インドにバブル到来?「バックパッカーが自分探し」はもう古い 結婚式に950億円、週70時間働く「超スケール経済」とは

「インド」と聞いて、あなたは何をイメージするだろうか。
悠久の大地、圧倒的な人の多さ、終わらない渋滞、あるいはガンジス川での水浴びや貧困……。インドはいまだに「バックパッカーが自分探しに行く場所」という古いOSで更新が止まってはいないだろうか。
確かに、そうした側面が完全に消えたわけではない。混沌も残っている。しかし、もしあなたが「インドは開発途上国だ」とタカをくくっているなら、現実とのズレは小さくない。
今、インドで起きているのは、我々が1980年代後半に経験したあのバブル期の高揚感の再来、いや、それを人口・産業・デジタルといった構造的な成長エンジンが支える「超スケール状態」なのだ。
※この記事は、新刊『超スケール経済インド』より抜粋・再編集を行い作成したものです。

日本を追い抜いて年収3000万円超えが100万世帯!

まずは、数字で現実を見てみよう。

現在、年収(手取り)3000万円以上の超富裕層は、インドに100万世帯も存在する。日本のそれは約95万世帯。すでに「お金持ちの数」において、インドは日本を上回っているのだ。

かつて我々が経験したバブル期、銀座の地価でアメリカ全土が買えると言われ、日本企業の時価総額が世界を席巻した。あの時のような熱気と期待感が、今、ムンバイ証券取引所を包んでいる。2025年、インドのGDPはついに日本を追い抜き、世界第4位の経済大国へと向かっている。2027年にはドイツをも抜き去り、世界第3位に躍り出るのはもはや既定路線だ。

この主役交代劇を、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を謳歌した我々はどう受け止めるべきか。今のインドを知ることは、失われた30年を過ごした我々にとって、忘れかけていた経済成長の熱狂を思い出す作業でもある。

日本の「ゴンドラ婚」が霞む豪華絢爛950億円結婚式

バブル期の日本といえば、スモークを焚きながら派手なゴンドラで新郎新婦が登場する「派手婚」が話題になったが、インドの富豪が展開する「豪華絢爛婚」は、文字通り桁が違う。

「アジア一のお金持ち」とも言われるインド最大財閥リライアンス・インダストリーズの会長、ムケシュ・アンバニ氏の次男アナント氏の結婚式(2024年開催)は、世界中の度肝を抜いた。

「結婚式に950億?」と耳を疑うだろう。だが、中身を聞けばさらに驚く。

この結婚祝賀行事は7か月にもわたって開催され、婚前パーティーにはリアーナやケイティ・ペリー、ジャスティン・ビーバーがプライベートライブに招かれた。ジャスティンのギャラは約16億円だったと報じられている。世界中から集まるゲストのためにプライベートジェットが何十機も用意され、提供された料理は数千種類。ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグなどの世界的な著名人も駆けつけるなど、桁違いの豪華さだ。

かつて、西武グループの全盛期や、金丸信氏のような政界の大物の豪華な宴席に驚いたバブル世代でも、これには絶句するしかない。Antiliaと呼ばれる27階建てのアンバニ家に限らず、都市部には、延べ床面積5000平方メートル以上という、もはや「家」ではなく「宮殿(Palatial Bungalow)」と呼ぶべき邸宅に住む超富裕層も存在している。

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このビルがアンバニ一族の家。家の中には、160台の駐車場、プール、映画館、寺院、図書館まである(撮影:AAIC)

今のインドの熱狂を支えているのは、単なる「金余り」ではない。国全体に満ちている「もっと働こう」という猛烈なエネルギーだ。

バブル世代が若かりし頃、街には「リゲイン」のCMが流れ、「24時間戦えますか?」というフレーズを皆が口にしていた。あのモーレツ社員たちが称賛された感覚が、今、インドで再燃している。

IT大手インフォシスの共同創業者ナラヤナ・ムルティ氏は、「インドを成長させるためには、若者は週70時間働くべきだ」と提言し、大論争を巻き起こした。さらにL&T(ラーセン・アンド・トゥブロ)の会長に至っては「週90時間」を推奨している。

ワークライフバランスが叫ばれる先進国を尻目に、インドの20代、30代の若手エリート層は「今、自分が働けば、自分も国も豊かになる」と一点の曇りもなく信じているのだ。アメリカのシリコンバレーから帰還した超優秀なエンジニアたちや、最難関のインド工科大学(IITs)出身の若者たちが、次々とスタートアップを立ち上げている。

