ホルムズ危機でも日本漁船が「ムダな燃料」を使い続ける構造的理由
中東で戦争が起きて、ホルムズ海峡が事実上閉鎖されてしまい、燃油価格が高騰しています。危機的な状況ですが、これまでも幾度となく燃油代が高騰して社会に悪影響を及ぼすことがありました。
【写真】漁業が成長産業になっている国では漁船への投資が盛ん
漁業においても、燃油代は収支に大きな影響を与えます。しかし、それはわが国に限ったことではありません。日本の漁業と北欧などの漁業を比べてみると、日本の場合、多くの無駄な燃料消費があります。
科学的根拠に基づく資源管理を徹底すると燃料費が下がるうえ、鮮度が良くなり、魚の価値も上がります。残念ながら、日本ではその逆のことが起きて苦しんでいます。
無駄な燃料費と資源の浪費
日本の沖合漁業などでは、魚が獲れた漁場や、そこで獲れた数量、サイズを公開しないのが一般的です。各漁船ごとの漁獲枠を決めて管理する「個別割当制度」による数量管理が行われていなかったり、枠が配分されていても大きすぎたりする場合、せっかく見つけた漁業情報を共有しようとはしません。
仮に漁業情報を共有し、他の漁船も同じ漁場に直行してくれば、水揚げ量が一度に増え、魚価が下がってしまいます。現状の制度下で、価値の高い魚が多く獲れる漁場を漁業者同士がオープンにしないのは、ごく当たり前のことです。

北海道の漁港(写真:筆者提供)
日本の漁船は魚を探すために、あちこち探索して大量の燃料を消費していきます。一方で、水揚げ地から「一直線」に魚がいる漁場へ向かう場合はどうでしょうか。ジグザグと広範囲の漁場を探索する場合との燃料消費量の差は大きく異なることは、容易に想像できるかと思います。
これに対し、例えばノルウェー漁業の場合は、サバ・ニシンをはじめ、どこで何トン、どのくらいの大きさの魚が獲れたかがわかる正確な情報を共有しています。サバで言えば、漁場はもちろんのこと、申告内容と実際の水揚げとでは、平均重量は10グラムも違いません。
ノルウェーの場合、割り当てられる個別割当の数量は、実際に漁獲できる数量よりもかなり少ない配分です。これは資源の持続性を考慮しているためです。漁業者は、漁獲枠通りに水揚げできるのは「当たり前」なので、いかにして水揚げ金額を上げるかを重視しています。漁に出ないとどれだけ獲れるかわからないといった漁ではないのです。
そこで漁業に余裕が生じ、いかに価値がある魚を漁獲するかが、漁業者の共通の課題となっています。
魚の価値は、一般的に大きいほど高いので、実際より小さいサイズで申告してしまった場合は、信頼問題となります。また、この漁船のサイズ申告が信頼できないとなれば、高い価格で入札するバイヤーはいなくなってしまいます。
北欧での個別割当制度は、価値がある魚が獲れる漁場に漁船が一直線に向かえるので、燃料の無駄が減らせるのです。日本でも同じようにすれば、燃料が減らせます。しかし、配分された漁獲枠が大きすぎたり、そもそも漁獲枠が設定されていなかったりすれば、燃油が高騰しても無駄な燃料の浪費が続いてしまいます。
水揚げ分散で品質向上

カラフトシシャモ(写真:筆者提供)
漁場が共有されていると、メリットは燃料費節約だけではありません。個別割当制度が機能していると、漁業者や漁船は水揚げを分散して、大漁貧乏を避け、水揚げ金額を上げようとします。
水揚げの分散は別のメリットも生みます。鮮度面での品質向上です。加工場の処理能力を超える量の魚が一度に水揚げされると、処理が追いつかず、魚は処理待ちの間に鮮度が落ちていきます。このため、食用だったはずの魚が、養殖のエサやフィッシュミール・フィッシュオイル向けになってしまうことが日本ではよくあります。
一方で、ノルウェーなどの北欧諸国では、フィッシュミールやフィッシュオイルに回すのは、ニシンをフィレー加工した残渣である頭・内臓・骨や、イカナゴ(成魚)など食用として価値が出ない魚です。鮮度を落として食用に回らなくなるような、もったいないことは今では起きていません。
水産業が成長産業になると燃費も良くなる

デンマークの漁船(写真:筆者提供)
漁業が成長産業である国々では、漁船への投資が盛んに行われています。北欧では最新の大型漁船が次々と導入されています。魚種ごとに資源の増減はあるものの、5年後、10年後も魚を獲り続けられるという見通しがあるからです。
最新の漁船は燃費が良くなっており、一度に運べる数量も大きく増えています。大型漁船は、1隻で1000トン、2000トンもの魚を運べるようになっています。漁場と水揚げ地を往来する回数が減るため、使用する燃料も減っていきます。
これに対し、日本では来年、再来年といった短いスパンですら先が見通せないのが現実です。そのため、魚がいるうちに獲っておこうという圧力が強まりやすくなります。スルメイカの漁獲枠については、2025年に2度も枠が引き上げられました。
26年には、さらに前年当初比3.6倍の6万8400トンという、漁獲目標のような漁獲枠が設定されました。こうしたことを続ければ、せっかく資源が増える兆しが出てきても、そのわずかに出てきた芽を根こそぎ刈り取ってしまうことになります。
燃料費以前の問題であり、究極的には、秋田のハタハタや全国のイカナゴをはじめ、資源管理の不備で資源を崩壊させてしまった例が各地で起きています。こうなると、漁業もなくなって漁船が出漁できなくなり、燃料を使わなくなるという無残なことになってしまいます。
資源管理が機能すると、使用する燃料が減る理由はほかにもあります。それは、資源が持続的になると、遠くまで魚を探しにいかなくても近くで獲りやすくなるので、使用燃料が減るからです。また、魚がたくさん獲れれば操業時間も短くなり、短い時間で漁を終えて帰港することができます。
かつて日本の沿岸で魚が獲れなくなり、「沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へ」というスローガンを水産庁が出していたことがあります。1977年に200海里漁業専管水域が設定されました。日本は世界で第6位の広大なEEZ(排他的経済水域)を誇ります。本来は、資源管理を進めて、輸入に頼らなくても日本のEEZ内で十分な魚が獲れるような体制にすべきなのです。
世界の漁業では日本と違うことが起きている

アイスランドの漁船(写真:筆者提供)
漁業を成長産業にしている北欧やオセアニアの国々と、日本の漁業は、成長と衰退という点でまったく異なる構造になってしまっています。今後、燃料費の高騰が続いても、このままでは新しい漁船への更新もままなりません。
ノルウェーなどの漁業を紹介する文書で、そのまま英語にしてどこの国のことかと問えば、自国のことと分からない内容になっていることが、残念ながら少なくありません。また根拠がない正しくない内容では、魚の獲りすぎが進んでしまってさらに獲れなくなるという副作用も出てしまいます。しかし時計の針は元には戻りません。そしてこのままでは、後になって「これまでの魚が消えていく理由は何だったのか!」と必ずなってしまいます。
「間違った前提に対する正しい答え」。前提が間違っていると、そこから出てくる正しい答えには害しかありません。その結果と現実は、日本と世界を比較すると、はっきりします。筆者には全国から漁業関係者や水産資源に関心がある方々から、応援のメッセージが届いています。これからも微力ながら、前提を正しくできるような内容の発信を続けてまいります。誤った情報と対策で魚の資源がさらに減って獲れなくなるという負の連鎖を断ち切っていかねばなりません。