり”のオープン。彼がオープン時に投稿したSNSのひとつのポストから業界に一気に情報が知れ渡った。
イベントへの出店依頼がすべての始まり
話題性としては十分すぎるが、その裏側には想像以上に泥臭く、そしてスピード感に満ちた物語があった。
きっかけは、東京・府中にある東京競馬場のイベントへの出店依頼だった。「俺の生きる道」店主の小林公太さんから「イベントでラーメンを出してみないか」という打診を受けたのがすべての始まりである。
しかし当初、SUSURUくん本人はこの話を断るつもりだったという。理由は単純で、「自分はラーメンを“食べる側”であって、“作る側”ではない」という認識が強かったからだ。
オリジナルラーメン「濃厚とんこつ豚無双」を冷凍ラーメンやファミリーマートの商品として発売したこともあったが、実際のラーメンをお店やイベントで作るとなれば訳が違う。これまでも出店の誘いを断ってきたことは何度もあった。
それでも最終的に挑戦を決めた背景には、「自分で作れるラーメンならばイベントでも成立する」という発想の転換があった。ラーメンYouTuberとして年間数百杯を食べ歩いてきた蓄積がある。
ならば、自分の中にある理想の一杯を形にできるのではないか。そう考えた彼は、千葉のラーメン学校「食の道場」に通い、ゼロからラーメン作りを学び始めた。

「北ノ醤油チーホー」の外観(写真:筆者撮影)
安価な食材で「誰が食べても美味い」と感じる一杯を

調理中のSUSURU(写真:筆者撮影)
そこで彼が選んだのは、いわゆるトレンドど真ん中の高級なハイクオリティなラーメンではなかった。むしろ高級とは真逆とも言えるアプローチ。安価で手に入りやすい食材を使いながら、「誰が食べても美味い」と感じる一杯を目指したのだ。
その着想のルーツにあるのが、札幌の名店「てつや」で味わった醤油ラーメンだった。ラードで具材を炒め、香ばしさと旨味をスープにまとわせる手法。いわゆる中華鍋製法の札幌系の醤油ラーメンだが、東京では意外なほど提供する店が少ないとSUSURUくんは感じていた。だからこそ、まだ知られていない美味しさを提示できると考えた。

北ノ醤油ラーメン(写真:筆者撮影)
SUSURUくんが特に重視したのは、“ライブ感”だった。スープ自体はシンプルでも、鍋で油や生姜、ニンニクを熱して具材を炒め、そこにスープを合わせることで一気に旨味を爆発させる。この「目の前で完成していく体験」こそが、ラーメンの価値を何倍にも高めると考えたのだ。
実際、町中華のような鍋振りの音や香りは、食欲をダイレクトに刺激する演出としてもとても魅力的だ。

調理姿も、なかなか様になっている(写真:筆者撮影)
こうして完成した一杯を引っ提げて臨んだ東京競馬場でのイベントは、大きな成功を収める。平日でも1日1000杯、週末には2000杯を売り上げ、手応えは十分だった。特に印象的だったのは、「自分が作ったラーメンで人が喜ぶ」という実感だった。それまではレビューする側だった彼にとって、この体験は決定的だった。
転機はその直後に訪れる。「このラーメン、お店でもやれるんじゃないか?」という小林店主の声に背中を押され、出店計画が一気に動き出す。驚くべきはそのスピードだ。2月に話がまとまり、3月には店舗オープン。本人も「よく分かっていない」と語るほどの急展開だった。
場所に選ばれたのは水道橋。東京のど真ん中、東京ドームの近くという立地もあり、イベント帰りの集客も見込めるエリアだ。ラーメン好きだけでなく、ライト層にもリーチできる環境が整っている。
店名に込められた「遊び心と戦略」

メニュー(写真:筆者撮影)
店名「北ノ醤油チーホー」には、彼なりの遊び心と戦略が込められている。「北ノ醤油」というワードで北海道を想起させ、味の方向性を自然と伝える。
一方で「チーホー」は麻雀用語からの引用で、北海道の名店「天鳳」をオマージュした記憶に残る響きだ。「情報」としてのラーメンも重要だと語る彼らしいネーミングと言える。
実際の一杯は、見た目こそシンプルながら、細部には明確な意図がある。豚骨と香味野菜をベースにしたスープに、チャーシューの煮汁とフレッシュな醤油を合わせた醤油タレで具材を香ばしく炒め、一口目からパンチのある味を実現。シンプルを突き詰めながら、誰が食べてもノーリーズンで美味いと感じられる一杯だ。

麺リフト(写真:筆者撮影)
また、彼が繰り返し強調するのが「食事としてのラーメン」である。近年のラーメンシーンは高級化・専門化が進み、一杯の完成度を追求する流れが強い。その中でSUSURUくんは、あえて満腹感や日常性にフォーカスする。ボリュームも含めて満足できる一杯を提供し、また食べに来たいと思わせる店を目指している。
高い注目度に甘えるつもりはない

(写真:筆者撮影)
もちろん、ラーメンのトップYouTuberが手がける店である以上、注目度は高く、期待値も自然と上がる。だが本人はそこに甘えるつもりはない。「名前で来てもらえるのは最初だけ。その後は味で選ばれないと続かない」と冷静に語る。

(写真:筆者撮影)
むしろ彼が見据えているのは、ラーメンの「入口」としての役割だ。SUSURUくんのYouTube「SUSURU TV.」を観て興味を持ち、軽い気持ちで訪れた人が、「ラーメンってこんなに美味いのか」と驚く。その体験が、次の一杯へとつながっていく。自身が「ラーメン二郎」で衝撃を受けたように、新たなファンを生み出す装置になれれば理想だという。
現時点ではメニューは醤油の一種類のみだが、今後はバリエーションの開発や展開の可能性も視野に入れている。ただし、まずは水道橋の一店舗をしっかり根付かせることが最優先。その上で、将来的な店舗展開も検討していく構えだ。
「ラーメンを食べ続けてきた男」が、「ラーメンを作る側」へと踏み出した今回の挑戦。そこにあるのは、話題作りでもビジネス戦略だけでもない。シンプルに、「美味い一杯で人を喜ばせたい」という原点だった。
突如現れた「北ノ醤油チーホー」は、決して偶然の産物ではない。膨大な経験と、ほんの少しの勇気、そして圧倒的なスピード感が生んだ必然の一杯なのである。