2024年の新規上場件数でインドが世界トップに立ったのは、偶然ではない。彼らはスマホを武器にした「21世紀の24時間戦士」なのだ。

「マハラジャ」から「超高級クラブ」へ

1980年代、若者がジュリアナ東京やマハラジャに集い、ボディコン姿で踊り明かしたあの夜を覚えているだろうか。今のムンバイのBKCやBandraは、Bollywoodと金融が混ざり合う熱気があり、週末深夜のDragonfly(巨大クラブ)は、当時の六本木や芝浦を彷彿させる。

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高級クラブ(Dragonfly)に集うインドの若者たち(撮影:AAIC)

インドの富裕層や新興エリートはロレックスをはめ、BMWやテスラに憧れ、その日常をInstagramにアップする。こうした一部富裕層の「点の現象」は、徐々に新興勢力へと広がりつつある。

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インドのテスラ路面店(撮影:AAIC)

「稼いで、見せびらかして、何が悪い!」このストレートな上昇志向こそが、あのバブル期を支えた熱量に通じるものがある。

しかし、この光景をもって「インドはバブルだ」と断じるのは早計だろう。

1980年代の日本のバブルは、不動産や株価といった資産価格の上昇が主導した、いわば「金融主導の膨張」だった。一方で、現在のインドで起きているのは、それとは構造的に異なる。

第一に、人口増加と都市化を背景に、消費市場そのものが拡大している点だ。若年層を中心に所得が上昇し、これまで消費に参加してこなかった層が、新たに市場に流入している。

第二に、ITやスタートアップを中心とした新興産業の成長により、若くして資産を形成する層が生まれている。これは、2010年代のシリコンバレーに見られた「資本主導の熱狂」に近い。

そして第三に、こうした新興層に加え、リライアンスやビルラグループのように長年にわたり資産を蓄積してきた財閥系の富裕層が同時に存在している点である。

つまり、現在のインドの熱気は、「拡大する中間層」「新興エリート」「伝統的富裕層」という異なる三つの層が同時に動くことで生まれた、多層的な現象なのである。

さらに、当時の日本と決定的に違う点がある。それは「デジタル」と「グローバル」の存在だ。

バブル世代の日本人は雑誌『Hanako』や『Hot-Dog PRESS』を読み込み、デートの「マニュアル」を頭に叩き込んだ。だが今のインド人が読み漁っているのはSNS。トレンドの速度はバブル時の日本の10倍にも感じる。さらに、都市部の若者は英語ができるから最初からグローバルなトレンドにアクセスできる。

「財布に札束」がステータスだった日本のバブル世代に対し、インドは一足飛びに「完全キャッシュレス」へと進化を遂げた。

2025年11月、インドのデジタル決済インフラ(UPI)の利用は単月で約200億件を突破。金額にして約45兆円がスマホ一つで動いている。

道端の物乞いも、路地裏の20円チャイ屋も、野菜売りのリヤカーも、すべてQRコードを掲げている。かつて我々がポケベルやFAXで四苦八苦していたインフラ整備を、インドは「デジタル公共インフラ(インディア・スタック)」として一気に完成させてしまったのだ。

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路面店でもQRコード決済が当たり前なインド(撮影:AAIC)

ちなみにインディア・スタックには、「Aadhaar(アダール)」と呼ばれるインド版マイナンバーも含まれていて、現在インド15億人のうちおよそ95%が「マイナンバー」の登録を完了している。

眠れる獅子が起きた!「本当のインド」を直視せよ

「インドがこんなことになっているとは、まったく知らなかった」

今のインドは、単なる成長市場ではない。20年前の中国、あるいは我々が夢中になった高度経済成長期の日本が、AIとスマホを装備して現代に蘇ったような存在なのだ。

平均年齢はわずか28歳。15億人の人口のうち、65%以上が35歳以下。この「人口ボーナス」という名の最強のカードを手にした国が、今後の世界をリードしないはずがない。

日本は高度経済成長期を経験しているからこそ、今のインドが放つ「明日は今日より必ず良くなる」という空気感の正体を、どの国よりも正しく理解できるはずである。

かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛された我々の経験を、今のインドの熱狂にどう掛け合わせるか。

今世紀最大の成長市場の「今」を、どうか直視してほしい。あの頃の熱気は、今、インドで形を変えて、しかし同じ温度で爆発している。